動く木
さて、陸地に上陸した華は、早速行動を開始することにした。
水は冷たかった。風も冷たい。時刻は夜半すぎ。空は晴れていて、三日月の明かりあり。
昼まで、ナーガラージャの魔法によって降り積もった雪は、当然だが、残っている。ここは水辺のせいか、少し雪が少ないようだ。雪で地面が見え隠れしている。しかし、雪があることに変わりはない。
ナーガラージャにもらったネックレスは、華の身体にダメージとなるものを除く効果を持っている。おかげで、あの冷たい水の中に入っていても、身体が凍えたりするようなことはなかった。
そうはいっても、寒いのは寒いし、冷たいのは冷たい。手足がかじかんで動かない、というような状態にならないことは大変ありがたかったが、それでも、服や靴がびしょ濡れだ。すぐにでもそれらを乾かし、身体も温めたい。
周囲を見渡すが、当然のことだが建物などない。ここは森の中だ。それも、魔物のすむ森。人手が入り、整備されたところではないため、森の中を夜に歩くのは、慣れた者でも危険だろう。移動しようと思っても、方向が定かではない。魔物がいたら、触れることで話を聞けるかもしれないけれど、どんな魔物がこの森にいるのか、華は知らない。
ここにきて、無計画に衝動のまま飛び出してきたツケが、どーんと待ち構えていた。あんな風に出て行って、皆、呆れているかもしれない。心配もかけているだろうし、探していたりするかも…。
うーん…。
華は考え込む。そんなことは、飛びだす前に考えるべきだった。そう思うと、自分のやっていることが子供っぽくて、なんだか皆に顔を合わせづらい。まるで反抗期の馬鹿なお子様みたいだ。
「あーっ。」
やだやだやだ。なんて恥ずかしいことをしているんだ。華は頭をかきむしる。こんなことをして、皆もびっくりしただろうな。戻ったら、あやまらないと。今さらではあったが、華は反省した。
とりあえず今は、身体を温めたいから火をおこしたい。けれど、小枝や枯葉のようなものを拾おうと思っても、雪が降っていたせいで濡れている。仮に火を持っていたとしても、簡単に火がつきそうにない。さて、どうしたものか…。
さっき、華が高い所から地面に向けて放った魔力の放出跡は、ぽっかりとまるくえぐられたような跡になっている。そこのあたりだけ、積もった雪がなくなって地面が見えている。
じっとその地面を見る。三日月の明かりだけでは、そこがどうなっているのか見えにくい。華は身体をかがめ、直接手で地面にふれてみた。
「ふむ?」
なんとなく乾いているような…。
華は試しに、雪のある他の場所に向けて、ぽすっ、ぽすっ、と軽く魔力を当ててみる。すると、魔力を当てた場所は雪が消え、一瞬で乾燥してしまうのか、そこだけ湿り気がない。起こった現象について、どうしてそうなるのか、華には全く説明ができない。自分で引き起こしていることだというのに。
「ま、いっか。」
考えることよりも先に、事態を解決することのほうを望むことにした華は、軽く魔力を当てて、地面をむき出しにしていく。こうやって考えることを放棄しているから、魔力をバビューンとかドバッとしか言い表せなくなるんだろうなぁ、と頭の片隅で思いつつ、華は作業を続ける。
最初は、ぽすっ、ぽすっ、と小さくコップの底程度の穴をあけていたのだが、それだとなかなか地面の部分が広がらない。そこで、最初のぽすっ、の威力を維持したまま放つ回数を増やしていく。一度コツをつかむと、あとは同じことの繰り返しだ。ぽすっ、ぽすっ、という音が、ぽすぽすぽす、から、すぽぽぽぽぽぽぽぽぽ、になっていくのは早かった。
「わははははははは。」
だんだん楽しくなってきた華は、変な笑い声をあげながら、マシンガンのように辺り一面を打ちまくり、地面を広げた。
「うん、結構、結構。」
謎の万能感のせいか、魔力を放つことが楽しくてしょうがない。だが、これで乾いた地面が確保できた。
「こんな風にこれで雪が消えるのなら、手ごろな木に魔力を放てば、同じように乾燥するかな?よし、実験、実験。」
華は周囲を見渡すが、今が夜であることと、どこもかしこも雪で覆われているせいか、手頃な木が地面に転がっていても、全くわからない。
「魔力を当てたら、木も切れる?」
謎の万能感でハイテンションになりつつある華は、だんだんやることが大雑把になっていく。
「えーと、よし、あれにしよう。」
華は試しに、ぽすっ、と手近な木に魔力を放ってみる。が、当たらない。コントロールが悪いのかと思って、何度かやってみるが、やはり当たらない。
おかしい…。
やり直しをしつつ、じっと木を見る。すると、華が的にしようとした木が動いていることに気づく。
「え?!動いている?」
同じ場所に向かい、ぽすっと当てようとするが、ちゃんと当たらないように動いている。自発的によけているのだ。根元の部分は土から持ちあがることはない。ただ、幹を左右に振るようにして華の魔力をよけているようだ。
そういえば、草だってイソギンチャクのように動いていた。魔素の影響を受けているのだ。木が動いていてもおかしくない。
「うーむ、そうか。よし。」
華は、ぽすっ、から魔力を連発する、すぽぽぽぽ、にやり方を変えることにした。




