とある部長と副部長の話。
『部活ですよ』に登場する二人で書いてみました。
数年ぶりのリハビリも兼ねています。
とても短いです。
打ち上げ花火まであと30分となった。川辺の見晴らしの良い場所を取るために多くの人が移動し、屋台の辺りは人の密度が小さくなっていた。
左手に巾着、右手に綿あめを持って独りで歩く私はすれ違う人にどう思われているのだろう。浴衣姿でばっちり決めて、彼氏もいないのかとか思われてたら癪だ。
祭りの縁日を一人で歩くのが好きだと友人に言ったら、変わっていると言われた。別に大勢の人と行くのが嫌なのではないのだけれど、無性にオレンジのぼやっとした明かりの中でその空気に浸ってみたくなるのだ。
「水無瀬?」
聞き覚えのある声に振り向くと、そこにはいつも顔を突き合わせているあいつがいた。
「―――部長」
片手にケータイを握りしめて驚いている腐れ縁の『これ』は、少し固まったあと口を開いた。
「お前、こんなところで何してるんだ。…もしかして迷子とか子供みた…うっ…!」
「失礼な。私は一人でまわっていただけです」
高校3年生に向かって迷子は無いだろう。それよりこの男はどうしてここにいるのだ。
「それで、部長はどうしてこちらに?」
「え?ああ、そうだ。一屋に電話しねーと」
そう言って部長は私を無視してケータイを耳に当てたが、すぐに怒ったように通話を切る。
「くそっ、これだけ人が多いと繋がらん」
「だから、どうしてここにいるの?」
「…一屋のやつがここに来いって呼び出してくれてな。用件は教えられなかった」
「一屋会長が?」
「そうだ」
部長は諦めてケータイをしまい、大きくため息を吐いた。
「なんで休日に仕事しなきゃならんのだ。連絡が取れないならこのまま無視してやろうか」
「それはやめましょう。後が怖すぎます」
無視なんてしたらその後どんな無理難題を押し付けられることか。そしてそれに付き合うのは私なのだ。勘弁してほしい。
「そう言えば、水無瀬は花火見ないのか?」
「花火、ですか?」
「もうすぐ始まるんだろう?早くしないと見られる場所が埋まるぞ」
祭りに来る人全員が花火を見たがっていると思っているのだろうか、この人は。私はあんな人混みの中で見るより、遠くの空に打ち上がっているのを眺めるほうが好きだ。
「いえ、見る予定は無いので。人の多い所は苦手ですし」
「なんだ、それならこっちに来い」
「え?」
部長の言葉の意味を考えているうちに、突然身体が前に引っ張られる。否、腕を掴んで連れていかれる。
「ちょっと、部長?」
「少し遠いが、人の少ない場所がある。打ち上げには間に合うだろう」
「いや、だから」
「ん?」
この人は本気で、勘違いしていらっしゃる。
「私は別にっ…」
「あれ?お前、花火好きだろ?」
なんで。
「違ったか?」
この人は時々だけど、平気でこんなことを言う。
「……好き」
どうして分かるのか。
「…ので、お願いします」
「よし、行くぞ」
たくさんの人に囲まれて居心地の悪い思いをするくらいならいいやと思えるけれど、せっかくの祭りなのだから見て行きたいという思いだってあって。つまりはそう思うくらいは本当は好きなのだ。
「あ」
不意に部長が立ち止まる。怪訝に思ってその顔を見上げると、左手をぎゅっと握りこまれる。
「悪い。着物でそんなに急がせたら駄目だな」
そう言って部長は私の歩く速さに合わせてくれた。
「一屋会長の件はいいんですか?」
「ああ、繋がったら考える」
どこかで甘い匂いがする。べっ甲飴だろうか。
繋いだ手がひどく存在を主張する。腐れ縁のこの人は、きっと分からない感情。
「…ありがとう、遠山くん」
呟いた声はかすかに彼に届いたらしい。
「何か言ったか?」
「いいえ、何も」
これだから、彼と一緒にいるのはやめられないのだ。
祭りの夜は更ける。その日見た空の花は、とても綺麗だった。




