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第七話

修正いたしました。28.10.22

 軽い足運びでゴブリンとゴブリンの間を舞う一人の少年。外見から見ればその少年は背が高いので青年にも見える。まあ、青年と言われても構わないのだろうが――…


 頭にちょっとまるっこい太った鳥を乗せて振り回す黒い棍棒は能力ゆえに鮮やかに使いこなし、緩やかに動いてゴブリンの行動を制止ながら確実に心臓を一突きでゴブリンを絶命させていた。


 腰元にあるゴブリンの小さな頭はとても少年、クゼハルトの視界に微かしか映らない。下を向かなくては見えないのだから足元を注意していないと踏み潰してしまい頭上から聞こえる声に軽い叱責が飛んで来る。身体強化してあるがために少し力を入れただけでゴブリンから悲鳴が上がるほどだ。あとから見たら綺麗に潰されていた。


 かと言ってクゼハルトがゴブリンの攻撃を食らってしまうと地味に痛い。痛いものは痛い。故に飛んだりして回避するのだがゴブリンは追いかけてくる。集団行動を好むのかはその飛んだ先にもゴブリンがいるのだからたまに潰してしまう。


 棍棒は確実に心臓を一突きで絶命させているのだが……上から聞こえる声は次第に不満な声で非難を浴びせてきた。


『ちょっとー。ゴブリンを踏みつけたら血が飛ぶでしょー。こんな小汚ないもの見ても面白くない。減点ものだね。今から血を見せないでゴブリンを殺しなよ』

「はあ!?こんな弱いのにもっと手加減なんか難しいって!」

『あ!ほらまた潰してる!!もークゼハルトは不器用だよねっ。首を刈る事しかできないの?』

「それはお前の趣味だろうがっ!!あ……」

『……頭部粉砕。最悪。クゼハルト?加減ができなきゃ駄目だって僕は言ったよね?ゴブリンだからいいけど価値ある魔物は小さい傷や汚れだけでその価値が下がる。せっかくの僕のお情けが台無しだよー。今から素手に変更。血は出すな――できるよね?』

「――わかった」


 短く返事をすればデブ鳥を通じて棍棒は回収された。クゼハルトは一息だけついてゴブリンを見つめる。その数はまだ二十匹ほど。武器を構えて互いに睨みあっている。


 そんな中でクゼハルトはどうやれば血を出さずにゴブリンを素手で倒せるか考えていた。考え付くのは、柔道の技とかにある相手の首などを絞めてじわじわとやる技なのだが……生憎と一瞬で仕留められそうな知識はない。むしろ力があるので千切れてしまいそうだ。しかもそれは複数相手にできる技ではないだろう。さて、どうしたものか。


 あと考えられるのは暗殺的な何かしか思い浮かばない。その暗殺と言うのも隠し武器をもって影からさっくり――と言うイメージしかなかった。どうするか本当に悩みだす。


 しかしながらゴブリンが待ってくれるはずもなく……一匹が襲いかかればもう数匹も一緒に襲ってくる。ここで迎撃に蹴りで三匹ぐらいは一気に片付けたいのだが、加減が未だに難しいクゼハルトにはどうも攻撃に行けなくて防戦一方となった。


 まず、一匹が乗り遅れたのでそいつを掬うように足で持ち上げて投げた。落下ならそこそこの高さでやれば骨折となると思ったからだ。ようは実験である。


 しかし、持ち上げられたゴブリンはそこそこの高さでは問題ないとばかりに身軽に回転して足から着地してしまった。クゼハルトの思惑はうまくいかない。なら次は――かなり加減して首を捻っていくしかない。それしかもう……それしか考えつかなった。


 威力をつけると多分でもなく、ゴブリンの首は簡単にもげるのだろう。ここはもう一度一匹で試してみる。少しずつ加減して見ていかなければならない。本当に幸いなのは、避けられる早さで地味に痛い程度の弱さだ、と思わされる。


