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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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推進力

 まずは、この薬草採取問題だ。ユリウスは、従来通りに動かない王の存在にいらだつかもしれないし、ゾルタン・ヴァルツァーレクは、放っておいてもさらに窮地に陥ることになるだろう。しかし、全ては自分達の思い通りにならない王を召喚してしまったせいなのだから仕方ない。


 華は、この世界を自分のものととらえ、好き勝手にすることに決めてしまったので、そういったことは考えないことにした。そして、これからのことを考え、自分のやるべきことを頭の中であげていく。


 本を読みたい。だから、早く字を覚えたい。


 子供のふりをして学校に通う?だが、さすがにこの年で小学一年生の真似事はつらい。中身は大学生なのだ。もっと効率よく文字は覚えられるはず。最初の基本的なことだけ教わることができれば、あとは自学自習でもいい。


 魔法も練習しないと。魔法は、ブックを使わないやり方と魔方陣を使うやり方、両方を学びたい。どのような魔法を使っているかわかれば、それに対処する方法も考えることができる。


 あとは、一般的な常識について。これが結構やっかいだ。これは、暮らしながら身につけていくしかない。


 学ぶことはたくさんある。やることがたくさんある。華は、山から飛び下りて、たくさん吐き出したものの代わりに、それらをかき集め、自分に詰め込む。


 すっかり冷えきった頭で、華はぷかぷか水の上に浮かびながら、周囲を見回した。


 ここは、かなり大きな湖らしい。前にナーガラージャが水浴びに行くと言っていた湖なのかも、と華は思った。


 華は、その湖の中ほどに浮いているようだった。右を見ても左を見ても、すぐに岸辺にたどりつけそうな気配は微塵もない。


 泳ぐのは苦手だ。泳ぎが得意なわけでもないのに着衣で水泳など、溺れるもとだ。だが、いつまでもこうしているわけにもいかない。


 こうして浮いていられるのは、ナーガラージャのネックレスのおかげだ。多分、もぐろうと思えばもぐれるし、泳ごうと思えば泳げるのだろう。しかし、運動が苦手な華向きの解決策ではない。


 このままぼんやりしていても埒が明かない。どうしよう?


 華は、魔法の練習のことを思い出した。魔力を利用して、水上を移動する推進力にするのはどうだろう?


 うまくいくかどうかは、わからない。だいたい教えてくれたものからして、バビューンとか、ドバッとかいう言葉でしか表現してもらえなかったのだから。


 それにしても…。あれは何度思い返してみても、自分が放ったとは思えない威力だった。でも、本当に自分の手から放出されていた。この、怖いくらいの力。これを、いきなり実戦で使うようなことにならなくて良かったと思うべきなのかもしれない。人前であんなものを放ってしまったら、周囲にどれだけの被害を及ぼしたかわからないのだから。


 バビューン、とやればああなる。それがわかったことが成果だ。あの練習については、そう思うことにした。


「えーと、思い切りやるとマズイのだから、チョロチョロした感じ?何に例えよう?」


 細いもの、細いもの、毛糸、レース糸、そうめん、リリアン、イヤホンのコード…。


 そういった細長いものを頭に浮かべ、こわごわと右手の人差指を伸ばす。それも、ちょろっと蛇口をひねるように、ほんの少し出してみて、すぐ止める。出して、止める。その繰り返し。


 すると、少しずつ、少しずつ、身体が水上を進んで行くのがわかる。だが、力は安定しない。時々、加減を誤り、スイーと進むところを、ビュッ、と進む。それでも、最初のバビューンとは比べ物にならないくらい、ほんのわずかの量を小出しにできる。


 よし、この調子。


 華は機嫌よく、スイーと進む。


 だが、そうやって進むうち、気がついた。右手でばかり出し入れしているからか、同じところをぐるぐる回っている。ボートに乗って、片方のオールだけぐるぐる回したような感じだ。


 手を出した時、身体の重心が傾くのだろうか?片手でやっているだけでは円を描くだけで、岸にはたどりつけないのかも。体勢を変えるといいのかな?でも、下手に動くと沈みそうで怖い。浮くとわかっていても、確固たる支えの無い水の上では、パニックを起こしそうだ。


 華は安全策をとる。左手からも魔力を出してみよう。


 両手を使う。その時、できるだけ左右同じくらいの魔力を放たないとバランスが崩れ、直線で進めない…。


 いきなり壁だ。片手ずつ出すことはできる。両方一度に出すことも。だが、同じくらいの量を放つことが難しい。利き手はコントロールしやすいが、普段からあまり使わない左手が上手くいかない。


 水の上で魔力を放ち、酔っ払いの千鳥足のように蛇行しながら、華は水上をふらふらと移動していく。


 とそのうち、頭のてっぺんに反発を感じた。


 ん?と思ってそちらを向くと、大きな岩があった。華が湖の上をうろうろ移動するうち、いつのまにかどこかの岸辺にたどりついていた。


「あ、やった、どうにかなった。」


 両手で同じ程度の魔力を放つ、という芸当はできていなかったが、とりあえず岸辺にたどりつくことはできた。これは、進歩だ。華は喜び勇んで大岩に手をつき、そこから地上に上がろうとした。


「え、あれ?」


 だが、これまた簡単にいかない。非力な子供の悲しいところだ。身体を岩の上に持ち上げることができないのだ。濡れた石も滑るし、服も水気を吸っていて重い。せいぜい、小さな手で岩のでこぼこをつかむことくらいしかできない。ジェイドが衣服のことで、重さの軽減をする魔法の話をしていたような気がしたが、今すぐそんな技は使えそうにない。


「せっかくここまで来たのに。」


 何度か試してみたものの、どうやら自分の腕力では身体を持ち上げられそうにない、と早々にあきらめた。そこで華は、別の方法を考える。今のところ、華ができるのは魔力を出したり止めたりだ。そこで、水の上でやっていたのと同じように、魔力で垂直にあがる方法を試すことにする。


「うーん、水中に向かって放って、身体を押し上げるようにする?」


 先に頭の中でイメージし、どの程度の量を放つか考えてから手を動かす。


 ボゴッ、という大きな音と共に盛大な水しぶきがあがり、華の身体が高く押し上げられる。


「うわっ、わっ、わ。」


 やばい、ちょっと高すぎた。このままだと、落ちてまたはじき返されてしまう。


 華は咄嗟に右手を出し、自分の身体が落ちないよう、自らを支えるための支柱となる魔力を地面に向かって放つ。


「くぅっ。」


 身体の重みが、魔力を放った右手にぐっとのしかかる。その右手をかばうように、反射的に左手が動き、魔力を地面に向かって押し込む右手を支える。そこから、少しずつ力の放出を加減してゆるめ、地面に向かって慎重に降りて行く。


「ふぃーっ。やった。なんとなく、魔力の出し方が少しわかってきたかも。」


 やはり、頭で考えるより、感覚でとらえてしまったほうがいいのかもしれない。そう考えると、バビューンとかドバッとか言ってしまう気持ちもわかる。それはもう、だいたいこんな感じ、と表現するしか仕方のない感覚だった。


「やっぱりこれは、どんどん使って身体で覚えさせたほうが早そうだな。」


 ある程度、頭あの中でこういう風にしたい、というイメージを固めたら、あとは実践して加減を覚えていったほうがよいようだ。華は早速、魔法を使ってみることにした。


 



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