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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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 歩きながら、彼は口を開いた。


「俺はね、ちょっとした商人の家の生まれだったんだ。でも、父さんが仕事仲間に騙されて、借金を肩代わりさせられてしまった。それで、家も商売も取られてしまって、そのせいで、父さんは自殺してしまったんだ。」


 華を背負いながら、アランが話し始めたのは彼の昔話だった。


「俺はその頃小さかったから、何が起こっているのかさっぱりわからなかったけど、母さんや兄貴は大変だったと思う。


母さんは、まだ赤ん坊みたいな妹と、俺と兄貴を連れて王都に来た。親戚のつてをたどって、住み込みの仕事を見つけたんだ。


でも、その親戚も俺たちにかかわりたくないって感じで、住み込みの仕事も厄介払いのために無理やり母さんにおしつけたようなものだった。


兄貴も下働きみたいな、子供でもできるような仕事を始めた。住むところといっても、建物の一番上にある屋根裏でさ、誰のものかわからないような荷物が置かれていて、埃っぽい上に鼠がちょろちょろしているんだ。


まだチビの俺には、部屋まで階段を上がるだけでくたびれてしまうようなところだったよ。俺はまだ雇ってもらえるような年じゃなくて、せいぜい妹の面倒を見て、留守番させられることが多かった。


でも、妹といてもつまらなくてね。正直、妹のことが邪魔だった。窓の外を見ると、いろんな人が歩いているのが見えて、他の子供が楽しそうに遊んでいたりしてさ。でも、俺は妹の面倒を見なきゃならないから、勝手に下に降りて行くわけにもいかないんだ。


兄貴も忙しそうにしていて、やっと帰ってきてくれたと思っても、疲れてすぐに寝てしまうから遊んでもらえなかった。だから俺はすごく自分勝手に、妹なんかいなくていいって思ってたのさ。


しばらくして、母さんが変な咳をするようになった。もともと身体が弱い人だったみたいで、慣れない仕事や環境に体調をくずしていたんだと思う。その年、流行り病が街に蔓延し始めていて、母さんと俺と妹と、三人いっぺんにかかっちまったんだ。


一度病気になってしまうと、働けない母さんは用無し扱いで、屋根裏部屋を追いだされた。もちろん金なんか全然なくて、親戚も病気を嫌って門前払い。


兄貴は俺達三人を連れて、仕方なく救貧院へ向かった。でも、流行り病のせいで救貧院はすでにいっぱいだった。


ゆっくり眠れるような状態じゃなくてさ、部屋の隅で家族みんなで壁によりかかって座りこむ場所を確保するのがやっとだった。特に母さんと妹は熱が高くて…。


そんな状態だったから、薬もろくにまわってこない。すでに王都で薬は在庫がなくなりそうで、値段が高騰していた。住んでいた部屋すら追い出された俺たちに、とても払えそうな薬代じゃなかった。


それでも孤児院はいくらかましで、ここより薬がまわってくるらしいって兄貴は聞いて、俺と妹を連れて行ったんだ。でも、断られた。


孤児院は、親のいない子供しか面倒を見ることができないからって。兄貴は迷った。俺たちに母さんを捨てさせてでも孤児院へ連れていくべきか、それとも、最後まで家族みんなでいるべきか。


孤児院に入った子供の名前は、みんな姓がチャペルになる。それが出身を示すことになって、一生俺たちについてまわる。


迷っているうちに、あっけなく母さんと妹が死んでしまったんだ。それで、兄貴と俺は孤児院に引き取られることになったわけ。皮肉だろ?」


 彼の言葉に、華は何も返せなかった。自分の人生だって、決して楽しいことばかりではなかったけれど、少なくともあちらの世界で飢えたり、病気で死にそうになることはなかった。


