表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
441/518

孤児院を04

「チャペルではない孤児、ですか…。」


 ジャスパーは、驚きとも困惑ともとれる顔をしている。孤児院は教会の管轄下にある。そうでないものを作るということは、ある意味、教会に対する挑戦とも受け止められかねない。


 はじめてアランに会った時、彼は自分のチャペルという名前を嫌々紹介しているようだった。華には、その名前にどんな意味があったかわからず、彼に説明してもらったことがある。


 彼は言った。聖魔教会に保護される子供は皆、教会の子供になり、姓がチャペルになる。つまり、親を亡くした子供はそれまで持っていた姓を取りあげられ、チャペル姓に改名されてしまう。名前だけで孤児だとすぐわかるので、差別対象となってしまうことも多い。


「名前とは、そのものを表し、他から区別する役割を持っています。その名に誇りを持つものもあれば、捨てたいと思うものもいる。ただの名称にすぎないと切り捨てるには、あまりに身近にありすぎて、切実な問題です。


個人を表す名と、家名を表す姓。このファミリーネームは、個人の所属する家、個人のルーツ、根っこの部分にあたります。


それを根こそぎ奪い、チャペルという団体としてひとまとめにしてしまうのは、本人がそれを希望しているならともかく、そもそもが乱暴な話だと思います。


ただでさえ、保護者を失った子供を差別するということは理不尽です。辛い立場に立つことになった子供に追い打ちをかけるだけで、本人が何か悪いことをしたわけでもないのに、不運という烙印を押しているようなものです。


前々から私は、チャペルという名でひとくくりにするやり方を撤廃したいと思っていました。できれば、子供が本来持っていた名前を優先させるようにしたいと思います。


ですがその前に、チャペルでない孤児という集団を作り、チャペルという言葉自体に意味を持たせないような状況を作ってみようと思います。


要は、孤児院の子供が己の能力を発揮できるようにしてやればいいのです。学力の底上げをするだけなら、難しいことではないと思いますよ。」


 華は、最初にアランに会った時、計算が早いと言われた。こんな簡単な計算で、とあの時は思ったが、それはきっと学校教育のやり方が華の知っている義務教育と違うからだ。


 貧乏だったとはいえ、伊達に受験勉強はやっていない。ましてやこれは、義務教育の話だ。計算に限っていえば、九九を覚えさせ、三分とか五分とか、子供の集中しやすい短時間でのドリルを繰り返しやらせればいい。計算機がないならば、ソロバンを導入すればいい。できることからやればいいのだ。


「幸い、私には今、土地も建物も資金もあります。私が役場に行ったのは、孤児院の世話人のことや、村における孤児院の位置の調整のつもりもあったのですが、どうやら管轄違いだったようですし、孤児を育てるメリットなどないと否定されてしまいましたからね。


でも、おかげで彼等の顔をうかがうことなく、好きにできます。勝手にやらせてもらいましょう。」


 孤児院の場所は、村の中心からやや外れたところにした。そこには、元村長が愛人を住まわせるために作らせた、ちょっとした屋敷があった。本妻には内緒にしていたのか、貸家の一軒として登録してある。他の貸家については、大家が元村長から華に代わっただけだったが、愛人のほうは今まで賃料を払わずに住んでおり、今後、一人で住むには広い屋敷を維持できるとも思えない。彼女は村長とのかかわりあいを追及されるのを恐れたのか、さっさと自主的に逃げていた。


 問題は、孤児たちを世話する人だ。子供達は、普通の村の子供とは違う。ドーム一号の中でシンロクの世話や教育を受け、かなり改善されてはいたが、すれた子供も多い。普通の学校で子供の世話をするのとはわけが違う。優しいだけでは子供に引きずられるだけだ。場合によっては厳しくもできる、柔軟な人が望ましい。


 華はそれを、イスハーク達に相談した。地元の人に呼び掛け、ふさわしい人を推薦してもらいたいと思ったのだ。


「なるほど。要するに悪ガキどもを一方で締め上げ、一方で教育できるものがいいってことだな。」


 華の意図は、すんなりと伝わったようだ。


「それなら、あいつはどうかな…。元冒険者仲間で、一人もので料理もうまい。なかなか気のいいやつなんだが足を怪我してからツキを失ってしまったのか、片目を失って森にはいることが難しくなってしまった。


冒険者としての経験はかなりあるし、腕も悪くなかったのだが、仕事がなくて最近は酒びたりだ。教育のほうは義務教育しか受けてないから微妙かもしれんが、頭は悪くないし、面倒見はいい。」


「あなたが言うのなら人物に問題はないでしょうが、酒びたりではちょっと困ります。仕事を与えれば立ち直り、住みこみで面倒を見てもらえそうですか?」


「ああ、俺が保証する。ダメなようなら、俺が責任持って別のやつを連れて来る。」


「わかりました。では、お願いします。」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