寝室
ぱたぱたぱたぱた……。
ぱたぱたぱたぱたぱた……。
音が聞こえる。
何かの飛ぶ音。小鳥か何か、そんな生き物の羽音だ。
部屋に迷い込んだのだろうか。夜、窓を開けっ放しで寝たっけ?でも、窓は確か…、え、窓?
華は、閉じていた目をこじあけた。ぱちりと開いた目に最初に映ったのは、部屋の色だった。華はいつのまにか、どこかの部屋のベッドで寝ていたようだ。
「あれ、ここ、どこ?」
その部屋は、青かった。色は青だけではなかったのだが、結果的に青が目立つので、青く見えたのだ。
地図の間。
名前をつけるとしたら、そんな名前で呼ばれるだろう。壁には、地図が描かれていた。全く見たことのない地図だ。
正面には、全体図。他の面は、一部分をクローズアップして描かれているのか、切り取られている感がある。地図に描かれているのは、周囲を海に囲まれた大きな島だ。
「これ、ここの地図…?」
ぱたぱたぱたぱたぱた…。
小鳥のような羽ばたきが聞こえ、それは華のいるベッドの上に着地した。
「ん、ちびナーガ?」
一瞬、孤児院で見たトビトカゲかと思ったが、違うようだ。ごてごてとした金ぴかは華が全部取ってしまったので、今は一切、身につけていない。華の目を覚ました羽音は、このチビがたてていたようだ。
「む、起きたようだな。」
手乗りサイズのナーガラージャから、彼の声が聞こえてきた。
「おチビが、しゃべってる。」
「むう、大抵のことは我の似姿でもできると言ったであろうが。」
「うん、聞いた。」
聞いてはいた。が、実際、こんな風に小さいトビトカゲもどきが人語をしゃべっていると不思議だ。華は、ちょいちょい、とおチビの頭をなでた。
「何をする。」
「え、なんか可愛いから?」
「かわいい?そういえば、おとといもそんなことを。我は、かわいいのか?偉大の間違いであろう。」
「え?おととい?」
華は愕然とした。そんなに寝ていたのか…。確かに、怒涛の二日間だったし、孤児院では色々あって、ゆっくり寝ていられるような状況ではなかった。それにしても、夢も見ず、これほど長い時間、目が覚めなかったとは…。よほどここの布団の寝心地がよかったのか、それとも安心できる場所だったせいでぐっすり眠ることができたのか。
「あれ、そういえば、この部屋、何?」
「む、そこは昔、ゲオルギウスが使っていた部屋だぞ。そなたは王なのだろう?だから、そこに寝かせた。」
『はじまりの王』の寝室だったのか。道理で豪華なはずだ。地図のある部屋が王の寝室とは、ある意味、為政者らしい。昔は、その土地の地図を相手に差し出すということは、その土地を相手に渡すことと同じ意味だった。ここに地図が描かれているということは、この島が魔境と呼ばれる土地なのだろう。
華は、ベッドから起き上がり、島全体が描かれた地図の前に立った。ちびナーガラージャが、羽根をぱたぱたはばたいて、華の肩にちょこんと座る。
島は、欠けたヒトデに似た、星みたいな形をしていた。大きいのか小さいのか、他に比較できる土地がないし、この島以外に他の島や大陸があるのかどうかもわからない。
ただ、全体が海に囲まれており、湖や砂漠、山らしき絵が描かれている。地名らしきものが文字で記されているのだが、華にはその文字が読めない。ただ、その土地の特徴みたいなものが、ちょっとしたイラストで描かれている。どこが王都で、どこがカーデュエルなのかは、はっきりしない。
それにしても、いつのまにここに来て眠ったのだろう?華には、ナーガラージャと一緒に話をしながら食事をしていた記憶はある。だが、そのあと、ここに移動した覚えはない。
「急に、糸が切れたように眠ってしまったから、ここに連れて来たのだ。」
ふいに、ナーガラージャが姿を現した。
「ナーガ!どこから来たの?」
ドアの開く気配はなかった。華は驚いてしまい、つい、大きな声を出してしまった。
最近のナーガラージャは、人化がとてもうまくなり、その本体の持つ特徴的な人ではない目以外、人と区別がつかなくなってきた。一番最初に会った時、ビタンビタンと振られていた尻尾がなくなってしまったのが、華は少し寂しい気がしている。
「む、転移したのだ。」
「え、転移?でも…。」
こちらにもどってから、ナーガラージャは華を案内するように歩いてくれた。転移で移動できるのなら、もっと簡単に移動できたはずなのに。
「転移は、行ったことのあるところならできる。そなたを連れて転移してもよかった。だが、そうすると、そなたはどこがどこやらわからぬままであろう?」
「そっか。それもそうだね。じゃあ、あとでこの建物の中を探検する。」
「うむ。だが、その前にやることがあるのだ。」
ナーガラージャはそう言って、何かを手招いた。




