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第六話

修正いたしました。28.10.22

 案内された場所はだいぶ整頓されたあの、グロルドの執務室(だったらしい)場所だった。書類は減っていないような気がするが座るソファーは脱ぎ捨てられた服などがなくなっているしテーブルの上には何も乗っていなくとても綺麗だ。


 ソファーを薦めてグロルドが堂々と座ったのを見て面倒そうにクゼハルトはため息をつきながら座った。これから依頼をこなして一ヶ月でランクCにならなくては魔王がなにを言う分わからない。今のところそんな酷い事は言われていないと思うのはクゼハルトの感覚が少し変わってきているからだろう。『魔王の傀儡』と言う意味は完全にクゼハルトを縛り付けている言葉だった。


「なんで殺した?」

「正当防衛」

「やりすぎだ」

『殺してやるとか死ねとか言われて黙っているほど大人しいわけないじゃん』

「殺してやる。死ね、と言われて抵抗しない方がおかしい」

「気絶させるとかあっただろう?ギルドの近くなら、職員に頼めば止められる」

「昨日の説明に、あんたは教えなかったが?」

「若い冒険者よりまだ若いお前が、人を簡単に殺すとは思ってなかったんだよ」

「それはあんたの見誤りだな。ギルドに詳しく説明を受けていない。説明をしたのはここのギルド長のあんた。非はどちらにあるんだ?」

「はあ………………冒険者同士の揉め事は個人で始末をつける。だが、その揉め事が不相応の場合はギルドか介入で治めるんだ。今回のはどうせ相手がいちゃもん付けてきたんだろう?不相応だからギルドに言えば穏便にすんだんだ。治安が乱れるから、ああ言うのはああ言う場所で普通にやらない。まったく別の問題がでてくる」

『あれで治安が乱れるなら冒険者って煙たがれていると思うんだけどね』


 そんな魔王の突っ込みが聞こえるわけがないグロルドはさらに説明する。


 まず、冒険者は基本、魔物や盗賊に落ちた者以外に殺生をしてはいけない。ただ相手に明らかな敵意があり、武器を向けられたらそれはしかたがないこと。喧嘩はどうしても起こるのだからそれは別にいいらしい。


 しかしそれは人通りが少ない場所、またはギルドの訓練所などを利用して一般市民にはできるだけ負担をかけないようにするのが冒険者として当然な事だと言う。


 冒険者は騎士のように町の護衛でもなんでもない。ほとんどが旅に出たりするちょっとした荒れくれた者たち。喧嘩が絶えないとなると、元々ここで暮らしている住民に迷惑がかかってしまうので何かあればギルドの方で処分することか穏便にすまされる。


 だから、あんな道通りの多い場所でしかも公開処刑のように残虐な行為はするものではない、とグロルドは締め括る。


 聞かされたクゼハルトはと言うと、まあ冒険者になったのだからルールは守るつもりでいる。しかし、今回の事でなぜ今さらになってお説教を受けなきゃならないのか。不満であった。


 今回は説明してない俺が悪かったと言うが、今回だけだぞ。今回だけだからな。今回は、今回の、今回――と強調してくるので実に腹ただしい。釘を刺したいのは分かる。確かにあんなところで何回もやられたらたまったもんじゃない。だけどそう何度も強調しなくてもいいと思うのだ。


『つまんなーい。結局さ、説教したいだけなの?あとの処理はどうとか言ってくれないわけー?』

「――今度からギルドに言えばいいんだろう?同じ事を何度も言われたら苛つく。結局はどうすればいいのか、後処理として適切な回答をしてくれないか?ギルド長」

「っ――はぁ。悪いな。熱くなったか……まず、お前は普段通りでいい。俺も聞いていたからお前は正当防衛として動いたに過ぎない。やりすぎだけどな。これであいつの仲間が何か言ってきたら俺を呼んでくれ。たぶん――仲間が死んだからその代わりに金を請求してくる……かもしれない。『突風』はけっこう有名なメンバーだったからな」

「ふーん……そのわりには最後、誰も駆け寄らなかったよな」

『見てたんならおっさんも止められるはずなのにね?なんで文句言われなきゃならないんだか』

「俺は上から見ていたんだよ。お前が立ってこっちに背を向けていたから細かいのは見えなかった」


 ガリガリ頭をかいて荒いため息。あの場でまともに動けるのはいなかっただろうと言われた。


 そんなわけでようやく解放されたクゼハルトは「何かやる前にギルドに聞けよ!」と言う掛け声を背に退出した。大股で降りていけばカウンターの横の扉から出るのは奇妙なもので――奇異の目で見られるのはしかたない事だ。


