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101(ワンオーワン)   作者: 叢雲弐月
101人目の魔境王
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舌戦

「む、なんだその、サコクというのは。」


「要するに、人の出入りを制限してしまうんだよ。ナーガの鱗で、人が森に入り込まないように、結界を張ってしまえばいいと思う。もちろん、子供も出入りできないようにね。そうすれば、とりあえず誘拐犯を捕まえても、別の人が同じような事件を起こすことはなくなると思う。子供を連れてきても入れなくなるから。」


「ふむ。だが、それでは子供らが薬草採りをできなくなるぞ。」


「今行われている薬草採りは、営利目的なんだもん。親孝行な子供が薬草を採りに来ているのとは、全く目的が違う。ナーガの土地は、ナーガのもの。欲しいものがあるなら、彼らもまた、別の手段を考えるべきだと思う。ケースバイケースだね。」


「むう、それもそうか。」


 そこに突然、ユリウスが口をはさんできた。黙ってはいられなくなったのだろう。ナーガラージャは、なんでもないことのように簡単に言っているが、やろうと思えばいくらでも結界の一つや二つ、平気で作ってしまえる。だから恐ろしいのだ。だいたい、王都の結界だって彼の鱗一枚でできてしまえた。天気すら操ることのできる莫大な魔力量をもってすれば、大抵のことは解決する。


「お待ちください。それでは、魔境の国全体に貴重な薬が行き渡らなくなります。ここの森には、かなり特殊な薬草がはえており、中には他で供給できないものもあるのです。それに、他領では採りつくされてしまった薬草も多く自生していて…。」


 へえ、それはいいことを聞いた。華は、相手の食いつき具合を意地悪く確かめることにした。


「だから何?何か問題が?」


 華が冷たく言い放ったことで、さすがのユリウスも、あわてたのか明らかに口調が変わった。


「貴重な薬が行き渡らなくなれば、苦しむ人が出てきます。今まであったはずのものがなくなれば、値段も高騰してしまいます。陛下は、魔境全体のことは考えてくださらないのですか?病気で苦しむ人を身捨てるとおっしゃるのですか?魔物達の味方をしても、我々はどうでもいいと?」


「その質問、私が逆に聞いてさしあげましょうか。どうして私がこの魔境の人間達の味方をすると思うの?」


 答えに詰まるユリウスの顔を見て、この人は華がどのような目にあったかを全然理解していないのだ、と思った。毒を飲まされたとか、森に捨てられたとか、話として聞いてはいても、わかっていない。


「私は、別の世界から無理やりここに連れてこられました。何かの間違いだと拒否したにもかかわらず、強制的に。


そのくせ、否定されました。間違いだった、と。女だから違う、学生で、小娘で、何の力も持っていない。だから違う。


勝手に連れてきたくせに、まともにとりあってもらえませんでした。そして、あなた方のところに、不良品の返品でもされるように連れて行かれた。


あなたの前で騒ぎを起こされたら困る、元の場所に返してほしければその口を閉じて黙っていろ、と魔法で声を奪われました。


そこまでしたのに、私は自分の望み通り、元の場所に帰してはもらえませんでした。


連れてこられてからずっと、飲み物も食べ物ももらえなかったから、部屋にあった水を飲んだところ、そこには毒が仕込まれていました。


痛みにのたうちまわる私の身体からは、毒のせいで色々なものが流れ出ていって、とうとうこんな子供の姿になってしまった…。


しかもその毒は本来、一定期間魔力を消す効果のあるもので、こちらの世界の人にとっては、ただの嫌がらせみたいな毒でした。


でも、私は別の世界の人間だから、魔力が全くなかった。おかげでどういうわけか、身体が溶けてしまったし、声を奪った魔法もその時に壊れてしまったのか、解除できなくなってしまいました。


こんな身体になってしまったら、たとえ元の世界に戻ることができたとしても、元通りの生活なんてできやしない。


確かに私は、元の世界でよい暮らしをしていたわけではないし、親もおらず、苦学生でしかなかった。


けれど、私は自分なりに努力して、その生活を選んで営んでいたんです。


それを選ばれたとか何とか勝手なことを言って、他人から見ればささやかでつまらない生活ではあるかもしれないけれど、私なりの努力の成果を、有無を言わさず全て取りあげられた!


なんの権利があって、そんなことをしたのかは知らない。けれど、理不尽に全てを奪った人間は、こっちの都合なんておかまいなしだった。


彼らはその後、私と契約しようとしました。けれど、最初から私の名前すら聞くこともしなかった彼らは、私が声も出せない状態であることすら気づいていなかった。


声が出なければ、私の名前がわからないし、契約なんてできるわけない。


それだけじゃない。果物以外何も食べることができなくなり、身体は衰弱していく一方の私は、カーデュエルの森に捨てられた。


身体を布でぐるぐる巻きにされ、高い崖のようなところから、まるでゴミでも捨てるみたいに、身体を落とされて!


私は人の手によって捨てられたんです!


