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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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地上へ

『どうしたのだ、ハナ?』


「え、ナーガ?どこ、どこにいるの?」


 華は、その場できょろきょろとあたりを見回した。だが、誰もいない。周囲に見えるのは、狭い通路のような小道と建物だけだ。


『む、我はここだぞ。そちらには行っておらぬ。なんだか変な反応があったのだ。何かあったか。』


 のん気そうなナーガラージャの言葉に、華は思わず怒りをぶつける。


「何かあったか、じゃないよ!酷いよ、ナーガ!本当に、死ぬかと思ったんだから!どうしていきなり転移させたの。」


『何?なぜ、死ぬのだ?お守りをやっただろうが。』


 彼は、こちらの様子が全然理解できていないようだ。とても不思議そうな声をしている。


「お守り?そういえば…。」


 もしかして、あちこちボールのように飛ばされていたのって、このお守りのせい?これのおかげで、高い所から落ちても建物や地面に激突することなかったのかな?その代わり、思い切りはじかれまくっていたけれど。


「お守りだって言われても、どんな効果があるのか説明してくれなくちゃ、こっちはわからないよ。背中に羽根が生えているわけでもないのに、いきなり空の上に放り出されたんだよ。


建物にぶつかって衝突するかと思ったら、ボールみたいにあちこち飛ばされまくって…。こっちはやっとの思いで、なんとか着地したんだから!」


『空の上?そんなはずは、ないぞ。我はちゃんと、はじまりの王のブックのところへ転移するように念じたぞ。』


「それ、おかしいって。私、気がついたら高い空の上にいて、すんごくびっくりしたんだから。そしたら、足の先が透明な何かに当たったの。なんだか薄い板というか膜というか、そんなものが空中にあって。


でも、それがいきなり壊れて、そのまま落ちていったの。それで、建物にぶつかりそうになるたびに、ぽんぽん飛ばされて、とにかくもう、大変だった。今、生きているのが不思議なくらい。絶対、寿命が縮まった。」


『透明で薄い板?前はそんなもの、なかったぞ。』


「前って、いったいいつの話をしているの?」


 絶対に、大昔に決まっている。なにしろ百年昼寝しているような人だもの。


『ふむ、王都の上空に結界でも張っておったのか。なまいきな。』


「結界?」


『ああ。だが、我の魔力のほうがずっと強い。その程度のものなど、造作なく壊せる。』


 ナーガラージャは得意げに言う。でも、結界を壊してしまった?もしかしてそれって、王都の防衛に必要な大事なものなんじゃ…。


 やばい…。壊したことがばれたら、逮捕されちゃうのかな。でも、それって簡単に壊せるものではないはず。ということは、ナーガラージャの力は人とは比べ物にならないくらい大きいってことなのかな。


『我のお守りがあるのだ。害されることはあるまい。』


「それにしても、どうして声が聞こえるの?傍にいないのに。」


『お守りを介して声をそちらに届けておるのだ。』


 なんと、このお守りって、そんな高機能がついてたんだ。すごい。


「ところで、ナーガ。ブックって、どこに行けば手に入るの?お店とかで買うの?私、お金持ってないから買えないよ。」


『む、王の為のブックがあるはずだ。はじまりの王のブックが。』


「だから、それってどこにあるの?」


 すると、ほんの少しすねたような口調でナーガラージャが言った。


『知らぬ。我はそなたをブックのところに転移させたのだ。』


 転移させた場所が、ブックのあるところ?となると、さっき、眼下に見えたあたりかな?広場があって、鐘楼があったところ?あのへんにあった建物の中にあるってことか。


 はじまりの王のブック。


 でも、それって、勝手に取ってこられるものなの?


