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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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ゆらりゆらり

 揺れている…。


 ゆらり、ゆらり、身体が。


 熱のせいで、頭はぼんやりしている。そのせい?


 違う。圧迫感がある。


 ちょうどお腹のあたりで担ぎあげられているようだ。華の身体は、何やら粗い布みたいなものに全体をくるまれ、誰かの肩の上に身体をのせられ、どこかへ運ばれている。


 でも、なんで…?


 苦しい。熱い。


 顔にかかる布をとりさり、お腹に当たる固いものを蹴飛ばしてしまいたい。けれど、頭の先からつま先まで身体全体をくるまれているため、身動きができない。おまけにとても不安定な状態だ。芋虫を二つ折りにしたような格好で、誰かの肩にかつがれている。その状態で、できることは少ない。


 華は未だ、声を奪われたままだった。叫んで助けを呼ぶこともできない。


 あの時クラーラは、自分がかけた魔法のせいで華がしゃべれなくなっていることに、やっと気付いたのだった。華がゴブレットを投げて拒否を示したのは、そのせいだと思ったのだろう。そこで彼女はすぐ、華にかけた魔法を解除しようとした。


 だが、できなかった。


 理由はよくわからない。クラーラに魔法をかけられたまま、華は子供の姿になってしまっていた。それがどうやら影響したのだと思われる。


 結果からいうと、彼女の魔法は変形してしまった。いろいろなものが溶けていったせいで、どういうわけか魔法もまた、簡単にとけないものに変化してしまったのだ。


 騒ぎ始めたクラーラに、さすがのゾルタンの口調もきつく激しいように聞こえた。


 ああ、大人しく見えたゾルタンも、伯母に声をあげることができるじゃない。ちゃんと言うべきことをいえるんだ。これのどこが、かわいそうな子に見えるのだろう?華は、そんなことを考えながら、二人の様子をただ、見ていた。


 それは、異様な光景だっただろう。魔法をかけた当人は、解除できずにあせって騒いでいる。ゾルタンは、なぜそんなことをしたのか、というようなことを言っているのだろう。さすがの彼も、看過できなかったようだ。これだけ反応するところをみると、彼は知らなかったのか。言葉はわからなくても、クラーラがいちいち言い訳をするから、なんとなく予想がつく。


 そして、魔法をかけられた被害者のはずの華ときたら、泣きもわめきもせず、子供の姿でぼんやり二人を眺めているだけ…。


 自業自得だ。


 華は冷たい目で見つめていた。この魔法がとけない限り、華は声を出すことができない。名前を教えることもできない。もちろん、魔境王になる契約もできないままだ。


 クラーラの言っていたことが本当なら、華はそのうちさらに身体が弱って、死んでしまうのだろう。華だって、死にたいわけじゃない。自分の未来をなんとかしたいと思っていたから、自分なりにずっとあがいていたのだ。


 でも、自分ではどうしようもないことは起こる。天災だったり、人災だったり、否応なくまきこまれることもある。それを運命だとは思いたくない。変えることができる、と信じていたい。だから、あきらめるつもりはない。


 だいたい、絶望で死ぬのなら、とっくに華は死んでいないといけないだろう。華は、親に捨てられ、別世界に連れてこられ、毒を飲まされ、と散々な目にあっている。でも、不思議と死にたいと思ったことはない。


 かといって、生きるためだけに人の言いなりになって、自分を他人に明け渡してしまうのはいやだった。それは、死んではいないかもしれないけれど、生きているとも言えない。そんなの惰性だ。


 だから、はっきり拒否の姿勢を示した。声が出ないのだから、態度で。


 でも今、華は誰かによって、どこかへ連れて行かれようとしている。華の示した拒否の結果が、コレなのだろうか?


 誰かの肩の上で、半ば朦朧としながらも感じていた。ここは、あの城の中ではないような気がする。明らかに音が違う。あそこは木の床だ。歩けばそれなりに音がする。


 けれど、ここは違う。何かを踏みしめているような音がするのだ。固いものではなく、柔らかい何かを踏みしめるような音。そこに時々、パキッという小気味よい音がまじる。小枝だろうか?だとしたら、外?


 そういえば、どこからか鳥の鳴く声が聞こえる。トンビの鳴き声に似た節回し。布をはらって外を確認したいが、腕が抜けない。


 しばらくして、華は地面におろされた。下ろされたところは、平らではなかった。少しでこぼこしている。湿った腐葉土のような匂い。ガサガサという枯葉のこすれるような音。背中に当たっているのは、木の根っこのような気がする。


 華が一生懸命耳をすまし、辺りのことを把握しようとしていると、いきなり誰かが華の身体を強く転がすように押した。


 え?


 ちょうどそこは、坂道か崖のようになっていたところだったのだろう。布にくるまれた華は、面白いぐらい転がっていった。


 いや、転がっていたのは最初のうちだけだ。あとは、斜面をズザザザー、と滑り落ちていったというのが正しい。身体全体がグルグル巻きだったのだ。手も足も出ず、どうしようもない。時々、何かにぶつかりつつも、厚みのある腐葉土の流れと一緒になって滑り落ちて行く。


 気がつくとそこは、大きな木の下だった。転がされたせいなのだろう、華の身体をくるんでいた布は、半分脱げかかっていた。華の身体に傷らしいものは見当たらない。身体に布がまかれていたことと、地面がどこもかしこも厚く腐葉土で覆われていたおかげで、それがクッションになってくれたようだ。ただ、あちこち、木の根っこや枝か何かとぶつかったらしく、そこがじんじんと痛む。


 何が起こっているのか、布越しでは全くわからなかったが、ここにきて、なんとなく理解はできた。


 華は、捨てられたのだ。


 ここがどこであるかということよりも先に、華は自分が捨てられたことを理解した。


 何か目的を持つものが華を誘拐して捨てたのか、それとも、クラーラ達が契約できず始末に困って捨てたのかはわからない。どちらにしろ、華が捨てられたことには変わりない。


 寝ている間に身体を布でくるみ、荷物のように移動させたのだろう。華は小さな子供の姿だし、痩せて体重も軽い。移動させることは、さほど難しくはない。


 何のために?


 もちろん、殺すためだろう。


 華はすでに弱っており、身動きもままならなくなってきていた。あいかわらず声は出せず、放っておいてもそのうち死にそうなのはわかりきっていた。けれども、そのままあの部屋で死なせたくはなかったのだろう。


 要するに、あそこで契約もしないうちに勝手に死なれては困るのだ。それは、後見していたものの手落ちになる。どうして契約しないままだったのか、と問い詰められるのは目に見えている。召喚したばかりなのに死なせてしまったら、死因だって追及されるに違いない。だから、わざわざ場所を移させた。


 なんなら、誰かに誘拐されて殺された。そんな風にしてしまいたいのだろう。


 わざわざとどめを刺す必要もない。時間の問題だ。どうせ放っておけば死ぬのだ。手を汚す必要はない。けれど、ここでは困る。できれば死体が見つからないほうがいい。だから…。


 契約のできない、魔力を一切持たない子供など、必要ないのだ。彼らにとって必要なのは、魔境王となる人間なのだから。


 また、捨てられた…。


 最初の二回は、親の言いなりなのに捨てられた。三回目は、言いなりにならなかったのに、捨てられた。


 深い深い、森の中に…。


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