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Another 36.28  作者: 高田 勲武
6.原点の欠片
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天を貫く女神像-最深部

「落ち着いたか?」

 フォルティナは達也に優しい口調で声を掛ける。


 あれから、どれだけの時間が経過したのだろうか。


 白色の壁で区切られた空間。仮設の明かりで照らされた地下室とでも言えば良いだろうか。その中央で馴染(なじみ)の深い女神像が、無表情にこちらの言動を見つめる。


 地下に埋もれ、保護するために造られたコンクリート製の遺跡。――達也達は天を(つらぬ)く女神像の遺跡内にいた。


 達也はゆっくりと頷く。屈み込み、フォルティナの胸に埋める頭……


 あの状態のまま、フォルティナが根気強く抱き締めてくれていたのだ。伝わる心臓の鼓動が何とも心地良く、荒れた心を穏やかにさせてくれる。


「そうか」

 安堵したような笑みを浮かべて言うが、態勢を崩すことはない。


 胸部に固い甲冑(かっちゅう)を着けているため女性特有の柔らかさは感じられないが、その音が耳に届くということは……


 達也は急激に現実へ戻され――慌てて、そして強引にその場から離れる。


「少しは優しく扱え」

 フォルティナは短い悲鳴のような声を上げると、恨めしそうに睨み付け、自分の体を見る。


「こう見えても、私も一応は女なんだから」


「ご、ごめん……なさい」

 達也は頬を赤く染めると、俯き、小声で呟く。


 フォルティナは吹き出す。


 どうやら普段の達也に戻ったようだ。一息吐くと立ち上がり、膝から下辺りまでに付いた砂を手で払い落す。


「わかれば良い」

 と、一言付け加えて。


 達也は弱々しい瞳でゆっくりと見上げる。フォルティナは何を自分に気を遣っているのか、わからないとでも言った表情で首を傾げている。


 少しの間、無言の時間が過ぎる。


「どうした?」

 それを終わらせる第一声を上げたのは、やはりフォルティナ。


 達也は単純に疑問符の声を上げる。


「下でシュウマとマリアも待っているんだ。早く行くぞ」


 達也は急いで立ち上がる。


 あまりの衝撃の事実で忘れ掛けていたが、ここに来た本当の目的は原点の欠片ピース・オブ・オリジンの詮索。他三人にはそれ以外、この地へ留まる理由はないのだ。なのに……


 また足を引っ張ったようだ。


「ったく……お前は子供か?」

 不意にフォルティナは不満そうに呟く。


「え?」

 達也には意図が読めず、聞き返すことしかできない。


 フォルティナは肩を落とし、いきなり屈むと達也の足に付いた砂を叩く。


「い、いや……あの、そんな……」


 地面へうずくまってしまったためだろう。


 己の姿を見つめ直すと両腕、両足、砂や泥に塗れている。何もそんなことをしなくともと達也は少し身を引くが、フォルティナ自身がそれを止めようとしない。


 自分で腕辺りの汚れを払いながらも、その原因を作った根源である女神像を眺める。何度見てもこの事実は変わることなく、表情も変わることを知らない。


 フォルティナは一通り終えると再び立ち、

「行くぞ、ほら」

 と催促し、達也の手を(つか)むと、さらに地底深く進む階段へ歩き出した。


 余儀なくこの前進は強制される。


 何故このようなことになったのか聞くまいと心に決めたフォルティナではあったが、予想ぐらいはできる。――目の前の、この女神像を見ておかしくなったのだと。


 苦しそうな達也はもう二度と見たくない。早々にここから離れてしまった方が良い。


「あ、あの……」

 達也は手を取られたまま歩かされ……その状態で話しかける。


 フォルティナは何も言わず、横目で見る。


「ありがとう」

 達也はただそう言った。


 フォルティナは依然無言で正面を向き直す。声は届いている筈なのだが……


「俺の(そば)にいてくれて」

 それが却って、後に続くこの言葉を言い易くしたのかもしれない。