 ジャンプしてクゼハルトの顔を狙うやつは総無視だ。まず、地についていて鷲掴みできそうなゴブリンを狙い下に存在するゴブリンの顔面を掴む。掴めばそれを蛇口でも回すようにまずは軽き捻るだけ。ゴキっと音がなればとりあえず手を離して様子見だ。動かなければ大体の加減をこれでいこうと考えている。


 ちょうど鷲掴みにできるなら、ともう一つ閃いたクゼハルトはちょうど回り込めたゴブリンの首を掴み、持ち上げた。その他の攻撃を避けながらじょじょに締め上げ、ゴブリンの絶命を狙う。


 結果と言えば動脈をうまく掴めたらしく窒息してくれた。時間がかかるがやれない事はない。そう、時間だ。あと十八匹もいるのに一つ一つ締め上げては時間がかかりすぎる。かと言って焦っていきなり絞めすぎるとゴブリンの細い首は分断されるだろう。やはり顔を捻った方が良さそうだと判断した。最初のゴブリンは顔を真横にピクリとも動かない。


 そうと分かれば捻りあげる。首を掴んで絞めつつ盾にする事で残りのゴブリンは数分で片付いた。かなり時間が圧していて終わった頃には冒険者カードがお昼の時間を示している。


『合格だけどかなり強引な倒し方だったね?――もしかして、召喚された異世界の渡り人って〈空波〉が出来ないの?』

「くう、は?なんだそれ」

『えーとね。空気を波動させて攻撃するんだけど……空気に魔力で作った振動を与えるだけ。そうしたら隔てていても魔力の振動が隔てを通りすぎて向こう側に攻撃ができるんだよ。もちろん、当てたところにも攻撃が入るんだけど……』

「無理。俺、人間だから」

『いや、人間でもできるから』

「あっちの世界でそんなもんないぞ」

『僕はそれを想定して素手にしたんだけどねー。予想の斜めに跳ね上がったよ』

「俺はこの世界の人間じゃないんで。知ってて近づいてきたんだろう?魔王って実はうっかり者だな」

『僕はうっかりゴブリンナイトまでも鷲掴みにして首を捻るクゼハルトに言われたくないなー。まだ気づいていないんでしょ?』

「え、なんだそれ」


 やっぱりねー、とちょっとなげやりに言う魔王はそっちそっちと促す。そこにはあの小学生ぐらいの子どもサイズと、中学生サイズのちょっと大きめのゴブリンがいた。


 違いと言えば大きさと……装備だろう。ゴブリンナイトと言うだけあって大きさは中学生のようにやや高め。何やら全身を覆うようなでも関節の部分は動かしやすそうに繋ぎ目が見えず兜までかぶって死んでいた。


 これを見た時のクゼハルトはと言うと――そう言えば摘まみにくい奴がいたな、と納得するだけだ。顔面を狙っているのに掴む範囲が少なく、かと言って後ろから首を掴もうにも何かが邪魔をしてやりにくい、とは思っていたものだ。まさか、兜を被っていたから掴めず邪魔だとはその時は思っても見てもいなかった。因みに鷲掴みだとどうしても顔面を掴む前に耳を防ぐような兜なので握れず、後ろから隙間を狙って首を絞めた。


『でさ、袋なんて持っているの?』

「……袋?持ってないだろ。荷物は魔王が管理してるんだから」

『そう言えば道具屋によるの忘れてたよね。どうやって持ち帰るつもりなの?依頼証拠品、ゴブリンの右耳』

「………………なにか袋を貸してください」

『素直な子は好きだから良しとしよう。でも帰ったら道具屋にでも行って袋とか色々と必要なもの揃えるよ。さすがに毎回、血生臭いのを僕の私物とかに近づけたくない』

「このデブ――エリザベス……なんちゃらの中身ってどうなっているんだ?」

『エリザベスローズマリーヴィリアンヌマチルダアリアマリアフィリーナ。覚えた?因みに繋がってるのは僕の城の宝物庫。あ、価値が付けられないから売ろうとしても無駄だよ。僕の玩具は馬鹿じゃないからやらないと思うけど』

