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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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抽選

「そうです。といっても、普通の抽選ではありません。抽選のために使う、特別な魔道具があるのです。普段は神殿に保管されています。この時だけ、魔境王を召喚するための魔道具と一緒に神殿から持ち出されるのです。この二つの魔道具は、『はじまりの王』によって作られたものだと伝わっています。つまり、選定公の後見を選ぶ時も、別世界から王を召喚する時も、どちらも『はじまりの王』の魔道具が仲介しているわけです。」


 華は、話を聞きながら少しばかり、ぞわっとしていた。


 この世界に神はいない。そう、華は王の為のブックを見て知っている。


 いたのは、『おおいなるもの』だ。しかし、『おおいなるもの』は自浄作用がなく、狂っていった。そこに『はじまりの王』が登場する。彼は『おおいなるもの』と契約し、その魔力を使う。大きな力を持ち、他人にもそれを分け与え、ついには『おおいなるもの』を封印した。


 その時からずっと、この世界の支配者は『はじまりの王』だ。彼がいなくなってしまった今でも影響力を持ち、選定公を選び続け、この世界に王を迎えさせている…。


「後見役を選ぶ魔道具の色は青白く、深さのあるすり鉢のような、大きな皿の形をしています。皿の縁にそって、ずらりと小さな魔石が埋め込まれています。」


 ユリウスは手を広げ、皿の大きさと深さを身振り手振りで示した。華は、頭の中に円い水盤のようなものを想像した。


「選定公は五人いて、総主教は五人の前に丸い、球状の魔石を置きます。石は透明で中身がない状態、つまり、魔力を帯びていない、空っぽの魔石です。五人は、置かれた石を一つずつ、取ります。この時、誰がどの石をとるかはわかりません。選定公は、各自、願いをこめながら魔力を石にこめます。石は、それぞれの選定公の魔力の色になります。」


「願い?いったいどんなことを願うのです?」


 なんだろう?神はいないのに、神頼み?


「願いは人それぞれです。どのようなことを願っているのかは、他の者にはわかりません。ただ、領内に問題を抱えている場合は、それが解決できる王をお迎えできるよう、願われているのではないかと思います。例えば、獣人の多いヴェート領では過去、頻繁に飢饉に見舞われていました。魔境王の中には獣人を嫌うものがいて、浄化が進まず、土地自体がやせ細り、収穫まで落ち込むことがあったのです。その時、ヴェート公は後見役を引き当てることができました。公によって召喚された魔境王は、幸い獣人に対して忌避感はなかったようで、ヴェート領の再興に大いに力をふるったそうです。ヴェート領内では今でも、その時のことが語り継がれており、王に感謝を捧げる祭りが毎年行われていると聞きます。ですから、ドラクール公も石に、何かの願いをこめていたのは間違いがないのです。」


 ゾルタン・ヴァルツァーレクは、いったい何を願ったのだろう?願いによって王の後見役を引き当てるというのなら、華はどうしてここにいるのだろう?


「その石は、どうなるのですか?」


「魔力をこめたあと、魔道具の大皿の中に投じられます。五人が石を投じると、五個の石は皿の中でぐるぐると、円を描くように回り始めます。しばらくすると、その中から一つだけ、石が浮きあがってきます。他の石は、全て皿の外にはじき出され、投じた本人の元に飛んでいきます。その石を投じた選定公が王の召喚を行い、後見役となるのです。」


 ということは、総主教の役どころは、ただの見届け人といったところか。


「石に何か細工をする人は?」


「不正をする人ですか?過去に、そういうことをしようとした人はいます。魔境王の後見役になることができれば、自領に優位をもたらします。それは、間違いありません。率先して自領の浄化を行えば、土地が豊かになり、様々な恩恵があります。ですから、選定公のほうも必死です。そこで、石に細工をほどこしたものを持ち込み、元の石とすりかえたものがいました。」


「その石は、どうなったの?」


 ユリウスは、ニヤ、と笑った。


「石は大皿に投じられ、ぐるぐる回り始めるとすぐ、勢いよく皿の外にはじき飛ばされ、壊れてしまったそうです。何度石を放り込んでも同じだったので、当時の総主教が最初に壊れた石を確認したところ、不正が発覚したとか。他にも、石に魔法をかけようとしたものもいましたが、やはりだめでした。同じように、石がはじき出されて壊れてしまったそうです。そのうち、不正をするものはいなくなりました。」


 不正の石は壊れて、悪意が公に示されるのか。それでは、不正をするものはいなくなるだろう。


「五人が談合して、抽選ではなく、一人を押すようなことはなかったの?」


「そうしようと画策した者もいましたが、なかなか五人全員の意見をまとめることは難しかったようで、必ず誰か一人か二人、反対するものがいたそうです。それを数の論理で突破しようと押し通した者もいましたが、召喚の魔道具を持ち出したまではよかったものの、道具は一切作動しなかったそうです。」


