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貴石奇譚  作者: 貴様 二太郎
宝物その3
76/200

いただきものss(石河翠さまより) コスプレ王子オルロフパロディ ★

活動報告に上げたイラストからこんな素敵な物語が!

石川翠さま(https://mypage.syosetu.com/730658/)、本当にありがとうございました!!


※こちらには挿絵が入っておりますので、不要な方は設定で挿絵表示なしにしてからご覧ください。

 お手数おかけしますがよろしくお願いします。

 

 吐いた息さえ即座に凍りつくような新年のある日、アルブスの街を一人の石人が歩いていた。鼻歌交じりで往来を歩くご機嫌な男は、極夜国第五王子オルロフ。どうやら新年早々欲望に任せて、ふらふら出歩いているらしい。


 今度こそ……今度こそは、ミオソティスをものにする!


 にやけていた顔を一瞬だけ真剣なものにし、こぶしを握りオルロフは声も高らかに誓う。突然の決意表明、しかもその内容のいかがわしさに、オルロフの周囲から道行く人が後ずさった。「見ちゃいけません!」と慌てて幼子の手を引く母親の姿も見える。


 そんな周囲の状況にも気がつかずに、再び鼻の下を伸ばす王子様。ここ最近、アルビジアに鉄拳ならぬカーバンクル制裁をくらい過ぎて、頭のネジが緩んでしまったのかもしれない。エロロフという何とも情けないあだ名さえついてしまったが、果たして本懐を遂げることはできるのだろうか。


 前回は失敗したが、同じ轍は踏まない。あいつは可愛いものに目がないからな。今回も警戒心ゼロでほいほいついてくるだろう。


 悪そうな笑みを浮かべ、オルロフはめくるめく夜に思いを巡らせた。



 ※ ※ ※ ※



 羞恥に頬を染め、小さく身じろぎするミオソティス。本人にとっては必死の抵抗なのだろうが、男から見れば子猫が戯れているようなもの。こちらを見上げるどこか不安そうな瞳が、逆に男の嗜虐心をくすぐる。ぺろりと目の端を舐めあげれば、その温かさに驚いたのかミオソティスが小さな悲鳴をあげた。


「や、やめてください! 何で突然、こんなこと……」


 組み敷かれた彼女が今その身に纏っているのは、真夏に着用するビキニに似ている。違いはそれが、何やらもこもことした毛皮でできているところだろうか。両手には大きすぎるもこもこ手袋、両足にはふかふかの肉球付きスリッパ、さらに頭には犬耳。四つん這いになっているせいで、可愛らしい尻尾がお尻の間でふりふりと揺れるのがよく見える。


挿絵(By みてみん)


『可愛いでしょう? その服ね、東の国で今流行りのコスプレっていうのよ』


 豪奢な店主の言葉が頭の中で再生され、オルロフからしてやったりとばかりに笑みがこぼれた。


「オルロフ様、いい加減にしてください! 可愛い犬がいるというお話でしたのに!」

「いや、嘘は何も言っていない」


 瞳を潤ませ抗議するミオソティスの言葉を笑顔で流すと、オルロフはそのほっそりとした白い首筋に顔を埋めた。その甘さを存分に味わうように、舌を這わせてゆく。ミオソティスは小さく体を震わせると、真っ赤に染まった顔を隠すようにオルロフから背けた。

 そんなミオソティスを見下ろすと、オルロフはうっそりとした笑みを浮かべる。その手は彼女の無防備な背をたどり、ついにすらりとした白い脚へと伸ばされ――――



 ※ ※ ※ ※



 はっと我に返ると、オルロフは目的の店――マラカイト――の前に立っていた。どうやらここまで無意識に歩いてきたらしい。己の妄想力の高さに思わず苦笑いをこぼす。さすがにお預けを食らい過ぎたのかもしれない。


