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Another 36.28  作者: 高田 勲武
3.ドッペルゲンガー
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ウィン・リバイ-都市の洗礼

 達也は異質な金属が重なり合い、その形を形成する大剣……自分の背丈程ありそうなその剣を体全体で支え、それに向けて体ごと突進する。剣先が触れると同時に体重を掛け、共に地面へと倒れ込む。


 こうすると少々固い……所謂(いわゆる)、外骨格の昆虫系のモンスターでも剣を突き刺すことができるのだ。


 ちなみに今、この動作により剣に押し潰されるそれ、それは己の体の大きさ程ある外骨格が黒光りするモンスター。剣先がその腹を貫き、透明でべとつく体液を()き散らしながらもがいている。


 あれから随分と歩き、進んだ気がする。


 モンスターには夜行性も多く、いや特にその夜行性のモンスターは獰猛(どうもう)なので日が上がるまで行動を起こさなかったのだが、空が明るくなってからというもの、ずっと休みなしで歩を進めていた。


 フォルティナが進む方向を道標とし、立ち塞がるモンスターを、まさに突き進むという言葉の如く蹴散らしていく。


 エルバ村から離れ、その身を隠したその場からどれ程進んだのだろう。既に日も(かげ)りを見せ始め、進む目的がエリア36.28から出ることを考えると、ここはもうそのエリアの端なのだろうか。


 達也の一際強く掛けた体重に、その剣の柄から伝わる感触と固い何かが潰されるような音。剣と大地に挟まれたモンスターは痙攣(けいれん)し、大きく自分の体液を飛散させる。


「随分と、ましになったじゃあないか」

 少し離れ、振り向きながらフォルティナは声を掛ける。


 フォルティナの周りには動かなくなった生物……ざっと見るだけで三、四体はある。それと比べると単純に達也の仕事はフォルティナの四分の一程度となってしまうのだが……


「一人でモンスターを倒すことができるようになって……」


 それだけでも大した進歩である。


「取り敢えずは安心だな」

 フォルティナは言いながら達也へと歩み寄る。


 達也は動かなくなったモンスターに突き刺さる大剣を乱暴に抜き取る。


 剣を体の一部かのようにしっかりと(たずさ)え、体を小さくし、敵へ目掛けて突進する。動きの早い敵……(けもの)のようなモンスターならば逃げもするだろうが、この目的はそもそもが自分の身を守るためのもの。逃げてくれるのであればそれに越したことはなく、自分の身さえ守れれば良い。


