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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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反応

 トム、と呼ばれた男の子はモリスに連れられ、食堂を出て行った。


「彼はどうなるの?」


 華はアランに聞いた。


「ん、そうだなぁ。夕食抜きで、一晩反省ってとこかな。」


「トビトカゲは?」


 華は少し、トムを気の毒だと思った。あのトビトカゲは普段、彼の言うとおり、おとなしくすごしていたのだろう。トビトカゲは、カーデュエルの森と山の主に反応してはしゃいでしまっただけだ。もっとも、食堂に連れてきてはいけなかったようだが。


「トムがちゃんと反省して、あんたのとこにあやまりにくるなら、トムのとこに返してやるんじゃないの?」


 緑色の髪をした少年、ジャックが口をはさんできた。


「ねえ、あんた、新入り?」


 ジャックはアランの肩に腕をまわし、華に話しかけて来た。


「あの、よろしくお願いします。」


「リーナだよ。市場で俺が助けたんだ。俺、世話係。それで、こいつはジャック。」


「助けた?何があった、そこんとこ、詳しく。」


 どうやら二人は仲がよいみたいだ。


「あとでな。まずはここ、片付けないと。」


「おう。」


 そうしている間にも子供たちが次々と帰って来る。華は、床に散らばったスプーンを拾い、ジャックと一緒に台所で洗った。アランは食堂で、スープの配膳をしていた。


「ジャックは何の仕事をしているの?」


 初対面の相手に何を話せばいいのかわからず、華はとりあえず当たり障りのないことを聞いてみた。


「あ、俺?俺は、古本屋の店番だよ。そこの爺さん変わっててさぁ、自分が本を読みたいから、俺に店番まかせて店の奥に引っ込んだままなんだ。まあ、俺は楽でいいけどね。」


「古本屋さんかぁ。いいな、面白そう。」


「そうか?店の中、ちょっとカビ臭いし、金持ってない客に限って居座るんだぜ。酷い奴になると、俺がガキだと思って盗んでいこうとするから、俺、そういうやつを捕まえるのは妙に上手くなっちゃった。」


「どうやって、捕まえるの?」


「うーん、なんつーか、そういうやつってわかっちゃうんだよね。なんか変だなって思わせるようなことをするというか…。そこで俺は、あらかじめ注意して準備しとく。そこで俺の視線に気づいてやめるやつもいる。でも、本のことしか頭にないやつだと、俺には気づかない。本を持って店を出た瞬間、捕まえる。毎回使う魔法は同じだからね。でも、どうやってるかは、秘密。俺が自分で考えたんだ。」


 魔法を使って泥棒を捕まえるのか。少し得意げに言うジャックのベルトに下がるポーチには、スクロールが何本もさしてある。


「魔法が得意なの?」


「うーん、俺もアランも一応、中の上くらいの魔力は持ってるからね。ま、平民にしては多いほうだよね。上のクラスでもいいんだけど、そこはそれ、ちょっと面倒くさいから、よほどの魔法馬鹿か、金持ってるやつでないと。」


 どういう意味だろう?確かアランが、魔力によって学べる魔法が違うようなことを言っていたけれど、お金が必要?


「そういえばさっきのあんた、はじまりの王みたいだったね。」


 華はドキリとした。どうして、はじまりの王?


「はじまりの王は、いろんな魔物と話ができたって本当かな?幻獣とかは、主人になったものと会話できるらしいけど、いいよなぁ。なんか楽しそう。」


 格の高い高位の魔物だと、主人と会話できる?じゃあ、総主教はあの白虎と会話できるのか。でも、あのトビトカゲは、子供がペットにするような魔物。


 そういえば、ナーガラージャと初めて会った時、あの不思議な麒麟のような生き物が彼に金貨と引き換えに命を助けてくれたんだ。だったら彼は、どの魔物とも会話できるのかもしれない。


 あのトビトカゲと会話できたのだから、自分も他の魔物と会話できるのかも…。もしそうなら、それはとてもうれしい気がする。ドリトル先生みたいだ。


「よし。これでおしまい、っと。これ、持っていって。あとは俺がやるから。」


 洗ってリネンで水気を拭き取ったスプーンを籠に入れ、ジャックは華に渡した。ただのスプーンが入っただけの籠なのに、子供の身体になってしまった華には重い。未だに華は、子供が出来る範囲に慣れていない。