「兄貴はね、いまだに悔んでいるんだ。あの時、さっさと決断して、あとで恨まれることになってもいいから、俺と妹を孤児院に放り込んでしまえばよかった。


そうすれば、せめて妹だけでも助けられたんじゃないかってね。俺だってそうだ。なんでもっと妹に優しくしてやれなかったのかって…。後悔したってしょうがないんだけど。」


「そうだったの…。そんなことがあったんだね。」


 華は、そんな風にしか言えなかった。


「俺はその時、まだ小さかったこともあって、妹も、母さんの顔も、よく覚えていないんだよ。


でも、なんとなく、記憶のどこかに残っていてさぁ…。こう、手をつないだ感触みたいなものとか。


だから、君が何で追われているのかは知らなかったけど、放っておけない気がしたんだ。」


「…うん。」


 近しい身内をなくす喪失の痛みと、なくしたものへの愛情。自分にはなかったものだ。兄弟もなく、親もあんなだった華には、なんとなくうらやましい話だな、と思えた。


「まあ、そんなこんなでさ、兄貴はいまだに俺のことに関しては過保護で心配性なわけなんだよ。


兄貴は青騎士をやっていて、俺が学校を卒業して孤児院を出たら、一緒に暮らそうとか言ってくれる。でも俺は別に、騎士様に守られてなきゃいけないお姫様じゃないんだけどねぇ。」


 アランが苦笑いしながら言うので、華は思わずクスリと微笑んだ。


「そう。で、お姫様ではないアランとしては、どうしたいの?」


「そうだなぁ。俺は、今の呼び売りをもっとなんとかできないかなぁって思っているんだ。兄貴は俺に、上の学校に行けって言うんだけどね。


兄貴からすると、俺のやっていることは、先の見えない不安定なことで、危なっかしく見えるらしい。他のやつにも言われるんだ。お前は馬鹿だ、もう少し頭を働かせろって。」


「言いたいことはわかる。お兄さんは、あなたに安定した職業についてもらいたいのね。それに、この世でたった二人きりの兄弟だから、大切にしたいんだよ。」


「ああ、わかってる。それと、孤児だからまともな職につけないとかって、馬鹿にされるのも嫌なんだろうな。呼び売りはその日暮らしの仕事だし。」


「じゃあ、不安定でない職業にすればいいじゃない。」


 するとアランは、鋭い口調で言った。


「俺に呼び売りをやめろって?」


「違う違う、勘違いしないで。あなたが今の仕事を大きくして起業しろって言ってるの。今はそうでなくても、これから安定したものにすればいいっていう意味。」


 どうやら華の言葉は、彼にはとても意外だったらしい。


「そんな風に言われたの、初めてだ。皆、俺のやってることは無謀だとか、下働きを嫌がって、手に職をつけたがらない怠け者だとか言うやつばかりで。」


「そんなことない。あなたの発想、すごくいいと思うもの。それにあれは、やりようによっては、すごく将来的に伸びる分野よ。」


「はは。やっぱり君の話し方って子供っぽくないよね。でも俺としては、理解してもらえるのがすごくうれしいよ。それで、俺はこの呼び売りに書くものを、もっと違うものにしたいと思ってたんだ。


だから、子供がさらわれる噂話を聞いて、それについて書けたらと思って、呼び売りをしながら話を聞いたりして、調べていたわけ。


でも、全然とっかかりがなくてさ。俺の兄貴は青騎士をやっているんで、いろんな話を聞かしてくれるんだけど、でも、あたりさわりのないことしか言わないからさ。そしたら君がさっき、その話をして。」


「ええと、ちょっと待って。青騎士って何?」


「え、知らないの?君って本当に…。まあいいや。もうこうなったら、なんでも聞いてよ。騎士のこと、どこまでわかる?」


「ごめん、説明ばかりさせて。それが、全然わからない。」


「全然…。それはまた、うん。そうだなぁ、どう説明するといいかなぁ。」


 アランは、どうやら面倒見のいい人みたいだった。華のことを変なやつだとは思っていても、このようにつきあってくれる。


 華は、彼の背中におぶられながら、情報をどの程度渡すべきか、考えていた。助けてくれた上に親切にしてくれる彼に、いろいろなことを教えてあげたい気持ちはある。


 けれども、やりすぎはよくない。彼が力を持った大人であるのなら、話は違った。でも、彼はまだ学校に通う少年だ。しかも、孤児院の子だ。下手に目立つことをしたら、成果だけを大人に奪われかねない。何かヒントをあげるとしても少しだけにして、小出しにしておいたほうがいい。華は、そんなことをぼんやりと考えていた。








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