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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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いただきます

「大丈夫?」


 ケイトは強く押しのけられたせいで、よろけて体勢を崩し、すぐそばのドアに身体をぶつけていた。華はケイトに近寄り、声をかける。


 その横を、何事もなかったように黄色い髪の少年は通り過ぎていった。そのニヤついた視線を華に向けながら。


 痛そうに腕をさするケイトに、華は手を差し伸べようとした。



「触らないで!」

 急に大きな声を出され、華は動きを止めた。そんなに痛かったのだろうか。そこまで強くぶつけているようには思わなかったのだが。


「あんたとかかわりあったのが、間違いだった。」


 うつむいたまま、ケイトはそう言う。華は、彼女がなぜ急にそんなことを言いだしたのかわからず、首をひねった。少しだけ打ち解けてくれたかと思ったのだが、自分の気のせいだったのだろうか。


「部屋はどこもいっぱいよ。三階左手の一番奥なら空いてる。だから、今晩は一人でそこに寝てちょうだい。」


 言い捨てるようにそう言うと、ケイトは素早く、その場を離れていった。そして、さっさと席についてしまった。


 華は仕方なく、籠に残っていた残りのスプーンを配り始めた。


 何がいけなかったのだろう?機嫌良く、華の寝巻のことを話していたのに。服飾の職人になりたいのに、なれそうにないから?それをあの黄色い髪の少年に、はっきり指摘された上に、乱暴されたから?


 頭を悩ませているうちに、スプーンは配り終わった。そこへ、アランがやってきて、華は彼とジャックにはさまれるようにして座らされた。


 子供たちはすでに席についている。皆、髪の色がカラフルでバラエティにとんでいた。それに、獣の耳を持つ子が何人かいる。ズボンの後ろから、尻尾を垂らしている子もいた。夕食を前に、椅子に下がる尻尾がふりふり揺れている様はとてもかわいかったので、華は少しだけ気持ちをなごませた。


 アランはその場で立ち上がり、華の紹介をした。


「皆、聞いてくれ。今日から仲間になるリーナだ。まだ仮登録なので、正式な仲間ではないが、俺がこの子の世話係になった。わからないことも多いだろうから、皆、教えてやってくれ。」


「よろしくお願いします。」


 華はアランに促されて立ち上がり、短い挨拶をするとすぐ席にもどる。あまりにそっけない挨拶だったので、彼はそれでいいのか、という顔で華を見ていた。だが、注目されるのは好きじゃない。


「それじゃ、いただこうか。はじまりの王と、大いなるものがもたらす恵みに感謝を捧げて。」


 すると皆は一斉に両手を組み、アランの言葉に続いて復唱した。


「はじまりの王と、大いなるものがもたらす恵みに感謝を捧げます。」


 言葉を言い終わるや、食べ始めた。


 華は、その一連の動作をポカンと見ていた。この世界のお祈りの言葉をはじめて聞いた。ここでは、『はじまりの王と、大いなるもの』に感謝して食べ物をいただくのか。いただきます、と同じような意味なのだろうが、少し不思議な気分だった。


 大いなるものって、何だろう?神様みたいなものなのかな?でも、神様なのだとしたら、王様よりも先に名前が出てきそうなものだけど…。


「どうしたの?食べないの?」


 ジャックがパンをを一つ、籠からとって華に渡してくれた。


「ありがとう。」


 目の前には、一皿のスープ。そしてパン。


「何?また何かわからないこと、あった?」


 察しのいいアランが、自分から聞いてきた。


「大いなるものって何?」


「うーん、それを一言で説明するのは難しいな。」


「だな。ま、でも、簡単に言えば、世界を形作ったもの、かな。」


 アランに聞いたつもりだったのに、なぜか答えたのはジャックのほうだった。世界を作ったものということは、創世神話があるってっことか。


「ああ、こいつは頭がいいから、難しいことはジャックに聞くといいぞ。」


「ん、そうか?俺はアランのほうが頭いいと思うぞ。」


 やっぱり二人は仲がいいみたいだ。


 華は、ジャックが渡してくれたパンをちぎり、口にいれた。中に何か毒が入っているかも、といちいち考えなくてよい食事だ。普通に食べられる食事は久しぶりな気がする。それはうれしい。昼間に妙なシチューを食べさせられたばかりだったし。


 やはりパンの味は少し酸っぱい気がする。酵母の違いか、材料にしているものの違いなのか…。


 華がパンを食べながら考えていると、華から何人か離れた斜め向かい側に、さっきケイトを突き飛ばした黄色い髪の少年が座っていることに気づいた。その隣に座っている男の子は、なんだか顔色が悪い。なんとなくうつむきながら、スープを飲んでいる。


 黄色い髪の少年は、自分のパンを食べ終わると、今度は隣の男の子の前にあったパンを取り、食べはじめた。だが、周囲の者は誰もそのことを注意しない。それどころか、気にするそぶりもない。そんなことは日常茶飯事なのだろう。


 アランが話していた、人の物を盗んだりするから痛い目にあったほうがいい人物とは、彼のことだろうか?その少年のベルトには、ブックがはさんであった。ということは、魔力が多いのか。


「ねえ、アラン。あれは、誰?」


 華は少し声をひそめ、他のものに聞こえにくいようにして尋ねた。


「え、誰って?」


 アランは最初、華が誰のことを言っているのかわからなかったようだが、その視線の先をたぐり、言いたいことを理解したようだ。


「ああ。あれ、気になった?」


「彼のことを言っていたのかと思って。」


 アランは苦笑している。


「うん。察しがいいね。そうだよ。どうにかしたいんだけど、なかなかうまくいかなくてね。」


「何々、何の話?」


 ジャックが割り込んできた。二人が少し黙ってしまったので、ジャックは気を使った。


「あれ、俺、邪魔だったかな。」


「いや、ヴィルのことだよ。」


 アランが小さな声で答えたので、彼もまた、声をひそめて話をした。


「ああ、あれね。ほんと、あいつ、面倒。隠れて人を脅したりするから。そのくせ、自分よりも強そうなやつには気をつけてる。」


「人前ではやらない?」


「そうだなぁ。目に余るようなことは、だいたい陰でやってる。相手が一人になる時を狙ってね。俺やアランなんかには、表だって突っかかってはこない。弱い者いじめが好きなやつなんだ。」


「そう。」



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