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【一話】






【一話】



あの世≪彼岸≫からやって来た月祓≪天使≫は、強力な力で人類をみるみると追い込んでいった。あんなに栄華を極めたはずの人類の科学技術も、創造主≪現象≫から物理的な力を超える能力を与えられた月祓≪天使≫には意味がなかった。



有名な人文学者が「地球規模の大きな敵が宇宙から来れば、この地球上から戦争はなくなるだろう」と言っていたが、それは正にその通りで。人類は、まず人類同士の無意味な戦争に終止符を打った。


月祓≪天使≫という未曾有の強敵を目にして、やっと人類は、戦争という負のスパイラルから抜け出せたわけである。

いや、今や聖戦≪ハイリガークリーク≫での随時、戦争中とも言えるわけであるが、それでも一部の富裕層が抱く傲慢な欲から起こる戦争は完全に無くなったのだ。聖戦≪ハイリガークリーク≫では、ただひたすら生きる為、大切な誰かを守るための、種の生存をかけた戦いとなる訳である。




この悪習慣にもっと早く気づき、自然を、地球をもっと大事にしておけばよかった、と人類が後悔するのは遅すぎた。後悔する頃には、何世紀分の科学技術が塵とかして、人類の三分の一が命を落としていたのだ。



彼らは、科学技術が失われたことで、あっという間に21世紀程の不便な暮らしに逆戻りしてしまう。



あの世≪彼岸≫から来る月祓≪天使≫の数には限りがあり、最大でも80体同時が限度のようであったが、圧倒的な数の差であっても月祓≪天使≫が有利なことに変わりはない。



この“青天の霹靂”が齎す結果は、この世の終わりと神からの祝福と新世界の幕開、全てなのだ。



月祓≪天使≫は人々が思い描いていたように、綺麗で儚く、残酷な生物であった。月祓≪天使≫に感情・情緒なんてモノはない。彼らは、ただ合理的に論理的に主の命令に従順に従う。


月祓≪天使≫は、無表情に、まるで花に水をやるが如く、ヒトを惨殺していった。



中には、創造主≪現象≫が言った通り諦念して、そのまま運命を甘受した者もいた。彼らは、確かに知っていたのだ。ヒトが醜く、この世の醜悪の集合体であることを。

また、月祓≪天使≫が天使の形をしていたせいもあるだろう。宗教の信念に従い殺された者もいれば、天使に干渉されるという人生最大の幸福を喜び恍惚としながら殺された者もいた。


そして、人間の数が80億人を下回った時、「このままなすすべもなく一方的に月祓≪天使≫に駆逐される」と人類は絶望したが、諦めかけたその時彼ら≪救世主≫は現れた。





彼ら≪救世主≫の正体は、即ち悪魔である。





一見、≪救世主≫とはかけ離れたイメージを持つ彼らにも事情があった。そもそも悪魔の始原は、天使が堕天することから始まっていて、元を正せば彼ら(強ければ強いほど寿命が長い)、彼らの先祖はあの世≪彼岸≫の出なのである。



だが、堕天しこの世≪此岸≫に落とされたことで、本来月祓≪天使≫が持つ力を大幅に失くして悪魔となった彼らは人に依存して生活しなければならなかった。正確に言うならば、人を糧にして生きなければならなかったのである。


それが、先の創造主≪現象≫の人類殲滅宣言により、もし人類が駆逐されるとそれと同時に悪魔の駆逐までなされてしまうのだ。


糧がなくなったら滅びる、それは当然のことで。


そういう訳で、悪魔たちは自分たちも滅びることの無いよう、人間に共闘を申し出てきたのだ。



勿論、悪魔はこれまで人間を食い物にしてきた悪者であったが、今は善者と思われていた天使がヒトを駆逐する世の中である。そんな混乱した世の中で、唯一月祓≪天使≫と対抗する能力を持つ悪魔は、快く≪救世主≫として迎えられた。


