~不思議な人~
お待たせしました。
レガンを失った留美のもとに現れたお嬢様、アリス・ソフィアが取った行動とは。
それではどうぞ。
……終わった。戦いは終わり、そして私の復讐は終わった。……終わっていた。気付いた時には、もう家は真っ赤で、目の前には、復讐相手が倒れていて、後ろでは、レガンの首を持ったノアが泣いていた。
「…………」
沈黙が続く。そして、タイミングが悪く、この家を訪れてしまった、女性。
「あ……あの……何があったか……聞いてもよろしいかしら……?」
女性は沈黙を破り、そう言った。
「……貴方……私が怖くないの……? ほら……私、人間じゃないのよ……? 獣なのよ……? しかも、色んなとこ、血が付いてるし……。……今からでも遅くないわ……。貴方は帰るべきよ。そして、私達のことは、決して誰にも話さないで……」
私は女性を追い出そうとした。今の私は……何をするか分からないからだ。また暴走してしまうかもしれない。女性は覚醒人間・事件のこととは無関係の人だ。巻き込む訳にはいかない。
「怖くないわ。私のお父様の方が怖いもの」
女性は予想外なことを言う。……私達、覚醒人間よりも怖い……? でも、所詮人間だ。私達は覚醒人間という名の獣だ。怖いと言わない方がおかしい……はずなのに……。……不思議な人……。
「私のことは後回し。とりあえず、この状況、説明してもらえるかしら?」
口調からして、どうやらこの女性は、何処かのお嬢様だろう。
「……分かったわ。貴方の勇気に応えて……状況を説明するわ……」
私は目からじわじわと出る、赤い涙を拭って、女性を見つめ、状況を話した。
「……なるほどね……。そういうことだったのね……」
かなり時間がかかったが、とりあえず、女性に理解してもらえたよう。だけど、話し終わると、また赤い涙が出てきた。
「……っ……レガン……何で……何でそんな早くに……」
その事実は、変わらなかった。リ・アリマは死んだ。手強い相手だったが、何とか復讐を果たすことで出来た。だけどレガンは……死んだまま。光を宿さない目。動かない。喋らない。白い綿が部屋中に散らばっている。
「……人形なら……直せないかしら……?」
女性はそう尋ねる。確かに普通の人形なら、胴体と首を付ければ元通りだ。だけどレガンは……違う。
「……それだけじゃ……直らないのよ……。この人形は……」
私は赤い涙を拭って、元の姿に戻し、女性に向き合う。……綺麗な服。キラキラとして、フリフリがたくさん付いた、まさしくお嬢様という恰好をしていた。金髪の髪でクルクルと巻かれ、綺麗な青い目・整った顔。怯えてる訳でもなく、凛としている。
「……貴方、大した者ね。私達、覚醒人間を怖がらないなんて……。……この人形はね、ただの人形じゃないの。魂……DNAを持ってる人形なの。……もう今はないから、首を付けたところで、ただの人形なのだけどね……。人形は……彼は、ある日を境に、動けるようになったの」
「ある日を境に……? それは……魂……DNAを貰ったから……かしら……?」
「正確に言うと、受け継いだ……かな。誰からか……どうやって受け継いだのかは分からないけど、心の赤を持つ者のDNAをを受け継いだ。それから彼は、動けるようになった。心の赤を持つ者という”人間”として、生きれるようになったの。……って、貴方…どうしてDNAって……まさか貴方……」
「私はアリス・ソフィアよ。此処よりも遥か遠い国…アラストリアに屋敷を持つ、ただの人よ。…俗にいうお嬢様ってやつね……。私はあまり気が乗らないのだけど……」
「……私は留美。覚醒人間よ。私たちは、この子達…覚醒人間たちを連れて、安全な場所に移動しつつ、覚醒人間を保護するという仕事もしているの。でも私も覚醒人間だから、身を守る必要があって、私一人でも守れるけど…そこで重要な人物が必要で…それがこの人形もそうだった……心の赤を持つ者なの。心の赤を持つ者は…他の人間とは違い、時間を止める能力を持っているの。そして覚醒人間を守る役目を持っている……。でもね、それだけじゃないの……。この人形は…レガンは…わたしにとって……」
「これ以上は言わなくていいよ……。分かるから……。ねぇ留美、レガンを直そう…? もう動かないかもしれない。でも、このままなのは、可哀想だと思うの。……そして、心の赤を持つ者を探そう……? まだその気分になれないのは分かるよ。レガンのことも……悲しいのも分かる。だけど、きっとレガンもそんな留美は見たくないと思うの」
急に現れた少女……アリスは私に手を差し伸べた。
「そうだよね……レガンはこんな顔の私、見たくないよね……。ねぇ…そうでしょ? レガン」
私はノアからレガンを受け取り、そっと頭を撫で、アリスの手を取り、立ち上がった。
「……貴方を信じる」




