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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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風呂 

 ケイトは自分の言いたいことを思い切り怒鳴り散らすと、華が脱いだ寝巻きをつかんだ。そのまま華には目もくれず、後ろ手でドアを力任せに閉めるや、脱衣場を出て行った。


 短気な人だ。魔力が少ないとか、スクロールがどうとか言っていた。庶民でも、魔力の少ないものは不利なのだろうか。あれだけ反応するところをみると、からかわれたり馬鹿にされたりするのかもしれない。


 華は一人その場に取り残され、少しばかり考え込んでいた。この世界の常識を知らないことは、余計なトラブルをまねく。少なくともナーガラージャのおかげで声が出るようになり、会話できるようになったのだ。少しずつでも学んでいかないと…。


 とりあえずは、このお風呂だ。この間まで滞在していた城が、高級ホテルだとしたら、こちらは多分、庶民向けのものだ。下手すると、庶民よりも劣るかもしれないが。そう思いながら華は、風呂場のドアを開けた。


 あれ、狭い?


 いきなり拍子抜けした。お風呂屋さんの大浴場とはいかなくても、てっきり大きな浴槽があると思っていたのだ。だが違った。風呂場は狭く、浴槽は普通サイズのものが一つきりだった。それとは別に、座って腰湯ができる大きさの浴槽もあった。


 それでも、ここは設備が整っているだけましだ。他のものが帰ってくる前に入れというのは、きっと時間によって順番とかが決められているせいなのだろう。毎日、風呂に入る習慣がないのかもしれない。


 うん、さっさと入ろう。


 風呂場に置いてあった石鹸を使ってみた。だが、品質が悪いのか、ちっとも泡が立たない。なんとか全身を洗い終え、着替えた。いつ誰が入ってくるかわからないため、なんとなく落ち着かない。当然、ゆっくりとはいかず、かなり気ぜわしかった。


