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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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今後

「この世界に王を呼ぶシステムについては、ある程度理解できました。」


 ユリウスは、少しホッとしたような顔をしている。


「そうですか。御理解いただけて。」


「誤解しないでくだい。理解はしましたが、納得はしておりません。あなた方のルールを私が知ったからといって、私がそのルールに則るいわれはありません。すでに、あなた方のルールは、彼らによって事実上、崩壊しているわけですし。」


「それは、承知しております。」


 ユリウスは、総主教。あくまで、あちら側の人間だ。彼が自分の職務に忠実であろうとするのは、今までのやり取りの中で華は少しわかった。だから、華も自分のスタンスを崩すことはない。


「そのルールに則れば、あなたもまた、後見役と契約していない王と接触するというルール破りをしていますね。」


「ええ、そうです。私は、何が起こっているのか確認しなくてはならないと思いました。一番先に確かめなくてはならないことは、陛下の無事です。だから私は、ここにまず、来たのです。」


「だとしたら、私はここで、これ以上ないくらい安全で安心できる生活を送らせてもらっています。」


 華の言葉は、どうしても嫌味になる。別に、目の前のユリウスに嫌がらせをしたいわけではないのだが、相手が何を望んでいるか予想できるため、こうやって牽制するしかないのだ。


「それについては、カーデュエルの主様のおかげというほかありません。ですが陛下。陛下は今後、どの様にされるおつもりですか?」


 ユリウスの紫色した目が、華を探る様に見る。彼が一番知りたいことは、そこだろう。人よりも魔物側に立ちかねない危険な人物を、これからどうやって人側の世界に連れて行くか。ユリウスの思案のしどころだ。


「そうですね。さしあたっては、薬草採りと子供の誘拐事件のことについてですかね。」


 華は、ユリウスの期待を封じるように、すっとぼけた。彼にとっては薬草のことも大事だが、それ以上に大切なのは、華が王として戴冠し、浄化をすることだ。そちらに興味を持って欲しいから、長々と説明してくれたのだ。


「私は、陛下の為に何をすればよいでしょうか。」


 ユリウスもまた、そのものズバリ、核心には触れないまま、一歩引いた物言いをする。彼がどれだけ華をここから動かしたいと思っても、簡単にはいかないことがわかっているからだろう。


「あなたは、お忙しい方だと聞きました。王都に戻られたほうがよいのではありませんか。」


「総主教の仕事で一番大切なこと、それは、陛下の直轄領である王都シオンを陛下の代理人として治め、各選定公の治める領をまとめ、誠心誠意、魔境王陛下にお仕えすることです。陛下に安んじていただくこと、それ以上に大切なことはありません。」


 それはつまり、ここからすぐに帰る気はないということなのか。八つ当たり気味に嫌味を浴びせて、少し気の毒だと思っていたが、相手もなかなか粘り強い。しかし、王都や領を取りまとめた上、王の面倒も見るつもりなんて、仕事を抱え過ぎにもほどがある。


 華は、思考の方向性を変えることにした。これ以上、腹のさぐりあいをしていても無意味だ。 そんなに王の役に立ちたいと言うのなら、働かせればいいだけのこと。


「そうですか。それほどおっしゃっるのであれば、早速働いていただきましょうか。ナーガ、鎖国と薬草採取の問題だけど、私なりのやり方でやってもいい?魔物達にも手伝ってもらいたいんだけど。」


「うむ、我はかまわぬぞ。どうせ我は華と共に一緒に動くからな。」


 ナーガラージャは、おチビを作って華とあちこち出かけるつもりだったので、これからずっと、華についてまわる気なのだろう。


「ありがとう。ダメなことや、嫌なことがあったら、すぐに教えてね。ここは、ナーガの土地だから、ナーガの嫌がることはしたくない。私も、気がついたことはすぐに聞くようにする。」


「む、わかっておる。前にもいった言った通り、我のものは、何でも使うがよい。華は我が庇護する者であり、我の契約者なのだ。魔物でも何でも、自由に使えばよい。」


「わかった。そうさせてもらう。」


 土地の持ち主である、ナーガラージャの許可はもらった。さて、何からするべきか。


「さっきも言ったとおり、ナーガには問題が片付いた後、鎖国の為に結界をはってほしいと思う。」


「む、結界か。」


「この土地にある薬草を狙ってる連中は、後先考えない者達だろうから、このまま放っておいたら、貴重な薬草は根こそぎ採取されつくして、無くなってしまいかねないと思う。


だから、そうならないために、保護の結界をはったほうがいいと思うんだ。


すでに他の土地では失ってしまった、ここにしかない薬草までもが取りつくされたら、結果的に治るはずの病気も治らなくなってしまいかねないでしょ?