人類は悪魔の昔の悪さを見逃して≪救世主≫として向かえてもいいほどに、疲労していたのだ。このまま全人類滅亡するよりは、罪びとと手を組んだ方がマシ、と腹をくくったともいえる。


殆どの悪魔は、実態を持つことはなく、ヒトに≪憑依≫することで生きながらえて来た。それ故、一部のヒトと悪魔は契約を交わすことで、ヒトの体内に悪魔の力を取り込む≪憑依≫させることが出来る。


無論、悪魔は、人間という糧がないと生きていけない生物であり、互いに共存するためにと幾らかの人類を悪魔に生贄として差し出す、という案が出された。だがそれには流石に、人類が皆反発を起こし、あわや悪魔との共闘を破棄するか、と話が進んだとき、ある一人の男が立ち上がった。


男の名前は、ヘルズ・クラーク。悪魔と天使を研究した変わった男であった。


聖戦≪ハイリガークリーク≫以前は、小さな町の端で、細々と生きていた、周りに怪訝に扱われていたおかしな男。




しかし、彼は言う。




「あの世≪彼岸≫の月祓≪天使≫は、本来創造主≪現象≫の力がなければ、この世≪此岸≫の気を食べて生きていたのだ。

気とは、この世≪此岸≫の人々があの世を信じる宗教心や、天使を信じる無垢な心から発生するものであり、月祓≪天使≫も本来、人類に依存して生きていたのだ。


そこで!そこで、だ!!


悪魔は、元は月祓≪天使≫であったのだろう!?


そうならば、悪魔を称える心を人類が持ち、それを信仰し、祈れば悪魔も人類を贄にしなくても生きていけるのではないか!!!

贄に代わる“気”があるのだから!!


可能性は、少なくとも、まずは、物の試しに行ってみないか、人類諸君!!!!


もし、この考えが違ったら私を焼くなり煮込むなり、どうにでもすればいい!!



だが、それは試した後で、だ!!!



取り敢えず、一回悪魔を信じてみようぞ!!」



この男の言葉には、誰もが驚いた。今まで憎らしかった悪魔を、今度は先の天使のように敬い、祈りを捧げろ、とほざくのだ。


平常な世界、日常なら誰も信じず、その男を異端者の如く酷く扱っていただろう。




されど、今は聖戦≪ハイリガークリーク≫中の異常事態。その男の案は、馬鹿馬鹿しいと一蹴することが出来ないほどには、可能性を秘めていた。

そして、辛うじて存在を守って来た世界同盟と各国政府は国民に、悪魔に祈れ、と声明を出したのである。


何もせず、このまま滅ぼされてしまうなら、そんな事でも半信半疑でやってみる価値はある、と判断されたのだ。国民の殆どはその声明に驚愕したが国家政府が、世界同盟が「行う価値はある、と言っているのだから信憑性はあるのだろう」と信じ、悪魔に祈りを捧げた。




効果は絶大だった。




悪魔達は、自分たちの躰に力が漲るのを感じた。


男の、ヘルズ・クラークの意見は正しかったのだ。悪魔達は、この時初めてその事実を知る。実を言うと悪魔達でさえヘルズ・クラークの言う事を信じていなかったのだ。


だが、それもしょうがのないことである。あの世≪彼岸≫の月祓≪天使≫がこの世≪此岸≫の悪魔に堕天した初めての事象の頃には、もう人々は天使やあの世≪彼岸≫を敬い、悪魔は異端の者として恐れられ、畏怖されるものであった。


それ故、彼らは“祈られる”という行為を受けたことが無く、人間を贄とする以外生きる方法を知るはずがなかったのだ。


そして、その“祈り”の効果は、予想以上であり人間を贄として生きていた頃より余程燃費の良いものであり、失くしたと思われていた月祓≪天使≫時代程の力を取り戻すことが出来たのだ。



