「やらねーよ。むしろ呪いの剣とかがほとんどなのにそんなの持ってきたら追い払われる」

『分かってるね~』


 頭上からけたけたと笑い声がするが、まあそれはいつもの事なので気にせずクゼハルトは出された白い布でできた麻袋みたいな袋にゴブリンの耳を根本から千切っていれる。意外と綺麗に切れるなー、とクゼハルトは思っていたのだがそれは左手で引っこ抜くのではなく根本からゆっくりと捲るように千切っているからだ。本当は魔王に言えばナイフなど切れるものを貸してあげるくらいはするのだが……ないも言わないならいいじゃないか。魔王もどこか適当に終わるのを待った。


 因みにゴブリンナイトは魔王がそのまま回収した。理由はこのゴブリンナイトが来ている装備がどこかの国の鎧だったから。その証拠に首回りの中心に四角く彫ってその中に何かが描かれていた。これは一般防具と見分けるためだ。


 魔王が言うに、国の支給された鎧はなかなかいい素材を使われている事からこれを再利用できないか企んだためである。ギルドに見せるかは魔王が考えている。さて楽しめるように面倒事を引っ掻き回すにはどうすればいいか――考えるのはそれだけだ。


 転がっているゴブリンから耳をとった数。ざっと三四匹。冒険者カードを見ても、その三四が足されて五三となっていた。


 次は洞窟の中なのだが……ここで魔王がストップ。なぜと聞けば薬草を探そうと言い出してきた。さらになぜと問えば、洞窟の中はゴブリンともう数匹ほど、少し強めのゴブリンがいるらしい。魔王の知識ではゴブリンナイトがいるならゴブリンロードと言う魔法タイプがいるのだとか。パーティみたいにどちらかが複数いる可能性は間違いない、と。今回がそうなのだろう。


 それと一番魔王が言いたかったのは、ゴブリンを見飽きたらしい。もう見たくないと言われて無理矢理にでも連れていけばどうなるか……素手で戦わなくてはならないだろうし、魔法を受けたらポーションを持っていない事に気づいたクゼハルトは回復ができない。当たる気はないが、どれだけの早さで魔法を打ってくるのか想像は出来ないのだ。


 それになんと言っても、魔王の命令にはあまり逆らえない。先ほどの棍棒を勝手に回収されたが抵抗はそれほどなかった。契約によって傀儡になったし、無理に逆らえる事はできないのだ。そうするとトゥリュカが埋め込まれている左胸がやけに熱くなる。きっと――いや、確実に魔王が施した術の張本人だからこそそんな事も容易くできるのだ。せっかく繋いだ命――簡単に壊す事はない。


 だが、現実もそう簡単になる事もない。話し合っていたら洞窟の中のゴブリンがこちらに向かってくる気配がしていた。それはクゼハルトでも何となく分かる。魔王のため息も、なんとなく分かる。


 しかたないね、と言ってくれる魔王。実は残酷な面を見せつつも優しいよな、と思うのは感化されたからだろうか。まだ数日としか経っていないが、たまにそんな事を思っていた。


『殺ろうか――こうなるってなんとなくわかっていたし。耳を回収して放置でいいよ。僕は闇が見たくなったからそれで隠せばいいんだ。大好きな武器を使ってもらおうかな』

「早変わりだな」

『僕の一喜一憂は誰にも邪魔させないからねー。僕がこうだと言ったら、そうなんだよ。いい?耳だけだから。ただし、ゴブリンロード、ナイトだと思わしきものは触っちゃ駄目だよ?もしかしたらまたかもしれないし、いいローブを着けているかもしれないから』