どのくらいの期間、結界をはり続けるかは別にしても、少なくとも、他の土地でも栽培できるようにするとか、何らかの方法をとれるようになるまでは、そうやって保護したほうがいいと思う。


でも、その結界をはる前に、薬草採りの問題をある程度片づけたいと思う。」


 華はまず、魔物に頼んで、森に侵入してくる連中を片っ端から捕まえて隔離してもらうことにした。


「森の中に、侵入してきた人をしばらくの間、捕まえておけるような場所ってある?」


「華様、それはどのくらいの期間ですか?」


 ジェイドが質問してきた。


「うーん、はっきりとは言えないけれど、一週間から一カ月?どんな人がどれだけ入ってくるのか知らないから、わからない。拘留期間中、寝泊まりさせたいの。」


「む、なぜそのようなことをするのだ?」


「事情聴取をしようと思って。薬草採りに入ってきた子供、それとは別の目的の大人もふくめて、全員から話を聞きたいの。


ただし、村の子供と、よそから連れて来られた子供、それから大人はそれぞれ別の所に留め置いてほしい。」


「なるほど、そういったことでしたら、簡単な小屋のようなものでも作らせましょうか。」


「小屋は、森の入口付近に作ってくれる?そうしたら、後で別のものに使えそうだし。」


「む、他にも何か考えているのか?後で何に使うつもりだ。」


「うーん、薬草取引の交易所にしてもいいし、なんなら宿泊施設にして、観光地にでもしてみる?おまんじゅうでも作って。」


 華は少し、ふざけて言ってみた。


「む、カンコウチ、オマンジュウ?」


 ナーガラージャの目が、キラリ、と光った。


「そう。鎖国してしまうとはいっても、全部封鎖してしまう必要はないと思う。一部は入口を開いておいて、資源保護の為に一部を見学させたりするのはどう?


魔物に対する誤った見方を正して、イメージを変えてしまうきっかけにしてしまうとか、ね。


ま、今のところ、後のことはどうなるかわからないから、そういった話はとりあえず置いておくけど。」


「む、オマンジュウとは何だ?」


 食いつくところはそこなのか…。


「えーと、お菓子屋さんとかお土産物屋で売っている甘いお菓子。」


「む、甘いのか?」


「甘いお菓子…。」


 あれ、ナーガラージャだけでなく、クリシュナまでも興味を持った。やはり魔物は、甘いものが好きなのか。そういえば、神殿から貢物として送られてくるものの中に、お菓子はなかった。


「華様、侵入者から話を聞く目的なのに、村の子供とよそから来た子をわけるのはなぜですか?拘留する期間も長いようですし。」


 どこか別の方向へ進んでしまいそうだった話は、ジェイドによって元にもどされた。


「村の子供達は、元々ここの土地にいたわけだから、魔物に関しても色々伝承のようなものを持っていると思う。


魔物にあったら、どのような態度をとるべきか、とかそういう言い伝えみたいなものだよね。


でも、これからはそれが通用しないことを教えなくちゃいけないし、今まで村が何をしてきたかをもわかってもらわないといけない。


だから、これから村で育つ人材から教育しておきたい。


そうやって、しばらく子供を人質代わりにしておいて、村のほうがどうなるか、その反応も見たい。


本来なら、子供といえどもナーガの土地に勝手に入っていってはいけないのだから。」


「なるほど、目的が違うから分けるのですね。」


 ジェイドの言葉に華は頷く。


「そう。相手の反応を見てから、交渉の席につかせるかどうか、決めたい。


よそから連れて来た子供は、教育の意味もかねて、魔物を悪く言う連中は特に反省させてほしい。多少怖がらせてもいい。


二度と一方的に魔物を悪く言わないよう、反省しないものには食事を与えなくてもいい。魔物から施しなんて受けたくないと反抗するのなら、それについても無理に与える必要はないと思う。


