第九話
修正いたしました。28.10.22
「待っていたのにどーして来たくださらないんです!?こっちは朝からずーっっっと!準備は完璧にして司祭様とまだかまだかと首を長くして待っていました!!なんで来てくださらないんですか!?」
「………………」
『待っていたって言ってもさ、クゼハルトってこの子と約束なんて全然してないよねー。妄想癖でもあるのかな?かわいそー』
もー!もー!と叫ぶのはあの聖職者のメリリア。扉に仁王立ちしていたと思えばクゼハルトが考え込むと大股で近づいてきて日頃の鬱憤でも晴らすように怒りたてた。
四角い小さめの帽子から飛び出た金髪はメリリアがもー!もー!と騒ぐたびになぜか揺れる。よく見たらアホ毛のような前髪の一束がその帽子の前で揺れていた。それが言葉より気になるのは仕方ないだろう。
アホ毛は置いといて――魔王の言う通り、準備をして待っていたとメリリアは言うが、行く約束をまったくしていないクゼハルト。とてつもなく変な奴に絡まれているとしか思っていなかった。
それもそうだろう。呪いを解く事などする気はさらさらない。なぜそんな所にいかなくてはならないのか疑問だ。しかし彼女はまだもー!もー!と叫んでいる。もしかしたら牛が人間になったのでは――などとこっちまで変な事を考えるまでに至ってしまう。
少し考えてみよう。メリリアはなぜ来ないのかとクゼハルトを問い詰めている。クゼハルトからして見ればそんな約束もしていないし、なぜ行かなきゃいけないのかが謎だ。だがメリリアから見れば来るから司祭様とやらと一緒に準備をして待っていたようだ。彼女の中ではもうすでにクゼハルトが来る事になっている。
なぜこうなったかと元を正せばきっと門から考えなくてはならないだろう。あそこから呪いがあるぞ、と自ら暴露して紹介状をもらい、ギルドへそれを渡した。それからギルドも紹介状を送っておくから、とメリリアへ口伝していたが……場所は一言も言っていないし、聖職者に紹介状を送るとだけ言ったはずだ。そしてメリリアは待っている、とだけ答えている。それから何も言われても聞かされてもいない。まさかここで勘違いをしたのではなかろうか?
目の前のメリリアはまだもー!もー!と今度は手まで振り回して抗議しているようだ。言葉の方はすべて意識的に聞いていないのだが、普通はそろそろ落ち着くものではないだろうか。よほど腹がたっていたのだろう。顔がすでに赤い。
『畳かけであげなさーい』
「なあ」
「なんですか!私は――」
「俺はまずあんたの名前も知らないし職業も知らない。そんな奴に色々と訳わからない事に腹を立てて突然出てきてぎゃーぎゃーと騒ぎ出されても困る。第一にギルドに紹介状をそっちに送るとか話だけは進んでいるようだが当事者の俺はその後の事をまったく知らされていない。俺がいつそういう話をあんたとして約束したんだ?どの場所で?俺とあんただけか?何時やるって?金銭面もかかるはずなのに俺は何も知らない。どこでやるかもわからない、誰がやるのかも知らない俺になんの咎があるんだ?だいたい俺は一言も呪いを解くとは言っていないのになぜあんたが勝手に決めている。そっちが勝手に準備して勝手に待って来ないからと騒がれても何も知らない俺が悪者にされる覚えはない。消えろ」
「……え……………………………………」
『はい、今のうちに行こっかー!』
魔王の号令には賛成のクゼハルトも、この時ばかりは腹が立っていたので念話では返事を返すが表向きは苛立った顔でメリリアを一瞥しただけで立ち去った。
どうやら、完璧に彼女が勝手に進めて勝手に騒ぎ出しただけのようだ。しんと静まり返ったギルドにクゼハルトの足音だけが響く。
止めるものは誰もいない。さてこの後彼女はどう行動するのだろうか……
そのままいつも通り大股で出ていったクゼハルトは――ぶらりと食堂か露店で並んでいる食べ物を物色する事になった。ついでにこの街を把握する。