 食堂に入ると、アランはすでにスープを配り終わっていた。パンはある程度の数をまとめて籠にいれられ、机のところどころにおいてある。


「アラン、スプーンは机の上に並べればいいの?」


「ああ、皿の横に一つずつ置いといて。」


「わかった。」


 誰だ?新入りか?という声が聞こえてくる。見なれない顔がいることに子供たちはすぐに気付き、華をじろじろ見る。


 右を見ても左を見ても、当り前のことだが子供しかいない。ざっと見た感じでは、下は幼稚園くらいの子から、高校生くらいの子達で、全部で三十人ぐらいだろうか。


 華は子供が苦手だ。いや、子供だけじゃない、人間全般が苦手なのだ。もともと一人っ子だったせいもある。それにくわえ、親ともうまくいっていなかった。それに、身体が子供になってしまったこともあって、心と身体がちぐはぐだ。余計にどうしたらいいのかわからない。


 女の子はクスクス笑いながら、華を指さしてささやきあっている。


 華より少し小さい男の子が、華の行く手に割り込み、からかうように下から華の顔を覗き込んできた。何度も同じことを繰り返すので、地味にうっとうしい。当然、華は相手にしない。無視を決め込む。


 すると、それを見ていた別の子が、華の髪の毛にふれようと手を伸ばしてきた。もう少しで手が届きそうなところになり、彼は急にイタッ、と言って手をひっこめた。華が振り向くと、彼は自分の手と華の顔を驚いた顔で交互に見ている。


 華はかまわず、スプーンを並べる。多分、髪を引っ張ろうとしたとか、そういうことなのだろう。いたずらだったのだろうが、直接的に華に何かをしようとしたことで、お守りにはじかれたようだ。


 おかげで華は、期せずしてお守りの効果に段階があることを知った。さすがに子供の思いつくような悪戯では、あの時の男のように吹き飛ばされることはないようだ。お守りが何に反応して、警告程度から物理的排除にまで効果を分けているのかはわからないが、華は少しばかりホッとした。


 スプーンを並べていたら、ケイトが食堂に入って来るのが見えた。華は、とりあえずケイトのところに向かうことにした。


「ケイト、あの…。」


 ケイトは華を見ると、苦虫をつぶしたような顔をした。あからさまな感情表現に、華は一瞬ひるんだ。だが、言うべきことはちゃんと言おうと思った。


「あの、寝巻を洗ってくれて、どうもありがとう。それから、さっきのことだけど、私はケイトのことを馬鹿にしてるつもりは全然なくて、ただ、人前で裸になることに慣れていないというか、その、どうしていいかわからなかっただけです。だから、そのことをちゃんと伝えておこうと思って。」


 ケイトは、そんなことを言われるとは思っていなかったようで、少しだけ面喰ったようだった。


「いいわよ、もう。」


 彼女はふうっ、と大きな溜息をつくと、腰に手をあてながら話し始めた。


「私も大人げなかったし。あんたの寝巻は洗って干しといたわ。本当、苦労したわよ。泥汚れをきれいに落とすって、大変なんだから。おかげですんごくきれいになったわ。ま、当然よね。私が洗ったんだから。でも、なんなの、あれ。あの刺繍、すごいわ。あんな芸術品みたいなの、初めて見た。生地のリネンの手触りからして全然違うのよ。白くなれば白くなるほど、美しさが際立っていって…。おかげで洗濯に時間かかっちゃったわよ。シミ一つない状態にしないと、あの美しさがそこなわれちゃうじゃないの。ね、それで、あれってどこで作ってるやつ?やっぱりあれは、エミル領の職人の手で作られたもの?ねえ、あんな細かいステッチ、どうやったらできるの?やっぱり、あそこの職人が魔法で刺繍をするって噂、本当なのかしら。見たいわぁ。ねえ、ちょっと聞いてる?」


 ケイトは、話しているうちに華ではなく、どこか遠くを夢見るように見ていた。


「ごめんなさい、どこで作っているのかは知らないです。着せられていただけだから。ケイトは、服飾が好きなの?」


「服飾?」


「ええと、ドレスを作るために必要な型紙を作ったり、縫物をしたり、飾り付けをしたり、とか?」


 今までおしゃれに気を使う余裕がなかったせいか、華はそちらの知識が全くなく、うまく説明ができない。


「そうね。大好きよ。お金があったら、自分でデザインして作りたいくらいね。でも、職人になるのは難しいし。」


「どうして難しいの?」


 華は、口に出してしまったからケイトの顔色を見て、しまった、また余計なことを言ってしまった、と思った。


「金もなければ、魔力も少ない孤児だからに決まってんだろ。」


 そう言ったのは、ケイトの後ろからやってきた黄色い髪の少年だった。


「邪魔だ。どけ。」


「キャア。」


 少年は、ケイトを片手で乱暴に押しのけ、食堂に入ってきた。

 








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