「了解」


 手渡されたのはクゼハルトの身長より少しだけ長い大剣。漆黒の刃に銀の縁取りは少し珍しく思えた。《常世の大蛇》――切り裂いた獲物に痛みを永遠に。傷口から蝕む闇は持ち主の魔力を奪って獲物を闇で覆い尽くす。獲物の大きさによって魔力の奪う量が違うと言うがクゼハルトなら大丈夫だとお墨付きをもらった。


 説明を受けて出されたそれは右手では力が足りないのか少しやりにくい重さだ。左手でも扱えるのでなんの問題もない。さてこれは天賦の才か。オールマイティー故か……


 クゼハルトを見つけたゴブリンは何か叫んだと思ったら突如、自分の武器を振り回して戦闘心むき出しに襲いかかってくる。それに素早く反応したクゼハルトは大剣の重みに負けない動作で避け、確実にゴブリンの右耳を狙った。よく考えたら左手がゴブリンの右耳を裂くのにちょうどいい。なんなく操りながらそんな事を思う。


 耳を削げば途端にゴブリンから雄叫びが上がった。鼓舞するように小さな不揃いの歯を突きだして叫ぶが、それは途中でかき消されてしまう。どうやら魔王か言っていた闇が関係している。


 大好きな闇で隠せばいい――それは何を示しているのか……それは片耳をなくしたゴブリンが教えてくれる。雄叫びのような声をあげたかと思えば、切り落とした耳から黒い靄が吹き出てきた。それは血のようにも見えたが出てきた靄は黒く、ゴブリンを包み込む。


 痛いのだろう。逃げるようにもがいて這うように避けようとする姿は靄――闇のおかげですっかり黒い塊だ。叫び声のようなよくわからない声が鳴る。


 それからの意識を断ちきれば近い獲物から次々と落ちていく耳。そして次々と耳から闇がゴブリンを包み込み悲惨な聞き取りにくい叫びがそこらじゅうに響いた。


 そんな時、たまに横からくる火の玉に意識を向ける。ファイアボールだが威力はそこそこ。バスケットボールぐらいはあると思うがクゼハルトの手にかかれば一閃でそのファイアボールは切れて維持ができなくなり消える。腹が立っているのだらう――土気色のか体がなんだか赤く見えた。


『ゴブリンロードが二匹。ナイトが一匹……クゼハルト、他のゴブリンを殺ったら避けてて。なんだかおかしい』

「よっ!――あと五匹!……何がおかしいんだ?っ――」

『余裕だねー…………僕が正しければあのナイトとロード、やっぱり国の支給されるものだよ。さすがに国まで覚えてないけど、ゴブリンにほんの一つ上のロードとナイトが揃いも揃って国を着るのはおかしいかな。低脳のくせに四人の身ぐるみが剥がされて綺麗に着ているのはおかしい。鎧に傷もあんまりない』

「っ――しっ!完了。……そう言えばそうだな。てことはナイトの武器も国のか?何でまた……」

『さあ?ちょっと捕まえよう。もしかしたらお馬鹿な魔族が絡んでいるのかも……なんて嘘だけど、きな臭いのは確かだね』

「何でやればいい?出来たらナイフがいいんだけど」

『しかたないなー。んー……はい。これは血を吸うからあんまり長く刺さないでね。吸収が早いから。当たったら当たり前にクゼハルトの血も吸われるからね』


 また回収して出されたのは雷のようなギザギザっと角ばった並みを描く赤いナイフ。名を《飲血潤(いんけつじゅん)》。その名の通り血を飲んで鋭利が増すらしい。因みに赤色は今までまだそんなに使われていない証拠だと言う。血を放っておくと黒くなるでしょう?だから黒くなったら最高にいい切れ味になるよ、と魔王が笑いながら言った。


 ナイフをもらったクゼハルトがやる事はただ一つ……ここには影も隠れる場所もないが、早さはクゼハルトの方が上と分かりきっている。暗殺者――までとはいかないが後ろに回り込んで首をかき斬る事はできる。できると、確信していた。まあ、思うだけでやれないとわかればすぐに違う動きになるが。


