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おかしな三善《いち》

翻弄される主人公。

 ドアノブが微かに動き、二人は身を守ろうと体勢をとった。根源的な恐怖による行動も一瞬で無意味であったと思い知らされる。


「よろしい?」

 あの大口を叩き叱られていた女性が余裕綽々で尋ねてきた。


「ご令嬢。わたしとお話しません?」

 礼儀正しく三善(みよし)が語りかけてきた。一番話ずらそうな人に当たってしまったなとユウは内心困惑する。


「ええ。」

 扉を開け部屋に招く。ラフなパジャマ姿を披露した彼女は可憐に挨拶をした。よくよくみると若々しく、街にいたらチヤホヤされそうな容姿である。座すがは摩耗一族というところ。


 金持ちは美人に目がないといえば偏見を摩耗一族はぴたりと再現している。愛といい彼女といい。ユウは内心乾いた笑いを漏らした。


「寝てしまったかと思った。物音一つしないものだから。」

「は、はは...。」


 皆まで言うな。馬場は不機嫌さと気まずさでさっきから石像と化している。(それもそうよね。動くなって、いったんだから。)


「あらあら、お通夜モードねぇ。」

 双方をみやり、彼女は肩をすくめる。

「喧嘩でもしたのかしら?」

「そんなところ。」

「ふふーん。ところで、あんたたちずっとその格好でいるつもり?」


 温暖な季節だとはいえ生乾きのまま過ごしているのは、気色悪いものだ。目まぐるしい展開にすっかり気を取られ―いや、一番気色の悪いはこの館の空気だった。ともかくユウは遠慮がちに小首を傾げてみせる。


(寝巻きってそのダサいヤツ?)


 田舎町のこじんまりとした服屋で売られてそうなセンスである。実質ここは辺境なのだし、センスは人それぞれだ。とやかくは言わない。


「あ、ありがたいわ……。」

「じゃあコマに電話でもしましょう。」

 上機嫌に彼女は謳う。


 このままそうであってほしいと願いながら、終始を見守る。


「暖房もなくて不便でしょう。私達の家って古いだけでなんの贅沢もしてないの。これも当主の趣味ってやつ。」

「倹約家なんですね……。」

「よく言えばね。」


 時代錯誤な内装は当主の趣味か。不思議と違和感はないのだ。最初からこの、館にわだかまった空気だが本当の時間なのではないかと。

 食堂や廊下―そして客間、ユウはこの空気をどこかで浴びた気がしていた。有り触れた体験だ。でもなんだったかまでは思い出せない。


「ねぇ。」

「へっ?」

 じっと穴が開くほど見つめられ、タジタジになる。というより三善のガン飛ばしが怖かったのだが……。

「本当に伽藍先生のお孫さんなのね。」

「えっ、そ、そうよ。」

「神に祈っていたかいがあるわ。」

「あ」

「そ~ねえ。きっと運命的な何かが働いた、とかね。」

 三善はうなずいて一人合点する。

「辛いことがあったぶん、良いことが降ってくる。ホントよねぇ。信じていて、よかった。」


 さっきから独白の如し一方的な会話に胸がざわついている。苛立ちのような、感慨のような、形容しがたい感情。

「つ、つらいこと?」

 馬場がふいに問うた。


「……。」

 三善がいきなりビスクドールに変じた。異常な反応に二人は無意識に目配せをする。悪寒がまだ肌の上で泡立っている。


「こ、こら、失礼じゃない。謝罪なさい。」

「き、きききき、気に触、るようなことを言ってごめんなさい!」


 ギッとねめつけられ付き人は更に震え上がった。この女やはり感情の起伏が激しいみたいである。下手したら人情沙汰になるのでは?


「私の付き人がっ...ご無礼をお許しください。」


 乱闘になる前に、咄嗟に頭を下げ三善へ謝罪するも返事はない。地雷を踏んだのはあからさまだった。


「で、出ていきますから!」

「あ」

 ふいに廊下から身じろぐ気配がした。凍りついた空気を払拭するが如く、

「三善…。」ひょっこりと少女が覗きに来た。さようならと挨拶したばかりなのに。

「三善、絵本読んで。」


「ごめんなさいねえ。絵本はまた今度、わたしは今忙しいの。」

 鬱陶(うっとう)しそうに彼女はあしらう。


「なんだか楽しそう。とうばさん、何していらして?」無碍にされたことなどおかまいなしに問うてきた。興味はこの奇妙な光景のみ。

「ミヨシさんとお話しをしているのよ。」

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