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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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教会

 大通りをまっすぐ進むと、大きな広場に出た。


 からくり仕掛けの馬車鉄道は、そこが終点のようだ。そこまで進むと、今度は来た道を引き返していく。そうやって、大通りを行ったり来たり、ピストン輸送をしているようだ。


 ここまで、かなりの距離を歩いた。大人の身体でも、かなり大変な距離だ。お金があるなら、迷わず乗り物に乗る距離だ。ましてや今の華は、子供の身体だ。マラソンでもした後のように、かなり疲れていた。


 広場はぐるりと、高い建物で囲まれている。街の重要な建物があつまっているようで、昨日、華がナーガラージャにいきなり転移させられ、最初にぶつかりそうになった鐘楼も、そこから見えた。という事はこの辺りに、ナーガラージャが言っていた、王のための『はじまりの王』のブックというものがあるのだろう。


 そのように林立する建物の中に、一際目立つものがあった。その建物の入り口だけ、常にドアが開かれた状態になっていて、不特定多数のたくさんの人たちが出入りしているのだ。しかも、出入りしている人は大人も子供もいて、服装も一定していない。なんとなく皆、こざっぱりとはしているが、着飾る人の中に一定数、それほど余裕のなさそうな人が混じっている。


「アラン、あの建物はいったい何?」


 華が指さす先を見たアランが、すぐに教えてくれた。


「ん、あそこは聖魔教会の総本山、聖ゲオルギウス教会だ。」


「教会って、いくつもあるの?」


 華が情報を知りたがっていると気付いたのだろう。アランは教えてくれた。


「ああ、そうだよ。俺達のいたところは、聖魔教会西支部のコルンバヌス教会。この王都には、全部で五つの聖魔教会がある。東はエルジェベト、西はコルンバヌス、南はキリアキ、北はアグネス、そしてこの聖ゲオルギウス。それぞれ、この国を建国するのに多大な貢献をした、聖人達の名前をとっている。このゲオルギウスというのが、『はじまりの王』の名前というわけ。」


 ゲオルギウス。ナーガラージャが話していたのと同じ名前だ。


「あそこには『はじまりの王』のブックがあるから、皆、あそこへ行って、祈ったりするんだよ。」


 見つけた。


 あそこだ。


「ねえ、アラン。教会って、何?」


 アランは不意に立ち止まり、華の顔をじっと見る。


「君の質問を聞いていると、君が何者なのか、知りたくてたまらなくなるよ。」


 あまりにも何も知らないので、呆れているのだろうか。いや、違うか。変なことは知っているのに、ここの常識を知らなさすぎるからか。でも、華のこの姿からは、正解に簡単にたどり着くことはできないだろう。せいぜい、どこかに隔離され、監禁されていた特殊な子供と予想するくらいだ。


「教会の役割を一言で説明するのは難しいなぁ。王都と地方の教会では、また少し違うし。あそこの開かれたところ、ドアが開きっぱなしで人がたくさんいる所は、聖ゲオルギウスを祀って、儀式をするところ。魔境王の戴冠式もあそこで行われるんだ。その左右にそれぞれ、建物があるけれど、あれも全部教会の一部。それだけでなく、向こう側は全て教会の管轄になっている。色々な建物があって、それぞれ役割が違う。裁判するところ、青騎士の本部、王都の行政を行うところ、という風に建物ごとにやってる仕事が違う。もっと奥のほうには、黒騎士や総主教様のいるところ、白騎士や魔境王陛下のいらっしゃるところもあるらしいよ。ここの中はすごく広いらしいけど、俺たちが入れるのはあそこだけ。だから、中がどうなっているかは、俺にはわからない。」


 司法、行政、立法、宗教、そんなものが全部まとまっているところ?それを一言で教会というのは、無謀な気がするのだけれど。この国の成り立ちって、いったいどうなっているのだろう?ヴァチカンみたいなものなのだろうか?でも、それとは別に領主がいるみたいだし…。


 でも、さっきのアランの説明で、孤児院と教会の間にある塀の扉にあのような鍵がついていたり、教会の裏口のセキュリティがしっかりしていたのか、理由が少しわかった気がした。


 教会が、ただの祈りの場ではないからだ。どちらかというと、宗教よりも行政組織の色が強いのではないだろうか。つまりここでは、華が頭に思い描く教会、万人に開かれている祈りの場を持つだけでなく、国の政府としての機構を兼ねているということだ。道理で、朝のうちに訪れた教会に、市役所みたいな印象を受けたわけだ。あれは多分、行政組織の支部の一つなのだろう。


 ということは、総主教というのは、総理大臣みたいなもの?王は外から召喚されて、魔境王と呼ばれるけど、君臨するだけで統治はしない?仕事は浄化だけなのかな?


「ちなみに、君の後ろのほうの建物は、各領の領主館だよ。」


「え?」


 華は思わず後ろを振り向いた。


 各領の領主館?それって、結構まずいのでは…。華の顔を知っている人がいるかもしれない。直接見ていなくても、華の珍しい顔立ちと、黒目黒髪は特徴的だ。


「ほら、あっちの方から順に、エミル、ドラクール、ドーアー、カーロン、ヴェート。」


 アランは、順番に建物を指差した。


 並ぶ建物の数は、五つ。それぞれ、特色のある建物だ。五つが五つとも違っており、あまりにも違いすぎていた。言ってしまえば、周囲の建築物に全くそぐわず、浮いている。かろうじてドラクール領の建物が、この王都の建物の様式に近いが、それも、東欧と英国くらいの違いがあった。


 建物だけではない。人々の顔立ち、服装、そういったものもずいぶん違いがある。多種多様だ。アラビア風というか、ジプシー風の格好の人がいたかと思えば、和風を思わせる格好の人までいる。


「アラン、悪いけど、その帽子、借りてもいい?」


「いいけど、どうかした?」


 アランは帽子を脱ぎ、華に被せてくれた。華は素早く、自分の髪の毛を帽子の中に押し込む。


「ええと、日差しが。」


 口に出してから気づいた。そういえば今日の天気は…。華は苦笑いでごまかす。


「君ってあれだけ弁がたつくせに、時々、支離滅裂だね。顔を見られたくない人でもいた?」


 アランは少し呆れた風に言いながらも、それ以上、追求してはこなかった。


「それで、領主は五人?」 


 アランは、うなずいた。


「領主と選定公の違いはある?」


「ん?一緒だよ。エミル公、ドラクール公、ドーアー公、カーロン公、ヴェート公。建物ごとに特色があるだろう?あそこは各領の大使がいて、領主が王都に出て来た時は、あそこに宿泊するんだって。」


 ということは、あそこは各領地の出張機関、大使館のようななものか。


 五人の領主、五人の選定公。


 最初にクラーラが言っていた。選定公と総主教の立会い抽選によって、王が決まったのだと。


 召喚される王、それを後見する一人の選定公。後見役は、一番強く願ったものが選ばれる。そういったことを思い出しながら、華は考えていた。


 ゾルタン・ヴァルツァーレクは、魔境王に何を期待していたのだろうか、と。



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