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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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アンバー

 二人が移動した部屋の扉は、つるんとしていた。扉に取っ手がついていないのだ。その上、鍵穴もついていないし、ドアノブの類もない。


 そんな扉であったが、二人が部屋の前に立つと、どういうわけか自動的に扉が消え、中に入ると再び閉じた。


 自動ドア…?


「どういう仕組みになっているの?」


「我の魔力に反応するように作り変えてある。」


 作り変えた、ということは元々は違っていたわけか。


「開けたり閉めたり、面倒なのだ。ゲオルギウスの奴が、鍵をかけないと盗むものがいると言った。だが、ここにそのようなものはおらぬ。」


 確かに、華が出会った魔物達の態度を見ていると、ナーガラージャを慕い敬うものばかりだったので、そうかもしれない、と思えた。もっとも、彼に悪感情を持っている魔物に出会っていないから、そう感じるのかもしれないが。


 入った部屋は、それほど広くはない。せいぜい学校の教室くらいの広さだ。そこに、椅子と丸テーブルが置いてある。


「ふむ、昔と変わらぬな。」


 ナーガラージャは部屋の中を見回し、そう言った。


 その部屋は、さきほど入った荷物が詰め込まれているだけの殺風景な倉庫と違い、飴色の濃淡で覆われていた。それは、柔らかな輝きと透明感を持つ、自然の樹脂。琥珀だ。


 そのオレンジ色を引き立てる黒っぽい御影石のような縁取り。額縁のように、引き締めるくっきりとした色が、微妙な色合いをより際立たせる。琥珀は小さな欠片をちぎり絵のように色合わせして、大きな一枚のパネル状に仕立ててある。それが一枚だけでも素晴らしいものなのに、壁全体を連続して覆っているのだから、驚きだ。


 一口に飴色といっても、黒っぽいものから黄色っぽいものまで幅広い。それが、模様になるように細かく複雑に組み合わされている。人工の発色と違い、目に優しく、淡いゆるりとしたグラデーションを成している。


 さほど広くはない部屋にしろ、これだけの壁面積を覆うほどの琥珀を集めようと思ったら、どれだけの労力を要したことか…。ゲオルギウスが、盗まれるかもしれないと言ったのも無理はない。魔物や幻獣達の価値観がどうなっているのかはわからないが、悪者に目をつけられたら、狙われることは確かだ。もっとも、ここに人がやって来ることはほとんどないだろうが。


 部屋の豪華さとナーガラージャの言葉から、華はここで昔、彼がゲオルギウスと一緒に食事をとっていたのだろうと思った。それはつまり、それくらい長い間、この部屋は放置されていたということだ。


 だが、それほど長い間放っておかれていたとは思えないほど綺麗だ。まめまめしく働くシンロク達によって、定期的に掃除がされていたのだろうか?それとも、鍵の代わりにほどこしたナーガラージャの仕掛けのせいなのか。


 二人は丸テーブルに食事トレーを置き、隣同士に座った。


「む、カトラリーとやらが無いのだ。」


「あ、ほんとだ。」


 食べられそうなものがあることばかりに気をとられていて、カトラリーのことを失念していた。


「むぅ、確か、昔、作ったものがあるはずだ。」


 作ったもの?貢物の一つとして、送られてきたものでなく?


 ナーガラージャは、どこからか箱を一つ取り出してきた。何もない空間から、いきなり宝石箱のようなものが現れたので、華は少しギョッとした。箱の蓋を開けると、中にはカトラリーが収められている。


「ああ、これだ。ふむ、使えそうだな。」


 それは、確かにカトラリーではあったが、華が知っているものとは少しばかり形が違う。フォークの先端は、二股に分かれている二股フォークだったし、ナイフは刃物部分が短い、手術用のメスみたいな形だ。スプーンも、アイスクリーム用みたいに先が少し四角く、窪みが浅い。おまけに、シルバーやステンレスといった金属ではないようだ。軽くて丈夫そうな素材。だが、その黒色に見覚えがある。


「これってもしかして、ナーガラージャの鱗で出来てる?」


「うむ。作ってやった時は、とても喜ばれたぞ。これがあれば、何でも食べれるとゲオルギウスは言っておった。」


 それはもしかして…。


 華は、最初にナーガラージャが鱗のネックレスをくれた時のことを思い出していた。その時、彼はこう言ったはずだ。毒を飲まされた時、口に含めば解毒できる、と。『はじまりの王』も、毒を飲まされたことがあるのだろうか?神のように人々に祈りを捧げられる彼でも?


「これ、私が使ってもいいの?」


「む、そのために出したのだ。そなたは、たくさん食べないと、大きくなれないのであろう?」


 大きくなる…。


 本当に、この子供の状態から成長できるのだろうか?あんな風に、沢山のものが身から溶け出て、流れていったのだ。もしかしたら、すでに普通の身体とはいえないかもしれない。


 そんな酷いことがあったというのに、今も尚、生きている。そして、生きてお腹をすかしている。身体は自分に足りないものを、懸命に補うよう、信号を送ってくるのだ。考えても仕方がない。華は無理やり不安を押さえこみ、微笑む。


「そうだね。足りない栄養は、補給しないとだね。これ、使わせてもらうね。」


「うむ。ゲオルギウスはこれを、いつも一揃い携帯しておった。そなたもそうするがよい。」


「うん、そうさせてもらう。ありがとう。」


 ナーガラージャの言う通り、いつも携帯しておくのはいいかもしれない。そのためには、魔法で収納できるようにしたほうがいいな、と華は思った。あとで、そういったものが作れるかどうか、魔法の練習をしよう。当面、華のやるべきことは魔法の習得に決まった。


 華は、両手を合わせて合掌した。


「それじゃ、いただきます。」


「む、なんだ、その珍妙なかけ声は。」


「珍妙って、失礼ね。私のいたところでは、食べる時には、こう言ってたんだよ。あ、でも、王都の孤児院では違ったな。」


「コジイン?」


 華は、ナーガラージャに転移させられてからの二日間の出来事を、彼に食べながら報告しようと思った。




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