今のところ分かっているのは門が東西南北に別れており、クゼハルトが入ってきたのは西門。そこからギルドはすぐ近くにあったのだから西門に近い場所で、グロルドに紹介された『森の憩い場』はだいたい中央。串肉屋は南門よりである。今は西門にいるので……南門にぶらりと行くことにした。と言うか魔王が右と言ったので南が必然的に決まっていた。また美味しいものがあるのではないかと期待しているのかも知れない。
飛び交う呼び声はどれも「安い」「美味い」「残り○個」と夕方なのにまだ賑わっているようだ。だいたいが野菜や果物。布、服。たまに装飾が売っていて活気は衰えない。
とりあえず気になった事があるクゼハルトは少しでも情報が欲しいので、顔が良さそうな果物屋のおばちゃんに訪ねてみる。近づくだけでにこりと笑う姿はふくよかでなんと堂に入っている姿か。服はまあまあに白い三角巾はまさに屋台のおばちゃん。田舎なら逞しいな、と思いながら声をかけた。
リンゴを一つ手にしてそう言えば異世界なのに名前が変わらないよな、と不思議に思っていたものだ。まあ、専門的な用語はまちまちだがなぜか食材は普通に異世界共通になっていた。そこは誰もわからない謎の部分だろう。異世界人としてはとてもありがたい事だった。たまに同じ呼び名でも色が違うが――再び学ばなければならないのかと言う苦痛はないので嬉しいものだった。
「美味そうだな、これ」
「おや、お兄ちゃん背が高いね!リンゴが好きなのかい?」
「一番じゃないけど好きだな」
『あ、僕はあの高そうなメロンほしー』
「これとこっちのメロンを一つ」
「あいよ!袋はいるかい?袋一つ石貨一枚だよ」
「いらない。あー……メロンもう一つ買うから少し話し相手になってくれないか?」
『え。さりげなく聞くんじゃないの?へぇたぁだねえ!!』
いらっとしたが、クゼハルトは沈黙で回避した。
「おやまあ!こんなおばさんを捕まえてもなんにも出ないよお!お客が来たらそっち優先でもいいなら引き受けてあげるよ」
「ありがとう。いくらだ?」
「おっと!リンゴが一つで銅貨一枚。メロンはここじゃあ高いから一つ銀貨五枚。合わせて大銀貨一枚と銅貨一枚だよ!今さらだけどお金は大丈夫かい?」
「ん」
さあ、出せ。とデブ鳥に促せばペロンと二枚の硬貨が飛び出してくる。さすがにそんなところから出てくるとは思わなかったのだろう。かなり驚いた顔でクゼハルトたちを見ていた。
でもすぐにさっきまでの陽気な笑顔に戻るのだから伊達に年は取っ手いないだろう。口から言えないがさすがおばちゃんだ。肝が大きい。
そして物々交換でさらにそれを回収してみればもう慣れたように珍しいねー!と笑いだすのだから一般市民で考えれば大物だろう。リンゴを食べながら雑談する事にした。
「俺はクゼハルト。冒険者」
「私はサツェリーだよ。見ての通り果物を売っているね。クゼハルトくんは息子よりは若く見えるけど冒険者なのかい?」
「17。わけありだな。なかなか疲れる。あと、クゼハルトでいい」
「そうかい。でも疲れるってそりゃそうだろう。私は魔物と戦った事はないけど、剣を振り回して生きるか死ぬかなんて……息子はそれで帰らなくなったからねー……」
「――悪い」
「いいんだよ。息子が決めた事だ。そう言えばクゼハルトはここらで見かけないよね?その頭のでっかい食べ頃な鳥なんて乗せていたら嫌でも目立つだろうに」
『それってエリザベスローズマリーヴィリアンヌマチルダアリアマリアフィリーナのこと?ちょっとクゼハルト。これの首を落としなよ』
「『メロンでも頬張ってろよ』……トットス村って知っているか?最西端の」
「ああ、この前消えたってね……まさか、」
「戻ったらなかった。どういう風に広まっているか、教えてくれないか。あと中央にその内行きたいから知ってる話、教えてくれ」
わざと言わせない。それはクゼハルトがその生き残りとは言い難い存在だから。それとあえて言わせないだけで人は勝手に信じてくれる。少し違うが――メリリアのように。