 これは世界に来てから目まぐるしいまでに押し迫る環境に適応するために編み出した達也なりの戦法――生き残る手段。


「慣れてしまえば、こんなものさ」

 達也はフォルティナへ振り返ると乾いた笑顔で取りつくろい、飾った言葉を口にする。


 慣れてしまえばの行動……それだけこの世界に慣れてしまったということ。それだけ元の世界の生活から遠ざかったということ。


「調子に乗るな」

 その達也を責める声。打って変わって眉間に(しわ)を寄せ、自分を見返しているフォルティナの姿。


「少し()めると、すぐこれだ」

 そして、呆れたように溜め息と共に追加する。


「良いか?」

 フォルティナはぐいっとその顔を達也へ近付けると、

「モンスターは群れを成すことだって……いや、逆に群れを成すことの方が多い。こんな戦い方を続けているようじゃあ……」

 首を(すぼ)め、幻滅と言った表現を示すかのように力弱く首を横に振る。


「そ、そんなこと言ったって……」

 達也の声は弱々しくなり、優しい言葉を掛けて欲しいとばかりに口走る。


「以前に比べると随分と良くなったって……」

 フォルティナ自身もつい今しがた、そう言った筈。――今は不機嫌に睨み付けているが。


「少しぐらいの冗談は、大目に見てくれたって……」

 達也は自分の心を守るがため、懸命(けんめい)に言った。


「甘ったれるな!」

 しかし、フォルティナはそれをも全否定するかのように一喝する。


「命がかかっているんだ!そんな甘えた考え、今すぐ捨てろ!」

 その後、叱り付けるその言葉と共にその手が達也の胸倉(むなぐら)(つか)む。


「常に向上心、そして少しのことでも感じ取れる臆病(おくびょう)とも言える感覚。それを怠るな!忘れるな!」

 フォルティナは達也へ顔を近付けて強い口調で言い聞かせる。


「そうじゃないと……この世界で生きていけない」

 弱肉強食という自然界の摂理。その無常を説くかのようにフォルティナは言うと、ふと我に返り、そっと達也から手を離す。


 申し訳なさそうに顔を逸らす。


 フォルティナの言うことは理解できたつもりだ。自分自身の命もかかっているのだ。必死にもなるだろう。しかし……


 達也は何も言わず下を向く。常識が異なる……それは即ち、世の中の正義と異なるということ。


 自分が正しいと思うことは何一つ信用できない。心を許すこともできない……それは人間にとって、一番の苦痛ではないだろうか。


 甘い。そう言われれば、それだけなのかもしれない。だけど唯一つ、それによって心が救われたかもしれないのに……


 辺りは荒野ではなく、どちらかと言えば草原。――出発当初より景色も変わって来ている。


 目の前にはいつの間にか大きく立派な門構えをした入口。中は建屋が建ち並び、(にぎ)わう町。


「着いたぞ」

 フォルティナは気を取り直すかのように達也へ言った。達也は無言のまま頷く。


 ウィン・リバイ――それがこの町の名前。


 辺境と言われているエリア36.28で唯一の栄えた「都市」とまで呼ばれた町。端に位置する港町であり、そのことから「海の玄関」とも呼ばれる。物流が集まり、商業が盛んな町である。


 足を踏み入れると同時に懐かしいとも思えた海の香り……(いそ)の香りが達也の鼻孔を刺激する。


 町の中は、さすが栄えた「都市」と呼ばれるだけのことはあると共感を覚える程広かった。


 海に向けて下りの傾斜面に造られたこの町。町の入口からその全貌(ぜんぼう)が一望でき、先の港までも目視できる。港には船が一隻もなく邪魔するものがないため、水平線として青空と交わっているのもわかった。


 この世界も広大な大地と青い海で形成された世界。――達也の知る「世界」とは根本的にその組成も違わないようだ。


 達也は思い知らされ、ただ立ち尽くしてしまう。ここを「星」として外から眺めると、やはり「青い星」なのだろうか。


「ここがウィン・リバイ。ここからなら別大陸へも行くことができる」

 唖然(あぜん)としている達也へ説明するかのように言うと、フォルティナは町中へと歩き始める。


 達也は呆けたままの状態であったが思いの外、意識は保っているようで何も言わずにその後を付いていく。


 基本構造は下りの傾斜面に沿った町だが、辺りを見渡すとその構造から逆らうように高台に建つ建物も多い。そして、その建物は決まって大きく、ものによっては中世の城を彷彿(ほうふつ)させるようなものさえある。


 傾斜面に建つ建物もエルバ村で見たものと比べると随分と立派で造りも頑丈なのだが、高台にそびえ立つ建造物とはその差は歴然。


 こんな世界でも貧富の差はあるようだ。


「町が栄えると、どうしてもこういった差はできてしまう」

 フォルティナはちらっと横目で様子を伺いながら、それを(うれ)うかのような感情を込めて達也へ話し掛ける。


「特にこういった、金の集まる商業都市には貴族も集まるからな」


 今、歩いている場所だからこそなのかもしれない。達也が見る限りこの傾斜面で生活を営む人々は明るく、活気も感じられる。――確かに差はあるが「貧しい」というようには到底見えない。


「まぁ町々を流れるトレジャーハンターには、関係のないことだがな」

 それ程大声ではないが、周りを取り囲む民衆の声を割き、伝えるには十分な声量。それを少し含み笑いしながらフォルティナは伝えるのだが……それでも達也は無反応。


 フォルティナは眉をひそめ、首を傾げる。


「こっちだ」

 ――まぁ良い。達也にとってもこの町の事情など、知ったことではない。


 フォルティナは諦めたかのように自分へそう言い聞かせると、町の入口からそう離れていない一つの建屋へ達也を連れて入る。


 それがそこにあるのには――ちゃんとした理由と訳がある。大きな町、都市……特に旅の拠点となる町ではそれが常識。


 旅にはどうしても外での移動が必須となる。


 町の外と言えば……モンスター。そう、旅はモンスターを倒しながら進むことが絶対的な必要条件だと言っても過言ではない。旅人は皆、モンスターから身を守る最低限の力を有しなければならず、そしてそのように旅を続け、町に着いたなら……


