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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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金ぴか

「ほら、ここにその子、おろして。」


 華は地面をぽんぽん、と叩き、ちびナーガを地面に下ろすように言った。


 ちびナーガラージャは、手のひらから羽根をパタパタさせながら、地面に降りて来た。


 う、なんて可愛いの!でも、眩しい!!


 金ぴかに埋もれた身体は、かなりの重量がありそうだが、小さな身体なのにその重さを感じていないかのような動きだ。


 華は、自分の目の前にやってきたちびナーガラージャの頭を、指先でそっと二、三度なでてやる。それから、金製品で着膨れたダルマ状態のちびから、容赦なくアクセサリーを一つずつはぎ取りはじめた。


「ああっ、何をするのだ。我がせっかく、小さな我に合わせて作ったのだぞ。」


「うん、わかってる。」


 それはそうだろう。冠、ネックレス、鎧、剣…。あれもこれも、全てお人形に着つけてやると丁度よさそうな大きさにされている。せっせと夜なべして、こんなものを作っていたであろう彼の姿が目に浮かぶようだ。


 それにしても、これだけの宝飾品…。出所は全部、ここの金ぴかの山なのだろうけど、これだけの数を小さくしたにもかかわらず、ちっとも山の大きさが変わったようには見えなかった。いったいどれだけ貯めこんでいるんだ。


 華は、ナーガラージャに向かって、子供に言い聞かせるように説明することにした。


「あのね、ナーガは色々な所に行って観光がしたいのでしょう?旅行に行くのに、こんなにたくさん貴金属をつけていたら、悪い人に目をつけられて狙われるの。要するに、泥棒がナーガのものを盗みにくるってこと。そうしたら、ゆっくり景色を眺めたり、ごはんを食べたりって、できなくなるよ。」


 するとナーガラージャは反論した。


「む、悪いやつは懲らしめればよいではないか。」


「うん、悪いやつを懲らしめるのはいいと思う。でもね、そうしたら人が大勢集まってきて騒ぎになるでしょ?人がたくさんいる中で、ナーガが魔法を使って悪い人を懲らしめたらどうなると思う?」


「むぅ……。」


 ナーガラージャは、腕組みをして考えはじめた。


 すぐに答えを与えるのは簡単だ。だが、素直で善良なナーガラージャは、ちょっと考えなしのところがある。少しは考えてから、行動を起こすようにしてもらわないと困る、と華は思っていた。


 しばらく彼は黙りこんでいたが、そのうち、伏せ目がちに口を開いた。


「我が魔法を使うと、色々なものが壊れると思う。それは、魔法で修復してやればよいが、たくさん人がいたら、皆、驚くと思う。我は前に、魔法を使って人を驚かせてしまったことがある。」


 ん?壊れたものって、魔法で直せるの?それにしても、魔法を使って人を驚かせたって、何をしたのだろう?


「そうね。」


 元々、自分の本来の姿で出歩くと、周囲に迷惑をかけると知って自重していたのだ。あまりにも立派で底知れぬ力を持つ無限龍は、見ただけで本能的に皆に恐れを抱かせてしまう生き物だ。


 でも、華は彼がとても優しいことを知っている。だから、彼がここに閉じ込められていることを不憫に思ってしまう。せめて小さな姿だけでも、好きにさせてあげたい。そのためにあえて、余計なトラブルは起こさないよう、必要なことは教えてあげなければいけない、と思った。


「何も人前に出るのに、こういったもので身を飾り立てなくてもいいの。そんなものなくても、ナーガがとても優しくて、すごい力を持っているって私は知っているもの。だから、必要ない。」


 そう華に言われて、少し照れくさそうにしていたが、やはり金製品に目がないナーガラージャは、ぶつぶつ文句を言っている。


「ああ、偉大な我の似姿が…、なんと無残なことに…。せっかく作ったのに…。」


 華は、孤児院で手に入れたハンカチをポケットから取り出し、そこにちびナーガラージャから取りあげた宝飾品を並べる。一つ一つ、アクセサリーの類を取り外しながら、本当によくできている、と感心する。


