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貴石奇譚  作者: 貴様 二太郎
外伝2 赤色金剛石の章 ~レッドダイヤモンド~
171/200

 2.仙人

 ※ ※ ※ ※



「ふははははは、見よ、この輝かしき私の美貌を‼ 男女どちらの服であろうとも、美しいものは私の美貌を引き立てるだけ!」


 海の魔法使いお約束の代償、着せ替え人形。かつてヘルメスやオルロフを苦しませたそれを、ムサイエフは高笑いしながらこなしていた。自ら化粧までして。

 

「マーレちゃん思い出すわぁ。ねえ、オルロフちゃん。お兄さんお化粧も上手だし、うちの看板娘になってくれるよう説得してくれない?」

「娘じゃないし、俺に言うな。しかし、常々自己愛が強いヤツ(ナルシスト)だとは思ってたが……まさかここまでとは」


 ムサイエフに、服に合わせた薄化粧(ナチュラルメイク)を施され目を輝かせるパーウォーと、兄の新たな一面を()の当たりにし引き気味のオルロフ。


「しかし、魔法使いの代償というから覚悟していたのだが……本当にこんなことでよかったのか?」

「ええ。ワタシにとっては宝石よりもこっちの方が価値があるのよ。それに宝石なら自分で稼いで買うし。はい、あともう一枚撮ったら終わりにするわね~」


 明るかった窓の外は、写真機の最後のシャッター音が鳴ったときにはすっかり暗くなっていた。

 ムサイエフとオルロフは月光浴、パーウォーは通常の夕食を終えると、いよいよ半身探しの占いが始まった。青色月長石(ブルームーンストーン)の力を借り、パーウォーが導き出した答えは……


「仙人」

「センニン?」


 首をかしげる金剛石兄弟にパーウォーがうなずく。


「そ、仙人。ここファーブラよりはるか東にある大国、大華国(たいかこく)にいるっていう、あの」

「あの……と言われても、私は会ったことも見たことも聞いたこともないんだが」

「俺も名前くらいで詳しくは知らないな。センニンってのは、どんな種族なんだ?」

「あ~、そうよねぇ。大華国の人間や獣人ならともかく、仙人はファーブラになんてまず来ないものねぇ」


 仙人――

 地仙(ちせん)天仙(てんせん)尸解仙(しかいせん)神仙(しんせん)などの種類があり、その種類によって住む場所や寿命などが変わってくる。

 地仙は地上で修行中の仙人。天界に昇ることを目指している。

 天仙は昇天し、神獣と主従契約を結んだ者たち。寿命は契約した主と共有となる。地上を治めるため天界で働いている。

 尸解仙は地仙のまま死を迎えた者。死後、神獣の目にとまり契約を結べた者がなる。生ける死体(リビングデッド)のような仙人。ただし生ける死体と違い魂は本人のもので、生きているときと同じように思考行動できる。

 神仙はこれら仙人とは一線を画す、天界生まれの神たち。神獣たちの上に立ち、大華国を支配する者。


「って感じなんだけど。あ、ちなみにムサイエフちゃんのお相手は天仙みたいよ。よかったわねぇ、神仙とか尸解仙とかじゃなくて」

「なるほど……わからん!」

「すまん、パーウォー。情けないことに、兄はこの通りバカなんだ」


 胸を張るムサイエフとそれを見てうなだれるオルロフ、そんな二人を見て苦笑いを浮かべるパーウォー。


「よくわからんが、とにかくタイカって国に行けばいいんだろう?」

「天仙だと、大華にいったところでそう簡単には会えないだろうけど……まあ、行かないことには始まらないわね」

「そうか。じゃあな、兄さん。骨も石も拾えないが、達者でな。途中で狩られるなよ」

「ああ、任せろ! 父上や母上には、ムサイエフは半身を探して勇ましく旅立ったと伝えておいてくれ。石人の宿命(さだめ)だ、悲しまないでくれとも」

「はいはい。じゃ、がんばれよ」


 盛り上がるムサイエフを投げやりに相手するオルロフを捕まえ、パーウォーが囁く。


「ちょっとちょっと、いいの? ムサイエフちゃん、あの感じだと大華国までなんてとてもたどり着けそうにないんだけど」

「ああ。そもそもあいつ、どうしようもない方向音痴だしな。だが今のあいつに何を言っても聞きやしないだろうし、仕方ないから俺の精霊を一人、お()りとしてつけるよ」

「そう、よかった。それにしても、これじゃどっちがお兄ちゃんだかわからないわねぇ」

「本当にな。アホな兄やら底意地の悪い兄弟子やら、なんで俺の周りにはこんなのしかいなんだ?」


 深いため息をついたオルロフに大いなる親近感を覚えたパーウォーは、「今回の新作、尻ぬぐい仲間価格で提供するわ」と慈愛に満ちあふれた瞳で約束した。



 ※ ※ ※ ※



 翌朝――オルロフは契約していた精霊を一人契約解除すると、ムサイエフ専属として契約しなおした。


「トゥリパ、くれぐれも兄さんをよろしくな」

「任せて! この顔だけ王子さま、あたしがちゃーんと面倒見てあげるから心配しないで」

「顔だけ王子とは失礼な精霊だな」


 真っ赤なふわふわの髪に輝く黄色の瞳の、背中に蜂の翅を生やした小鳥ほどの大きさのかわいらしい少女。トゥリパと呼ばれた彼女はくるりと旋回したあと、ムサイエフの頭の上に落ち着いた。