 達也は改めて自分の体を見つめ直す。


 モンスターの体液と血液、さらには砂漠の砂で服はどろどろ。体を動かすだけでまとわり付くそれが気持ち悪く、またそんな恰好で町中をうろつくというのは……


 今、この建屋内の店員と思われる人物へ、フォルティナが何やら交渉している。


 町の入口付近に必ず建ち、その近くの建屋よりも一際大きい建物――それは宿屋。


 宿屋には宿泊以外にも町の外で付いた「汚れ」を取るというもう一つの仕事もあった。いや、その「汚れを取る」のにお金を取っていないのだから仕事というよりも、どちらかと言えば「サービス」と言う方が正しいのかもしれない。汚れた姿で町中を徘徊(はいかい)されるデメリットを考慮すると、サービスとしてでもそれを提供した方が良く……宿屋がその負担をする。


 この世界での常識であるとのこと。


 交渉が終わる。


 体に付けた装飾品や甲冑(かっちゅう)、武器を全て外し、フォルティナ共々達也は慣れた手付きで店の人へと手渡す。服も脱ぎ、次に通された個室のように間仕切りされたシャワールームで体の汚れを洗い流す。外した防具類、服はこのシャワーの間に店員が洗ってくれるという寸法だ。


 エルバ村の時はフォルティナのみがこのサービスを受けており……よって、達也も内容自体は既知のものである。別段驚くことのものでもない。――といっても、至れり尽くせりなこの状況に何だか気が引けてしまうのも否めないが……


 達也はシャワーの機能を使い、体へ少し暖かい水を掛けながらも気まずそうに(うつむ)く。


 間仕切りされた個室のすぐ隣も達也が今していること同様……床へ滴り落ちる水の音。


「何だ?元気ないな?」

 突然掛けられた声。


 本当に自分へ掛けられたものなのかどうなのか一瞬戸惑いすら感じたが、あまりに近くで聞こえたその声。達也はその方……水の音のする側の壁、その上数十センチ程度の隙間に向けて顔を上げた。


 こちらを見る人影。


「わっ!」

 達也は短い悲鳴を上げ、慌ててその壁とは対面となる角へと身を寄せると、体前面を隠すかのように体を小さく縮込ませる。


「さっきから何か変だぞ?」

 その者は無防備のままその数十センチの隙間へと体を預け、覗き込みながらさらに言う。


 達也はゆっくりと視線だけをもう一度その者へと向ける。


 特に引け目などを出さず、明るい表情で見つめ返すその顔。天井と壁の隙間から見えるその美しい顔以外、首元や肩の当たり……胸元までもが確認できる。勿論、ここはシャワールームなのでそれらは濡れており……


 (あらわ)となる肌。一糸たりともまとうものは存在しない。


「何か気に(さわ)ることでもしたかな?」


 その者とはフォルティナ。無防備かつ無邪気に、そして自覚なく頭を悩ませる。


「べ、別に……そんなのじゃなくて……」

 達也は懸命(けんめい)に我が体を隠しながら言うが、その声に力が入らない。


「ん?」

 余計に興味を向けられ、フォルティナに覗き込まれる始末。


「い、良いから、(のぞ)くなよ!」

 達也は居た(たま)れなくなり、先程のわだかまりをも吹き飛ばすかのように怒鳴り声を上げた。フォルティナは一瞬動きを止めて何か言いたそうにじっと達也を睨み付けると、その隙間から姿を消す。


 達也はフォルティナのその表情に少しの引っ掛かりを覚えていたが……


 一安心だとその体の硬直を緩める。そして、流しっぱなしであったシャワー口の直下へと身を寄せると……


 突然扉が開いた。


 何の前触れもなく、()びた鉄が擦れるような音と共に。達也は自分の顔へ流れる水滴に目を細めながらも振り向く。


「そういうこと、男のタツヤが言うなよ」


 そのぼやきと共に扉がゆっくりと閉められていくのがわかる。


 形成される達也が無防備でシャワーを浴びるその個室。その中に立つ自分ではないもう一人の人物。あまりのその光景に達也はただ言葉が出て来ない。


「私の立つ瀬がないだろ?」

 腕を組み、少し(ふく)れた表情で言うフォルティナ。何もまとわず、物で何を隠そうともしないその裸体が達也の目の前に立つ。まるで仁王立ちで、出口を(ふさ)ぐかのように。