 ぼそぼそと囁く声が聞こえるが、まるっと無視して依頼掲示板へと歩く。そこにはメモ帳のような小さめの紙にランク、依頼部類、依頼内容、数、報酬が手書きで書かれている。


 ゆったりと来てさらにゴタゴタしていたので掲示板の依頼は実に少なかった。討伐系が二つと、採取が四つ。街の依頼が三つだ。さて、どれをやるかと悩むが――


『早くクゼハルトには強くなってもらいたいからー、ここは複数でしょ!採取を全部やっちゃえば?』

『複数をやるつもりではいたけど、ご丁寧に採取場所が四つの内三つに別れているじゃねーか!せめて場所をまとめろ!』

『じゃあ街の依頼ね。同じ街だよ。場所は一緒だよ。地形を覚えるのにちょうどいいんじゃない?』

『ずいぶんと適当になったな』


 それでも選びにくいな、と思うのは街の依頼でも迷子の動物探しや教会の子守。最後に道具屋の荷物運びの依頼だ。


 どう頑張っても動物探しは運任せだし子守りと荷物運びの日付が被らない。ばらばらである。とりあえず一枚選んであとは詳しく説明してくれるはずの受付に聞いた方が懸命だろう。


 あと考えられるとすれば討伐と採取を組み合わせるか。討伐はゴブリンが複数の目撃証言が出ているので速めに対処してくれ、と言う内容だ。討伐して余った時間に、または行き帰りで採取できればいいんじゃないかと考えている。


 だが最初は無難なものを選びたいな、と思うクゼハルトは討伐をやると考えていなかった。やはりここは一回ほどやって依頼の流れを見ておきたいと思ったからだ。


 だがしかし、ここで頭上からお気楽なお告げが降ってくる。もちろんそれはデブ鳥から聞こえる魔王であり、魔王はさも出来ますと言わんばかりに言うのだ。


『このゴブリンでいいじゃん。あぶり出していっぱい狩ってね、クゼハルト』


 拒否権は、ない。


 もう決定してしまったのでこれを――先ほど見ておいたために引きちぎって窓口まで向かった。朝の時間が過ぎ去ったために受け付けはがら空きだった。


 もちろん向かうのは大人しそうなあの、グロルドにギルドカードを踏んでいると言ってくれて受付嬢。さらりと流れる長めのストレートな桃色の髪を背中に。眼鏡の奥には透き通るような青い瞳で仕事をこなしていた。よく見ると――トゥリュカに見えるな、と心の中で呟く。いつの間にか心臓の水晶を掴んで……


「すみません、この依頼を受けたいんですが」

「かしこまりました。こちらの依頼はお一人で受けられますか?」

「はい」

「冒険者カードに依頼を転写させます。冒険者カードの提示をお願いします」


 スムーズってこう言うのを指すよな、と。懐からカードを取り出す。


「お預かりいたします」


 カウンターからでは見えないがカウンターの裏では依頼の紙と冒険者カードを転写する何かをしているのだろう。かしゃんと言う音をさせたら……かちゃりと言う音で出来上がったらしい。


 どうぞ、と手渡された冒険者カードを見るとちゃんと記載されていた。


『色々と、聞いておいた方がいいんじゃないのー?』

「あ」

「――何か、お忘れものですが?」

「この依頼って一度に複数の依頼は出来るんですか?」

「はい、出来ます。ご説明してもよろしいでしょうか?」

「お願いします」


 たぶん。いや、十中八九でグロルドのバッサリした説明を聞いていたからこそ、説明を申し出てくれたのだろう。


 まず、依頼は先ほどの依頼掲示板から自分のやれると思うものを窓口に持ってきてもらう事。そしてここで冒険者カードに依頼を転写して、ようやく依頼が受けられる。完了すればまた空いている受付の誰かにカードと依頼完了の討伐部位や採取品と一緒に報告してくれれば受付で処理してくれるのでそれで終わり。


 仮に依頼失敗をしても報告は必要とされた。その時に罰金として銀五枚を取られるので、ちゃんと依頼は吟味してからお願いしますと頭を下げられた。この時のクゼハルトはたじたじだ。


 依頼にはもう一つ指名依頼があり、上級の冒険者でランクがBになると希望の方が依頼してくる事があるらしい。その依頼を指名されたら絶対に面会しなくてはならず、説明を聞いた上で本人の意思で受け答えする事が決定事項。その場には必ずギルド長が携わるので、王族関係以外だったら断っても大丈夫と言う事。ちゃんとギルドが不正がないかを調べて初めて冒険者に教えるので、暗殺などはないと告げられた。