そんな死にぞこないの私を助けてくれたのは、ここにいるジェイドとナーガラージャです。彼らがいなかったら、私はとっくに死んでいた。


人を無理やり元の世界から切り離し、死にそうな目にあわせておいて、なぜ私がこちらの人間達の味方をするべきだと思うのか、理由があるのなら聞いてみたいものだわ。


異邦人である私を救い、助けてくれたのは、ここの魔物達。


彼らこそ、私の命の恩人。


私に酷いことをしたのは、人間だった。


魔物を化け物呼ばわりする連中のほうが、私にはずっと残酷で恐ろしい化け物に見えます。


さっきの子供には、私も魔物にみえたんでしょう?


今の私には、魔物の仲間だと言われたことのほうがよっぽどうれしいわ。


化け物と言われようが、どうだっていい!


魔物達は、私がこの世界で生きていけるよう、助けてくれるもの。


ねえ、教えてちょうだい。私を化け物と呼び、殺そうとする、そんな恐ろしいものを、どうして私が助けないといけないの?」


「陛下……。」


 上から睨み付けるようにしながら、たたみかける華。緊迫した空気が漂う広間は、静寂に包まれる。


 ユリウスはうなだれ、しばらく言葉が出てこない様子だった。華が割と平然としているように見えた上に、いきなり罵声を浴びせられることもなかったものだから、彼もまた、油断していたのだろう。そこまで強く言われて初めて、華の恨みの深さも理解できるというものだ。


 華としては、たまったものではない。こちらが主張しないからといって、あれだけのことがあったことを、なかったことにされるなど、冗談ではないと思っている。


 華はいずれ必ず、自分に毒を盛ったり、森に捨てた犯人をつきとめるつもりだ。今は力をつける時だと思っているから自制し、放置しているだけだ。あったことを、ユリウスに当たり散らすのは八つ当たりになるのかもしれない。だが、彼もまた、この世界の総主教を名乗る限りにおいて、責任の一端がないわけではないのだ。


「陛下…、私もまた、クリシュナに助けられた身です。あなたが味わった苦痛の全てはわからなくても、私がどれだけクリシュナに助けられ、慰められたか…。魔物が愛情深く、決して化け物でないことは、充分、理解しています。」


 しかし、ユリウスもまた、ここで引き下がるわけにはいかなかい立場だ。ここで引き下がってしまったら、彼は何のためにここまで来たかわからない。彼もまた、カノッサの屈辱ばりの雪をくらったばかりだ。彼は彼で、ここに来た目的がある。孤児から現在の地位に至るまでに負った苦労は、伊達ではない。


「陛下、それでもです。それでも私は…、伏してお願いしなくてはなりません。たとえそれが、どれだけ陛下の不興を買う行為だとしてもです。厚かましいお願いであることも、重々承知しております。陛下が魔境の王であるように、私もまた、この魔境の総主教なのです。私は、陛下のことだけでなく、魔境全体のことを考えなくてはならないのです。」


 まあ、それはそうだろうな。華は彼に対して怒っているわけではない。だが、ここで容赦することはしない。さらにつめよる。


「では、魔境全体を考える総主教様とやらに聞きましょう。採りつくされたという薬草は、どうして採りつくされてしまったのかしら。自分達で栽培しようとか、栽培地を増やそうとか、そういった努力はしなかったの?このカーデュエルは人に荒らされることがないから、いくらでもそこから採ってくればいいと思っていたのではないの?馬鹿にしてるわよね。人間の土地と命は大切で、魔物の土地と命は大切ではないと?」


「確かに、過去にそういった努力を怠っていたのは確かです。でも、いきなりこの土地から薬草の供給を止めてしまったら、影響は計り知れないものになります。薬の値段が高騰すれば、貧しいもの達がまず困ることになります。薬草採りをしていた子供や、薬草の仲介をしていた村は、一気に財源を失うことに。」


「他人の土地に勝手に入り込み、土地の持ち主が見て見ぬふりをしているからといって、人のものを盗んでいいわけないでしょう。それに長年あぐらをかいていた上で成り立っていた村の商売が、急に成り立たなくなったからといって、カーデュエルのものが悪いとでも言うの?今まで散々ここから盗んだもので儲けておいて、盗むことができなくなったから困る、これまで通り盗ませてくれ、とでも言うのかしら?全くあきれた言い分だわね。」


 議論は平行線をたどるかと思われた。


 華は、相手の言葉を注意深く聞いていた。話をしながら、ユリウスがクラーラ・オルヴァのように相手を見くびることもなく、ヨハン・ランゲ主教代理のようなタイプでもないらしいことはよくわかった。そんな人間であったら、クリシュナは彼を助けたりしなかっただろう。


 薬の供給を止めることで起こる弊害は、ユリウスに言われるまでもなく、華は最初から理解していた。そのうちユリウスが、神殿から送っている貢物を止める、あるいは逆に上乗せする、といった条件を出してくるかと思ったが、そのような話は全く出なかった。クリシュナと契約している彼は、魔物がどれだけ強いかよく知っている。だから、初めからカーデュエルと戦うという無謀な選択肢も選ばなかった。そのあたりは賢明だ。華は心の隅で、そう評価する。


 どのあたりで折り合いをつけるか、華が悩んでいたところ、ユリウスがこう言ってきた。






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