制服
転移した先は、明るく白い光にあふれた室内だった。
そこもまた、三柱鳥居のついた円形の石舞台の上だったのだが、プラーガ城とは違い、周囲を壁と屋根に覆われている。室内には、その場所の警備をしているらしい男女二人が待ち構えていた。三人が石の上を降りると、二人はこちらに向かって軽く会釈をした。
男性は、ケープのついた黒いロングコートみたいな上着を着ている。左右の脇に深いスリットがはいっていて、時々めくれあがった時に見える裏地の赤が色鮮やかで美しい。刺繍が細く、胸元から裾にかけてと、袖口などにも入っていて、スリットの下から長いロングブーツが見え隠れする。ベルトには杖や本、ポーチだけでなく剣もぶら下がっており、それとは別に、棒アイスの木のような形の黒い札を、何本かはさんでいる。
女性のほうは、コートではなくワンピースみたいだ。だが、やはり両脇に大きくスリットが入っていて、その下に着ているレースのスカートが見えている。こちらも裏地が赤く、時々めくれて見え隠れするのが綺麗だ。城にいたメイドさんと同様に、スカートはふんわりしているが、少しだけ丈が短く、ブーツが見える。ここの女性達は、直接足が見えないような服を着ているのだろうが、帯剣し、警備を兼ねている為、少しでも動きやすいようになっているのだと華は思った。
男性がベルトなのに対し、女性はコルセットをワンピースの上に着用している。その上からさらに、細いベルトを締め、杖などをぶら下げている。あちこちにレースがはさまれていて、とてもおしゃれだ。ケミカルレースではなく、細い糸で編まれたレースで、とても手がこんでいる。
ケープやポーチ、剣の鞘などに、同じ模様のエンブレムがついている。天秤の意匠だ。二人とも同じエンブレムなので、やはり制服なのだろう。
天秤の模様が意図するものって何だろう?華は考えた。善悪、裁判、損得など、いずれも量るものによって違う。釣り合いがとれるなら、バランス、公平。とても象徴的な意匠だ。
ゾルタンが、フロックコートの内ポケットの中から、五角形の飾り房のついた金属板を取り出し、男性の方に渡した。前に、クラーラが浮遊城を呼び寄せる時に使ったものと同じようなものだ。受け取った男性は、裏表共に確認したうえで、壁の窪みにそれをカチッとはめる。どうやら身分証の類みたいだ。
男性は、耳にぶら下がるドロップ型のイヤリングに手を触れ、話をしはじめた。ゾルタンに向かってではないようだ。どこか別の方向を見ながら話をしている。イヤリングは、通信機なのだろうか。訪問者の連絡をしているのかもしれない。
その間、女性のほうは、警棒のようなものをクラーラの身体の上から下に向けてかざしている。飛行場の金属探知機みたいなものかもしれない。武器などをここで取り上げても、魔法を使うことができるのだから意味がないような気もしたが、どうやら魔法を使うためには杖や本の準備がいるようだから、飛び道具の類は要注意なのかもしれない。
クラーラのあとはゾルタンが、最後に華が同じように棒をかざされた。思った通り、金属などに反応するような棒らしく、華に反応して、ビービーうるさい音が鳴りだした。
「いったい何に反応しているの?」
クラーラが咎めるように華に向かって言うが、声がでないので答えられない。ここで、こんなチェックをされるとは思ってもみなかった。しかし、この先どうなるかもわからないのに、自分の荷物を手放したくはない。
華はリュックを肩から降ろし、ファスナーを開けて中身が見えるようにした。女性は、中身を確認するように一つずつ棒をかざす。やはり金属に反応するのだろう、パソコンやスマホ、水筒に反応したようだ。水筒はともかく、あとの二つは何に使うものかわからないようで、二人が戸惑っている。
「ちょっと、早くしてちょうだい。」
クラーラがイライラしたように催促する。
華が何の抵抗もせず、自主的に中身を見せているので、武器とかそういった類のものではないと思ってくれているようだが、彼らにとっては得体の知れない物なので判断に困っているのだろう。どちらもあらかじめ電源を切っておいたので、ボタンをちょっと押しただけでは画面も映らない。
三秒以上長押ししないと電源、入らないからね。なにかのはずみで電源が仮に入ったとしても、それ、どっちも指紋認証必要だから!
しきりに首をひねる二人を前に、華は顔には出さず、心の中でつっこみをいれる。
結局、彼等にはこれが何であるのかわからないまま、華に返してくれた。どうやら、いつまでたってもやってこない客に、上の方から早く通すよう指示があったようだ。男性がイヤリングに手をやりながら返事をし、それらのものは華に返された。
電子機器でもないようなもので会話しているほうが、こちらにはよっぽど不思議なんだけどなぁ。
華はそう思ったが、わからないなりにきちんと自分の職務を全うしようとしていた警備の二人に対しては、好感をもてた。こういう地味な仕事をしている人が、きちんと己の職務を全うしているところは、多分、上の人もしっかりしているはず。華はなんとなくそう思う。
ただ、少しでも明るい材料を見つけて、そう思いたいだけだったのかもしれない。華にとっては全くの先行き不透明、相手の正体も知らなければ、何の保証もない訪問だったので。
荷物チェックから解放され、三人は出迎えに来た案内人に連れられ、総主教の部屋へ向かうことになった。
顔を見せないようにとうるさく言われていたので、華は少し顔を伏せ気味に、二人の後をついていく。おかげで、それほど背の高くない華に、すれ違う人の顔は見えない。途中、色々な人とすれ違ったが、城とは違い、彼等はこちらに軽く会釈をするだけでサッサと通り過ぎていく。皆、忙しそうだ。
ここで働いている人は、制服を着ることになっているようだ。そのせいで、華達が訪問者だと一目でわかる。それで皆、軽く会釈をしていくのだろう。
華はすれ違う人たちの服装をチェックをすることにした。言葉はわからないので、観察するしかない。フードの陰に隠れながら、あちこちにちろちろと視線を向ける。
すると、制服にも違いがあるらしいことがわかった。目立つのは、刺繍の色や大きさの違いだ。派手なほど、上の人なのかもしれない。華美なものと地味なものとでは、見た目に大きな違いがある。それから、布が黒ではなく、白地の人や紺地の人もいた。それぞれ、エンブレムの模様が違っていたので、警備の人とは違う団体なのだろう。すれ違う人のほとんどは、天秤のエンブレムをつけている。だが、どうやら帯剣している人は短いケープ、していない人は長いマントをはおっているようだ。
案内人は帯剣しておらず、長いマントをはおっている。天秤のエンブレムは共通。でも、デザインが少し違うようだ。事務をする文官と、警護にあたる武官の違いで分けられているのかな?華はそんなふうに感じた。
建物の奥まった場所まで来ると、すれ違う人もまばらになっていくようだった。案内人は、とある大きなドアの前にくるとそこで立ち止り、ノックをして中に声をかけた。すぐに中から返事があり、彼はドアを開け、どうぞ、といった風に三人を手招いた。