 それともう一つ。依頼の複数を受ける事は可能と言った。代わりにそれは一日で終わらせないといけないと言う制限がつけてあると言う。理由としては依頼の独り占めとされて他の冒険者に行き渡らないからだ。それと複数依頼をこなすなら三枚までと決められているらしい。


 あと、持っているもので依頼を完了させてもいいと説明する。依頼が早く終わるには別に問題ないからだ。討伐系となるとややこしくはなるが、採取などは急げば薬ができ店が品切になる事なく営業できるから。ただし、指定された数や報酬は一切、左右されることはないと言う。それがどんなに品質がよかろうとも。


 依頼にはキープも出来て先にしていてもいいが、予約より現時点で受けてくれる冒険者が最優先されるのでそこも注意するように言われた。


 そして最後に――裏稼業の手伝いや悪徳商売などの行いをしてしまった場合、指名手配され冒険者カードは勧告された瞬間から使えなくなり、ランクもギルドではZに落として悪人扱いなので悪事はしないように願われた。


 あとは分かっていると思われますがと前ふりを入れて新人冒険者が無理をしないように、依頼は自分のランクかそれ以下しか受けられないのでランク確認はしっかり行って下さい、と締め括る。


「何かございましたらご遠慮なくお話しください。対応できるものでしたら受け答えは可能ですので、今後も冒険者ギルドをよろしくお願いします」

『やっぱりおっさより美人だよね』


 グロルドとは大違いの丁寧な説明に思わず笑みを溢す。目をそらされてしまったが、クゼハルトは気にせずお礼を言ってギルドを出た。


 外はいつの間にか綺麗になっている。血が地面にこびりついていたと思っていたがそうではないらしい。騎士の必死な努力のおかげで血を削ったり土を混ぜたりと、作り替えていたのだが本人が知るよしもない。


 依頼のゴブリンは北門から出て見える森から数匹ほど見かけたと言う情報だ。数は十となっており、証明のためゴブリンの右耳を持ってくる事が書いてあった。


 十匹と言う事で報酬は銅貨四枚。つまりは四百円で一匹あたり四十円しかならない。誰もやりたがらないのは当然か……ランクFの冒険者がいないのか。後者な気がしたのは、ギルド内部に若者が見当たらなかったからだ。まあ、その内に訓練所にいた若者が巣だって行くだろうと思っておく。


 さて、北門に向かう前に道具屋によりたいクゼハルト。回復薬(ポーション)は持ちたいところだ。しかし場所がわからないのはしかたない。まだ時間も八時頃ならぶらりと街を歩くのもいいだろう。


 しかしそこで騒ぎだしたのが魔王だ。このデブ鳥のどこに鼻があるのか――あっちから香ばしく肉の匂いがするらしい。行けと言うので行ってみるのだが……北門から遠退く……


 まあそれは置いておいて一応それらしい匂いを追いかけて進む。ついでに魔王が誘導するものだからたどり着いてしまうのだが……


「串肉屋、か」

「お?あんちゃん食べるかい?昨日にいい肉が入ったからこの肉は今だけだぜ!」

『クゼハルト、買うんだ!!僕はあれが食べたい!!百個ほどお願いしようかな!』

「んじゃあおっちゃん五本くれ」

『なんで!?僕は百って言ったよ!?ねえクゼハルト!?』

「あ、追加するかも知れないから」

「ああいいぜ!まだ人がいねーからな!一本銅貨一枚!五本で銅貨五枚だぜ!」

「ん」


 だせ、と手をデブ鳥に出したらペロンと出てくる銅貨五枚。どうやら、大銀貨をだしてお金の暴力に出ないらしい。追加が利いたのだろう。


 それを屋台の男に驚かれながら渡せばすぐに正気に戻って焼けた串肉を五本と交換。どうぞと言わんばかりにデブ鳥に差し出せばその五本は口へしゅるんと回収された。


 しばし待って見て……魔王から返す、と言う声とクゼハルトも食べたい有無を伝えて串とお金をせがめばペロンとまた要望したものが出てきた。ごみは屋台の近くにあるゴミ籠へ。銅貨一枚は店の男へ。また買う。


