似姿
「ふっ、ふっ、ふっ、ふっ。その目でしかと見るがよい。どうだ、我の似姿だ。小さいが、威厳があるであろう?」
そう言ってナーガラージャは、それまで背後に隠していた手を華の前に突き出して見せた。
「くふふ、なんという素晴らしい出来栄えだ。さすが、我。だが、もう少し工夫が必要なのだ。どうせやるなら、もっと完璧にせねばな。ふむふむ、これで我も華と一緒に、カンコウとやらに行けるぞ。」
彼は得意げにそっくりかえりながら言った。
「え??」
カンコウ、という言葉にも引っかかったが、それ以上に華は、目の前に差し出されたものを見て、驚きのあまり呆然としていた。
ナーガラージャは、自分の似姿を小さくしたものと言った。確かによく似ている。だが、それはどう見ても、孤児院で華に挨拶してきたトビトカゲそっくりの姿だった。
「えっと、トビトカゲ?」
「なんだと?!華は目が悪いのか?むう、それはいかん。我が今、そなたの目に癒しを与えて。」
ナーガラージャが華の顔に手を近付け、何かをしようとしてきたので、華はあわててその手をさえぎった。
「違う違う、違うからやめて。」
せっかくの親切を断られた彼は、不服そうだ。
「私、目はそれほど悪くないの。少し近眼だったけど、ナーガと契約したせいか、とってもよく見えるようになったから。」
「うむ、そうか。だが、我とトビトカゲとやらは、全く違うぞ。もっとよく見るがよい。偉大な我の似姿なのだぞ。」
言われてみれば、確かにナーガラージャ本体を元に、小さく精巧に作られている。おまけに、本体の持つオーラのようなものがある。小さい身体なりに、迫力みたいなものも持っているのだ。トビトカゲに姿はそっくりなので一見間違えそうだが、並べてみたら全く違うとわかるだろう。
しかし、華が驚いたのは、そこではなかった。トビトカゲに似ていることもそうだが、おチビサイズのナーガラージャが、あまりにも金ピカだらけの眩い姿をしていたからだ。
なぜだかわからないが、王冠だけでも頭の上に三つのっかっている。首にじゃらじゃらとかけられたネックレスは、あまりにたくさんかけてあるので、エリマキトカゲ状態だ。身体には鎧。腰のところには剣が、金のベルトでとめてある。手と足にはバングル。ご丁寧に指の一つ一つにまで、指輪がはめられている。
チビナーガは、顔と翼、尻尾のところ以外、どこもかしこも金と宝石で埋もれていた。その宝飾品の重みで、身体がつぶれてしまわないのが不思議なくらいだ。それでいて、ナーガラージャの手の上で姿を崩すことなく、ちんまり座っている。
なんだってまた、こんなてんこもり状態に…。
しかも、観光に行くと言った。この格好で??
華は溜息をつく。小さくなったその姿は、とてもかわいい。二人の会話に耳を傾け、首をかしげる仕草など、華は思わず、ぎゅっとしたくなるほどだ。それだけに、残念すぎる。
「ナーガ……。こんな格好して歩いていたら、皆に標的にされるよ。」
「む?我に挑んでこようとするものがいるのか?別に我は気にしないぞ。」
「いや、違うって!」
そりゃ、ナーガラージャは気にしないだろう。誰が挑んでこようが、魔物が突進してこようが、どうってことはないのだろうから。
でも、この姿では間違いなく、トビトカゲと勘違いされる。トビトカゲは、子供のペットにされるようなメジャーな魔物だと、孤児院で聞いた。簡単に人に捕まえられ、餌を与える主人に飼いならされてしまい、メッセンジャー代わりに使われる。そんな魔物とよく似ていたら、絶対それと勘違いされるに決まっている。そんな弱っちい生き物が、これだけのお宝をまとっていると勘違いされたらどうなるか…。
鱗のネックレスだって、すぐに目をつけるものがいた。こんな小さなトビトカゲっぽい姿に、これだけの財宝を身につけさせていたら、まともに街歩きなどできたものではない。鴨がねぎを背負っているようなものだ。
華がアランと街を歩いて何事もなかったのは、隣にアランがいたからだけでなく、二人が貧しく見える身なりだったからだ。奪ってお金になりそうなものなど、何も持っていないように見えたからだ。
「ナーガは気にしないかもしれないけど、私は気にする。絶対、人が集まって来る。」
「むう、我を崇めに来るというのか。それは仕方あるまい。」
華は頭を抱えたくなった。
「ナーガ、それも違う。」




