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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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世話係

 食べ終わると、めいめい自分の皿とスプーンを持って台所へ行く。それを、当番らしい何人かのものが手分けして洗いはじめる。


 子供達は皆、食べるのが早かった。気づけば華は、一人でまだスープを飲んでいた。話をしている間に、華より小さい子までもがどんどん食べ終わり、皿を片づけにいく。


 華は、久しぶりにまともな食事をしているせいか、食べるのに時間がかかってしまった。アランとジャックは、それにつきあうように、隣にいてくれた。


「さっきケイトが大きな声で何か言ってたけど、どうしたの?」


 周囲から人がいなくなると、アランは華に聞いてきた。


「うーん、よくわからない。寝巻の洗濯の礼を言って、お風呂場での誤解を解いたまでは良かったんだけど、あのヴィルって子が来た途端、ケイトの様子がおかしくなって…。それで、部屋はどこもいっぱいだから、一人で寝てって言われた。」


 二人は顔を見合わせた。


「何かあったのか。」


「どうだろう。普通、新入りの子を一人にすることなんて無いんだけどな。」


「部屋はどこか聞いた?」


「左の一番奥だって。」


「そうか。一人で平気か?」


 アランは心配そうに聞くが、華は見ため通りの小さな子供ではない。


「大丈夫。私の場合、かえって他に人がいたほうが、寝られないかも。」


「ケイトはもう、上に行ってしまったようだ。」


「他のやつに頼んだほうがよかったのかもしれない。」


「もう少し面倒を見てくれると思ったんだ。」


 二人は心配そうに口々に言うが、女子部屋のある3階には上がれないので、部屋の様子を確認することはできない。そこで、その場で部屋の使い方や、ちょっとしたルールを教えてくれた。


「食事の後は、いつもどう過ごしているの?」


「そうだなぁ。自習室で勉強するか、部屋にもどって寝るか、だな。」


「そう。あと俺は、呼び売りのネタ探しをしたりしてる。」


 どうやら、勉強するところと寝るところは別みたいだ。自習室には机があって、宿題をしたり、本を読んだりするらしい。各自が明かりを灯すとお金がかかるので、節約のため、寝る部屋は最低限しか明かりをつけないことになっているそうだ。


 華がやっと食べ終わり、スープの皿を片付けてくると、アランはジャックに華とどのように出会ったかを説明しているところだった。説明の中には、華がアランの呼び売りについて語った言葉もふくまれていた。それだけ華の言葉が、彼にはうれしかったようだ。


 だが、ジャックは少し懐疑的だ。口先で、相手の喜ぶ言葉だけを与えるのは簡単だからだ。


「確かに、起業して大きくするってのはいいかもね。でも、俺達には元手がない。言うほどたやすくはないよ。」


「ジャックの言う通り、簡単じゃないと思う。でも、アランの目の付けどころはいいから、やり方次第だと思う。」


「あんた、何かいい方法知ってるの?」


 ジャックは目をすがめた。


「そうねぇ。」


 華は、少し黙った。やりすぎてはいけない。あまりにたくさんの情報を与えては、かえってアランのためにはならない。


「私だったら、まず、名前を決める。その情報紙にふさわしい名前を考えて、自分が新しいものを作っていることをまず世間に示す。それから、アランはまだ孤児院でお世話になっているのだから、その情報紙の責任者の一人に、先生を加えるのもいいかも。」


「え、先生?俺がやるものなのに?」


 華は、ニヤ、と笑った。それは、まったくの思いつきにすぎなかった。だが、言葉に出してしまうと、それはとてもいいアイディアに思えた。


 華は、モリス・ヴァルツァーが、ボリス・ヴァルツァーレクだと思っている。あの人物を後ろ盾に加えておけば、アランがこれからやろうとしていることで何か起こっても、うまく配慮してくれるはずだ。勝手に誰かに横取りされたり、食いものにされるようなことにもならないだろう。


