御神櫻の大喧嘩
本日の更新二話目です。
「どうやら見浦の井戸の結界が外れたようじゃ」
当主殿のその一言に三兄弟も櫻も驚いた。見浦の井戸とは学校の北側にある寺の古井戸でもうずいぶん前から枯れてしまい長く使われていないと聞く。蓋をされ中を覗くことも出来なかったはずだ。しめ縄で囲んでいたし、何らかの呪いをしているのだろうとは思っていたがここまで大がかりな種類のものだったのだろうか?
「結界が外れた途端に長い間封印されていた霊達が一気に飛び出して、ちょうど通り路があったもんだからその勢いで学校に押し寄せたみたいじゃな」
「たまたま………ですか?」
思わず櫻が問いかければ、
「タイミングとしては、たまたまじゃ」
そうは言われても腑に落ちない。
「最近近所の子供達が寺を遊び場にしていてな。やんちゃ盛りの子達じゃ。古井戸にも興味を持ったんじゃろう。その回りで遊んどるうちに結界が緩んだんじゃろうて。
今朝、いきなり結界が外れたのは学校をさぼって遊んどった中学生がしめ縄の内側に入って井戸の蓋を開けたらしい。
おどろおどろしい気配に住職が慌てて行ってみたら井戸の側で気絶して倒れとったそうじゃ」
「おおかた呼ばれたんじゃろうて。近頃の子供達はしめ縄の意味もわかっとらんようじゃからのう」
ご隠居殿が呆れたように付け加える。
「だがまあ、不幸中の幸いというか………櫻のお陰で封印していた霊達は一掃出来たし、これで井戸の封印は必要無くなった。井戸の中も外回りも綺麗なもんじゃ」
うんうんと、当主殿は満足そうに頷く。いやいやあれは儂が子供の頃悪さしとった奴らでのう〜と何やら懐かしそうに。
「先々代があそこに封印したんじゃよ。当時はそれが精一杯じゃった。それがまさか、一瞬で消え失せるとは……………」
にこにこ顔の年配者達に、引きつる若者達。
四人各々が今どう反応するのが正解か考えあぐねて無表情で次を促す。
期待に応えるかのように当主殿がここで爆弾を落とした。
「いやいや、もう期待以上だ。ちっちゃい頃に儂が施した封印も吹っ飛んだ上に、あんだけの霊達を消しちまうんじゃからのう。
それでじゃ、この際後継を櫻に任そうと思う。
櫻に婿をとって、御披露目と同時に跡目も譲ろうと思う。
婿の候補じゃが心配するな。そこの棗や柾、他にも色々声をかけておるから選り取りみどりじゃ。
おお、そうじゃ、この際今日の働きも考慮して葵も入れてやるぞ。
どうじゃ?誰が良い?誰でも良いぞ」
三兄弟はフリーズした。ますます反応に窮した。
櫻は、というと、膝に置いた拳を握り締めわなわなと震えていたが、突如テーブルに両手をついて叫んだ。
「ふざけんな!!!この、くそ爺!!!
頭腐って花畑か?それともボケたか?」
当の言われた本人は櫻の暴言にちっとも堪えず、満面の笑みで応える。
「今すぐ決めろとは言わんよ。いきなりじゃからのう。じゃが、お前はまだ若いから良いが適齢期になる頃には棗は四十じゃ。禿げとるかもしれんしのう。その頃まで振り回すのは気の毒じゃ。よくよく考えよ」
皆の頭の中で一瞬棗の禿げ頭が過ったかもしれないが、ここは全力で無視する。
「お爺様、話がずいぶん突飛過ぎます。
私はまだ高校生です。これから大学にも進学しますし結婚は当分考えられません。
それから後継ですが、私は長女です。まだ下に六人います。あの子達が成長して能力を見てからでも遅くありません。それに順番通りお父様がお継ぎになるのが順当かと思います。
その上で、私が適任となればお受けします。でも現段階ではお断りいたします。
私の人生は私が決めます。結婚も一切指図は受けませんのでご理解ご了承くださいませ!
つきましては、その婿候補とやらを全て撤回白紙に戻してください。私の都合で十年も二十年も無駄にさせるのは申し訳なさすぎます。
よろしいですね!!!」




