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死亡フラグのお知らせです  作者: もふ山
3/4

2「それはそれでハードモードですね。」



「れーんげさん!いますかー!?」



『死亡フラグ協会』と掲げられた石造りの建物の2階、

『人事部』とプレートが書かれている部屋のドアを

ゆいは勢いよく開け放った。



「部屋に入る時はまずノックだろこんガキャア!」



ぶん投げられたのは、牛乳を拭いたあとの布巾。

それを華麗に避ける結だが、彼は一つ忘れていた。

後ろに天音を連れていた事を。




「「「・・・。」」」




天音は物言わず、静かに雑巾を顔から取る。


「ア、アマネチャ・・・」


「あ、あら、ごめんなさいね、

てっきり結1人だと思って・・・」


ホホ、と笑ってみせる女性の視線の先には、

一切光を映さない目でこちらを見ている

愛らしい女性がいた。


「いえ大丈夫です、

突然お邪魔してしまって申し訳ございません。

採用の件で人事担当の方にお会いしたく参ったのですが、

こちらでお間違いありませんでしょうか?」


「「「ハイイイイ!!!」」」


布巾を投げた張本人、攻撃を煽った少年、

そして元から部屋にいた関係のない人間まで


なぜだか良い返事をして、凄い勢いで床に正座をした。





「いや、あの、ホントにごめんなさいね?」


顔を洗った天音の前に、

遠慮がちに置かれたほうじ茶の入った湯呑み。


「大丈夫ですよ、今度伺う時は前方に注意します。」


なるべく威圧感を与えぬように柔らかく微笑めば、

相手にもそれが伝わったようで緊張していた空気が緩む。


「どうぞ、飲んで。

とある筋から直輸入していてとっても美味しいの。

私のお気に入りよ。」


天音の前に座ったのは、

上下真っ白なスーツに身を包んだ

明るい髪色の眼鏡をかけた女性だった。



「自己紹介が遅れたわね。

私は加藤れんげ、協会人事の部長をしているの。」



そこのガキから話は聞いたわ、と

れんげが顎をしゃくる方には

大理石の床に正座をしている結がいる。


「結の事だから、

それっぽいことだけふんわり言って、

きちんと説明しなかったでしょう?

簡単にここの事を教えるわね。



その、自分が死んだことは・・・

もう理解している?」



ずず、とすすっていた湯飲みを口から離し、

ゆっくりと頷く。


「はい、確かトラックに撥ねられて即死です。」


答えると「飲み込みが早くて助かるわね」と

加藤は切なげに笑った。


「死っていうのはね、

どんな時も突然来るわけじゃないの。

とても小さくて些細かもしれないけれど、

確実に何かのサインがあるものなのよ。」


長くなるけどいい?と言って

彼女は眼鏡の位置を直した。



「ここはね、魂が生まれ変わるための

色々な手続きを踏む所なの。

そして死亡フラグが立った時に、

それを伝えて回収する役目もある。


結のいる『連行課れんこうか』が主にその役割を担っているわ。

ここ(天界)下界げかいの時間の流れは違うから、

ある程度少人数でもやりくりできるのだけど・・・

それでも少ない人数で回しているから

今回の貴方のような事案は稀に発生してしまうの。」


「例のサインがある前に死んでしまうってことですか?」


「そうよ、そして死ねずに

あの世とこの世を彷徨うケースもある。」


膝の上でれんげは拳を握る。


スーツがしわになっちゃう

なんて場違いな事を考えてしまったが、

話は静かに続いた。



「そんな魂を探し救い出す『狭間管理課はざまかんりか』、

来世の生まれ変わりの手続きや未練を断ち切らせる『輪廻転生課りんねてんせいか』、

死亡フラグの管理と見極めをしている『千日課せんにちか』、

そして転生に必要な準備のサポートをする『転生相談課てんせいそうだんか』、

あとは私たち『人事部』がある。


あなたが本当にここに居座るつもりなら、

適正を見るために一度全ての部署の研修を入れたいんだけど、

いいかしら?」


「えっと、わかりました。」


天音が頷くと、れんげは優しく笑った。


「しばらく北村さんには九木ここのぎくんがついて

全面的にサポートするから、ここでの生活に慣れてね。

あと仕事も。」


すると結の近くで様子を見ていた青年が近づいてきた。


「・・・。」

「・・・えーっと・・・」


見下ろされているが、恐らく彼が九木なのだろう。

立ち上がって目線を近づければ、スッと手を出された。


天津あまつくんって

すっごい人見知りで全然喋らないけど、

慣れてくると笑うし喋るようになるから

気にしないであげて。

面倒見はすっごくいいから!」


足が痺れすぎたのか、可笑しな体勢になりながら結が言った。


「・・・九木天津ここのぎあまつです、よろしく。

分からない事があったらなんでも遠慮なく聞いて。」


「北村天音です、お世話になります。」


ぺこりとお辞儀をすれば、

相変わらず彼は真顔のままだったが、

いくらか表情が和らいだように見えた。


「さー、じゃあ早速案内してあげてね九木くん。

結もさっさと仕事戻りなさい。」


「そうだ、長谷川はせやん一人にしてきちゃったんだった!」


すると驚いた事に、結はふわりとその場に浮かび上がった。


「またね、天音ちゃん!