 達也は声にもならない悲鳴を上げ、対面となる壁へとその背中を押し付ける。


「まぁ、少しは元気になってくれたようだが」

 しかし、フォルティナはそれに対して全く意にも介せず、その表情は見せるだけの仕草だったのだか……この言葉を発すると同時に表情は緩み、にや付いた笑いを浮かべている。


 視線の先は達也の顔よりももっと下の方――達也は気が付き、慌てて背中を向ける。


「お、おいっ!」

 達也の顔はもう耳まで真っ赤である。


 フォルティナは声を上げて笑い出した。

「別に良いじゃあないか」

 そして、その笑いと共に言い放つ。


「見て、減るものでもあるまいし」

 逆に見せ付けるかのように両手を腰に当て、足を開き、胸を張る。その言葉の通り、少しの動揺すら感じていないことがわかる。


 一つのベッドの上で一緒に寝ることもあった。ここの世界の人々は皆、そういうことを気にしないのだろうか。


 達也はそそくさと逃げるようにシャワールームを出る。


 この世界でも洗濯機や衣類乾燥機たるものがあるのだろうか。……いや、もしあったとすれば、この家の造りである石造りには似合わない程の高い科学ということになる。


 体をシャワーで洗い流す時間。それは長く見ても十分かそこら。その短時間で服の汚れは綺麗に落ち、さらには乾いているのだから。


 達也は濡れた体を備え付けてあったタオルで拭くと、まるで新品と思える程に清々しいその服を着込んでいく。フォルティナは無防備のままその後を追う。


 達也とフォルティナの二人は宿屋を出る。


 (かげ)り始めている日射しだがその刺激、たまに通り過ぎる潮風が心地良い。外へ出るまでフォルティナの姿をまともに見つめることができなかったが、今は当然服も着て、しゃんと表情も取りつくろっている。


 達也は何だか、随分と心が楽になっているのが実感できた。


「取りあえずは明日の準備だな」

 別段、普通の口調で語り掛けて来るフォルティナ。


 達也はフォルティナの顔を見る。


「今日はこの町に泊まり、明日出発する」

 フォルティナは達也と目が合うなり話を続ける。


「船で海を渡り、エリア36.28を出て……」

 これからの予定の話――真面目な話だ。


「『ルーン神殿の司教(ビショップ)』とは古くからの知り合いでな。まずはその司教(ビショップ)がいる神殿へ行って……」


 気になる。感覚が正しければ、宿屋を出てからずっと誰かに付けられているかのよう。


 フォルティナからは臆病とまでに感性を研ぎ澄ませろと言われたばかりだが……その本人は達也へ今後についての説明をすることに必死で、気が付いていない様子。――思い過ごしだろうか。


 一際、多くの民衆に巻き込まれる。


 (そば)の店で、人気の商品でもあるようだ。人々は群がるかのように集まり、押し寄せる人波により達也とフォルティナの間に隙間に二、三人の人が……


「フォルティ……」


 達也の腕に何かが絡まるのがわかった。


 人の腕。それは間違いない。だが、目の前には数人隔ててフォルティナの姿。達也は困惑しながらも見知らぬ……その絡まれた腕に引っ張られ、群衆の中から脱出する。


 フォルティナはそれをただ目で追うばかり。


「無警戒であんな人ごみの中に一人、入っていたら危ないわ」

 腕を取り、その人ごみから引きずり出した張本人が達也へ話し掛ける。


 依然としてその腕を絡ませたまま。


「この町には泥棒もいるのよ」

 体を擦り寄せながら忠告して来る者。


 年上だと思われる女性。以前、フォルティナの冗談で着さされた際どく、踊り子の服と言われたような服を身にまとう見事なプロポーションを際立たせる。顔立ちも可愛いと言うよりも美しい、まさに大人の女性と言った雰囲気。


「あら?貴方可愛いわね」

 その女性が達也へさらに体を寄せながらも熱い視線を送る。


 達也は身を引きながら生唾を一つ飲み込む。


「あ、あの……」

 (つば)を飲み、(のど)(うるお)いを足した筈なのだが、出で来る声は(かす)れている。


「薄情で、あんな男勝りな連れなんて放っておいて、私と遊ばない?」

 そう言いながらも(なま)めかしく、誘惑するかのように顔へ触れる指先。生まれて初めての経験で、浮き足立つのも正直なところだが、


「私の好みだから、うんとサービスするわ」


 人間、何かが引っ掛かり……違和感とでも言うべきか、つじつまが合わないことが起きるとそちらへ気を取られ、冷静になるのだろうか。


「男勝りな……連れ?」

 達也は首を傾げる。


 最初は人ごみの中に一人で入ると危険だとか何とか言っていた……何だか話が合っていない。「男勝り」とまで言うからにはフォルティナを知って……少なくとも姿を見ての言葉だとも推測できる。もしかすると宿屋からずっと視線を感じていた人物とは……