「その鳥、美味しかったか分かるのか?」

『うん。美味しいよ!でももういいや。脂っこい。塩加減もちょうどいいけどたくさんは食べられそうになかったよ。百本は危なかったね!』

「美味かったってよ」

「へー、動物と会話ができるのか!なんだか鳥にも喜んでもらえたなら俺も嬉しいな!はいよ!お待ち!!」


 ぶつぶつ交換で一本の串肉を頬張る。その一口目でなるほど、とクゼハルトも思わす笑みを作った。


 噛めば噛むほどでる肉汁はまるで牛肉のようにジューシー。絶妙な塩加減と焼き加減のおかげでそのジューシーさは引き立ち、こりっと柔らかい食感が食欲を誘う。


 なにも言わぬが、親指を立てて店の男へサインを送るとこれまた嬉しそうに笑ってくれるのだからいい仕事をしている、とクゼハルトは笑顔でその場から離れた。


 クゼハルトのおかげか。それともやはり匂いか。男が呼び寄せの声を出せば離れてものの数秒で行列が出来あがる。わいのわいのと凄まじい人気だ。誰かが美味いと雄叫びを背に思わずお昼に買っておけばよかったと後悔。帰りにでも寄った時にまだあるのだろうか……ちょっと不安だが楽しみに取っ手おくのも一つだ。


 そんな満たされたクゼハルトは回復薬(ポーション)をすっかり忘れて北門へ向かった。魔王もこの時ばかりは串肉の至福で注意も忘れていた。ただぶつぶつと人間の食べる食事に興味があると呟いていた。たぶんではあるが、今後の食事は頭上から催促が来るのだろうと予想が付けられる、と苦笑いを浮かべてしまう。


 門から出る時はガッチリとした動きの騎士に冒険者カードを見せて終わり。クゼハルトの背に「気を付けるように」と短く送り出す。


 目指すはすぐ目の前に広がる森。ついでに薬草。魔王がなぜか薬草の説明をするのだからクゼハルトが驚くのは当然だろう。魔王が薬草――なかなかに結び付かない。


『僕たち魔族だって回復魔法とか間に合わなければポーションぐらい使うよ。僕はただのポーションじゃあ気休めにしかならないけど』

「回復したら死ぬのかと思ってた」

『それは腐敗種の奴ら。魔族にも色々あるけど言ってしまえば人族とかと変わんないよ。背中に黒い翼があるかないか。角は生えているかいないか。どちらがより残酷か……とか?』

「微妙。そう言えば俺は魔族よりになるのか?そうだっ。呪いの緋目の意味を教えろ」

『あー……そうだった。馬鹿な奴のせいで面白味が減ったんだった』

「いいから教えろ」

『んー。じゃあ、北側はあんまり強い魔物がいないみたいだから、素手でゴブリンのところまで向かってねー?それで、ゴブリンは棍棒で戦ってもらおうかな?弱いから一体に心臓を一突きだけで片付けてもらおうか。綺麗に穴を開けたら百点をあげるよ』

「それは今言うか、あとで言うか変わんないんだろ?しかも訂正もなにもしないんだろ?それで断らせる気もない」

『逃がさないからね』


 ふふふ、と笑うもこんな人気のない広野を歩いていて笑いを込み上げるのは魔王ぐらいだろう。第三者から見ればクゼハルトしかいないのだから、クゼハルトが笑いだすと怪しい奴の認定は確定である。あいつは勝手に笑いだしたぞ、と。そもそも魔王の声は聞こえないのだからクゼハルトが何もしなければいいのだが。


 それはさておき、またも残念がりながら魔王は説明する。まず、クゼハルトは魔王率いる魔族軍の仲間か。魔王の傀儡なのだから当然、魔族軍入りであると宣言された。


 ただ――と繋げる先はクゼハルトを認めたのは魔王の独断であり、他の魔族が認めるかどうかは別である。と。


 魔族の特徴は先程も言ったように黒いシンプルの翼だ。赤色の翼などもあるが、基本は黒い翼を魔族は持っている。そこでクゼハルトが付いているかと言えば付いていないのは当たり前。翼を隠せる魔族はいるがそれはあくまで隠せるよと、言うだけ。魔族の象徴とも言える翼がなければ魔族ではないと逆に疑われるので隠すのは何かそうしなければならなくなった場合のみと言う。


 角は魔族の力の源なので、後から冴えてくるからなくても大丈夫らしい。因みに角を折ったからと言って力が減ったりはしない。人族はそれを狙うが、角はあくまで強くなったよって言う象徴なだけらしい。まあ、折られたら精神的苦痛は与えられるとは思うと魔王は嘲笑う。


 これは太古歴、言わば終焉歴の時代に遡って魔族が征していた世界を覆された故に、魔族が人族に属する連合軍を毛嫌いしている結果だ。だから魔王の傀儡と言えど、翼が生えていない人間のクゼハルトが認められるのか怪しいらしい。