サツェリーが[トットス村]について教えてくれた事は大まかに二つ。数十日前にとても大きな炎の球が落ちてきて爆発が起き、最後に火柱を短くだけど立てて村が消滅したと言う事。村と周囲十キロン近くが荒原となり、近くのこの街は恐怖で数日は誰も家から出なかったと言う事。
しばらくして何も起こらないから最近ようやく活気が戻ってきていると教えてくれた。[トットス村]の影響はさっき買ったメロン。あそこはメロンの栽培が行われたところであって、もう余所の領地から来た商人から買い取らなきゃないらしい。それであの高値なんだとか。
『あの勇者側の仕業なんでしょ?知ったらこの街、それに王都はその【勇者】をどう処罰してくれるのかな?斬首は生ぬるいよね。教えてあげたいなー』
メロン美味しいよー、とか言っておきながら魔王は軽い調子だ。とりあえずこのサツェリーを斬首する気持ちは反れたらしい。そのまま話をする。今度は王都だ。
王都では数ヵ月前から【勇者】を召喚したと噂を聞いたらしい。ここは最西端とまではいかないが、やはり端よりなのでそういう情報は遅れてくるそうだ。【勇者】と言われてもここに来るわけではないのでけっこう王都方面はおざなりだと言う。確かな情報がほしいならギルドの方、もしくは旅をする冒険者の方が正確だと教えられた。それか商売ギルドの連中とも。
「そう言えば【勇者】の姿はクゼハルトみたいに少年で黒髪と黒目の子たちらしいよ。私はてっきりそう思ったけど赤い瞳も珍しいじゃないかい」
「ちょっとな……」
なんて交わさせてくれるわけがない。ちょいちょいと近寄れと言う風に指が動いたので少しだけ屈むように身を乗り出せば小声で教えてくれた。
「嫌だったらごめんよ。赤い――緋目の瞳は呪いの子って言われているから。ちょっと気になる人は呪い子を意味なく嫌う奴等がいるんだ。何かあるなら東区の協会に行きな。真っ白で大きな建物があるよ。そこのパルベア司祭が高位の神官様だから、たぶん解呪してくれる。まあ、呪いなんて色々あるからね。別に問題ないなら私はそれでいいと思うよ」
決して優しくはない。多少は痛いぐらいに肩に気合いを入れてくれたサツェリーはにんまりと笑ってみせる。
面食らったのはクゼハルト――ではない。意外にも魔王だった。クゼハルトに変な話を持ちかけたらまた命令する気でいた。ここだと人通りが多いが黙らせればいい。時間を置いて傷を作る武器は手元にある。それを使って手の指を落とすつもりだった。
しかし、サツェリーは薦めはしたが強制でもなんでもない。場所は教えたが、行くのはクゼハルト。気遣う言葉は今まで見てきて人間のある女に被った――遠い昔の、黒い魔女。どうしても手に入らなかった魔女の後ろ姿。……メロンが急に飲み込めなくなった瞬間だった。
『クゼハルトー。メロンじゃお腹が膨らまないから。主食に行こう』
「『はいはい』今のところ呪いを解く気はないんだ。けど、教えてくれてありがとう」
「そうかい。それがクゼハルトの選んだ道だ。大変だろうけど、頑張りなよ」
「ああ。ところでこの近くに美味い店はあるか?やっぱり果物だけじゃ腹が持ちそうにない」
「あったり前じゃないか!男が果物だけでやっていけるわけがないよ!そこの通りをまっすぐ行きな。赤猫の看板をしている食堂があって、安くてうまいよ!」
「助かる。またよらせてもらうよ」
「あいよ!」
もう一つリンゴを投げ寄越されて受け取ったクゼハルトは言われた通り奥に進む形で歩き出した。リンゴは今から夕食にありつくので魔王へ保管してもらう事にした。
△▲▽▼△▲▽▼
クゼハルトが立ち去った後、ギルド内部はとても慌ただしく職員が動き回っていた。特に騎士と連絡を取るために動き回っている職員は門のところまで移動したり。そのまま使いっぱしりで各所の門を駆けずり回ったり。動き回ったと言うより走り回った職員だけはすでにベッドで疲れはてていた。
「リーナリーナに行かせればよかった」
「そのように言われましても。私、ギルド内以外なら迷う自信を持っています」
「いらん自信だなおい」
