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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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子供がさらわれる話

 華は、ローレルに話し始めた。辻褄をあわせるために、多少の嘘を混ぜながら…。


 何もわからぬまま、気付いたら寝巻姿でこの街にいたこと。二人組の男に、捕まえられそうになったこと。ゴミ箱をあさっていた老人が、それに加担したこと。その追いかけっこを見ていた女が、華を建物中に招き入れたこと。女が話した、子供がさらわれて薬を作っているという噂話。女が実は娼館の主人で、華に焼き印を押そうとしたこと。そういったことを一通り、話して聞かせた。


 ローレルはその間、じっと華の顔を見つめ、静かに話を聞いていた。だが、聞きながら華の様子を伺っていることにも気づいていた。その眼差しは強く、華はなんだか自分が悪い事をしたわけでもないのに、ひどく居心地が悪くなった。


「君の話が本当なら、それは由々しきことだ。」


 自分の弟が連れて来た、初対面の子供。それも、昨日孤児院に来たばかりという子供が語る話。きっと彼は、半信半疑で聞いているのだろう。


 そもそも、子供が歓楽街の裏道に寝巻き姿でいる事自体、おかしい。もし自分が話を聞く側だったら、まずそこを突っ込む。借金奴隷がいるのだ。そんな場所を寝巻でうろうろしていたら、店から逃げて来たのでは、とまず疑われたっておかしくない。


 きっとモリスだって、同じように疑っていたと思う。ただ、華が着ていた寝巻が娼婦の着るようなものではなかったのと、とても高価な魔道具のネックレス持っていたので、それはない、と彼は判断しただけだ。


 華は、話の中で四人の大人をお守りで退けている。ローレルは、いくら魔道具を持っているからといって子供にそんなことができるのか、と思っているのかもしれない。


 自分が信用してもらえないことは仕方ない。華は、自分が信じてもらえないことより、アランが兄を説き伏せる為に華を連れて来た、と誤解されることの方を恐れた。


 アランの連れて来た子供が、彼に気に入られたくて、彼に都合の良い作り話をしている。アランの呼び売りを兄に認めさせるため、それらしい根拠のない話で兄を騙そうとしている、そんな風に思われてしまう事を。


 そうなったら、アランが報われない。彼は、兄の役に立ちたくて華に話をさせたのだ。


「荒唐無稽だと思われますか?」


 華は率直に問いかけ、彼の疑念を払拭するような材料を探す。


「信じないというのなら、それでもかまいません。でも…、そうですね。体験したことはともかく、起きたことの証明が全くできないわけでもないです。昨日の今日ですから、娼館のドアを直した店がないかを調べてもらって、そこの店の女性で、顔に薔薇の形の焼き印が入っているものがいないかを聞いてもらえば、私の話も少しは信用してもらえるのではないかと思います。それに、ドアを壊した時、通りには何人か人がいました。ドアは派手に吹っ飛んで、普通の壊れ方ではなかったです。私の姿を見た人もいます。荷車を引いた男性と、買い物籠を持った女性でした。二人共、呼び売りや屋台のある方へ向かっているようでした。大きな物音と、尋常でない叫び声も聞こえたでしょうし、その店周辺の人とかにでも聞いてもらえればわかるかと…。えっと、あの、ローレルさん?…どうかしましたか?」


 ローレルが、あまりにも黙ってぼんやりとしているようにみえたので、華は声をかけた。


「いや、すまない。なんというか、君がとても理路整然と説明するので、ちょっとびっくりしたというか…。」


 しまった。きちんと説明しすぎて子供らしくなかったか…。でも、仕方ない。自分のせいで、アランがお兄さんに誤解されるのは困る。


「君が少し特殊な子供だというのは、理解したよ。しかし、何人もの大人の攻撃をかわせるような魔道具を持っているというのは…。」


 まずい。あまりこのネックレスをローレルに見せたくはないのだ。さっき彼が、ナーガラージャの鱗を見たことがある、と言ったのを聞いたばかりだし。


 すると、そこまでしばらく口をつぐんでいたアランが、口を開いた。


「兄貴は俺がヴィルの話をしたこと、覚えているか?」


 ローレルは、なぜ今そんな話をするのかという顔をしていたが、うなずいた。


「ああ。確か盗み、脅し、暴力の常習犯だったか。弱い子を狙って脅迫するから、仕返し怖さに先生に被害を訴える奴がいなくなったという?」


「そう。あいつは昨日の晩、リーナのいる部屋に忍び込み、盗みを働こうとして捕まった。捕まえたのは、リーナだ。朝のうちにその事件のことを主教様に説明に行っていた。書類も用意していたみたいだから、今頃すでにヴィルは、青騎士に身柄を引き渡されていると思う。」