 まあ気軽に魔族軍でいいんじゃない?と言うのが魔王の解釈だ。本人はすでにどちらでもいいやと思っている。


 それで『呪いの緋目』とはどういう意味だ?と問いただせばこの世で呪いを受けた人間、魔族以外の生き物は呪いの反感で体内を貪るのが主であり、侵された体内が表面上に一番出やすい場所と言うのが目である。血液の巡りがそのまま伝わるので、目が赤くなるのだとか。赤いのは血液が赤いせいと言う。


 頭皮はどうなるんだ、と問えば皮膚に覆われているでしょう、と返された。納得するしかない。


『あ、たまに緋目は魔族の目だ!とか言う馬鹿は本物の馬鹿だから。魔族には僕みたいに呪いが使える奴がいるけど、目が赤くなるのって興奮している時だけだから。興奮させといて襲われたから魔族は黒い翼の角が生えた緋目とか魔族象を作っているけど、普通に青とか緑とかいるからね?むしろ紫が多いから。あ、紫に魔除けとかないよ。紫の瞳は闇の属性が膨れ上がって黒から紫になってるだけだから』

「………………なあ、そう言えば俺が魔王とあった時って緋くなってたよな?何に興奮してたんだよ」

『なんかその言い方だと僕が変態に聞こえる!訂正しないなら答えないからね!』

「……なぜ緋い眼だったのデショウカ」

『ほとんどが棒読みっ!いいけどね!』


 で?と聞き返すとちょっと文句をいいながら教えてくれるのだからこれが本当に魔王なのだろうか?と考えたくもなるだろう。僕とか言われたら相手は少年ではなかろうかと錯覚する。


 これで魔王が「余は魔王ぞ」や「我は」とか言えば威厳染みた魔王なのだが……クゼハルトを見つけた時の絶望の深さ。勇者側の高い戦力の引き抜き。さらに強くなった故に嬉しくて興奮してたんだー!などと言われたら誰もが力が抜けてしまうだろう。


 力は凄まじくとも、まだ魔王の恐ろしさを知らないクゼハルトにはどうしても逢ったあ時の青年の中身が少年にしかならないのだ。気が抜けてもおかしくはない。


『そんな事を言っていたらいつの間にか森でいつの間にかゴブリンを発見だね――情報の誤差ってどうなるのか聞けばよかったんじゃない?』

「これ十でもないし二十でもないだろ……」


 危うくそのまま突っ込みかけたクゼハルトがしゃがん――でも飛び出してしまうため、手頃な木に身を隠してそのゴブリンを見た。


 クゼハルトの先にはよく分からない「ゴブ」「ゴブンゴブゴブ」と話しているゴブリンだ。口に出したようにその数は依頼内容とは大幅に数が違う。


 集落のように奥の洞窟を守るように二匹のゴブリンとたむろする二つのグループ。一グループを数えても十五はいた。


 大きさはクゼハルトに言わせれば小学生。子供サイズ。ツルッとした頭部にエルフと比べると失礼な長めの先が尖った耳。目がなんとなく大きくて張りのあるおじちゃんのような顔。ちゃんちゃんこのような何か毛皮を身に付けてちゃんばらごっこでもしているのか、手持ちの短い木でできた金棒みたいなものを振り回していた。


『これは一人でやるのは大変だよね。ああ、中にまだいっぱいいるよー。可哀想だから止めを風穴を開けた心臓一突きに変更してあげる。凪ぎ払った時に首が落ちないように気を付けてねー』

「うわ……一番やりそうなパターンだな」

『ぱたーん?』

「あー……行動」

『ああ、クゼハルトならやるね。まあ、がんばれー』


 応援と一緒にペロンと出してきたのはほぼ真っ黒な棍棒。両先端には赤と紫の波模様が交差している。そしてなぜか棍棒の胴体がべこべこと大まかに抉れていた。その大きさは大小様々でやや持ちにくい。


 棍棒の名は《血の欠落》と魔王は歌うように告げる。その穴を埋めるように血を流して埋めれば、血を得た棍棒が重力と粉砕力が増す武器。因みに最大は千倍ぐらいの威力を出せるが、使用者しか血を注げないので使うなら貧血しないようにね、と適当な心配をされた。因みにクゼハルトはそんな事をしないつもりである。


 握りやすい穴を探して――とりあえず、背を向けているゴブリンから真っ先に飛び込んで依頼遂行に望んだ。ゴブリンの叫び声が森に響き渡る。




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