 風呂場を出た華は、どこへ行くべきか迷った。ケイトはどこかに行ってしまったまま、帰ってはこなかった。そこで、食堂に顔を出してみることにした。


 食堂はガランとしていて、誰もいない。アランはすでに当番の仕事を終えてしまったのだろうか。


「アラン?いない?」


「こっちだよ。となりの部屋。」


 声をかけてみると、返事があった。食堂の奥のほうにあるドアが開いている。覗いてみると、そこは台所になっていた。


「ああ、着替えたんだね。ケイトはどうしたの?」


 台所の中央に大きな調理台があり、アランは椅子に座って芋の皮むきをやっていた。


「私、彼女を怒らせちゃったみたい。」


「ん、何かあったの?」


 華は、先程あったことを彼に説明した。


「そっか。じゃあきっと、寝巻きを洗濯してくれてるんだよ。ま、あんまり気にしなくていいよ。あいつの怒りっぽいのは昔からだから。てことは、部屋にはまだ?」


「うん、まだ。ねえ、スクロールって何。」


「え、それも知らないの?」


 アランにまたか、という顔をされた。


「当番の仕事って、食事を作ること?」


「そうだよ。もうすぐみんな帰ってくるからね。」


「それ、皮をむけばいいの?私もやっていい?」


「できるの?大丈夫?」


「皮むきくらい、できるよ。」


「うーん、それじゃ、これでやってみて。」


 アランは自分の使っていたナイフを華に渡した。華は芋を一つ手に取る。


 ジャガイモと同じような形をしているが、皮の色が緑色だ。これは、大丈夫なのだろうか?ジャガイモだと緑色は毒だったような…。


「どうしたの?やっぱり難しい?」


「この野菜の皮が緑なのって、普通?」


 華が黙っておられずに聞くと、アランは思わず頭に手をあてていた。


「君って本当に…。まあ、うん、そう。それが普通だよ。」


「わかった。」


 華は、皮むきをする手元をじっと見つめられた。なんだか妙に心配されている。


「うわ。ちゃんとできるんだ。意外に器用?」


 失礼な。ずっと自炊していたんだから、できるに決まっている。どうやらこちらの常識にうといせいで、そういったことは全くできないと思われていたようだ。


 華が、きちんとナイフの扱いができることを証明すると、彼はもう一本別にナイフを持ってきて、隣で一緒に皮むきをはじめた。


「スクロールがわからないんだったよね。ブックはわかる?」


 華は頷いた。


「形だけ。あと、魔法を発動させるのに必要ってことだけ、知ってる。アランが腰に下げているの、ブックだよね。」


「そう。簡単に言うと、ブックは、スクロールをまとめて本にしたもの。」


「ふうん。じゃあ、なんでケイトは私が馬鹿にしたって思ったの?」


「うーん、それは多分、ケイトの劣等感を刺激しちゃったんたろうね。ブックもスクロールも、魔物の皮から作られた羊皮紙でできているんだ。スクロールをブックにまとめるためには、何枚も羊皮紙が必要だし、装丁にお金がかかる。」


「普通の紙ではだめ?」


 アランは手を止め、華のほうを向いた。


「普通の紙が使えないわけじゃないんだ。魔方陣は書けるし、一応、魔法も発動する。でも、弱い魔法を一度発動させたら、それで燃えつきておしまい。それに、強い魔法の使用には耐えられなくて使えない。スクロールに書くのは、生活に必要な魔法が主だ。それも、必要最低限の、少ない魔力で発動する、初級魔法だね。魔力量が多ければ、使える魔法自体、多くなる。そうすると、スクロールの枚数も自然と増える。つまり、たくさんの魔法を使える者は、やれることも増えるわけだから、選べる仕事の幅も広くなり、収入も多くなる。学校の中で魔法の勉強をする時、魔力量に応じてクラスが分けられるんだ。魔力量が多ければ、魔法も大がかりなことができるようになる。でも、少ない魔力量のものに、大きな魔法を発動させることは危険だ。命にかかわることだから、学校では最初から教えないことになっている。スクロールが増えたら、綴じて製本する。俺の場合、兄貴が製本代を出してくれた。だから、ブックになっている。スクロールの枚数が多い、ブックを持っているということは、魔力量がそれだけ多いってことだよ。まあ、金持ち連中は、見栄のためにブックにするやつもいるらしいけどね。」

 なるほど。ケイトはスクロールしか持っていなかった。ブックを持っているということは、ある意味能力の証なのか。

「じゃあ、魔力が少ないと、馬鹿にされる?」

「うーん、まあ、そういうやつもいるね。魔力量が少ないと、魔法の数も質も変わる。それが人の価値を決めると思っている連中は多いから。」

「そう。」

「ケイトのことは、気にしなくていいよ。あいつ、ここで一番年長で、学校を卒業したら、ここを出ていかなきゃならないんだけど、なかなか行き先が決まらないから、少しあせってるんだ。まあ本人も、ちょっと高望みしてるとこ、あるし。」

 進路が決まらなくて、少し被害妄想になっていたのか。魔力量の多い少ないで、収入が変化し、身分までも変わってしまう。自分の努力とは無縁のところで馬鹿にされれば、それは悔しいだろうな。


「ここには、いろんな境遇のやつがいるよ。養子にもらわれていく子もいる。でも、貰われていく子は大抵、魔力量がそれなりにある子なんだ。ケイトは性格はともかく、わりと見た目がいいから、里親候補が見学に来るたび、よく声をかけられていた。それもあって、いつも身なりに異様に気を使っている。でも、魔力量がネックになって、話はすぐに立ち消えになってた。俺も兄貴も、養子に行く話は何度か来たことがある。でも、兄弟一緒じゃなきゃだめだってずっと言ってたから、結局、条件があわなかった。でも、ケイトはとにかく、養子になりたがってたなぁ。」


「養子に行くと、いいことあるの?」


「いいとこに貰われるとは限らないよ。でも、夢見るやつはいるからね。それに、少なくともチャペルではなくなる。」


 あの、きれいにアイロンがかけられたワンピースは、ケイトなりの矜持のあらわれなんだろう。


「養子か…。そういえば、総主教様?は孤児だったって聞いたけど。」


「ああ、それ有名な話。ここの出身だからね。」



 


















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