そんな軽いやり取りをするも、それは口調だけ。走り回ったギルド職員により駆けつけてきてくれた騎士を出迎えるために今ではその準備に慌ただしい。
先刻、クゼハルトが持ってきた報告はとてつもなく面倒な事になっていた。ゴブリンが大量発生ならここ数年はないとしても出る時は出る。ただその大量発生がいつになるかわからないだけだ。ここ数年、魔素が活性化した覚えはない。魔物は魔素によって作られる。どのように作られるのかはまだ解明されていないが、活性化した魔素から魔物になる事だけは判明済みだ。例をあげればダンジョンだろう。魔核は魔素を産み出す結晶である。
それより今回持ってきた情報はゴブリンナイト、ゴブリンロード。ゴブリンの一つ上の上位種が問題である。それだけならまだいい。ゴブリンがいっぱしに強くなっただけで、単体なら冒険者Eぐらいで余裕で潰せる。ただゴブリンを引き連れた編成なのだ。ゴブリンナイトとロードさえ気にしていれば死なない事はない。
問題はそこではなく、その上位種が複数存在したと言う事。それはつまり、ゴブリンが大量発生している可能性がある。
ゴブリンが上位種にランクアップするには奇跡的なやり方が必要だ。最弱と謳われるゴブリンが魔物に勝てばいい。それだけだ。だが大抵のゴブリンはそれが出来ない。なぜなら彼らは最弱だから。殴ったら相手が勝手に死んじゃった、という奇跡を起こさなければ上位種にはランクアップしないのだ。希にゴブリン同士で殺りあう事もあるが、死闘までにはいかない。
まず、奇跡を起こさなくては上位種にはなれない。そうやってゴブリンナイトとロードは成り上がる。その奇跡的レベルアップが複数存在するのは絶対におかしいだろう。そんなに奇跡が起こるなら、もう部隊として出来上がっていてもおかしくない。ゴブリンキングやクイーンがそのナイトとロードを、そして多くのゴブリンを引き連れているに違いないのだから。
「来てもらってすまない。確認してほしい」
「ギルド長自ら、か……何を見ろと?」
「北門から見える森からゴブリンナイトとロードが発見された。それも複数。それは後で説明するが、今はこちらの確認を頼みたい。俺らではどうも確定しにくい」
「死骸なんか見せられても喜ばねーんだがな」
それはそうだろう。それでもギルド長としてグロルドは呼んだ騎士、この[ダリアンバス]に在籍する騎士隊長、ダヌラに確認させなくてはならない理由がある。
クゼハルトが持ってきたナイトとロードの防具はどう考えても中央の騎士が着る鎧だ。この大陸は五つの国に別れており、中央と東西南北に四つ。[ダリアンバス]はその西国に所属する街。国の大きさは大小様々だが、この最西端ではかなりの実力の騎士が派遣されている。それがこのダヌラだ。
なぜこの何もなさそうな最西端に実力を持つ騎士がいるのかというと、最西端の隣は別の大陸――魔界と繋がっていると言われているからだ。[トットス村]よりさらに西。そこは大陸の端になり、海となっている。その海の向こうには魔界大陸があると言われ、近くの街には防波堤としてある程度の実力者が集まる事になっている。
もっとも、海の向こうは魔界であると言うが誰も信じてはいない。向こうへ船を渡らせても帰ってこないから。それは何度やっても、同じ結果しか生まれていない。何度やっても帰って来ないこの事実だけで勝手に悲壮や恐怖は人に伝染して広まる。恐怖の物が向こうにあるなら?それらしい物をつけて近づかない事が懸命だ。だから向こうには魔界大陸があると思われ、ある程度の実力者が守るために集まる。たまに気分屋の魔族が現れるから拍車がかかったのだろう。まあ近づかないなら何も起こらない。変わりに今ではもっぱら、左遷の最終地点とされている。
で、だ。騎士に確認させてなんになるかと言えば、国の問題に繋がるからだ。もしこれが中央の鎧と確認がとれたら色々な事柄が交差するだろう。
まず中央に何があったか。行方不明なのどが出ているならきっとその騎士のものになる。