 それを聞いてローレルは、華を改めてまじまじと見る。


「怪我しなかったか?」


 どのように捕まえたかとか、そんなにすごい魔道具を持っているのか、などと聞くより先に、身体の心配をされてしまった。そのあたりはアランと兄弟だな、と華は思った。


「大丈夫です。なんともありません。」


「俺は、ちょうどヴィルがブックを使って魔法を放つ瞬間をこの目で見た。アイツに向かって止めろと叫んだが、もう遅かった。魔法はまっすぐリーナに向かっていった。次の瞬間には、きっと酷いことになると思った。リーナが傷だらけになってしまうのだと…。でも、大怪我をしたのはヴィルのほうだった。あいつは、リーナに向かって放った魔法を全て反射されて、血だらけになっていた。それだけじゃない。杖は折れ、ブックは切り刻まれたみたいにバラバラになってた。」


「そんな魔道具を持っているというのか?!」


 さすがに驚いている。最初にアランにその話をした時、ネックレスのお守りを魔道具認定されてしまったので、わりと普通にあるものだと思っていたのだけれど、違うのだろうか?


 華の話を半分疑っていたのかもしれないが、そのように具体的に証言や実例があるとなると、話は別なのだろう。


「確かに、攻撃を防ぐような魔道具を持っている人はいる。でも、そう何度も攻撃を防いだり、相手に返すようなものは聞いたことがない。大抵は、物理攻撃だけとか、魔法だけ、とか決まってるし、強い攻撃を和らげる程度のものが多い。だいたい、使用されれば、魔道具が耐えられなくなったり、魔石が壊れてしまう。よほど質の高いものでないと、作れない魔道具だ。もしそんなものを持っているとしたら、それは相当高位貴族の人間で…。」


 話の流れが華にとって良くないほうへと進んでいく。そんなことを話にきたわけではないのに。


「ローレルさん。私の魔道具のことはどうでもいいんです。私は、子供がさらわれているという話をしにきたのです。わざわざ子供をさらって薬を作らせるなんて、そんな噂が流れることがおかしい、と言うために来たのです。その噂に、どこまで信憑性があるかはわかりません。でも、そんな妙な噂が流れるからには、きっと何かあるはずです。単に薬を作るだけなら、大人に作らせたほうが効率よく作れるはず。薬作りに子供が必要なのは、何かそうでなくてはならない理由があるはずなんです。」


「確かに、君の言うとおりだ。ここのところ、貧民の子供がさらわれる事件が何件かあってね。金目当てでないことはわかるのだが、犯人の目的がよくわからなかったのだ。さらわれたのは、女の子も男の子もだ。年齢もばらばらで、容姿もばらばらなんだよ。」


 やっとローレルは華の話を信用して、事件についてまともに向き合ってくれる気になったようだ。


「ばらばら…?つまり、子供ならだれでもよかった?それってやはり、容姿を愛でようとかそういう目的とは違うのですね?それにしても、白昼堂々、子供を誘拐するとか、普通じゃありません。男達は手慣れている様子でしたし、私が逃げようとしたら、近くにいた老人に声をかけ、幾ばくかのお金と引き換えで手伝わせようとしました。つまり、逃がす気はなかった、ということです。私が逃げている最中も仲間を呼び寄せて、しつこく捕まえようとしていました。よほど子供を捕まえなくてはならない理由があるのだと思います。」


「そうだな。変な男たちは、娼館の女と目的が違うみたいだ。でも、どちらもひどい。借金奴隷を偽装するために、焼き印を押そうとするなんて、きっとそいつら、似たようなことを何度もやっているに決まっている。叩けばいくらでも埃が出そうだよ。」


「わかった。この話は俺から上司に報告させてもらう。それでいいかい?」


 するとアランは、ほっとしたように笑った。


「よかった。この話が少しでも手がかりになればいい。」


 華は、二人の様子がやっと普通にもどったことに、ほっとしていた。


 それから話がひと段落したところで、三人で階下の食堂に行き、ローレルにご飯をおごってもらった。なんだかんだと話しているうちに時間は過ぎてゆき、青騎士寮を出て来た時には、夕方近くになっていた。







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