 なんというか、これは魔道具を作った『はじまりの王』が一枚も二枚も上手だったというしかない。不正をするであろう者のことまで考えて、様々な発動条件づけをしてあるのだろう。そのあたりは、さすがに『おおいなるもの』を口先三寸でまるめこんだ人物らしいやり方だ。


「召喚の魔道具のほうは、どうなのですか?」


「こちらは、神殿で何年もの間、巫女たちが魔力を奉納し続けた魔石を使って、魔道具を作動させます。魔境王は、選定公が選出された時点で、すでに決まっていると言われています。はっきり言い切ることはできませんが、選ばれた王に一定の傾向はあります。召喚された魔境王は、孤児だったり、親族と疎遠だったり、身寄りのない者のことが多いです。その為、なるべくこちらの世界に馴染みやすいよう、そういった人が選ばれているのではないかと言われています。ご存じの通り、百代にわたっては、男性ばかりが選ばれていました。そういったことから、別世界の人間をランダムに召喚しているわけではないようです。そして、領内に問題を抱えている選定公に、何かしらの効果をもたらす者であることが多いようです。」


「でも、それは確定しているわけではないのでしょう?そうではないか、と言われているだけで。」


 華の言葉に、ユリウスは頷いた。


 嫌な感じだ。身寄りのないもの、親族と疎遠の者、孤児、そういった、元の世界から引きはがしやすい者を選んで召喚しているなんて…。まるで、そういった人達は、何の未練もなく別世界に行っても大丈夫だと思われているようではないか。


「なんだか、おかしな話ですね。召喚した側も、どんな人がくるかよくわからず、なぜその人がこちらの世界に来れたかも説明できないのに、来た人を王にしなくてはならないなんて。しかも、ずっと男性ばかりだったのに、いきなり女の私って…。」


 百人も男性の王が続けば、それが当たり前だととらえられても当然だ。たまたま百一人目が華だっただけかもしれないが、華は現にそのせいで嫌な思いをさせられている。自ら志願したわけではないので、喜べない。なぜ突然、王が男性ではなくなったのかもわからない。


「確かに、いきなりこちらの世界に召喚され、魔境王であると言われても陛下には納得できないかもしれません。」


 その言葉は、華に同情的であるような言い方なのに、言外に納得してほしい、と言われているように華には聞こえた。後見の選定公が決まった時点で王が決まっていると言うのは、選定公の願いに応えてくれる王が多かったせいなのかもしれない。


 だが、華はゾルタン・ヴァルツァーレクが何を願っていたか知らないし、もし、それが何かわかったとしても、何かを解決できる力なんて何も持っていない。


「ドラクール公ゾルタンが何を願っていたかは知りません。私に問題の解決を勝手に期待されても困ります。私、この世界のことなんて、何も知りません。領内の問題を解決しろとか言われても、無理です。私はただの大学生です。それも、奨学金をもらって、それでも足りない学費を働いて穴埋めして、やっと生活できていた貧乏人です。特別何か特技があるわけでもないですし、運動神経がいいわけでもありません。ここで役に立つとは思いません。陛下なんて呼ばれても、その地位にふさわしいとも思いませんし、呼ばれたいとも思いません。それに、すでにこんな身体です。ただでさえ、女性が王なんておかしいと言う人がいるのに、どう見ても子供にしか見えない身体です。あなたが私を王だと言っても、誰も信じてくれないのではないですか?」


 するとユリウスは、こう言った。


「確かに、一見しただけでは無理かもしれません。でも、『はじまりの王』のブックに、新たなる魔境王の名が記されたことを、私はこの目でしかと確認いたしました。あれには、歴代の王の名が刻まれているのです。誰かが勝手に付け加えることなど、もちろんできません。あのブックは特別なものです。戴冠式で陛下がブックを手に取れば、誰にも文句は言えません。」


「名前が記された?どういうことです?私は名前など書いていませんよ。」


「陛下は、ブックに魔力を流されたのではないですか?『はじまりの王』のブックは、触れられるものが限定されたブックです。誰もが触れられるものではありません。あれにはかなり強い魔法の縛りがかかっており、触れることができるものでも、閲覧制限があるのです。」


「閲覧制限……。」


「ブックの内容は、見る者によって変わるのです。」


「本なのに?」


 ユリウスは頷いた。


「触れることすらできない者は、まず中身を見ることはできません。選定公が見ることができる中身は、王と比べればわずかです。私は、『はじまりの王』のブックが使えるブックだということさえ、知りませんでした。」


 ???


「ですから陛下が、あのブックを使用して転移魔法を使われた時、本当に驚かされたのです。」


「え、どういうこと?あれって、王の為のブックだから、王は使えるんじゃなかったの?」


 華は、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。



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