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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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シンロク

 ナーガラージャに招かれて、部屋に入って来るものがいた。シンロクだ。


「華を森で拾ってきたシンロクだ。会いたいと言っておったであろう?」


「ああ、あの時の。」


 華はシンロクの前に移動した。


「おはよう。あ、そういえばナーガにも言ってなかった。ナーガ、おはよう。」


「む、オハヨウ?」


「朝の挨拶だよ。」


 そう説明して、華はシンロクに向き合う。今日は獣型ではなく、人型をしている。人型ではあるが、鹿のような頭部だ。他のシンロク達と同じような、着物に長いスカートをはいたような、ゆったりとした衣装を着ている。


「私を助けてくれた人だよね。私、おかげ様で、こんなに元気になれました。ありがとう。」


「うむ、華は元気になった。そやつは華と契約して仕えたいと言ってきたのだ。」


 目の前のシンロクが、こくこくうなづく。


「え、私と?」


「そうだ。華と契約したら、そやつは華専属になる。身の周りの世話をしたいそうだ。そやつは、我の眷属の中でも強いほうだ。そなたが乗る騎獣にもなる。人里に行くのにも便利だ。」


 急にそんなことを言われて、華は面くらった。このシンロクは、華の命の恩人だ。華の状態を良くしてくれたのはナーガラージャだが、実際のところ、シンロクが華を拾ってここまで連れてきてくれたから、死なずにすんだのだ。そんな相手を乗り物にしたり、召使いのようにしてもいいのだろうか。


「契約して仕えてくれるって、私のほうが仕える、の間違いなんじゃ。」


「む、バカ者。我と契約しているそなたが、他のものに仕えるなど、ありえん。そなたは我と契約し、我の庇護をうけるものだ。このシンロクは元々、そなたが死にかけているのを哀れみ、幼いものを愛しく思って我の元に連れて来た。例えるなら、そなたのことを我が子のように思っておるのだ。だから、世話をして守りたいと言っておる。我は、ここにいる誰がそなたの世話をしても別にかまわんが、こやつが自分から希望しているので話しているだけだ。」


 そうか。あの時は、今にも死にそうな子供だったから、すごく心配させてしまったんだ。それで気にかけてくれて…。


「ありがとう。そんなに私のことを思ってくれて。でも、私はこんなに元気になったから、世話とかそんなに。」


 必要じゃない、と言いかけたところで、ナーガラージャが口をはさんだ。


「この者にも益はある。そなたと契約すれば、魔素の汚れの影響を受けることがなくなり、身体の調子がすこぶるよくなる。それに、今よりずっと人化が上手くなる。人と変わらぬ人化ができるようになる。」


 人と変わらぬ人化?最近、ナーガラージャの人型から尻尾がなくなったのは、そのせいだったのか。


「そうなの?この人にもメリット、あるの?」


「うむ。親は子を心配するものだ。そなたがこちらにもどってきてすぐ、食事のあと、倒れるように眠ってしまったことで、さらにそやつは心配してしまったのだ。おかげでせかされた。そなたは大人しく、世話されておくがよい。」


 不可抗力で眠ってしまったとはいえ、いつまでも起きなかったから、余計に心配させてしまったのか。


 それにしても、なんだかこれは、契約しなくてはいけない雰囲気だ。そこまで望まれているのなら、したほうがいいのだろうか?


 親が子を心配するものだと言われても、華の親は二人とも一般的な親とは違っていた。正直、親と言われても、ぴんとこない。おまけに華は、世話されることにも慣れていない。


 だが、華と契約することで、相手の体調が格段によくなることは、ナーガラージャで実証済みだ。それで相手に喜んでもらえるのなら、華に異論はない。


「ええと、世話とかされるというのはよくわからないけれど、契約で身体の調子がよくなるそうだから…。えっと、その、私でよければ、契約、する?」


 華の言葉に、シンロクが何度もうなづく。


「わかった。それじゃ、契約しよう。契約ってことは、あなたの名前を決めないといけないんだよね。」


 そう言ってナーガラージャの方を見ると、そうだ、という風にうなづいている。


 うーん。


 華は唸った。鹿のような、麒麟のような幻獣、翡翠色の毛並み、神使のように気高い姿、ふさふさの尻尾…。


 名前を考えようとして、華は相手の性別がわからないことに気付いた。ここにシンロクは十人ばかりいるそうだが、皆、同じような顔をしている上、似たような格好をしているため、正直華には全く見わけがつかない。性別も年齢もわからない。


「こんなことを聞くのは失礼かもしれないけれど、私にはシンロクの性別がわからなくて…。でも、名前を決めるのには、やはり聞いておいたほうがいいと思う。ええと、性別は?」


「む、こやつはメスだな。」


 女性なのか。


「じゃあ、ジェイド。ジェイドはどうかな?」


 シンロクは、両手をグーにして頭をぶんぶん縦に振っている。


「うむ、気にいったようだぞ。よし、では姿を現すがよい。」


 人型をしたシンロクの姿が、ふっと蜃気楼のように歪み、本来の形、獣型を取り戻す。翡翠色した毛並みが艶々としており、ふさふさの尻尾が揺れる。その立ち姿は、前に華が見た時、春日大社の神鹿像に似ていると思わせた、神々しさだ。


「ナーガラージャと契約した時みたいに名乗ればいいの?」


 華がナーガラージャに尋ねると、彼はこう答えた。


「む、別に決まった形式はない。互いが共にありたいという気持ちが大切なのだ。」


「わかった。やってみる。」


 華はシンロクに近づき、額の上に手を置いた。


「私の名は華。私と契約するものに、名前を与える。命名、ジェイド。」


 名前を与えた途端、目の前のシンロクの全身がふるふると震えた。すると、ふわっと目の前の獣の姿が消え、人型をとる。


 ジェイド、と名付けられたその人は、珍しい翡翠色の髪をした女の人になった。先ほどとは違い、頭部が鹿ではない。三十代位の美しいお姉様に見える。


「我が名はジェイド、華と契約せし者。我は華と共に。」


「私はジェイドと共に。」


 華の身体にも、何かが通り抜けて行く気配がする。ジェイドの魔力の気配だ。これで華は、ナーガラージャとジェイド、二人の魔力が通ることになった。


「よろしくね、ジェイド。」


「こちらこそ、よろしくお願いします。」


 ジェイドは、華に向かって深々とお辞儀をした。



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