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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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朝食

 次の日の朝、華が朝食を取るために食堂へ一歩足を踏み入れると、部屋の動きと話し声は、一斉にピタリと止まった。


 華は一瞬、何が起こったのかわからず、食堂の出入り口を塞ぐように立ち止まってしまった。


 誰かに聞いてみようかと思ったが、華が顔を向けると、相手はあわてたように、顔や身体をそらしてしまう。


 なんというか、周囲には気まずい、なんともいえない微妙な空気が漂っている。


「おはよ。」


 そんな華の後ろから、のんきに声をかけるものがいた。


「おはよう。どうしたの?そんなとこに突っ立って。」


 ジャックとアランだった。華は、咄嗟にごまかした。


「おはよう。どこに座ればいいか、わからなくて。」


 二人は、食堂の中をぐるっと見渡した。なぜこんな雰囲気になっているのかはわからなかったようだが、おかしな様子には気付いたのだろう。


「ああ、基本、どこでもいいんだよ。おいで。」


 二人は、華を間に挟むようにして移動した。そして、昨晩と同じように、華を間に挟んで席につく。彼ら二人がついているせいだろうか、周囲の雰囲気はすぐにもとに戻っていった。


 あれから華は荷物と共に、おさげ髪の少女に二つ隣の部屋に連れて行かれた。廊下側のベッドの一つが無言で華に示され、華はそこで眠ることになった。


 その部屋の住人は、幼稚園くらいの小さな子が一人と、おさげ髪の子の二人だけだった。もしこの部屋で事件が起こっていたら、この子たちに被害が及んだかもしれない。


 でも、それは回避された。ケイトは脅迫されて空き部屋へ華を入れたが、華は事が起こったのが、あの空き部屋でよかったと思った。


 二人は、腫れものにさわるように華を扱った。幼稚園くらいの子は、あからさまに華に近寄らないようにしていたし、少女はそんな女の子を守るように、同じベッドで寝ていた。


 そんな態度をとるのは、二人だけかと思っていたが、食堂の様子を見るとそうではなかったようだ。事件が起こり、あの現場を見た子供たちは、アランとジャックを除き、皆一様に、華を見ると身体を強張らせる。


 そう。それはまるで、恐ろしい化け物でも見ているかのように。


 華自身は、この事件で何もしていない。華からすれば、事件を起こしたのも、怪我をしたのも、ヴィルだ。勝手な理屈で力をふるい、それが全部自分に跳ね返ってきただけの、一人芝居をしているようなお粗末な結果だ。


 しかし、そういった理屈は子供たちに通用しない。彼らが見ているのは、結果だけだ。


 最初に食堂で見せていたような気安さ、からかうように周囲をうろうろされたり、髪の毛を引っ張ろうとしたり、といったことは最早一切ない。華を怒らせたら、ヴィルのようになってしまうのではないか、という恐れのほうが、どうしても先に立ってしまうのだろう。


 これが、しばらく孤児院に暮らして馴染んだあとだったら、また違ったのかもしれない。だが、華が来た途端に起こった事件だったため、皆に強烈な印象を与えてしまった。


 しかも、華が結果的にやっつけた相手は、それまで散々皆を怖がらせてきたヴィルだ。ヴィルよりも、ずっと身体も小さくてひ弱そうに見える華が、あっさり倒してしまった。


 子供達からすれば、驚天動地の心地だ。血まみれのヴィルの姿、散り散りにされたブック。その完膚なきまでに叩きのめされた様は、それほどまでに皆を圧倒したのだった。


 おかげで華には、怖い、という漠然としたイメージだけが残ってしまった。でも、華はそれも仕方ないと思った。


 子供達の中には、ヴィルの理不尽な暴力に屈服していたものも多い。一度、そういった力に屈してしまうと、正常な判断力は失われてしまう。あとは、嫌々でも応じるか、進んで盲従するか、そのどちらかだ。その負の思考から抜け出すだけの精神力があるものは、少ない。簡単にそこから抜けることはできないのだ。


