告白
「なっ。」
思いがけず指名され、周囲の注目を集めたケイトは、絶句していた。
「あのチビが、すごくきれいな金のネックレスを持ってるって、俺に教えてくれたのはアイツだ。一番奥の空き部屋に今夜、一人で寝てるって、そう言ったんだ。」
ヴィルは悪びれもせず、ニヤニヤしながら言った。
「それは本当なのか?」
ヴィルの言葉に真っ先に反応し、怖い顔で聞いたのは、アランだった。
「俺は、ケイトを信用してリーナのことを頼んだのに、そんなことを言ったのか?」
ケイトは両手で口をふさぎ、動揺を隠せない。好意を持っていた相手に冷たい目で見られた上に、そんな言葉を言われたら、どんなにしっかりした人間だって、簡単には反応できないだろう。
だめだ。これではいいように話をそらされてしまう。華は口を挟むことにした。
「やめて、アラン。ケイトは彼に脅されていただけよ。」
「たとえそうでも、やっていいことと悪いことがある。脅されているのなら、なぜ言わなかったんだ!教えてくれていたら俺は!」
アランはアランで負い目を感じていたせいか、ケイトを信用して華のことを頼んでいたぶん、裏切られた感が強い。いつになく強い言葉を吐き出してくる。
「いい?ケイトは私の寝巻きを洗ってくれていた。多分その時、彼に目をつけられたんだと思う。私の寝巻きは、誰が見てもすぐにわかるような高級品だから。そこで、ケイトは暴力をふるわれたんだと思う。」
華がそういうと、ケイトはびっくりしたように聞いた。
「なんで?なんで…、見てたの?見てたんだったら、どうして助けてくれなかったの?なんで?そんなすごいもの、持ってるくせに。」
華は首を横にふった。
「私は見ていない。あなたがどこで洗濯していたかも知らない。私はここに来たばかりで、どこに何があるのか把握していなかった。だから、お風呂場からまっすぐ、食堂に戻ったの。そしてそのまま、台所でアランを手伝っていた。」
するとアランも、華の言葉に同意した。
「それは本当だ。彼女は夕方近くに、初めてここに来たんだ。俺が連れていったのは、先生のとこと衣装箱のあるとこ、それと食堂だけ。だから、他の場所は知らない。食堂に戻ってきてからは、俺が夕食を作る手伝いをずっとしてくれていた。野菜の皮むきや、スープの煮込み。どれも時間がかかるものばかりだ。どこかに行っているような暇は、全くなかった。」
ケイトは叫んだ。
「じゃあ、どうしてわかったのよ!見てもいないくせに。」
「あなたが食堂で彼に押しやられた時、すごく痛そうにしていたから、変だと思っていたの。確かにドアに当たってはいたけれど、それほど強く当たった様子はなかったから。そしてさっき、この人が部屋に入ってきて、ネックレスを寄越せと言ってきた。でも、私はここに来たばかりで、このネックレスを実際に目でみたのは、アランとケイトと先生だけ。だから、あなたが脅されたんだと思ったの。彼が隠れて人を脅したり、暴力をふるうって、聞いていたから。あなた、左腕の二の腕あたり、怪我してるんじゃないの?」
華がそう言うと、ジャックがすかさずケイトに近寄り、腕をつかんだ。
「いたっ!」
軽くつかんだだけで、ケイトは悲鳴をあげた。
「リーナの言った通りなのか?」
ジャックが聞くと、ケイトはうなずき、寝巻きの袖をまくりあげた。あらわになった腕には、赤く腫れあがった部分がある。
「私、この子の寝巻きを洗ってたの。かなり泥で汚れていた。でも、洗えば洗うほど、すごくきれいになって、それがかなりの値打ちがあるものだってわかった…。あまりにもきれいな寝巻きで、刺繍とかもすごくて、こんなの見たことないって思って、私、楽しくなってしまって…。それで、ついついうれしくなって、馬鹿みたいに大きな声で、独り言を言っていた。それを、通りかかったこいつに聞かれてしまったの。それで、強く腕をつかまれた。痛くて、やめてって言ってもだめで、全然、やめてくれなかった。このまま力をいれたら折れるぞ、それでもいいのかって、そう、何度も言われた。それで…。」
「はぁっ?今さらお前、何言ってんだよ。」
自分に都合が悪くなってきたせいだろうか、ヴィルが口をはさんできた。
「君は少し、黙っていなさい。ケイト、続けて。」
モリスはケイトを促した。
「新入りの話をしろって言われた。他に何か金目のものを持っていないかって。だから…、金のネックレスをしていたって言った。そしたら、世話役は誰だ、ブックは持ってるのか、と聞かれた。ブックは持ってない、世話役はアランだって言ったら、あいつが口出ししてくると面倒だ、今晩中にカタをつけるから、一人で寝かせとけって。他にも何か持ってるかもしれないし、例の部屋なら、口うるさい先生も気づかない、そう言って…。」
涙ぐみながらボソボソとしゃべるケイトに、最初に華に見せていた、気の強そうな様子は微塵もない。
「だから…、だから私、そいつが夜にリーナのとこに行くつもりだって、私、知ってた。知ってたけど、言えなかった。言ったらどんな目にあわされるか、わからない。リーナをここに寝かせるのがいやだったら、お前が代わりにそこにいろって、そう言われた…、もし話したら、もっと酷いことしてやる。いや、お前にとってはいいことになるのか、それもいいなって、笑いながら、そう言われた。だから、私、言えなくて…私…。」
ケイトの声は震え、今にも消え入りそうだった。
「はっ、今さらいい子ぶりやがって。」
ヴィルは、吐き捨てるように言う。
「さて、ヴィル。ケイトはああ証言したよ。まず君は、規則を破り、女子しか入れない3階に上がった。リーナのいる部屋に入り、彼女の持ち物を寄越せと言った。それから?」
モリスはヴィルに向かって話を促す。
「ふん、そいつは、俺のことを待っていやがったんだぜ。なぜ俺がここに来るってわかったんだよ。おかしいだろ。ケイト、アラン、お前、皆グルに決まってる。グルになって、俺をはめたんだろ!汚い罠だ!」
ヴィルは開き直っていた。華はいいかげん、あきれていた。
「ここにきた時、人の物を盗む人がいると聞いていたわ。誰のことか、最初は知らなかった。でも、あなたのケイトに対する態度と、夕食の時、隣の子から勝手にパンを取って食べていたのを見たの。そこではじめて、それはあなたのことを言っているのかと思った。だから、あなたの評判を聞いた。すると、隠れて人を脅す、弱いものいじめをする、自分よりも強そうなものには気をつけている。そういう人だって教えられた。本当、評判通りだったわね。」
「うるさいっ!お前がさっさと渡さないのが悪い。」
「ここは女子部屋で、子供は寝る時間だから、さっさと帰れって、わざわざ親切に注意までしてあげたのに。」
クスッ。
隣でアランが口元を手で隠しながら笑っていた。まともな説明をしようとしないヴィルにしびれを切らしたのか、モリスは華に問いかけてきた。
「リーナ、何があったか話してくれるかい。これではちっとも話が終わらない。」