 怪我をしたくはないと思っていたが、服を傷つけないで殺るのは難しいのだ。先ほどのように素手でやってもいいがゴブリンロードが少し邪魔だった。真っ正面は魔法がくる。なら回り込まなくてはならないし、もしガードされたら本当に面倒だからだ。そしてクゼハルトも魔王と似たような気持ちで手の感触からもう触りたくはない。なら、別のもので殺らなくては殺れない。唯一の救いは魔王がすぐに貸してくれた事だろう。


 ゴブリンロードが二。ゴブリンナイトが一。黒く蠢く者が足元の転がっているがそれを避けながら襲いかかるのは――前衛のゴブリンナイトだ。その後ろでは詠唱か、何やらぶつぶつ囁く声が風に乗ってくる。


 まず、ゴブリンナイトは刺さずに転がした。足の踏み場がクゼハルトの回りにはあまりないため少しでも広いところに出たい。のと――ゴブリンロードの援護が面倒だからあちらを先に狙いを定めている。ローブなら強く蹴っても破れない。突っ込まなければいい。蹴り倒すように一匹を地面に転がし、完成した魔法を避けて立っているゴブリンロードの右目に、斜め下からナイフを差し込んだ。


 そこで驚きなのが、突き刺したナイフが血を飲むと言っていたがそれが手にまで伝わるとは思ってもいなかったこと。ゴクリ、ゴクリ――動いているわけでもないのに、手の感触にはっきりと血を飲んでいる感覚をナイフが伝えてきている。


『早く抜いて』


 はっ、として抜けば――ミイラ寸前のゴブリンロードが出来上がった。もう少し突き刺していたら完全に骨と皮のミイラが出来ていたはずだ。この《飲血潤》、物の数秒でミイラにさせるのは本当だった瞬間。


 次は――また襲いかかってきたゴブリンナイト。身軽な動きで回避して降り下ろしてきた剣を避けてそのまま脇を刺せばまた数秒でミイラ。魔王がちょっと下手と言うが、初めてで完全ミイラになっていないだけましだろうと思うが黙っておく。


 最後のゴブリンロードもさっくりと。魔法が完成する前に飛び込んで喉をスローで斬る。今度は接触が少なかった分なんなく形が残ったゴブリンロードが地面に倒れた。血が吹き飛ばないこのナイフに、感嘆の声をあげるのはやはり魔王だった。


『ちょっと周辺でも見てこようか。何が出るかなー?楽しみだね、クゼハルト』

「俺は全っ然、楽しみじゃないな……面倒だけは止めてくれよ」

『僕は面倒になってくれればいいなー。そうすればクゼハルトがまた僕の言う事を聞いて闇と血が満たされる。次はどんな殺し方がいいかな?クゼハルトも考えてみる?』

「俺にそんな趣味はない。日本人としてなら、斬首でじゅうぶんだ」

『骨を断つからそれってけっこう難しい技なんだけどね。武器がいいんだか、クゼハルトの腕前なのか……どっちでもいっか』

「どっちでもいい。んで?もういいだろう?どっちに行く」

『右かなー?』


 絶命の叫びを聞き終えた魔王は闇がゴブリンを貪るのとクゼハルトが耳を回収するのを待って右と促した。今日の気分は右らしい。首を左右にふりながら最後に短い翼を突き立てて方向を示す。


 丸く太っていても、その動きは心なしか可愛いと言える仕草だが、残念なのはその仕草が誰も見ていない事だろう。さすがにクゼハルトも頭の上でなにか動いたな、と言うぐらいしかわからない。


 ゴブリンの死体はすべて《常世の大蛇》で闇をまとわせ貪らせた。証拠隠滅に闇は格別だとまたデブ鳥からころころと笑いが放たれる。


 それでもまるっと無視するのがクゼハルトだ。彼にはやるべき事ができてしまった。さらに言えば深追いを今からするのだからそれに集中するために警戒していなくてはならないからだ。