 フォルティナは一瞬、眉が動く。


「フォルティナがいてくれなかったら、俺は……」

 完全に我を見失ったままだっただろう。そう続けられる予定であったが……


「構わんさ」

 と、フォルティナの言葉で止められる。


「ありがとう」

 達也はもう一度お礼を言い直す。


「やめてくれ。私とタツヤの仲だろ?」

 フォルティナが達也をに目を合わせることはない。その言い方さえ素っ気のないもの……


 だが、今ならわかる。――それが一種の照れ隠しだということを。口元がどうしても(ほころ)んでしまう。


「何が可笑しい?」

 それに気付き、フォルティナは達也を睨み付ける。


「何でもない」

 達也は上機嫌に言うと、その手を握り返し……追い越し、位置関係を逆転させる。


「それより、二人を待たせているんだろ?」

 と言い、達也は走り出す。


「お、おい。だからと言って走ったら……」

 今度は似合わず、フォルティナの方がたじたじである。


 階段へと差しかかった。


 地上からここまで続いたものとは、何の代わり映えしない形状。自由の女神像を中心とする螺旋(らせん)も、外側に張られた光を発する機械も……その光の強度さえも。


 進むにつれ外側の壁がなくなり、次に見える段差も終わる。自然の岩肌が(あらわ)になった地面が広がる空間。


 達也は地へ足を踏み入れると後を振り返る。


 幾何学(きかがく)的な創造物――台座だろうか。上に乗る金属製の足元……その台座に乗せられている女神像。良く見ると、斜めに傾いているのもわかる。


「タツヤ!」

 どこからともなく、自分の名を呼ぶ声が聞こえて来る。


 そこには先にこの場所へ来ていたシュウマとマリアの姿。この二人が達也とフォルティナに気付き、駆け寄って来たのだ。


「あ、あの……」

 とは言うものの、マリアは途中で立ち止まり、腫物(はれもの)(さわ)るかのような……慎重な(おもむき)で声をかける。


「大丈夫?」


 達也は少し笑みを口元に含める。


「ごめん、皆。心配掛けて」

 そして明るさを(よそよ)い、元気に答える。


「そ、そうよ。皆心配したのよ。いきなり、あんなに取り乱すから……」

 それを見て安心したのか、未だ態度に余所余所(よそよそ)しさを残しつつも……マリアは(そば)まで寄って毒を吐く。


 達也は頭を()きながら誤魔化し笑いをする。


「いったい、何だったんだ?」

 シュウマも達也へ問い質す。


「もう良いだろ?済んだことは」

 フォルティナは見かねて達也を背中に隠す位置取りで二人の目前に立つと、釘を刺す。


「それよりも、見つかったのか?」

 フォルティナは話を変える。


 シュウマ達は急に口を閉ざす。


原点の欠片ピース・オブ・オリジンは見つかったのか?」

 フォルティナは苛立ちからか質問を繰り返すが……


「それらしいものが見つからないのよ」

 耐えかねてマリアが口を割る。そこまで強く、何度も言わなくても良いだろうと……後ろめたさを逆に当たり散らすかのように。


 フォルティナは頭を抱える。


「弱音を吐く前に手分けして探せ!」

 フォルティナはシュウマとマリアに向けて怒鳴る。


 何か口の中で、もごもごと言いながら二人は遠退くが、

「いつ、またあの兵士(ソルジャー)達が来るかもわからん!悠長なことをしている時間はないんだ!」


 そんなことを言われなくもわかっている。――それは背中を向け、荒げた声を上げるその表情を見ることができない達也でさえも。


 そうであったとしても文句一つ言わず、寄り添ってくれたフォルティナ。


 この言葉を聞くと胸が痛む。


 その心境を悟ってか、達也に対してはフォルティナも何も言わない。――振り向くこともなくシュウマ達と三人、この場から散っていく。


 達也は考える。


 これまでの話を総合すると、この天を(つらぬ)く女神像と呼ばれる自由の女神像――この遺跡は、ここの人達にとっても有名な場所であるということを感じ取るのは簡単なこと。そんな誰でも入れるような場所に原点の欠片ピース・オブ・オリジンがあるならば、それは既に他人へ見つけられていてもおかしくない。