「すまない、頼んでいたものを引き取りに来たんだが」


 近くにいた店員に声をかけると、彼女は「少々お待ちください」と店の奥へと消える。しばらくすると、艶やかな女物の着物を羽織ったこの店のオーナー、パーウォーが現れた。


「あら、いらっしゃーい。待ってたわよぉ、オルロフちゃん。さ、奥へ。準備はばっちりよ」


 パーウォーに促されるまま奥の部屋へと足を踏み入れたオルロフ。なぜかそこには、パーウォーと同じ匂いのする男たちが待ち構えていた。


「あら、いい男! こんな子のお着替え手伝えるなんて、や・く・と・く」

「ほーんと! ささっ、遠慮はいらないわよ。うーんとかわいくしてあ・げ・る」

「待て! ちょっと待て!! 俺は頼んでいた物を取りに来ただけで、というかこの流れ、前にもどこかでーー」


 そんなオルロフの抗議の声はいくつもの野太い声にかき消され、やがて悲鳴、そして最後は懇願へと変わっていった。前回と同じ光景、学習しないオルロフの姿は誰の涙も誘わない。大体、こんなことはマラカイトでは日常茶飯事。疑問に思うものなど存在しないのだった。



 ※ ※ ※ ※



「ふふっ、あのエロ駄犬王子、これで少しは懲りると良いんだけど」


 隣に座っている妹の独り言にミオソティスが首をかしげる。マラカイトで取り寄せてもらった振袖は、少女たちによく似合っていた。


「ジア、何かいいことでもあったの? ずいぶんと楽しそうだけど」

「うん。でもね、ティスには内緒」

「ええ!? そんなこと言われたら余計気になるんだけど」


 残念そうなミオソティスにアルビジアは一言、「ごめんね」と笑う。


「ティスがそっち方面疎いのをいいことに、毎回毎回よくもまあ妙な服を贈ってきてくれるわよね……魂胆見え見えなのよ! 結婚するまで待てもできないなんて、ほんととんだ駄犬だわ。まあ駄犬は駄犬らしく、ね!」


 アルビジアの辛辣な一言は、ミオソティスには聞こえない。そんな仲良し姉妹の隣では、カーバンクルがそっと遠い目をしていた。


 すみませんよぅ、兄さん。私、姐さんにはなぜか逆らえないんですよぅ……


 そこへ来客を告げる声。誰かしらとふたりと一匹で首を傾げていれば、部屋に飛び込んできたのは駄犬……もといオルロフだった。のこのこと顔を出しやがってと思いつつも、姉の前では笑顔を絶やさないアルビジア。二人の視線が、絶妙に絡み合う。


 変態王子は、全身もこもこの着ぐるみパジャマを着ている。犬を指定したはずだが、息の荒さと欲望にまみれた瞳のせいで、さしずめ狼だ。オルロフと妹の攻防を知らないミオソティスだけが、可愛いとにこにこ喜んでいる。


 ミオソティスは気がついていないが、オルロフは着ぐるみの下には何も着ていないらしい。まさかノーパンなのか。アルビジアの額に青筋がたった。さすがに海の魔法使いたちがそういったコーディネートを勧めるとは思えないので、これはきっとオルロフが自分流に着替えてから来たのだろう。


 さてはル◯ンダイブが狙いか。いや、姉との距離が近すぎるあたり、偶然にもミオソティスの手が薄着なその部分にあたることを期待しているのかもしれない。いずれにせよ、変態であることは間違いない。オルロフの手がミオソティスの肩に回されそうになるのを見て、アルビジアの中で何かが切れる。


挿絵(By みてみん)


 うふふふ、と地の底から響くような妙齢の女性には少々不適切な笑い声をあげるアルビジア。


 嫌な予感にその場を逃げ出そうとしたカーバンクルだったが、残念ながら一足遅かった。かたかたと震えながら振り返ったカーバンクルの目の前、そこには満面の笑みを浮かべたアルビジアのかわいらしい顔があった。


 その瞬間、カーバンクルの視点が白に染まる。あまりのスピードと衝撃に目が回ったのだ。残念ながらもこもこパジャマのフード部分は、オルロフとカーバンクルの衝突を和らげてはくれなかったらしい。


挿絵(By みてみん)


 兄さん、少しはむっつりになった方が身のためですよぅ……


 新年一発目、ますます磨きのかかる豪腕に投げられながら、カーバンクルはほろりと涙をこぼした。


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