極夜国
朝の来ない、明けない夜の国――極夜国――
霧に閉ざされた常夜の国に住むのは、石人と呼ばれる妖精たち。月の光を糧に生きる彼らは、左右どちらかの瞳に宝石を宿して生まれてくる。
彼らは探す。己の石に導かれ、魂の片割れ、すべてを捧げるべき存在――半身――を。
そして悩み、疑う。その想いは本能に強制されたものなのか、真の心なのか……
これは業深き石人たちと彼らに関わる者たちが、運命の破壊と創造の赤虎目石に導かれ紡ぐ物語。
極夜国。
そこは朝も昼も夜も、常に闇に包まれた常夜の国。温かな太陽の代わりにこの地を照らすのは、冷冷とした白い月の光。
そんな極夜国に住んでいるのは、貴石の加護を受けた人々――石人――たち。
彼らはこの世に生を受けるとき、左右どちらかの瞳に必ず自分だけの守護石をもって生まれてくる。金剛石、紅玉、蒼玉、翠玉、変彩金緑石……
これらが守護石と呼ばれるゆえんは、それぞれの貴石には必ず何かしらの力が宿っているから。不屈、勇気、誠実――その加護は実に様々で、同じ石でも全く違う力が宿っていることもある。加護の力も、強いものから些細なものまで千差万別。
そんな石人たちの中でも強い力を持つ者は、圧倒的に貴族に偏っていた。彼らは古い血を脈々と繋ぎ、力の強い者同士で結びついてきたからだ。
金剛石の王家、
三大公爵家のコランダム、ベリル、クリソベリル――
けれど。そうまでして心とは別に理性で血を繋いできた彼らでも、決して抗えない本能というものがあった。
半身――それは石人にとって、最高の幸せと最高の不幸をもたらすもの。出会ってしまったらもう抗うことなどできない、呪いのような魂を縛り付ける伴侶。
彼らは探す。己の石に導かれ、魂の片割れ、すべてを捧げるべき存在を。たとえ故郷を捨てることになっても、相手が同族でなくても、死が訪れるそのときまで探し続ける。
消えてしまう思い出に涙する黒玉の娘、譲られた力に思い悩む蒸着水晶の少年、満たされる心を探して流浪する藍玉の青年、変彩金緑石と歯車に導かれる亜人の少女、人造宝石が宝物の人騒がせな魔法使いの青年……
赤虎目石に導かれ、貴石たちは舞台で踊る。
さて、これより幕を上げるのは、巡る貴石の物語。
――貴石奇譚――