 ともなれば、普通では見つけることができないような……


 達也は自由の女神像の台座から離れるように歩き出す。それを見つけ出すのは、もしかしたら……実はここにいる誰よりも良く知る自分の役目ではないだろうか。


 しばらく歩き、十分に距離を取ったと認識すると、思い切って振り返る。


 正直、何度も見たい光景ではない。


「あれ?」

 遠目で見ることにより、違和感を覚える。


 女神像は確かに台座の上に乗り、ここから見えるのは腰の辺りまで。上層で上半身が見えていたのだから、像自体の位置関係は問題ないだろうが……


 達也は再び女神像の台座へと駆け寄る。


「どうした?」

 不審な動きに、フォルティナが問い掛ける。


 また我を忘れ、暴れ出すつもりなのだろうか。達也を追いかけ、それに気付いた他二人も集まって来る。


「いや、この台座だけど……」

 達也は腰を下ろし、台座と地面の境目を触りながらフォルティナへ話し掛ける。


 見る限り、ちゃんと意識は正常を保っているようだ。


「その台座がどうしたの?」

 フォルティナの肩口から、ひょこっとマリアが顔を出す。


「あ、あの……この先は、ないの?」

 三人の中で比較的、この像に詳しいと思われるマリアに聞かれた……それを生かそうとばかりに達也は質問返しをする。


「先って……まだ地下に何かあるかってこと?」

 マリアはいきなり何を言い出すのかと眉間にしわを寄せて言うと、シュウマ、フォルティナを交互に見る。


 達也は手で触るそこをもう一度見た。


 やはりおかしい。


 上を見ると目で見てわかる像の足元。自由の女神像は良く写真とかで撮られているが――実際は像自体にクローズアップされていて、全体を知る人は思いの外少ないのかもしれない。


 少なくとも達也もそうだった。だから自由の女神像全体の写真を見た時、強い印象として残っていたのだ。


 ――像に比べ、台座が異常に大きいと。


 それは見上げて像の足元が確認できるようなものではない。


「何を言っているの?天を(つらぬ)く女神像は、ここで終わりよ」

 マリアは言い聞かせるように言うが……


 当の達也は首を強く横に振り、降りて来た階段まで走り出す。


「た、タツヤ!」

 フォルティナは後を追い、その後を他の二人が付いていく。


「急に走るな!危険だと何度も言っているだろ!」

 階段付近で停止した達也へフォルティナは叱り付ける。


「ご、ごめん。で、でも……」

 形式上謝っているが、他のことに気を取られ、達也に悪びれている感じは全くない。


 フォルティナはただ脱力する。


「絶対、下に何かあるんだ」

 達也はそう言って引かない。


 シュウマとマリアの二人が目を合わせ、互いに何かの合図を送る。


「私が今、言っているのは……」

 言っている最中にそれすらも面倒臭くなり、その続きは中断される。


 フォルティナは嫌気が差したかのように大きく息を吐くと、

「だいたい、もう下はない。マリアも言っていただろ?」

 と、言った。


 それは、もう駄々(だだ)()ねる子供を(さと)すのと同じ気分。


「まぁ、まぁ」

 ここで割って入ったのがシュウマ。


「そこまで言うなら、やってみましょう」

 マリアが無責任に提案する。


「ここなら土も固いから……」

 素直に聞き入れ、シュウマは屈むと……


 足元に広がる岩肌に触れる。


「いけるだろ」

 地面を触っていない方の手を振り上げて握り締めると、そのまま真下へ振り下ろした。


 殴って地面を破壊するとでもいうのか。どんなにパンチ力があったとしても地面を叩き割るなど……


 一つ間を置いて、ごつごつした岩肌丸出しの固い地面へ亀裂が数本走る。達也は短い声を上げ、驚きを隠せず目を見開いてそのひび割れた所を凝視する。深く入ったそれに手を添えてみると……


 本当に割れている。


 突然階段周りの地面が、何かの支えを失くしたかのように崩れ落ちた。


 先はどこまで続くかもわからない空洞――達也、シュウマ、フォルティナ、マリア……要するにこの場にいる四人全員の足場はなくなり、ぽっかりと口を開けた暗闇に落ちるしかない。手を伸ばしても(つか)まる所もなく、それは(むな)しく空を切るだけ。


