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御神櫻の癒し

大変長らくお待たせいたしました。本当にごめんなさい。

 特訓や修行の成果というものはすぐに出るものではないし見えるものでもない。ある意味忍耐と努力がひたすら求められる。


 今までは俺様でかなり傲慢だった葵も修行の身となれば櫻と同等、まして棗がいれば強くも出れない。それに年長者に対しての礼儀や尊敬、謙虚さも求められストレスは溜まる一方。


 反対に櫻は四世代同居で育ったせいか年功序列制度のようなものにたいして抵抗はない。長女という立場だし、年子の弟が特別自分の何かを脅かすようなこともなかった。次々生まれた弟妹に母は手を取られたが、櫻を可愛がって手をかけてくれる存在は複数いたので殆ど嫉妬することもなかった。元々眈々とした性格も幸いしてあるがままを受け入れる。葵のように無駄な抵抗はなかった。


「お前って、凄いよな〜」


 ある日突然葵がぼそりと呟く。心なしかげっそりしたような気がする。俺様葵は見る影もない。


「何を藪から棒に……俺様葵からそんな台詞聞く日が来ようとは思わなかったわ………」

「なんかなぁ〜

 俺の俺様って、劣等感の裏返しだったんだよなぁ〜」

「はあ?」


 またしても似つかない台詞が葵の口から飛び出して櫻は戸惑う。けれど、ここは流れを止めず葵の呟くままを受け止めることにした。葵の独白が続く。


「家じゃさぁ、何をやっても兄貴達に敵わないんだよ。物心ついた頃には中学生とか高校生だぜ。冷静に考えりゃ敵うわけないんだけど、当時の俺にわかるわけないよな。

 兄貴達に負けたくなくてがむしゃらに頑張ってた。俺が本気で挑んでも、兄貴達には仔犬がキャンキャン吠えてる程度の認識だったんだよなぁ。

 お前の弟達見てて気が付いたんだよ。

 今頃だぜ?今頃気付いた俺って間抜けじゃないか?

 なのに、当時の俺は兄貴達に敵わない鬱憤を晴らすというか誤魔化すのに自分より劣る奴を見つけては優越感に浸って安心してたんだよな………

 そう思ったら、俺、性格悪くねぇか?」


 櫻から見たら今頃気が付いたのか?てゆうか、自覚がなかったことに驚いたがわざわざ指摘することは控えた。櫻の無言を気にすることなく葵の独白は続く。


「色々思い返したら馬鹿みたいだし、情けないし、滑稽だし、笑えるし、全身脱力した感じ?

 そこいくと、お前って自然だよな?

 争わないし、自分って芯はちゃんと有りながら引いたり譲ったりしながらも、最後は絶対必要なモノはちゃんと確保してんだよ。

 そこんとこぶれないってか……

 安心というか、信頼されるところなんだろな……」


「そうなのかなあ?どうなんだろ?

 自分ではよくわからないけど、誉めてくれてるんだよね?それはありがとう。

 でもさぁ、葵だって一所懸命頑張って努力したんでしょ?だから現在があるんだろうし……

 その頑張ってた幼い自分を誉めてあげたら?

 あの棗さんや柾さん相手に偉いよ。結構曲者だよね、二人とも………」


 葵は蹲ったまま顔を上げない。どうやら最後の一言は葵の傷口を更に抉ったようで、また色々思い出したのかぶるぶる震えている。


 櫻としても、いつもと勝手が違っていて途方にくれてしまった。

 でも、こんな弱気な葵は可愛い。

 もしかしたら最初で最後の貴重な姿かもしれないと思ったら自然と笑みがこぼれた。

 そっと右手を伸ばし頭に触れてみる。意外に柔らかい感触にそのまま撫でてみた。良い子良い子するみたいに。


 一瞬びくんと震えたが抵抗はない。


 触れた場所から温かなぬくもりが拡がり、頭の中や胸、腹でどす黒く燻っていた塊が静かに溶け出し霧散していく。じんわりとしたぬくもりがそのまま細胞のひとつひとつまで浸透していくようだった。

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