あの石を投げた子供は多分、森に入る時、魔物に怖気づかないよう、元締めみたいな連中に魔物のことを色々吹き込まれて来たのだと思う。


森に子供を連れて行っても、魔物を怖がって薬草採取ができないようでは困るでしょうからね。


彼らはとにかく子供を競争させて、薬草採りに励ませたいわけだから。


子供をさらってまで薬草を集めたいなんて、よほど大金が入るか、何かあるんだと思うけれど、そのために、子供にあることないこと吹き込んだ結果が、ああいった仕上がりになったんだと思うの。


だから、これ以上あんな態度をとらせないような教育的指導だね。」


「わかりました。そういったことでしたら、得意なものがおりますので。」


 にっこり笑いながら言うジェイドが、華には頼もしく、そしてちょっと怖い。どんな教育をするのか、あとで具体的に聞いておかないと。


「集めた子供それぞれから、個別に話を聞き出してほしい。話を聞き出すまでは、互いに話をさせないほうがいいのかな?口裏をあわせられると厄介だし。


そして、どんな薬草を採取しているか、どんなやり方で採取し、誰にどうやって渡しているか、具体的に証言をとってほしいんだ。私は、ここの薬草からどんな薬が作られているかも知りたいと思う。」


「陛下、その事情聴取に騎士を同席させてもよろしいでしょうか。」


 ふいに、ユリウスが口をはさんできた。


「この土地は、ナーガラージャのものです。そういったことは、私ではなく、彼に許しを得て下さい。」


「わかりました。カーデュエルの主様、いかがでしょうか。お許しいただけるなら、騎士を何名か同席させたいのです。もちろん、一切邪魔はさせません。証言の記録をとり、なんとしても首謀者を捕まえたいのです。」


「む、森での滞在を許可しよう。ただし、その者達の自由を認めたわけではない。」


 ナーガラージャの許可に対し、ジェイドはさらに付け加えた。


「同席して証言の記録をとるのはかまわぬが、こちらのやることに対し、意義を申し立てたり、勝手なことはせぬよう。それから、滞在中は、必ずこちらの魔物がついて見張っていると思うがよい。」


「ありがとうございます。勝手なことはせぬよう、厳しく言い渡しておきます。」


 騎士の同席はこれで決定した。華は話を続ける。


「大人に関しては、薬草採取とは別の目的がある人もいるんだよね。魔物を得たいとか、腕試しに来たという連中は、今まで通り放っておけばいいと思う。


けれど、その中に、私の生死を確認に来る人がいるかもしれないから、それを注意しておいてほしいの。


できれば、私がここに連れてこられた時以降、どんな人が出入りしていたのかわかるといいんだけど、それは無理かもしれないよね。だからそれは、できれば、でいいよ。」


「わかりました、華様。」


「もし該当者がいたら、大事な証人になるから、そのつもりで捕まえてほしいの。」


「シンロク達に、申し渡しておきます。」


「お願いする。」


 華とジェイドが会話していると、ユリウスが言った。


「陛下は、その者が現場に戻ってくると思っているのですか。」


「断言はできないけれど、確認に来る可能性はあると思っています。確か、王を召喚する魔道具は、現存する王が亡くならないと使えないのですよね。王の生死が確認できないと、次の王は呼べないのでしょう?」


「ドラクール領のことは、これからすぐに調べさせるつもりです。このまま放っておくわけにもいきませんので。」


「その調査は、私が生きていることを伏せた上で、内密にできますか?」


「どこまで内密にできるかはわかりませんが、ある程度までは出来ると思います。ですが、内密にしたいとはどうしてでしょう?」


「しばらく泳がせて、犯人をあぶり出したいからです。


毒を盛ったものと、私をさらって捨てた人間が同じかどうかわからない。それに、ドラクール領の実態について、私は何も知らない。


ゾルタン・ヴァルツァーレクが加担しているのかどうかも、わからない。まあ、私は何もかもわからないだらけなのですが。


今のところ、召喚された王の性別は伏せられ、身体が弱いことくらいの噂程度しか流れていないようですし、これからどのような情報がどこから流れてくるか、調べていただけるとありがたいですね。」


 ユリウスは、白銀の長髪を片手でうるさそうに流し、華の目を見る。


「陛下は、その情報をどちらで?」


「孤児院です。」


「孤児院?孤児院でどうしてそんな話が?」


「正確には、聖魔教会の主教代理からですね。」


「そのような噂が…。それは、どこの教会でしょうか。私は、そのような噂自体、初めて聞きました。」



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