 達也の表情は険しくなっていく。


「こ、細かいことは良いでしょ?」

 彼女は力技に出る。


 論法などない力任せな言葉を吐き捨てると強引に、そして力強く達也へ抱き付いてしまった。着飾るその硬質の甲冑(かっちゅう)に伝えるこの女性の暖かさと柔らかさ。


「楽しみましょうよ」

 上乗せをするかのように、熱い吐息と共に達也の耳へと吹き掛ける。達也の背筋に走る(しび)れ、毛細血管という血管を破裂させたかのような紅潮。


「おい」

 全く動けなくなってしまった達也へ、その背後から掛かる冷めた声――いや正確にはその声は、達也へ掛けられたものではない。


「人の連れに何をしてくれているんだ?」

 その声には少々気持ちがこもっていない「冷めた」という表現がぴったりと当てはまるもの。


 自分に掛けられた言葉ではないことは百も承知だが、込み上がって来る体中の震え。達也はその声のする後へと振り向くこともできない。


 抱き付いた女性もその力を緩め、落胆の溜め息を吐く。


「何よ、もう来ちゃったの?」

 冷たく言い放つと、達也からそっと離れる。


 達也の背後に立つ者は素早く二人の間を割って入る。その際に(なび)く長い金髪。やはり……


「商売なら、他所でやってくれ」

 と、その女性へ噛み付かんとばかりに(すご)むフォルティナ。


「だいたい、こいつは……」

 付け加えようとしたフォルティナであったが、急に含み笑いを浮かべた女性に言葉を止めてしまう。


「別に私は……この()にお金をもらおうなんて思っていないわよ」

 その(すき)を突いて女性の反撃。


「私はこの()が気に入ったの」

 女性はすかさずそう言うと、再び達也へとにじり寄る。


 あくまで巻き込むつもりなのか。


「遊びでも良い。私に一夜頂戴(ちょうだい)

 さらには誘惑するその(うる)ませた瞳を向け、色気ある指先が達也の頬を触れる。


 達也は再び走る震えに、体全体を引きつらせる。


 フォルティナは無言のまま達也の横へと立つ。あまりにそれが自然であったためか、その後の行動に一瞬、反応が遅れてしまう。


 女性は急にその表情を凍り付かせると、突然達也からその身を縮込ませるように離れる。達也は急に何事かとその女性を呼び止めようとしたが……


 少し出掛かった手の先、そこに一閃の光。地面を叩き付ける刃。


「ちょ、ちょっと!」

 女性はフォルティナを睨み付け、声を荒げた。


「貴方、今本気で!」

 そして、そこまで言い掛けて、今度はこの女性が喉を詰まらせる。


 フォルティナが振りかざした、達也の鼻先を(かす)めたその刃――達也の背中に(くく)り付けられていたあの大剣である。


 フォルティナはその剣を手に取り、この女性へ斬り付けたのだ。


「私のものだ」

 フォルティナはぎろっと女性を睨み付け、ただそう言い放つ。


「奪いたければ、命を掛けろ」

 女性はしばらく湿っぽく、まとわり付くような……嫉妬(しっと)心とも言えるような視線でフォルティナを睨み付ける。


「あーっもう!わかったわよ!」

 女性は頭を()きながら後退りをする。


「諦めれば良いんでしょ?全く……」

 その後、不満そうにぶつぶつ言いながら姿を人ごみの中へと消していく。


 女性の姿が完全に見えなくなるのを見計らって、フォルティナは大剣を達也へ放り投げる。


「隙があるから、あんな売女(ばいた)に引っ掛かるんだ」

 その剣と共に投げ付けられるその言葉。


 フォルティナの機嫌は悪い。達也は不用意に放られた大剣を受け取るのが精一杯である。


 達也には理解できなかった。人の気持ちを全く考慮しないとも言える言動。そうかと思えば全く人を異性として見ていないかのような行動。


 フォルティナは自分自身をどう見ているのか。


「何を呆けている!」

 フォルティナは感情を当たり散らし、達也のその手を取る。


「こっちだ!」

 再び受け取った大剣を体へ(くく)り付けている達也を、ある建屋へと連れ込む。


 次はどこへ連れ込まれるというのだろうか。

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