「兄さん。うっかりで町を燃やしたり、そういうのは絶対にやめてくれ。あんた、制御はどヘタクソなくせに魔力は規格外なんだから、本当に気をつけてくれよ。それと、どっかの底意地悪い元チビみたいに変な二つ名で指名手配されたりするなよ。あと、石人だってことは隠せ。国に迷惑がかかる。わかったか?」

「オルロフ、おまえは兄をなんだと思ってるんだ? 大丈夫に決まってるだろう。あともし燃えてしまったら、そのときは証拠ごと燃やし尽くしてくるから心配するな」

「いや、まずは燃やさないでくれ。トゥリパ、本当に頼む」

「うーん……燃やすのは止められないかもだけど、もし燃えちゃったらそのときは証拠隠滅がんばるね!」


 つける精霊の選択を大いに誤ったが、今回連れてきた中でムサイエフと相性がよかったのは彼女だけだったため、オルロフはあっさりと諦めた。


「ちょっと、朝から物騒な会話しないの。で、港までへの道だけど、トゥリパちゃんに教えればいいの?」

「うん。この顔だけ王子、地図とかあっても無意味だからあたしに教えて」

「おい。私だって地図があればなんとかなるぞ。たぶん」


 抗議するムサイエフを無視し、パーウォーはトゥリパに港までの行きかた、船への乗り方などを説明した。その正しい選択のおかげでムサイエフは迷うことなく、無事船着き場へとたどり着けた。


「おお、これが船! 昨日遠目から見たときもすごいと思ったが、近くで見るとまた違う感動を覚えるな」


 ちょうど入港してきた貴石機関船を見上げ、ムサイエフは目を輝かせた。極夜国にはない潮の香りを含んだ風、太陽の光、海、機械と貴石燃料の魔力で動く魔導船……そして、亜人を含んだ多種多様な種族の波。

 下船してくる乗客たちの群れを眺めていたムサイエフだったが、その視線がある一点に、まるで吸い寄せられるかのように惹きつけられた。

 

「トゥリパ、あの服……」


 乗客の群れの中に一人だけ、昨日パーウォーが着ていたような大華国の服をまとった者がいた。


「黒髪にこっちでは見ない顔立ち、そしてあの服……もしかしたらあの人、大華の人かもしれないね」

「そうだろう、そうだろう。よし、せっかくだから出発前にあの者に大華のことを少し訊ねてみよう」


 直後、ムサイエフはなんのためらいもなくその大華人らしき者のもとへ行くと声をかけた。


「そこの人間。おまえ、大華国の者か?」


 唐突に、偉そうに。ムサイエフ本人に悪気はなかったのだが、突然そんな風に声をかけられた方は気分がいいわけはなく。


「突然ナンダ。無礼なヤツ。オマエ、何者?」


 眉間にしわを寄せ、切れ長の瞳でムサイエフを見上げてきたのは、三つ編みを両耳の下でそれぞれ輪にした髪型をした少女。大華国の民族衣装(旗袍)の上に、前で(えり)を合わせて紐で結ぶという独特な上衣(道袍)を羽織った異国の少女。


「ああ、これは失礼いたしました。私はムサイエフ。探し物をしていまして、これから大華国へ行こうと思っていたところで貴女をお見かけしたので。つい、声をかけてしまいました」

「大華ヘ? 物好きなヤツ」

「なので、よろしければお話を伺いたいと思い、声をかけさせていただきました」


 にこやかに、ムサイエフは己の美貌を最大限生かした笑顔を浮かべた。


「断ル。他を当タレ」


 けれど。少女は一刀両断、(にべ)も無くムサイエフの頼みを切り捨てた。


「ムサイエフってば、かっこわるーい! 顔だけが取り柄なのに~」

「うるさい、誰が顔だけだ!」


 頭の上できゃらきゃらと笑うトゥリパに、憤懣(ふんまん)やるかたなしと言い返したムサイエフ。そんな二人のやりとりを見て、大華国の少女の表情が変わった。


(アナタ)、精霊使い?」

「精霊使い? いや、確かに契約はしてるけど、別に使役してるわけではないよ。あくまでも私たちは対等だからね」

「そうよ! あたしたちは使用人じゃないんだから」

「ところで、貴女は精霊が見える人?」


 ムサイエフの説明とトゥリパの言に、少女の顔から険しさが薄れた。そして彼女は精霊が見えるのかというムサイエフの問いに力強くうなずく。


「見える。ソレト精霊見える人間、悪いヤツいない。(アナタ)、いいヤツ」

「いやぁ、それほどでも」


 精霊が見える人間には、確かに悪い人間はいない。人間ならば、無垢な魂の持ち主にしか見えないのだから。


 ――この子、大丈夫か? こんなにあっさり私のこと認めてしまったけど、私が人間以外の種族だって可能性は考えないんだろうか?


 そんなムサイエフの心配をよそに少女は(ほが)らかな笑みを浮かべると、大華訛りのファーブラ語で自己紹介を始めた。


(わたし)の名前、雁来紅(イェン・ライホン)。大華国の、神獣白沢(はくたく)サマに仕える仙人。我も、ココへ探し物に来た」

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