倉庫
入ったところは巨大な倉庫みたいにだだっ広い場所だった。ただ広いだけではない。奥が暗がりになるほど、果てが見えない。なんとなく、中はひんやりとしている。華は、港とかによくある冷蔵倉庫を頭に思い浮かべた。
そのように広くてひんやりした場所に、ずらりと棚が並んでいて、そこにぎゅっと物が詰まっている。同じくらいの大きさにまとめられた物が、一つの固まりにされて、積み上げられているのだ。
「ここは、いったい…?」
「我の収納の部屋の一つだ。」
「収納?ナーガのいう収納って、あの、何もないようなところから取り出してみせてくれた?」
「そうだ。我の魔力で満たされており、時が止まっておる場所だ。」
ナーガラージャの魔力で満たされていて、時が止まっている?そんな風に言われても、よくわからない。自分自身が、あふれるほどナーガラージャの魔力に覆われているせいなのか、色も匂いもついていないものが満ちていると言われても、まるで実感できない、というのが本当のところだ。華にとっては、空気を感じ取れないのと同じことだ。
「どれでも好きなものを取っていくがよいぞ。みな、神殿から送られてくる貢物だ。」
どうやら、ナーガラージャの話によると、どこか別の神殿で作られたものが、貢物として、定期的に転移陣によってこちらの神殿に送られてくるらしい。それを最初の頃は、『はじまりの王』ゲオルギウスが飲み食いして消費していたのだが、彼が来なくなってからも同じように定期的に送られてくるため、こんな風にどんどん捨てられることなく、貯めこまれているらしい。
ということは、この収納倉庫のずっとずっと奥のほうには、いつからあるのかわからないくらい古いものも眠っているわけで…。それをずっと放り込んだままにしていることもすごいが、それらをずっとそのままの状態に保存できているナーガラージャもすごい。
しかも、驚くことに貢物は食べ物や金ピカだけではないらしい。元はゲオルギウスが使うことを想定して送られていたのだが、どういうわけか、彼がいなくなっても未だにそれが踏襲されているらしい。つまり、送られてくるものは食べ物に限らず、衣類や寝具、装飾品、家具など、身の回りで使うもの一切なのだ。
もしかしたら、あちらの神殿側は、あの世に送る供物のつもりで送ってきているのかもしれない。『はじまりの王』のブックが、あのように人々の信仰の対象になっているのだ。あちらの神殿にいるものたちは、神様にお供え物でもするような感覚で、作ったものを送ってきていてもおかしくはない。
貢物だから好きに使ってよいと言われたが、華はなんだか神前や仏前にお供えされたもののお下がりを頂くような気分になった。
「こういったものは、前は自分で収納していたのだが、我が眠っている時に送られてくることも多いので、部屋を作ったのだ。こうしておけば、シンロク共が勝手に部屋に出入りして収納する。我は、食べたい時にここから出す。」
「転移陣とかあって、向こうから人は来たりしない?」
「あれはゲオルギウスが作ったものだから、貢物と王しか転移できぬようになっておる。王が連れて来るなら別だが。」
「王限定?」
「うむ。そなたは使えるのではないか?」
ナーガラージャは簡単そうに言う。そういうものなのか、と思ったが、今のところそれを使う予定はない。よその神殿とやらが、どこに存在しているのか華には皆目、見当もつかないのだ。だいたい、行った先がどのような場所かもよくわからないのに、突然華が登場したら、あちらで騒ぎになりそうだ。しかし、ゲオルギウスが使用していたということは、案外王都に近いところか、使いやすい場所なのかもしれない。試してみたい気は少しある。だが、きちんと場所を確認してからだな、と華は思った。
「これだけあるのだから、当分、そなたは食べるに困らぬだろう。」
確かに、これだけの食物があったら、ここにずっとこもっていられそうだ。衣類や寝具、小物に至るまで送ってこられ、それらが全て収納してあり、劣化もしていないのなら、適当にそれらを取り出して自分用に作り直すこともできそうだ。
とりあえずは、食べることだ。華は早速、手近にあった塊から、取り出しやすそうなところを選んで食べ物を取り出すことにした。
華は、積み上げられた塊の途中あたりで、ジェンガを取り出すようにゆっくりと引っ張った。かなりたくさんのものが積み上げられているので、取り出すのは大変かと思っていたが、思いのほか簡単に取り出せる。しかも、取り出したあと、その上にあったものが穴を埋めるように降りてくる。崩壊しないダルマ落としのようだ。ただ積みあげられているわけではなさそうだ。
取り出したものは、積まれていた時には透明の箱に入っているかのように見えていたが、出してみたら一つのトレーにパンやスープなどがセットされた、いわばワンプレート状態になっていた。透明の箱のように見えたものが、もしかしたら魔力のカバーのようなものだったのかもしれない。
華が取り出したトレーを両手で持つと、中に置かれていたお椀の中身、スープから急に湯気が立ちのぼりはじめた。塊から取り崩されたことで、魔力のカバーが取り外され、その瞬間から一気に時が流れるような仕組みのようだ。
華はびっくりして、そこに置かれていたお椀を一つ手に取ってみる。お椀を手に取ると、その熱が華の手に伝わって来る。熱い…。まるで出来たてのスープがいれられているみたいだ。
グ、グゥ~~~~~。
漂い始めた香りに、華のお腹が刺激されたのか、またお腹が鳴ってしまった。
「む、我も華と一緒に食べるとしよう。」
ナーガラージャも一つ、塊からトレーを取り出した。
「食事をする部屋へ行くぞ。」
二人はその場から移動することにした。