――――――そして現在。




「ねえ、本当にこんな所に“契約者”がいるの?」

「さあ?本部のサーチには引っかかってないらしいけど、あの神子さんがそう予言したんだろ」

「実際に、月祓は消滅しているしいるんじゃないか?」

「えー。じゃあ、弱すぎてサーチが反応しないとか?」

「いや、弱かったら月祓倒せねぇだろっ!!!」



「おい、一応任務中なんだから騒ぐなよ・・・・」



一面に広がる海、海、海。

かの有名なヘルズ・クラークが立ち上げた月祓≪天使≫抹殺機関デビットファミリアの構成員四人は、南アジア諸島に属するマフィーナ島に向かっていた。



「すいませんね。騒がしくて」

「いえ、お気になさらず。皆さん、仲が宜しい様でこちらまで楽しくなりそうですよ」

「ありがたいです。あとどれくらいで着くでしょうか?」

「えーっと・・・・あと10分で着くと思いますよ」



無論、移動は船である。飛行機を使う程の距離でもなく、そもそも月祓≪天使≫は上空から訪れる為飛行機は今の時代忌み嫌われて、滅多に使われることが無い。



ここから向かうマフィーナ島は、発展途上国(技術が月祓によって消滅した国)であもあるが、一部の植民地化された場所は富裕層のバカンスの為栄えている。

よって、訪れてくる者も殆どが観光客であり周りの雰囲気に充てられたのか、それともただ赤道直下な場所だけに暑くて集中できていないのか。




――――――それとも、これが普段通りなのか。




真相は、明白である。彼らの体調である佐山・ハベルトンは、慣れた手つきで苦々しい顔のこめかみを抑えていた。そこには、なんというか諦め、怒り、苦痛がありありと現れていて。



「・・・・・・・もしかして皆さんいつもこの様な調子で?」

「・・・・・ええ、お恥ずかしい」



答え:普段通りである。



「いえいえ、エクソシストの皆さんには助けて貰っていますし、寧ろもっとお堅い方々だと思っていたので安心しました」

「そうですか・・・・」

「エクソシストの皆さんはどうしてこのマフィーナ島に?ここは最近、月祓は出ていませんよ?」

「ああ、それがですね。少し前に実は、月祓がここに来ていたんですが、我々の組織に入っていない“契約者”が消失させていたようで」

「そんなことがあったんですか!?・・・え、では、その“契約者”様を捕まえに?」

「捕まえるというかスカウトをしに、ですかね」

「そうなんですか・・・・・人類の為のお勤めお疲れ様です」

「いえ、そんなことは・・・」



若いのに一人で働く健気に働く青年に、絆され少し情報を話し過ぎてしまったと内心後悔している佐原は、正直微妙な気持ちだ。なんたってこの青年に見せたのは、月祓と戦っているわけでなく・・・・・・・・この状況で言われると税金で遊んでだらけていると思われても無理はない。

