~殺シ合イ~
「……え」
何かが転がってきた。足元を見てみる。誰かの首。赤いのは付いてない。代わりに付いているのは、白いフワフワした何か。開かれたままの目。光を宿さない。あぁ……死んだんだ。レガンが。死んだ。
「……あ……あああ……」
そんなの嘘。私は信じない。これは違う人形。そうだ。そうに決まってる。だって、レガンは、そう簡単に死なないもの。そう。死なない。滅多なことがない限り、死なないんだ。死なない……はずなんだ。
「アハハハ!!! あっけナカッタなァ、レガン!! 心の赤を持つ者も、大したコトないねェ!! あははハハハハ!!!」
甲高い声が響く。笑い声。ナイフを持った、女が。笑っている。
「レガン……!! レガン!! 御願い……起きて……起きてよ……!!!」
一人の少女が、人形に駆け寄る。これは嘘。これは夢。そう、夢なんだ。悪夢なんだ。
「もらったァーー!!!」
「……!!」
「お前がシネよ」
……ドッ!!!
「……んぐっ!?」
女はお腹を押さえて、蹲る。
「……何で……お前……覚醒人間が殺さない……んじゃなかったのか!? 留美……」
「……留美……」
少女は今にも泣きそうな顔で、私を見る。
「……ノア。下がってて……。レガンのことも……御願い」
そう言うと、ノアは頷き、慌ててレガンを私の後ろにやった。
「……リマ……。いや……リ・アリマ……。こんなことして……どうなるか……分かっているよね……?」
「……アハハ……あハハハハハ!!! どうなるか、ダッテぇ? それはコッチのセリフ…だよ? 留美!! 今こそ……貴方を楽にしてアゲル……!!」
そう言って、覚醒した。牙と爪が生え、体が大きくなり、まるで熊のような姿になった。
「……ソウ。そう来るなら……こっちも本気でイカセテもらうわ……。貴方を……殺す!!」
「……?」
「どうされましたか? ソフィア様」
「……何か……感じたの。あの森の辺りから……怖い何かを感じた」
「……はぁ……。その何か……とやらは、どのような?」
「……分からない。だけど、凄く興味ある。行ってもいいかしら?」
「なりません!! ソフィア様!! あの森は危険だと、あれほどダンガン様がおっしゃっていたではありませんか……!!」
「貴方もお父様に忠実なのね……。少しは逆らってもいいと思うわ。ということで、私は行きますからね!!」
「お、御待ち下さい! 御供させて頂きます!!」
「……好きにして」
「ありがとうございます!! ソフィア様!!」
……あぁ。申し遅れましたわね。私は、アリス・ソフィアと申しますの。見ての通り、お嬢様……よ。あまり言いたくないのだけど。だからか分からないけど、私のお父様……アリス・ダンガン様は、やたらと過保護で……少し危ないからって、行ってはいけないとか言い出すのよ。もう私も15歳。そこまで子供扱いされなくても、私は私で責任取りますわ!! ……こう言っても、まだ子供扱いしてくるのよ……。もう、うんざりだわ……。やっと、お出掛け出来ると思いきや、今みたいに、御供がついてくるのよ……。
……え? 何を感じたのかですって? 怖い何か……よ。具体的には、私も分からないのだけど……嫌な予感がしますの。私の嫌な予感は、9割当たりますのよ。だから、あの森に行ってみたいの。ふふ……初めて森に入るわね。凄く楽しみですわ!!
ドッ!! ドガッ!! ドゴッ!! ボコッ!!
こいつだけは……!! コイツ……ダケは……!! 私が始末する……ンダ……!!
「ふふ……あははハハ!! 殺意、見え見えだよ? 留美。そこまで、あたしのことが憎いのカナ? アハハはははハハ!!!」
殺す……コロス……!! コイツだけは……!! 許さない……!!
ドゴッ!! ドゴゴッ!!
クソ……いくら攻撃シテモ、ビクともしナい……。これじゃ、私のタイリョクが持たない……!! ドウスレバ……どうすれば……こいつヲ……。……レガン……!! 今こそ、立ち上がって、時間を止めてよ!! ……あぁ、ソウダッタ……。やっと分かった。レガンは……レガンは……あの女によって……。そして、ノアが大事そうに抱えている首は……レガンの首だ。
「……あぁ……ああああ……」
もうレガンは動かない。だって、首がないから。完全に死んだんだ。心の赤を持つ者は、首を切られたら終わり。完全に死ぬ。そして、心の赤を持つ者のDNAは、別の人に受け継がれる。
……ポタ……ポタ……
気付いたら、涙を流していた。赤い涙を。いくら拭っても、涙は止まることがなかった。
「あああああ……ああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」
御供と一緒に森を歩いていると、叫び声が聞こえた。
「……!?」
「お…お嬢様……先程の声……」
「……ええ。聞いたわ。この森で……何かがあったのかもしれないわね……」
「こうしてはおれません!! 逃げましょう、お嬢様……!!」
そう言って、御供は私の手を引き、走る。私はそれを振り払い、こう切り捨てた。
「無礼者……!!! 私の許可なしに、勝手に行動するんじゃない、ですわ!!」
御供はきょとんと私を見つめる。
「叫び声を聞いたのに、放置? 貴方って、そんなに冷たい御方でしたの? たとえ、危険であろうと、助けに行くのが、礼儀であり、アリス家のルール、じゃないの? ……もういいわ。私、もうお嬢様は嫌ですの。家出、させて頂きますわ。では、御機嫌よう……!!!」
私は未だにきょとんとしたままの、御供を置いていき、一人で叫び声がした場所へ向かった。
「……結局、口ばかりじゃない……。お父様も……御供も……。ふざけんな、ですわ……本当……!!!」
そうぶつぶつ言いながら、しばらく歩くと、家を見つけた。
「……此処、いいかもね……」
私はその家のドアを開けると……
「……ああ……あ…………」
血だらけの少女が、座り込んでいた。息が切れていて、かなり怪我をしている。背中に生えている翼もボロボロだった。少女の傍には、血だらけで動かない獣と、ただ泣くことしか出来ない、もう一人の少女。そして、その少女が抱えているのは、誰かの首。戦闘の後なのか、部屋の中もかなり荒れていて、血だらけだった。血の臭いが私の鼻を刺激する。
「……え……」
「……!」
私が漏らした声に反応し、血だらけの少女は、こちらを見る。……傷だらけの顔。赤い涙を流し、目も充血してるように赤かった。私はただ……立ち尽くすことしか出来なかった。




