孤児院を03
「なるほど、そういうことですか。わかりました。ならばここに長居は無用ですね、帰ります。」
村に孤児院を作ろうと働きかけているかに見えた華が、あっさり引き下がったことで、村役場の男性はあっけにとられている。それでも、上流階級の人間相手に下手な態度はとれないと思ったのだろう、男性はごまをするようにこう言った。
「私共に相談なさるよりも、教会に相談なさったほうがよい返事をもらえると思いますよ。私共が教会に話を通すよりも、お嬢様が直接声をかけられたほうがよいです。そうすれば、村に分館を作ってもらえるかもしれません。」
ずいぶん適当なことを言う人だな、と華は思った。この村に教会はない。教会は、もう少し大きな町に行かねばないのだ。当然、孤児院もその教会に附属している。
「村の子供は今後、町の孤児院にいれられることになるわけですね。」
華は、男性に念を押すように確認した。
「ええ、そうなるでしょう。」
「その言葉、忘れないでください。」
華は、役場をあとにした。建物を出た途端、待ちかねたようにジャスパーが華に聞いてきた。
「お嬢様、先ほどの発言ですが、くわしくうかがってもよろしいでしょうか?」
「いいですよ。ちょっと面白いことを思いついたので。」
華は、自分の思い付きを気にいっていた。
「役場に足を運んだことで、一般の意識もなんとなくわかりましたが、先にジャスパーに話を聞いて相談しておけばよかったですね。
まだまだ、私には認識のズレがあるようです。私はてっきり、孤児院の経営母体が教会だけでなく、公共機関や領主個人のものもあるのだと勘違いしていました。
でも、違うのですね。そういうことなら、やりようがあります。この場合、かえって好都合です。
私はこの村に、私設孤児院をもうけるつもりです。先ほど村役場の人間が、村の孤児は教会附属の孤児院にいれると言ったので、当面はドーム一号にいる子供達だけをいれます。」
そこで華は、にっこりとほほ笑んだ。
「子供達には、ちょっと特殊な教育を受けてもらいましょう。それは、ここで行われている義務教育とは別ものの教育です。さっきの男性、孤児は労務者になるのが関の山だって言ってましたよね。」
その場で抗議はしなかったものの、彼の発言に華はカチンときていた。彼は、目の前にいる人間が孤児だとは思ってもいなかったのだろう。華の周囲には、お仕着せを着たジェイドやジャスパーなどの大人がいて、服装も立派だ。どう見ても、裕福で恵まれた家柄のお嬢様にしか見えない。
だからこそ、考えもしないのだ。相手が異世界から来た人間で親がおらず、ついこの間まで貧乏な学生だったなどと。
男性の目には、親も後ろ盾もない貧乏の孤児は、せいぜいブルーカラーワーカーにしかなれない、そういった認識しかなかった。孤児でも魔力が多ければ、貴族のパトロンがついたり養子にもらわれたりすることがある。
彼の言う孤児とは、魔力が少なく義務教育だけで社会に出て行く者のことだ。スクロールしか持たず、妾になれとあからさまに誘いをかけられていたケイトのような境遇の…。
「労務者、ですか。汗水たらして働く人の、どこが悪いのでしょう。そういった人が現場で身体をはって働いてくれているからこそ、成り立つこともあるのに。そういったありがたみとかは、全く考えないのでしょうか?
まあ、いいです。教育の力を見せつけてあげましょう。どちらにしろ、今後、カーデュエルに役立つ人間が必要です。人材確保にもちょうどいい。
でも、私の作る孤児院の一番の目玉はそれではありません。」
「教育ではない?では、いったい何でしょう?」
ジャスパーの問いに、華はきっぱりと答えた。
「教会以外の私設孤児院を作ることによって、孤児院出身であるにもかかわらず、チャペルという姓にならないという前例を作ることです。」




