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プロローグ

にわか推理ものです。

にわかでも大丈夫です!という方なら…よかったら読んでください。

「あたしは塔婆(とうば)ユウ。こっちは馬場信司(ばばしんじ)。迷惑かもしれないけど雨宿りをさせていいただくわ」


 ユウは舞台上に立つ役者のように自己紹介をする。勿論観客はずらりと並ぶ「摩耗(まもう)」という怪しげな一族だった。


「塔婆とはまさか、塔婆伽藍(とうばがらん)の御親戚ではないでしょうか?」


 塔婆という響きに一族の最年長の老人がしわがれた声をうわずらせて、ユウに興味を示した。石鹸と食べ物のなんともいえぬ匂いが漂う食堂で唯一どっしりとした威圧感を漂わせ、椅子に腰かけていることからして彼はここの一族の「長」的な存在なのであろう。


 その周りにいる老若男女が老人の一言にかすかにざわめいて、冷やかしめいた視線をこちらに向けた。


「たしか推理小説をかいているお方よね?」落ち着いた様子の若い女性が、老人に問いかける。


「私は笑う毒まんじゅうが一番好いております。伽藍先生の作品はどれも巧妙で飽きない。推理小説の金字塔ですな。」


「私の祖父がそんな風に思われているなんて…ご近所なのにお互いしらなかったのね。おじいちゃんはこの辺に住んでいるのよ。なんだったら家にお招きしましょうか、おじいちゃん結構人付き合いが好きだからすぐに仲良くなれるわ。」


「本当によろしくて?なら、おじいさまのかわりにサインでももらいに行こうかしら?」


 おませな印象を持つ女性の笑いにユウの大いなる影に隠れていた馬場が身を硬直させた。


「その時は私がいきましょう。ミヨシ姉さんはあぶなっかしいから。」


「なによう。嫌な感じね。」


「雨が長引くようでしたら泊っていってもよろしいですよ。伽藍先生のお孫さんに失礼は致すまい。」二人のやり取りを遮り、老人は温和な顔をほころばせた。


「ありがとう。」と素直に礼を言うユウに一族は冷ややかだったが、あの老人と話題を投げてくれた大人しめの女性にはまだ救いがあった。


 全体的に青白く影の薄い人脈を集めたような屋敷よろしく暗ったるい雰囲気に、容姿端麗な若者とやけに老けた老人。現実から切り離されたという表現がしっくりくる、不思議な人たちだ。


 この森に何度も訪れたことのある(にわかであるが)ユウでさえ、摩耗という名字の家も屋号も耳にしたことがなかった。


「降って湧いたみたいね。」とつぶやいていると、馬場が唇を青くして答えた。


「昔からこの森に摩訶不思議な民が住んでいる噂がありましてね…」華奢な体を更に縮こまらせ、雷鳴に身をひそませた。「ここら辺に近づくことはあまりよろしくなかったのですよ…」


「すごいじゃない。おとぎ話みたい。」

「ホントウは昔落ちぶれた武士団がおちおちこの山に落ち延びたという話でして…」

「おじさまに伝えてやりたいわね。きっと創作意欲が湧いて、更に印税が入るでしょうよ。」


 ご気楽なユウに馬場は対を成すように、さっきからびくびく怯えている。いつもこんな感じであるけれど、慣れない未知の空間が拍車をかけているらしい。


「バケモノがこの山に住み着いたっていうのもあるのですよ…」


 この屋敷の者といいとこ勝負の青白い肌が雷光に照らされる。薄気味悪い戯言ばかり喋っているくせに目はうろうろとしているせいでこの人物こそが気味が悪い。ユウは溜息をついて、湿気を帯びる埃の臭いを吸いこんだ。


「オ、オゥレンジジュースいかがですか…?」小さなノックをして客間に入ってきたのは、玄関の時といいこの客間に案内する時といい馬場同様に顔面蒼白の年増の家政婦であった。「家政婦の…こ…コマです。」


「ありがたく頂くわ。すいませんけれど、テレビとかラジオとか、ここには存在しているの?」


「レディオ?え…ええ、倉庫室にございます。なんでもかなり昔のものでして…五…四年前に水道局の方が忘れていかれた…テレビはですね…そういえば…おいてありませんね…」


「失礼だけどそのラジオ貸してもらえないかしら?気象情報がしりたいんで」


「は…はぁ…この様子では唯の夕立かと…」そう言って、点滅しては轟音を轟かす室外をみやる。その先はひとしきり降ったのではないかと思えるぐらいの土砂降りが景色を穢していた。宵の入りに立ち入り森はどんどんと黒さを増して、時折点滅する空によって鮮明に浮かび上がるのみ。


 ただの夕立といわれればそれだけなのだが。


「そうねぇ。…でも雨が止むまで私たち暇なのよ。」


「そぅ…そうゆうことならば…」案外簡単に家政婦は渋々とユウの我儘を承諾した。


「家政婦さんは知っていらして?ここにはバケモノが住み着いているって伝説があるみたいなの。」


「バッバァケモノッ?!」すごすごとこの場を去ろうとしていた家政婦が鞭で打たれたように跳ねあがる。気色の悪い顔が更に凄みを増した。「バケモノなんぞ住んでいらしてません!失敬なッ!」


「おら?」きょとんとしてユウは信司をみやる。挙動不審に窓を眺めてい(?)た信司も雷に打たれた如くとびはねた。


「噂ですっ!ああああああくまで噂なもんで!家政婦さんはどうぞお気になさらずにッ!」

「ですって。」

「はぁ…ええ…誰がそのようなことを…」なぞとぶつくさと呟いていく家政婦の背中を凝らして、ユウはあごに手を添える。

「あれでいつもどうやって仕事しているのかしら。」


「レィ…レディオでご、ございます。」

 そうしてやってきた埃と年季にまみれたカセットラジオをテーブルに乗せ、電源を入れる。奇跡的に命はあったようで、ざりざりと砂嵐が大音量で室内に響き渡った。


【…県内全域に土砂災害警報及び洪水警報が発令されており、今夜は前線の発達により局地的な大雨が予測されるでしょう。山間部にお住まいの方々はくれぐれも…】


「どえらいじゃない。」余所外の大雨の正体に肝をつぶされた。しかしあの家政婦同様誰一人この雨雲が曲者だと気付いていないようである。そりゃあそうだ。このラジオ以外情報を受信できるものを(ユウ自信)目にしていない。電話ぐらい廊下に置いてあるはずじゃないか…。


「泊っていってもよろしいですよ。」と摩耗一族の長のありがたいお許しはあるけれど、ユウの方が勘弁であった。どこか湿り気のある陰鬱とした屋敷に一晩泊るなんぞ、この塔婆ユウのプライドが許さないのである。


「やはり、無理を強いてでも伽藍さまの家に出向いたほうがよろしかったでしょうか。」

「できたのならそうしたかったけど、山をなめないほうがいいわよ。先月なんて、おじさまの知り合いのおじさんが行方不明になってしまわれて…―ともかく雨が小降りになったらどうするか考えましょう。」

「つまりは泊るということですね。」


「…イヤだけど、今夜中に止むかもしれないじゃないの。」

何故かエピローグになってましたw

本当に恥ずかしい!

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