誰がやったか。もしくはどこがやったか。わざわざゴブリンナイトとロードに中央の鎧を着せるのだから一人ではないだろう。少なくともナイトを押さえながら鎧は一人では着せられない。かといってナイトが自ら着れるとは思えない。複数の犯行と見て妥当だ。それが組織の集団か、家か、国か――想像するだけで恐ろしい。
「なんでこんな干からびたような死に方してるんだ?」
「聞いてないから知らない。それどころではなかった。早く鎧を確認してくれ。手遅れになる前に色々と調査をしておきたい」
「………………はっきり言うぞ。これは中央のだ。間違いない。俺も着ていたからな」
「っ――ダヌラ。お前はどう見る?」
「……はっきりしないな。中央は数ヵ月前ぐらいに【勇者】を召喚している。それはもう各国に広まっているはずだ。だから、中央が何かするのはおかしい。個人的な何かと見ていいだろう」
「そいつは周辺を調べた結果、北東から見かけたらしい。中央を抜いたら北国のどこかか北大陸の[スノルミディカ]だ。あの大陸は妖精が住まう場所で確か魔族や魔物嫌いで有名だ。子どもですら魔物を見かけたら潰しにかかる。そんな奴らがゴブリンを操るとは思わない」
「北国は……[マーリィラ]が中心か……あそこも無理だろう。ただでさえも北大陸と睨みあっているのにゴブリンナイトなんか使ってなんになる。火に油を注ぐだけだ。それより俺はこのゴブリンナイトとロードを持って来た奴が怪しい。そいつがわざわざやったんじゃないのか?」
組んでいた腕を解いてグロルドに睨みをかけた。ダヌラはクゼハルトを知らないので可能性を言う。別に変ではないだろう。逆にそれはもっともな話だ。ゴブリンを討伐しにいったらゴブリンナイトとロードがいた。何かおかしいから丸々持ってきてギルドで調べろ。話がスムーズすぎる、とダヌラは言う。まるで何かの予兆をわざわざ教えているようだと。
今まで北門から出ていった商人や冒険者はちゃんといる。比較的に出入りが激しいと言えば中央へ行くための東門だが、北門からちゃんと戻ってきている旅人からゴブリンナイトとロードなどの報告を聞いていない。それなのに今回に限って複数が出てくるのおかしいと思ってもいい。現物があるのだ。並みの冒険者でこれだけの数なら疲れるだろう。グロルドは大まかにだがその冒険者は腕の立つ空間道具箱持ちであると伝えている。容姿はまだ教えていない。
「これを一人で持って来たのだろう?聞くだけで怪しいと俺は思うが?」
「私はそれはないと思います」
「……俊足のリーナリーナ殿。なにを根拠に?」
「ゴブリンナイトやロードを使わなくても、彼なら一人で十分だからです」
「と、言うと?」
「そいつはリーナリーナに勝ってんだよ。しかも、ご丁寧に片耳を落として。さっきもカウンター越しから襲いかかったリーナリーナを逆に押さえつけられたらしい。そんな凄腕がわざわざゴブリンナイトを使って調べろとまで言わないだろう」
「………………リーナリーナを押さえつけた?この街ではリーナリーナの俊敏に敵うものがいないのに?」
あまりの驚きにダヌラは目を見開く。それほどリーナリーナの素早さは長けているのだ。この街で敵うものがいないほどに。
「そうだ。それも呪い子。しかもそいつは呪いを解くつもりはない、と言ったそうだ。呪いは魔族の専売特許。まだ数回しか接触していないが腐ってもいない。よほどの恨みを持った奴か馬鹿じゃなきゃ中央を交えてこんな事はしないと思うぜ」
「呪い子……魔族を恨んでいるか、人を恨んでいるか………………一度、逢ってみる事にしよう。とりあえず鎧の方は中央に盗難がないか聞いてみる。国の物がなくなるなどよほどの事だ。中央も被害者ならこちらに協力してくれるに違いない」
「加害者の場合は?」
「情報を出来るだけ控えて様子見しかない。それと別のルートを使って探すしかないな」
「では、ダヌラ隊長が中央へのご報告をお願いします。こちらはゴブリンナイトやロードが使ったいた装備の出所を調べておきましょう」
「あいつはたぶん明日もここに来る。待つか?」
「いや、自分から行く。場所を教えてくれ」
「――わかった」