海の底の独り言 ★
※あとがきにイラストがあります。挿絵が苦手な方は挿絵OFFで対応お願いします。
青い青い海の底。珊瑚や深海魚が華やかに彩る、ここは人魚たちが暮らす国マルガリートゥム……の、はずれの海藻の森。
ワタシが生まれて、捨てられた場所。
「こんばんは、コル」
そして、あなたが眠る場所。
とはいっても、この宝石珊瑚たちに囲まれた冷たい岩の下で眠っているのは、あなたの名残だけどね。
「ねえ、ちょっと聞いてくれる? 今日はね、すっごく大変だったの。あなたのお姉さんのガルデニアのひ孫――あ、ウェリタスって言うんだけど、この子がまたよりにもよってね……」
返事なんて返ってこない。そんなのわかってる。だって、あなたはもうここにはいないから。
「もー! なんでみんな、あんなにまっすぐ突っ走っちゃうのかしら。コルも、リリィも、ウェリタスちゃんも。血筋ってやつなの?」
今はもう、抜け殻だものね。
去年の秋、あなたは息子の半身を守った後、輪廻の輪へと還ったんですってね。パエオーニアちゃんから聞いたわ。
「ワタシにも。あのとき、あなた達みたいな突進力が少しでもあったのなら……もしかしたら……」
コルたちのこと、助けられていたかもしれない。
秋津洲で見つけたあの暗い部屋の中の翡翠も、もしかしたら……
「ワタシに、もう少し踏み込む勇気があったなら」
浮かんでは弾ける、泡沫の過去のかけら。もうどうすることもできない、選べなかった「もしかしたら」。
「だから。次はもう、ためらわない」
この手で掬ったのなら、今度こそ零さない。大切なものから、最後まで手を離さない。
「見ていてね、コル」
予感がするの。近いうちに何かが起きるって。止まっていた時間が動き出す、そんな予感が。
「だから、今度こそワタシは……」