少年に悪意はないんだろうが、取り様にしては嫌味に聞こえるものである。



「あ、島が見えてきましたね」

「ええ、あともう少しで着きますよ」


















「お待たせしいたしました、マフィーナ島です」



着いたのは、マフィーナ島西に位置する船置き場。

この夏という季節のせいか、想像通り混んでいて人が溢れかえっている。



「よっしゃ!!やっと着いたぜー」

「ちょっとか弱きレディーに荷物持たせる気!?」

「お前、か弱いのか・・・・・」

「な、ちょっとどういう意味!!!???」

「なんでもいいけど、腹減った。ハンバーガー食べたい」



「お前ら、いい加減に・・・・・」



そして、やっぱり騒がしいエクソシスト一向。

彼らは、エクソシストの制服を着ていて他の人が彼らを見れば一目瞭然で身分がばれる。その上、エクソシストは人類を守るエリートとして羨望されるもので。

エクソシストの多くの者は、エリート“らしく”振舞う者なのだ。無論、佐原のその一人である。


佐原は、周りの民間人のエクソシストの良いイメージが壊れてしまう事を恐れているのだ。



結局、佐原以外のエクソシスト三人が誰が一番初めに島の地面を踏むかで喧嘩勃発している間に船乗りの青年が荷物を運んでくれていた。



「何から、何まですまないな・・・・」

「そんな、大事なお客様なんですし当然ですよ。・・・・・あと、そんなに心配なされなくても僕たちのエクソシスト様達への感謝と憧れは変わりません。安心してください」



どうやら、その言葉は本当のようである。

感じる視線は、ほぼすべてが憧れや感謝などの良いモノであるからだ。



「君は、察しがいいね」

「ありがとうござ」

「ちょっとそこのむさ苦しい船乗り!!!サービスは中々ね。あとはその見た目をどうにかしなさい!!!!」

「荷物運んでくれてあんがとねー」

「・・・・・・・・・・さんくす」



話している最中の船乗りの青年に礼?を言ったエクソシスト達(佐原を除く)は船を飛び出し、運んでもらった荷物を持ちながら、周りをキョロキョロ見渡している。

結局、少女の荷物は男子二人で分け合って持つようだ。



「ふーん。まあまあ良いリゾートね」

「ハンバーガー食べたい」

「うおっ!!いい感じに熟れた熟女があちらこちらに!」

「・・・・・あんた趣味悪いわね」



話の内容もあまりにお粗末。



「・・・・・すまないね」

「いえ、わざわざお礼を言って貰ってとても嬉しいです」

「そうかい?最後にお願いなんだが」



「隊長!たいちょーーー。はーーやーーくーーー」



堀から出た三人は、佐原に向かって叫んできた。


地元の人間であろう人も観光客もギョッとしてそちらを凝視している。


その騒がしく佐原を急がせる声は、自分達が早くホテルに行くためのものであり、「隊長がいないと道が分からない」と叫んでいるようだ。

佐原は彼らが叫ぶたびに、眉間の皺が深くなっていく。

まあ、佐原程神経質でなくてもこんなことをされたら恥ずかしいだろう。


気候はいつも通り蒸し熱いはずなのに、だんだん(佐原がいる左側から)冷気が溢れて来るのを感じた船乗りの青年は、慌てて佐原に話しかけた。



「あ、えーとなんか大変ですね!!」

「はい。大変です。凄く大変です。疲れます。あいつらの御守は」

「サヨウデスカ・・・・え、えーと、さっきのお願いなんですが察するに月祓のことですよね。大丈夫です。私もプロなので他に漏らしたりしません」

「驚いた。本当に察しがいいな。助かるよ」



佐原は、こんな良識がある青年だったら御守も喜んでやるのに、なんて横目で三人衆を見て思ったが、それはどうすることも出来ない。

一つ心の中に区切りを付けてから青年に帰りの便も頼む、と伝えてその場を立ち去った。

青年もニコニコと笑顔で、最後までこちらに手を振ってくれている。



リーズナブルで、サービスも良い。船は流石に個人のものだから少し古かったが、もっと人気があってもいいもに。あ、でもルカの言う通り身だしなみに気をつけたら警戒心を抱かれずにもっと客が取れるんじゃないか、佐原は後ろに振り向いてまた青年を見やる。


服も少し薄汚く、髪の毛は長く伸びきっていて顔の半分を覆い隠している青年は、少し驚いた顔をしてまた手を振ってくれた。


ちょっと気恥ずかしく思いながらも手を振り返した佐原は前を、現実を見直す。




「「たーいーちょーー!!!!」」




「うるさい」




現実逃避もままならない。



騒がしい部下たちを億劫に思いながら、こんな面倒くさい部下たちを押し付けられた自分の不運を恨みながら、また夜のお説教リストに「街中で大声を出さない」を書き加えた。





















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