そのうち会いに行くから!」


ぶんぶんと手を振りながら部屋を飛び出していった彼に、

天音はつられて手を降り返した。


「凄い、飛べるんだ・・・」


「結は元々、江西えにしの出だから。」


「エニシ?」


「彼、生前は神に仕える御社おやしろ的なところの子だったらしくてね、

オカルト系には相当強いのよ。」


言葉足らずの九木のフォローをさり気なくした加藤は、

立ち上がって伸びをした。


「ところで北村さん、Tカードティーカードは持ってる?」


「えっ?いや、財布持っていないので。」


「ああ、ごめんごめん違うのよ。

『転生ポイントカード』の通称がTカードなのよ。

ギリギリアウト寄りのセーフなネーミングだから

紛らわしいのよね。」


いや、アウトだろうと

心の中でツッコミを入れている間も説明は続く。


「手の甲辺りを見ながら念じて御覧なさい?

浮かんでくるから。」


なんだその微妙にファンタジーな設定。

とりあえず言われたとおりに手の甲を見つめると、

何やら運転免許証のようなものが現れた。


「えっ、何これすご!!!」


「ふふっ、名前や年齢、性別、没年数の他にも

何度転生したかとか個人情報が満載なのよ。

そして大事になってくるのが

ここに記載されている転生ポイント。」


覗きこんで来た加藤の指差すところを見ると、

<累計524000>と記載されている。



「この点数に応じて

来世何に生まれ変われるかが変わってくるの。

何をどうしたら貯まるのかはトップシークレットだから

私もわからないけれど、

点数が高いほど選択肢が増えるわ。


で、このポイントはここ天界でも稼げるし、

ここで暮らすにも必要になってくるの。」


「へえ、じゃあ貯まっていれば、

私も転生できるってことですか?」


「そうよ、条件さえ合えばね。

ちなみに来世に人間に生まれ変わるには

50万ポイントは必要なの。


あとはオプションもあって、

例えば2万ポイントで『素敵な笑顔』か

『努力家』の素養をつけられるわね。」


加藤はタブレットのような物を棚から取り出し、

キーボードを叩き始める。


「面白いですね。」


「逆に足りない場合、

48万とかだったら

マイナスオプション2万『コミュ障』で

人間には生まれ変われる。」


「それはそれでハードモードですね。」


「そうよ。コミュ障でも人間になりたいか、

もしくは哺乳類40万で犬になって

プラスオプション5万の『愛情』で

可愛いペットに生まれ変わるかはその人次第ってこと。


これが大まかな表よ、

暇が出来たらひと通り目を通しておいて。」


何かを打ち込んだままの画面のままのタブレットを受けとると、

簡易な表が出来上がっていた。

そして彼女は連絡事項があったらこれを使ってと言った。

ここでは無一文なのでありがたく頂戴することにする。


「ここではポイントは通貨にもなるということですか?」


「ええそうよ。

まあ物価なんてあってないようなものだけどね。

1年間ここで暮らす為の最低限の必要経費は

100ポイント位かしら?」


さっきの私みたいにお茶を直輸入とか、

勝手なことするときには普通にポイントかかるけど、

と加藤は笑う。


「あと仕事で下界したに下りる事があったら

1ポイント1円の計算よ。

領収書は必ずもらってくること。」



一度に沢山言われて訳がわからなくなりそうだ。

そんな私の様子を察したのか、

加藤は研修の手配をしておくから、

まずは九木と一緒に住むところを探して来いと言った。




「色々すみません、よろしくお願いします加藤さん。」


「あら、いいのよ。あ、でも一つだけ不服。」


早速何かヘマをしていたか、と身構えれば、

彼女は眼鏡を少しだけずらして悪戯っぽく笑った。




「れんげって呼んでちょうだい?」


「えっ?」


驚く私と対照的にニヤニヤ笑うれんげ。

するとずっと黙っていた九木がポツリと呟く。


「れんげさんは、ここの住人漏れなく全員に

自分の事を名前呼びさせているから、

天音も諦めてれんげさんと呼んだ方がいい。」


思わず二人で九木の方を見れば、

彼はスッと視線を逸らす。


「今、名前で呼ばれた。」


「うふふ、いいわね。

じゃあ私も天音ちゃんって呼ぶから

それでおあいこにしましょ?」


少女のように笑う彼女と、

何故かいい仕事した風にドヤ顔の彼を見ていたら

何だかどうでもよくなってきたし、

なんだか楽しくなってきた。


「わかりました、れんげさん、天津さん。」



ニヤニヤしているれんげと、驚いた顔の天津を見て、

堪え切れなかった天音は今度こそ吹きだした。


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