御神櫻の裏事情
霊、霊感、霊能力者の話が出てきます。
苦手な方は御注意くださいませ。
この八嶋陽翔という男、自称「霊感がある」らしく「霊を見た」とよく騒ぐ傍迷惑男なのだ。
確かに霊感はあるらしいが微々たるもので何とも中途半端な能力だし、毎回毎回騒ぎに巻き込まれる身としては甚だ迷惑な存在だ。
この中途半端さが厄介で、そもそも全く霊感のない人間に霊が悪さをすることはない。見えもしなければ感じもしないので霊がいても何かしてもわからない。
霊は多少霊感がある中途半端な存在にやたらとちょっかいをかけてくる。
櫻や葵のようなかなりの能力者になると逆に雑魚霊は近付けない。近付いただけで消滅することがあるからだ。
話を八嶋に戻すと、遡ること五年前の小学校六年生の修学旅行。京都奈良大阪へ二泊三日で出かけた。
初日の夜は京都鴨川沿いのホテル。
勘の良い人ならもうそれでわかってもらえるだろうが、ホテルの中も外回りもそれはもう凄い状態だった。霊が盛り沢山にうようよいるのだ。
八嶋と同じ部屋割りだった葵は先ず一番に部屋にいる霊を一掃した。そして窓側から一番遠い廊下側の一番端の布団に荷物を置いて寝る場所を確保する。
八嶋はというと座りこんで修学旅行夜の定番ともいえる怪談話を始めた。
"バカだ!こいつ……………"
そんな話をしてたら余計に色々集まってくるじゃないか!
葵は心底呆れた。
窓からは次々と霊が入り込んで来て、なんと八嶋にまとわりついている。
これ以上入って来ないように葵は慌てて窓際に駆け寄り下を覗けば、河原の方から次から次へと大量の霊が湧いて出てくる。
これはもう切りがない。部屋に入って来なければ良しとしよう。葵は早々に諦めた。
しかしムカついてもいたので八嶋にまとわりつく霊についてはたいして害も無さそうだったので放置した。
翌朝朝食のため食堂に入った櫻は固まった。
葵の位置は探さなくても気配でわかる。キッと睨みながら問えば
(放っておけ!構うな)
と、無言で返してくる。
放っておけ?構うな?
気になるだろう!!!どうするんだ!!!
ちらりと八嶋を見れば、数人の霊がまとわりついているというのにまるで気付かずにこにこと朝食を頬張っている。幸せな男だ。
な、何が霊感がある!だ!
霊が見える!だ!!!
全然見えてないじゃないかぁ〜〜〜!!!
この間抜け野郎!!!
思い付く限りの罵詈雑言をぶちぶち呟くと、櫻もまた葵に倣ってそのまま無視することにした。
下手に近付くと「かまってちゃん」な八嶋は面倒臭い。櫻と葵はお互い無言の会話を繰り返し揃って同じ結論を導き出した。
その後修学旅行の間中、バスの中でも巨大テーマパークの中でも新幹線の中でも八嶋は霊と行動を共にしていた。まるで風船が浮かんでいるような雰囲気で八嶋の回りに浮かんでいる霊はちょっと笑えた。
霊がすべて悪いわけではない。幸いなことに八嶋の回りの霊は害のないまだかわいいくらいの霊だった。ただ、そこいらにいる霊が八嶋が通る際に反応する様は興味深かった。
かなり霊感が強いとは言え櫻も葵もまだ小学生。圧倒的に経験が不足していた。両親からも勝手な行動は取らないように厳重に注意を受けてもいたので「余計な行動を取らなかった」にすぎない。
学校に戻ってもしばらく八嶋は霊を連れ歩いていたが、いつの間にか消えていた。
だが中学三年生になって沖縄へ修学旅行に行った際、またしても八嶋は飛行機に乗せて霊を連れ帰って来た。