 だから子供達は、いきなり上にのしかかっていた重石が外れ、呆然とし、どうすればいいのかわからなくなっている。


 でも…、と華は思う。そんなの、一時的なことだ。華がいなくなれば、そのうちそんなこともすぐに忘れるだろう。遠巻きにされることには、昔から慣れている。華は、彼等の怯えをことさら無視し、何もしなかった。


 食堂内の微妙な雰囲気を察した二人は、特に周囲に何かを働き掛けたりはしなかった。そのかわり、昨晩と同じように華に話しかけ、何くれと世話をしてくれた。特にジャックは、打ち解けているようでいて少し距離を置いている感じがなくなった。


「リーナ、ちょっといいかい?」


 パンとミルクだけの簡単な食事を終えると、華はモリス・ヴァルツァーに呼びとめられた。モリスは、あの後眠れなかったのか、疲れた顔をしている。


「昨晩あった事件の報告を、主教にしなくてはならないのだ。このあと一緒にきてくれないか?」


 華は、アランの顔を見た。


「この孤児院は、聖魔教会附属なんだ。だから、責任者は教会の主教様なんだよ。ここで起こったことは、ちゃんと報告しないといけないんだ。」


 それとなく察したアランが、説明をしてくれる。


「でも、朝食を食べたら、青騎士のところへ行くって。」


「青騎士?なぜ、青騎士のところへ?」


 モリスが聞いた。


「昨日、リーナが変な男達に追いかけられた話を兄にしようと思って。」


「なるほど。確かにそれは、青騎士の調査に役立つ話かもしれないな。こちらの報告は、調査書を渡して、簡単な話をするだけだから、すぐ終わるよ。」


「そうですか。でしたら、それが終わったら、リーナと一緒に行ってきます。」


 朝食を食べたら、青騎士をしているアランのお兄さんのところへ行く予定だったのだが、いきなり出鼻をくじかれた。モリスが、報告は形だけのものだからすぐ終わるというので、アランには少し待っていてもらうことになった。


 主教に報告するとはいっても、本人はとても多忙らしい。そのため、主教の下には何人か秘書のような人がいて、主教の代わりに立ち会ったり、話を聞いたりするらしい。そういった役職の人を主教代理というそうで、その人に対し、起きた出来事を説明するそうだ。


 孤児院内で起きた事件とはいえ、強盗事件だ。取り調べの類は、警察みたいな仕事をしている青騎士が行うのかと華は思っていた。


 ところが実際は違った。孤児院は教会附属のため、そこを管理するものが強い権限を持つらしい。そのため、取り調べから犯人の引き渡しまで青騎士無しで行われ、報告書だけですまされることも多いのだ。


 今回の場合、ヴィルの取り調べとその報告は管理者によって行われ、青騎士に引き渡されることになった。報告書はモリスがすでに用意している。華との一件だけでなく、多くの余罪があるため、最早孤児院では更生の余地はないとして、彼は大人の犯罪者と一緒に刑に服すことになるそうだ。受刑中は、魔法を使えないようそれを封じるブレスレット状の手枷をつけられ、魔力を毎日吸い取られた上、労役につかされるようだ。


 モリスは華に、ざっとそういったことを説明してくれた。


 話を聞いた限りでは、少年院のようなものがここには無いようだ。大人の犯罪者と一緒くたにされたら、ヴィルは多分、いくら悪ぶってみたところで子供扱いしかされないだろう。この世界の受刑者が何をしているかは知らない。だが華は、犯罪者だらけの中に放り込まれたヴィルが、さらに悪い方向に行きそうな予感しかしなかった。


 それにしても寺社不介入なんて、聖魔教会には治外法権があるようだ。そんな権力を持ってるなんて、不正の温床になりそうだけど、そこのところはどうなのだろう、自浄作用はあるのか?と華はぼんやりと思っていた。


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