 また《飲血潤》に持ち変えて魔王の誘導の下、森へ入る。さてこれをどう説明すればいいのか……こっそり悩みながらクゼハルトは森の中へ消えた。






 △▲▽▼△▲▽▼






「悪いな……ついて来てもらって」

「本当に、悪い。お前らだってあっちにいたかっただろう?」

「別にいいよ。どうせあっちに残ったって女子にハブられるだけだし」

「気にしないで。私も――名前が思い出せないけど、彼女を探したいの」

「我々も――言ってはなんだが少し勇者殿と距離を置きたかった。渡舟だよ」

「仕事を忘れなければそれでいい」


 馬車に乗りながら六人は狭いせいもあって縮こまりながら小さくお互いに頭を垂れる。


 この馬車は王都をようやく出て西に向かっていた。それはあの消滅してしまった[トットス村]の調査に行くためだ。――表向きは、だが……


 馬車に乗っている少し軽装備だが城から提供されている鎧を来ている二人がいる。この二人が、異世界から召喚された少年少女たちを西に行けるようについてきた言わば護衛と言うなの監視役だ。


 本当は西にこの少年少女たちでは旅をさせられない。まだ細かい事を知らない彼らだけではきっとたどり着けないからだ。それと、国が管理していると言ってもいい異世界人を無闇矢鱈と野放しには出来ないから。


 彼らはとある少年と少女を探している。名前はみな忘れてしまったが召喚される前はそれぞれ親しんでいた仲だ。


「ねえ、これから西に行くんでしょう?ええと、ガリアさん。どれくらいかかるんですか?」

「畏まった言葉は不要だ。これから長旅になる。トットスまでに三つの街によりながら最速でも三ヶ月かかる」

「そんなに!?」

「ああ。この馬車は王都に返さなくてはならなくてな。こいつで行けばもう少し短縮できるだろうが、王城のものを私物には出来ない」

「ではイールさん、次の町で馬車を変えるんですか?」

「変えなきゃならない。[ニニグリア]ですべて取り替えて再出発だ」


 ぐっ、と拳を握る護衛騎士がこれからの流れを教えておく。これからガリアとイールはこの四人に世界を教えなくてはならない。


 彼らの世界を少し聞いていた二人は絶句したものだ。魔法がない。彼らが身を置いていた国は武器の持ち運びや所持が許されない。この世界と正反対な世界から来た彼らに、この世界の現実は厳しいだろう。一般的に醜い魔物を見せただけで、少女たちから悲鳴が飛び交っていたのだから。


 王からも言われている。彼らが最終的に戦うのは魔族であり、人の形をしている事。城から出てしまっては、いつどういう時に出会うか分からない。そして、魔族を割りきれても盗賊や野党は割りきれないだろう。他人なだけなのだ。この世界はそう割りきっていかなければ簡単に死んでしまう。


 殺してもいい人の形をした悪党と何が違うか聞けば歩んだ道が違うと言うだけだ。この平和な世界から来た彼らは見た目で囚われる事をよく知っている。


 獣系の魔物も、見た目が可愛い奴だと少女らは楽しそうに声をあげていた。目の前にいるのはその少女らを襲う魔物だ。気が抜けない。


 少年らも、見た目がごつい魔物を見ると楽しそうに笑いだす。もう一度言うが、目の前にいるのは人を襲う魔物である。へらへらしていたら即、噛み殺されるだろう。


 これらを教えていかなければならない。まだ恐ろしいものはたくさんある。それを、教えなければならないのだ。


「いいか、何度も聞いていると思うがこれは遠足や君たちが言うげーむとやらではない。なにもしなければ死ぬ。痛い思いをしたくないなら剣をとれ」


 言えるのはこれぐらいだろう。この言葉でも気休めだと分かっている。でも、言う事でガリアにも気合いが入るので間違いは起きぬよう、注意ができる。


 六人が乗る馬車はまだ揺れる。転がる石を蹴りながら揺れながら。西を目指して、彼らは調査と人探しを目的に西へ向かう。




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