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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
33/518

方針

 はぁぁぁ。


 華は、その場にへたりこんだまま、大きな溜息をついた。まったく、なんだっていつも、こんな風にいきなり、なんだろう。


 まだまだナーガラージャに聞きたいことはあったのだが、彼にはどうやら優しさや思いやりはあっても、細やかな配慮とか段取り、とかいったものは期待できないことが華にはよくわかった。


 まあ、この街について聞いても、何の情報も持っていないみたいだったけど。


 それにしたって、ここからあそこまでどれくらい距離が離れているかぐらいは、教えてほしかった…。今さらだけど。


「でも、文句は言えないわよね。」


 そう。彼は命の恩人だし、契約もしてくれた。お守りだってくれた。なんの見返りもなしに。華の持っていたチョコレートには興味があっただろうけれど…。


 彼は人ではないのだから、人同士の付き合い方を基準にして責めてはだめだ。華は、改めてそう思う。それでも、何の裏表なく付き合える相手がいるのはうれしい。心からそう思う。


 それに…。華は確かに捨てられたけれど、拾ってくれるものがいた。今回の事は、ナーガラージャとしては目的地に送ってやった、ぐらいな感じなのだろう。彼はあくまで親切のつもりなのだ。


 ナーガラージャには、これから何かしようとする時、もう少し考えてから行動するようにしてもらわないと…。そうでないと、色々ついていけない。特に常識面において。


「はあ、それはおいといて、と。それじゃ、これからのことを考えますか。」


 華は気持ちを切り替え、周囲を見渡す。


 そこは、建物と建物の隙間というか、細い小道だった。窓や扉がいくつも並んでいて、扉の外側には箱のようなものが置いてあったりする。箱は上が蓋になっているようだ。なんとなく腐ったものの匂いがプン、と漂ってくるところをみると、どうもゴミ箱のようだ。


 ということは、建物の裏口側?


 いつまでもここに座り込んでいるわけにもいかない。華は裸足の上、泥だらけの寝巻姿だ。そんな格好でうろうろしていたら、おかしな子供がいる、と通報案件だ。


 ナーガラージャのいるところ、あの森に向かうにはどうしたらいいのだろう?


 この時点ですでに、華の頭の中にはドラクール公のところに戻るという選択肢はなかった。毒を飲まされ、殺されそうになっていたのだ。あそこにもどったら、いつまたそんな目にあわされるかわからない。


 それだけじゃない。信頼関係のない相手に、利用されるだけの立場に置かれることも気に入らなかった。王がどうとか、後見はドラクール公に決まっているとか、そんなことも知ったことか、と華は思っている。


 華にとって安全な場所は、やはりナーガラージャのところだ。だから、そこにもどれるよう、考える。方針はすんなり決まった。


 だが、問題がいくつかある。


 まず、この王都から、あの森までがどのくらい離れているか、全く見当がつかない。位置関係が知りたい。


 遠ければ遠いほど、子供の足では困難が伴う。距離をはかるためには、地図を手に入れなくてはいけない。それだけではない。森までの食糧や装備、歩くための靴も必要だ。裸足で元気に歩き回れると考えるほど、華は能天気ではない。前に乗せられた飛行船のようなものに乗る、という選択肢も浮かぶ。


 ふと、魔法のことを考えた。ナーガラージャは、ブックを手に入れるように言っていた。それを手に入れれば、自分も魔法が使えるようになって、彼のところへ転移ができるだろうか?


 子供の足で、よくわからない場所を歩くよりは、早いかもしれない。それなら、王都内だけですむし、用意するべき物も最低限ですむ。


 ただ、ブックだけで魔法が発動するかどうかは、華にもわからない。ナーガラージャは呼吸と同じくらい簡単に魔法を使っていたが、彼と契約したばかりの華に同じことができるかどうかは未知数だ。


 だが…。


 手に入れる価値はある。魔法が使えるようになるという考えは、華にとってとても魅力的だ。この世界の住人は、大なり小なり魔法が使える。使えるようになって、はじめて対等になるような気がする。


 今の華は、ナーガラージャと契約することによって生かしてもらっている状態の最弱の生き物だ。このまま魔法が使えないままで、虐げられる存在に甘んじるつもりはない。いつまた、あんな目にあわされるかわからないのだ。自衛できるにこしたことはない。


 それだけではない。このままやられっぱなしでいるのもいやだった。華に毒を飲ませた人間、さらって捨て、殺そうとした人間。そういった連中を、このまま野放しにしておく気もない。彼らがどんな目的を持って、そんなことをしたかは知らない。だが、行われたことは犯罪だ。必ず犯人を見つける。そう思っていた。


 ということは、やはりナーガラージャの言った通り、ブックを入手しなくてはならないといけないか…。


 よし、そうとなったら、次はどうやってブックを入手するか、だな。だとしたらまず、ブックがどこにあるか調べないといけない。


 だいたいの場所は、見当がついている。ナーガラージャは、ブックのところへ転移させたと言っていた。だとしたら、華が出現し、落ちて行ったあたりだ。大きな広場があって、高さのある鐘楼があった。ということは、街の中心地だ。


 でも、寝巻に裸足で、やみくもに歩きまわっていたら、頭がおかしい子供として、どこかに収容されてしまうかもしれない。それに、この格好では目立ちすぎる。浮浪者扱いされて、ブックが収容されている場所へも入り込めないかもしれない。


 一番いいのは、着替えを手に入れてしまうことだろう。しかし、今の華は一銭も持っていない。唯一、価値のありそうなものは、ナーガラージャにもらったネックレスだけだけれど、これはお守りだし、通信機能もついている。これを簡単に手放すわけにはいかない。


 そこで、着ているものをじぃっ、とよく見る。


 この汚れた寝巻、売れるかな…。一応、破れているところはないようだ。あの城で着せられていたものだ。子供用とはいえ、上等な品であるのは間違いない。けれど、あちこち泥だらけだ。洗濯してあるならともかく、このまま買ってもらえるかはわからない。


 華は、ナーガラージャにもらったばかりのネックレスに手をやる。見れば見るほど、不思議な輝きを放つ、黒い鱗のネックレス。このお守りを使用できるのは、華、もしくは華が許可を与えたものに限る、と彼は言っていた。だとしたら、これの価値を全部享受できるのは華だけだ。


 うーん、最悪の場合、ネックレスの金の鎖部分だけ切り離して売るとか、考えないといけないかもしれないなぁ…。


 とりあえず、古着屋か古物商みたいなところを当たってみるか…。すぐ近くにあるといいんだけど。


 当面の目標を決めると、華はぽんぽん、と軽くお尻のあたりの埃をはらい、立ち上がった。そして、両手を天に向け、大きく伸びをした。


「よし、行こう。」


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