「そう。そうしなさい。許可をとっておいたほうがいいと思う。そして、必ず印刷する前に原稿を見せて、説明しなさい。そうすれば、誰かがアランのアイディアを横取りしようとしても、簡単にはいかなくなるはずだから。」


 二人は顔を見合わせている。華がなぜ、モリス・ヴァルツァーを巻き込もうとするか理解できないようだ。


「なんで、先生?作ってるのはアランなのに。」


「君は、誰かが俺のやろうとしていることを取ると思ってるの?」


「ジャック、アランには元手がないって言ったわよね。」


「ああ、そうだ。俺たちは孤児院の孤児だからな。金なんて持ってない。」


「そう。お金はない。けれど、アランのやろうとしていることは、元手がある人だったら、誰でも真似できる。考えたのはアランかもしれない。けれども、誰がそれを認めて尊重してくれる?」


 ジャックは腕を組んだ。


「あんたの言うとおりだ。真似しようと思えば、誰でも真似できる。しかも金があれば、アランよりもきれいに印刷できる。」


「このアイディアを元手のある連中が本格的にやろうとすれば、アランに対抗策はないの。せいぜい絵を加えたり、情報の質をあげたりできるだけ。下手したら、アイディアだけ取られて、アランはそういった連中の手下にされかねない。アランが作っている情報紙は、孤児院の皆から話を集めているのでしょう?だとしたら、集める人は孤児院の皆に小遣いでもばらまけば、情報だって取られてしまう。だから、大人を巻き込むの。うまくやれば、孤児院の仕事の一つになる。それに、アランがこれからやろうとしていることは、協力してくれる人間が必要だと思う。一人ではできない。それから、やり方や内容は、もっと考えないとだめ。でも、その方向に持っていくには、もっとたくさんの資金と情報と人材が必要だから…。」


「でも、兄貴ならともかく、先生を巻き込むのは…。」


 アランはその案には乗り気ではないようだ。彼はあくまで自分の仕事として、やりたいみたいだ。彼の呼び売りは、今まで否定されてきたため、なんとしても自分でなんとかしたい、という気持ちがあるのだろう。


「最終的に、アランが一人立ちできるようになるまでのことよ。あなたに自立心があるのはいいことだと思う。けれども、孤児院の子供がやっていることだからと、食いものにされやすいということも自覚して。今は、ちゃんと仕事にするための練習段階でもあるのでしょ?だったら、その立場をうまく利用しなさい。それと、お兄さんじゃなく、彼でないとだめなの。」


「それ、どういう意味?」


「彼なら充分な後ろ盾になるから。身内では、共倒れになるだけ。お兄さんは青騎士かもしれないけれど、貴族ではないし、偉い人でもない。」


 アランの目つきが鋭くなった。


「君、先生が、知っている人に似ているって言ってたね。」


「ええ。」


「何?どういうこと?先生がどうかしたの?」


 ジャックは、わけがわからず、二人の顔を交互に見る。


「彼が私の知っている人物なら、彼には知識も力もあるはず。でも、あなたはそのことを知らない。まあ、彼がどこの誰だろうと、今はここの世話係なんだから、世話してもらえばいいってことよ。相談しまくって、孤児院ぐるみの仕事にしなさい。あなたは運がいいの。利用しなさい。彼が、書類仕事や交渉ごとはうまいって言ったのは、あなたよ。」


「そう言われると、すごく気になるんだけど。」


「知りたければ、本人に聞けばいいでしょ?教えてくれるかどうかはわからないけど。でも…、そうね。」


 華は少し考えこんだ。


「こんなところで、のん気に世話係なんかやってるんだもの。そのぐらい、いいわよね。もし彼が、アランの頼みを聞いてくれないのなら、こう言いなさい。ベルトに下がっているものは、息子とおそろいかって。」


「ベルトに下げられているものって…。あの飾りのついたもののこと?」


「なあ、それって脅しのようにも聞こえるんだけど。」


 ジャックが苦笑しながら言うので、華はこう答えた。


「脅しているのよ。」







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