 華は、改めて自分の姿を見直した。泥にまみれた寝巻姿。髪の毛は森に捨てられた時の枯葉くずが、まだあちこちついている。手も足も汚れたままだし、おまけに裸足だ。


「一旦、そっちにもどらせてくれない?こんな格好じゃ、街の中を歩けないよ。」


 どう考えても小汚い寝巻姿の子供が、あのあたりにあった建物に入れてもらえるとは思えない。浮浪児か不審者扱いで、どこかへ連れて行かれそうだ。


『我は今、そなたの傍におらぬ。一緒におらぬものを転移させることはできない。』


「え?だめなの?」


 華は、がっかりした声を出した。


「でも、ナーガの声は聞こえているよ。ナーガはこっちに来られないの?」


『むう。それは、できぬのだ。我は昔、はじまりの王と約束したのだ。我は、カーデュエルの森と山から出ぬと。その代わりに、王は金で出来たものを我にくれるのだ。』


 ん?今、聞き捨てならないことを聞いた。あの金ぴかの山って、もらったものだったの?


「どうして、ナーガはそこから出てはだめなの?」


『うむ。我が本来の姿であちこち好きに飛びまわると、迷惑するものがいるのだそうだ。いろいろ壊れるとか何とか。年寄りは腰を抜かすし、子供が怖がると言われた。


だから、貢物を貰って、山から出ぬようにしている。その代わり、森と山は我のものなので、好きにしていいのだ。人間どもは我の土地に勝手に出入りできない。勝手に入ったものについては、それ相応の対応をしてよいという決まりだ。』


 なるほど。彼はそう言われて約束を守っていたのか。


 勝手に入り込んだものに対しては、相応の対応をしてもいい。だから自分が森に捨てられた時、あんな風に囲まれていたのか。下手したら、本当にあそこで命を落としていたんだ…。


 年寄りや子供を怖がらせるな、か。やっぱり彼は、お人よしだ。


「ナーガって、優しいよね。」


『む、急に何を言う。』


「そっか。じゃあ、ナーガはこの都に出てきて、おいしいものを食べたり、観光とかもできないんだね。残念だな。ナーガと一緒に、あちこち行けたら楽しいだろうに。」


『観光?観光とはなんだ。』


「きれいな景色を見たり、由緒ある建物を訪れて見学したり、ええと、あとは、温泉に入ったり、美術館や遊園地に行って遊んだり…とか?」


『なんだ、それは!我の知らないものばかりではないか。』


「あ、でも、この世界にそういったものがあるかどうかは、私も知らないよ。ここがどんなところか、私にはまだ全然わからないし。」


『むむむぅ。ズルイ。ズルイぞ。華は、我の知らないところへ行って、我の知らない遊びをするのだな。』


「え?しないよ。だって今、それどころじゃないんだよ。知ってるよね。」


『むぅ。それはそうだが、ずるい気がするのだ。』


「だいたい、事前に何も説明してくれなかったナーガが悪いんだよ。それならそれで、用意だってできたのに。


はぁ、でももうここで文句を言っても仕方がないね。もう言わない。でも、こんな風に話はできるんだね。不思議だ。声だけなんて、なんだか電話でもしているみたい。」


『電話?それはなんだ。』


「うーん、この世界に同じものってあるのかなぁ。どう説明すればいいんだろう。小さな機械をお互い持っていて、それで話をするの。まあ、できるのは話だけじゃないんだけど。


ナーガも、声をこんな風に伝えることができるのなら、このお守りネックレスに、カメラみたいな機能をつければ、こちら側が見られるようになったのにね。」


『カメラ?』


「なんならいっそのこと、小さなナーガの形をしたものを作って、それを通してみたり聞いたり動いたりできるようにしたらおもしろいね。それだったら、決まりも破ってないでし、迷惑にもならないし。」


『我のゴーレムか?』


「ゴーレム?それ、何?よくわからないけど、分身みたいなもの?」


『いや、そうではないが。分身…か…。うむ、それはよい考えだ。我の本体は山にいるのだから、約定を破ったことにはならぬな。うむうむ。よいぞ。よいではないか。


なぜ今まで思いつかなかったのだろう。よし。一刻も早く、作らなくては。尊い我を模るのだ。よい材料で作らねば。ハナ、そなたは賢いな。』


「え?何を作るって?」


『そなたのいう、小さな分身だ。』


「分身?」


『ああ、すまぬ。我は思いついたことがある。急に忙しくなった。それではまたな。』


「な、え?ちょっと!ナーガ!ナーガラージャ!」


 返事はない。もしかして、通信、切れた…?

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