 そんな風に華がアクセサリーを取り外している間、ちびナーガラージャは大人しく、じっとしていた。


「これは全部、しまっておきなさい。身につけるのは、せいぜい一つよ。それも小さくて目立たないものがいいわ。そうねぇ…。」


 貧民には無理でも、トビトカゲは、ちょっとした家の子供のペットにされているような生き物だ。だから、首輪や足輪のようなものはつけていてもおかしくないだろう。


「首のところに小さなネックレスが一つか、リボンに指輪なんかを一つ通して首にまくくらいならいいと思うけど、どちらにしろ、一つしかつけてはだめよ。」


「一つ……、だと?」


 ガーン、という音が聞こえてきそうだ。ナーガラージャはこの世の終わりのような顔をしている。そんなに金ぴかに囲まれていないと嫌なのか。


「このおチビのナーガは、何ができる?」


「我と同じことができる。我の鱗を十枚使っておる。」


 なんと、王都の結界をはれるだけの力を持った鱗を十枚!それはすごい。


「同じことができる?ナーガ本体の収納につっこんであるものも取り出せる?ナーガと同じで、お話したり、魔法を使ったりも?」


「そうだ。」


「それはすごい…。」


 華がびっくりしているので、ナーガラージャは得意げに胸をそらせた。


「それなら、これは全部収納しといて、時々、つけ替えたらいいじゃない。」


「つけ替える?」


「その時に応じて、身につけるアクセサリーを変えるの。ごてごて飾り立てるよりも、そのほうが絶対おしゃれ上級者よ。」


 うん、多分。


 華は、まともにお洒落をしたことがないのでよくわかわらないが、このごてごて感が全くいただけないことだけはよくわかる。これでは、金ぴかのダルマトカゲだ。


「あのね、こんなにたくさんつけすぎると、成金みたいだと思われるよ。趣味が悪いって思われちゃうの。今はね、ええと、そう。さり気なく、ちょっとしたものをつけるのが流行っているの。」


 よく知らないけど……。流行とか全然知らないし、こっちで何が流行っているかもわからないけど。


「む、ナリキン?よくわからぬが、我が偉大に見えると、よくないのか?」


 華は思わず腕組みをしてしまった。華の例え方がよくなかったのか、彼にはこちらの言いたいことが伝わらなかったようだ。だが、何をどうしたら、金ぴかだらけと偉大さが結びつくのだろう?さっぱりわからない。


「ええと、どうしてそんなに金ぴかにしたがるの?偉大さって、金ぴかがないとだめなものなの?」


 華は逆に質問してみた。


「ゲオルギウスが言っておった。偉大なる我は、崇高なる存在であるから、このようなものがよく似合うのだと。」


 そいつが犯人か!


 なんとなく華は、ナーガラージャが『はじまりの王』に騙され、うまく言いくるめられてこの山に押し込められているような気がしてきた。『はじまりの王』のブックに見せられた話の中に、王が知恵をめぐらせて『おおいなるもの』から力をわけさせた、というくだりがあった。


 お人よしなナーガラージャは、魔力も豊富でとても強そうだ。人間が戦って勝てるかどうか、わからないような相手だ。だが、彼は話が通じるし優しい。多分、『はじまりの王』ゲオルギウスは、それを知ってナーガラージャを言葉巧みに言いくるめたに違いない。


 なぜか華の頭の中で、『はじまりの王』ゲオルギウスのイメージが、口ばかり上手いチャラ男になってしまった。


「うーん、よくわからないけれど、昔と今では時代が違うから、人間の美意識もすっかり変わってるんだと思う。」


 華は、だんだん面倒くさくなってきた。ナーガラージャは、ゲオルギウス以外の人間との接点がないまま、山に閉じこもっていたから、華と同じくこの世界について知らないことが多いのかもしれない。


「ナーガはずっと、この森と山の中しか知らないのでしょう?人間は、『はじまりの王』ぐらいしか知らないみたいだし。」


「うむ。」


 おチビのナーガラージャは、華がアクセサリーを取り外す間、ずっといい子にしていてくれた。全部の宝飾品を取り外すのには、結構な時間がかかったが、それを終えるとずいぶんすっきりした様子になった。


「うん、かわいい。」


 全部を取り除くと、華は次に、ちびナーガを飾るものを一つ、選ぶことにした。


「どれがいいかな、っと。」


 気分は、なんだか人形の着せ替えでも選んでいるような感じだ。ナーガラージャの身体は、基本、真っ黒だ。確かに金色は黒に映える。目の色はエメラルドのよう。


 アクセサリーは、どれをとっても精巧につくられた一級品ばかりだ。華はふと気になることを見つけ、ナーガラージャを見る。


「ねえ、そのサークレットはナーガのお気に入りなの?」


「うむ。これは、我がゲオルギウスに貰った最初の貢物なのだ。ほれ、これもそうだ。」


 彼が示したのは、ネックレスだった。サークレットとネックレスが最初の貢物ということは、かなり古いものということだ。それを未だにナーガラージャは身につけているのか…。


 他の金製品は、ガラクタ同然に山になっているが、どうやらこれらだけは彼の中で別格のようだ。扱いが全く違う。


 うーん。


 華は、心の中でうなった。ゲオルギウスが彼にあげたものは、宝物にも等しい宝飾品だ。それに対して、華があげたのは、チョコレート。片やアクセサリー、片や消え物。片や値千金、片や一枚百円……。


 知らなかったこととはいえ、同じように別の世界からやってきた身として肩身が狭い。華は経済格差を感じてしまった。


 まあ、人は人、私は私…、だよね。こればかりは仕方ない。貧乏だったのだし。


「よし、これにしよう。」


 華は、小さなアクセサリーの山の中から、一つの指輪を選んだ。多分、元は王冠だったに違いない。上のところがギザギザになっている、シンプルな昔風の王冠に、一つだけエメラルドがついている。


「ナーガ、リボンとかってある?」


「リボン?」


「ええと、紐みたいなもので、絹やビロードでできてるものなんだけど。」


「む、よくわからぬが、紐みたいなものなら、衣装部屋にあるかもしれぬ。」


「衣装部屋?」


 ここにそんなものがあるの?華は思わず洞窟の中をキョロキョロと見回した。



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