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気の所為

今の季節は冬なのですが、小説の中では夏です。なんだか変な感じがします。

今回も短めです。しかし最近2000文字程度が疲れないな、と私は思うようになりました。


 コマから借りてきたという熱湯が入れられた魔法瓶と湯たんぽをもらい、しばらくソファにもたれ掛かり頭を空にしていれば、だいぶ正気を取り戻してくる。毛玉だらけのブランケットをかぶりながらぼんやり馬場の見解を聴く、彼曰く低体温症になっていたのだという。


「体温が下がりすぎると幻聴や幻覚を見ると言われています…疲れていればなおさら。はい、白湯です。」

「ありがとう。恥ずかしいところをみせてしまったわね。」


 茶渋のついたマグカップを掌で包めばじわりと皮膚の温度があがる。お湯を飲み体の芯が暖まった。雨に打たれ凍えていたのを普通だと錯覚していた。ぐしょぐしょに濡れていた靴もコマが乾かしてくれるらしい。彼女は(さんざんなことを言いまくってしまったけれど)家政婦の鑑だ。


「遺体を見たら精神的に不安定になりますよ…。」

 遺体。否が応でも野見山の姿態が浮かぶ。

「…野見山さんはまださまよっているのかしら…。」


 馬場を呼んでからの記憶が定かでない、錯乱していたと付き人は話してくれた。幻聴といえど女性の声がしたのははっきり覚えている。


「おかしな考えにとらわれてはなりません…。幽霊なんてものは…そ、存在しません。あなたがみたのはまぼろしでは…?」

 そうであって欲しそうに彼は呟き白湯を飲んだ。

「おかしな考え、ね…。」


 幽霊を否定してしまえば…野見山が浮かばれないのではないだろうか?逆に幽霊になってしまったのなら―我ながら馬鹿げた考えに捕われている。

「私、おかしくなっているの?」

「い、いいえ!とんでもありません!疲れているだけですよっ、そうです、仮眠したらどうでしょう?」

 ブランケットもありますし、と馬場はソファを退いた。


「仮眠なんてしてられないわ。」 

「でも、休んだほうが…」

「仮眠なんてしたら犯人に何されるかわからないのよ?!」保身のため、鍵はかけさせていただきます。―そっちだって犯人へ対して身の危険を感じていたじゃないか!

「え、あ、えっと…ゆ…ユウさま。」 


 ひとしきり怒鳴りつけ、自らが過敏になっているのを察した。みるみるうちに変わる彼女の顔色に付き人は憐れんだ目を向けてきた。

「―アリバイを聞いたら仮眠する。コマから薬でももらって…そうしたらあなたは満足する?」 

「えっ、は、はい。も、もらってきましょうか?」

「自分で貰える。それぐらい私だってできるわ。」


 失礼ではあるがこの付き人へは不信感がある。まあ、たった数時間の付き合いだ。お互い実の所心の内も察せないのだ。何の薬を渡されるかたまったものじゃない。


「そ、そうですか…。なにかおありでしたら僕かコマさんを呼んでください。あまり無理なさらずに…先程のようになられたら心配です。」

「あれはもう大丈夫よ。体も温まったし、あれは…あれは気の所為なんだから。」 


 全て気の所為にしてしまおう。幽霊は頭の片隅にしか存在できないのだ。気を強くもち、否定してしまえば出てきやしない。今度はへっちゃらだ。


「気をつけてくださいね。」 

 二度目のセリフを口にして渋々馬場は了承してくれた。


(靴下も借りれば良かったわ…。)ぶかぶかのスリッパがやけに冷たく感じる。子供用のパジャマがあるのならそれなりのスリッパもありそうなのだが。


 心が折れる前にさっさと片付けてしまいたいものだ。見慣れてきた廊下を歩み、ふいに立ち止まる。無意識にでも視線が誘導される。大仰な額縁に納められた一枚の絵画。

 この館にきて何度対面しただろう。肖像画の男は摩耗一族現当主の先代にあたる人物なのだろうか?食堂で集っていた彼らは心しなしかこの男性に似ていないきがした。薄闇の中はっきりとは確認できないけれども。直感というやつだ。


 背筋が寒くなりそそくさと踵を返す。覗き込んではいけない何かへ目を凝らしてしまったような危うさに思考を逸らした。


 視界の先に最初に侵入してしまった愛の寝室がある。おっかない肖像画の間近で生活しているなんて哀れだ。まさか一族間で虐待をされているのではないか?

(閉まってる。)  

 あのふくよかな少女が写っていた写真。放置され荒んだ内装。人が住める状態ではなかった。わずかにドアが空いていた部屋は現在何事も無かったように閉ざされている。愛本人の部屋だと言っていたけれど…。


「愛ちゃん?」

 一応声をかける。返答はない。時たま彼女の存在が気薄になるような不気味な感覚に陥るのだった。(寝てるのかも。お話ししたし、愛ちゃんはいいよね。)

 ほかの部屋をあたろう。 


 ―うろついてみたところ一階はプライベートな役割というより物置や食堂など公共スペースが多く、使われていない部屋が大部分を占めている。洗剤の香りがわずかに残留しているのみで生活臭はしていない。コマは本当に、介抱するためのブランケットなどを馬場へ手渡したのだろうか?食堂はさておき女中が宿泊する女中部屋とや物置部屋は蝶番が錆付き、長年固く施錠されびくともしなかった。


(客間だけ無防備ってこと?コマのやついくらなんでもそれはないわ!)

 事情聴取が終わったら客間のドアノブに鍵穴があったか確かめようと塔婆ユウは意気込んだ。

ありがとうございます。

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