孤児院を02
今後、アルゼ村の子供も孤児院に行くことになるかもしれない。将来のことを見越し、華は孤児院の場所の選定や、世話人のことについて村の意見を聞こうと思ったのだが、言われた言葉は拒絶に近いものだった。
もっとも、こんな風に言われてしまうのも無理はない。華は自分の身分を明かさぬまま、孤児院を作る話をした。相手からすると、世間知らずのお嬢様が巷で噂の孤児に同情して、こんな話をはじめたかのように見えたのだろう。
さて、どうしたものか。華は、考えた。あまり意識はしていなかったものの、この村はすでに自分の支配下だ。ここで強権を発動し、トップダウン方式で従わせることも可能だ。それがいやながら、自分個人で慈善事業の一つととらえ、運営することだってできる。今の自分には、選ぶことができるのだから。
「孤児院のことは、村役場に相談されるよりも、教会関係者に相談されたほうがいいと思いますよ。」
男性は一見、子供にしか見えない華に丁寧な応答をするものの、内心では面倒事を持ちこまれた、と思っているのだろう。
「失礼ですが、あなた、御結婚は?」
「もちろんしてますよ。」
「では、お子さんも?」
「ええ。」
「可能性の話をします。もし、あなたとあなたのパートナーが不慮の事故でいなくなった場合、残ったお子さんはどうなりますか?」
突然そんな話をはじめた華に、相手はあからさまに嫌な顔をした。可能性とはいえ、言われて楽しい話ではない。
「どうなるって、それは…、どちらかの親族が子供の面倒をみて…。」
「その親族がいやがったら?穀つぶしの子供など引き取りたくない、と言ったら?」
「子供の一人や二人を食わせるくらいたいしたことではないし、うちの親族に限って、そんな無情なことにはならないと。」
「本当にそうですか?すでにアルゼ村の子供は森で薬草採取をできない状態なのに?
逆にあなたはどうなのです?仮に、自分の兄弟や親戚の子供を引き取ることになった時、自分の子供と差別することなく、孤児になった子供に何の見返りも求めることなく育てることができますか?
それでなくても今、この村は大変で、とてもそんな子供の面倒を見る余裕など村にない、とあなた自身が先ほど発言されたはずですが。」
華がそう言うと、相手の男性は押し黙った。今までそんなことなど、考えたこともなかっただろう。同時に不愉快そうでもある。
これまで村は、とても景気がよかった。子供が薬草採取し、村人の収入を底上げしていてくれたからだ。そのおかげで大人は懐に余裕があり、村にはちょっと値段のはるお菓子屋さんがあったり、女性が酌をしてくれるような酒場があった。
けれど、一歩村の外に出るとどうだったか。バクシーシ、と当り前のように施しを乞う人が転移陣のそばにいた。馬車の御者をする仕事についているにもかかわらずだ。
「どんな子供であろうと、成長すれば大人になります。孤児にしっかりとした教育を与えれば、その子供は大人になり、やがて収入を得られるようになります。
子供の頃に受けた教育の質により、将来の子供の収入は左右されます。高収入を得られるようになれば、その者はたくさんの税金を払ってくれます。
要するに、教育のレベルをあげることは、将来税金をたくさん納めてくれる人間を増やすことに繋がるのです。
あなたは村に余裕がないと言いましたが、税収を増やしたければ、目先の収入ではなく、将来のために投資すべきではありませんか?」
華の意見を、相手はぽかんとした表情で聞いている。相手の反応は鈍い。いちいちそんなことまで考えて村の予算を組んでいたら、破産しかねないのかもしれないが…。
あれ?でも、待てよ…。華は、ふと何かを急に思いつき、そばに付き添っていたジャスパーに質問した。
「ジャスパー、この国の孤児院は、教会附属のものだけしかないのですか?村や町といった公共のところが経営したり、私設でやっているところはないのでしょうか?」
「ええ、その通りです。」
それを聞いた華は、そこで思わずにんまりと笑った。




