孤児院を01
「残念ながら、あの子供の身内を見つけることはできませんでした。」
せめて肉親の元へ帰してやりたいと思って探したものの、あの別荘で亡くなっていた子供の身内は見つからなかった。引き取り手のいない遺体をそのままにしておくこともできない。あの子供は、村の共同墓地にひっそりと葬られることになった。
貧民街で暮らしていたらしいことはわかった。そこでさらわれたか、売られたかしたようだ。親らしき人物もいたようだが、子供を置いて消えたというから、親に売られたのかもしれない。
つまり、子供の素性は、よくわからなかった。この国のどこかで生まれたのだから、子供を生んだ親がいたはずなのに、親の存在すら定かではなく、どのような子供だったかもわからないまま、酷い死に方をしてしまった。
むごい話だ、と華は思った。子供に親を選ぶことはできない。生まれも育ちも周囲の環境も、子供をとりまく全てのことは、子供自身に選ぶことはできない。それは、自分自身がよくわかっている。
でも、子供はいつまでも、子供のままでいるわけではない。子供は成長して、やがて大人になる。大人になってしまえば、もう言い訳はきかない。子供の頃の環境がどうであれ、大人になった自分は、自身の取捨選択の結果だ。
だが、それだって生あってのこと。せめて生きてさえくれていれば…。
だから華は考える。さらわれてきた他の子供達をどうすべきか。失くしてしまった命をどれだけ惜しんでも、それは決してもどってこない。たくさん考えてもどうしようもないことを引きずる代わりに、華は先のことを、他の子供のことを考える。
ドーム一号に保護されている子供達を、このまま元の場所にもどしていいものかどうかは疑問だ。売買された子供に関しては、元にもどしたところでまた同じようなことが起きないとも限らない。親がいる子供に関しても、その子供の置かれるであろう状態による。
かといって、このまま子供達をドーム一号に置いたままにしておくのもよくない、と華は思った。なぜなら子供達は、学校に通っていてもおかしくない年齢だ。ドームで保護していれば、彼等は食べることに困らないし、酷い目にあうこともない。だからといって囲い込んだままにしておいたら、世間に立ち向かう力をつけることもできないし、教育も受けられない。
今の華には、差し押さえた物件が手元にある。そのうちの一軒を使えば、彼等を住まわせる孤児院が作れる。もともとアルゼ村には、孤児院がない。この村の孤児は、ここから少し離れた町にある孤児院に連れて行くことになっている。
ここのところずっと、アルゼ村の子供が孤児院に連れて行かれることはなかった。子供はカーデュエルの森に出入りしても安全だったため、薬草採取で金儲けができた。だから、あのペトル兄弟も食料品屋を営む伯父に引き取られていた。家に子供がいれば、薬草採取による現金収入が見込めたからだ。
でも、これからはそうはいかない。子供は原則、カーデュエルに入ることができなくなった。アルゼ村の子供は現金収入を断たれる。そうなれば、ペトル兄弟のように、子供の稼ぐ金目当てで家に引き取られた孤児は立場を失う。今後、孤児になった子供は孤児院に連れて行かれることになるだろう。
アルゼ村は今、華によって強制的に変革を余儀なくされている。それによって仕事からあぶれる大人も出て来るだろう。そうなると、そのしわ寄せはどうしたって弱い者にいく。セイフティ・ネットは必要だ。
「この村にはもともと孤児院はなく、そういった費用は用意されていません。そもそも、孤児を学校に通わせても、せいぜい労務者になるのが関の山。そんな子供を育てるメリットがどこにあります?
もちろん、その子供達は気の毒だとは思います。ですが、もともとその子供達はアルゼ村の出身ではありませんよね。わざわざここに孤児院を作らずとも、孤児院のあるところに頼まれればいいでしょう。
それでなくても今、この村は大変なんですよ。お嬢さんが気の毒な子供のために何かしてあげたいという気持ちはわかりますが、とてもそんな子供の面倒を見てあげるような余裕など、この村にはないんです。」
孤児院を作るために村役場を訪れた華に、男性職員はそう言った。