 まさに血の気が去るとはこのこと。あまりの恐怖に息を飲み、声を出すこともできず……何もできずに降下するのみ。


 達也の尻に何か固いものがぶつかり、急降下は停止させられる。その痛みに思わず声が漏れそうだったのだが、それより先に上から何かの塊が上に落ちて来る。


 衝撃と重さで声が出ない。


「いててて」

 上に乗る物体は言うと、もぞもぞと動き……おそらくは上半身を起こす動作をしているのだろう。


 声から察するに、それはフォルティナ。


「シュウマ!」

 フォルティナは上半身を起こすと共に振り向き、その名を叫ぶ。


 そこからは小さな(うめ)き声がざわざわと耳に(さわ)る。


「無暗に地面を壊すな!運良く下に何かがあったから良かったものの、もし何もなかったら……」


 それこそ恐ろしい。笑えぬ冗談である。達也は再びその末路を想像し、身震いをする。


「穴を開けてみようと言ったのはマリアだろ?俺に言うな」

 弱々しくもシュウマの反論が聞こえて来る。


「結果、無事だったのだから良いでしょ」

 近くでマリアの声もする。何とか全員無事のようだ。


「そんなことより明かりを点けてよ。暗くて良くわからないわ」

 鼻息荒くしたフォルティナをさらに怒らせたいのか、マリアは乱暴に言う。


 見上げると、現在の技術によって造られた機械から発する光が開いた穴状に漏れている。


 目測でその距離は二、三メートルぐらいだろう。地面だと思っていたものは床……人工物の所謂(いわゆる)、カモフラージュだったのだ。


 フォルティナはこの暗闇の中でもわかるぐらいの膨れた表情で、何も言わず指を鳴らす。その音を合図に手元から炎が立ち上がる。


 文句を言っても仕方がない。


 周りが暗く、身動きできないのも事実で、何よりまずは状況確認が必要である。――炎が発する光で見えるのは似た態勢で腰を下ろしているシュウマとマリア。


「あれ?タツヤは?」

 フォルティナの目に達也の姿が映らない。シュウマ達も辺りを見渡すが……


 見当たらない。もしかして自分が言った通りこの先もわからぬ奈落の底へ……


「タツヤ!」

 フォルティナは叫んだ。後先考えずに行動するから……


 もう一度、シュウマを睨み付ける。


 不意に下の方から、必死に上げている手が見えた。目線を下げると――慌ててその場から離れる。後に続くむせる達也の声。


「タツヤ」

 フォルティナの表情も和む。


 ――しかし、すぐに真顔に戻し、その顔を逸らしながら、

「い、いるなら返事しろ。まったく……」

 と、照れ隠しに言った。


 達也はフォルティナが上に乗っていたがために苦しくて声が出なかったのだと、その咳を強調させ……そうしながらも、やっとの思いで上半身を起こす。


 ここはさらに下へ進む階段のようだ。


 上に向かうと先程までいた広場の階段に(つな)がり、下を見ると明かりが届かぬ先まで螺旋(らせん)状に続いていく。違いは外側についていた壁がない――人工物による照明がないくらいか。


「まぁ、無事で良かったということで」

 マリアは立ち、達也の(そば)までその階段を下りる。


「それで、どうして天を(つらぬ)く女神像に先があるとわかったの?」

 そこへ辿り着くと否や、マリアは達也の顔を覗き込んで言った。


「文献にも、写真にも……知識の塔にあるデーターベースでさえ、天を(つらぬ)く女神像はあそこで終わりになっているわ。どうして先があると思ったの?」


 達也は言葉を失った。どこから話して良いのかもわからず……挙動不審にマリアから目を避けることしかできない。


「それこそ、どうでも良いだろ?」

 フォルティナがフォローを入れる。


「見た所、人が入った形跡もない。私達が最初に発見したんだ」

 フォルティナは火を起こしていない方の手で達也を引き上げ――マリアから引き離す。


「そうか!」

 何かに気が付いたのか、大声を上げてシュウマもその場に立つ。


「だったら、そこに原点の欠片ピース・オブ・オリジンがある可能性も高い」

 と、シュウマは興奮気味に続ける。


 マリアは何か釈然(しゃくぜん)としない。上手くはぐらされた気分だ。


 達也達四人はこの階段を降り始めた。


 頼りとなる光は先頭を歩くフォルティナの手の上で燃え上がる炎のみ。それだけでは薄暗く、視野が狭まるのは必然。慎重に進まざるを得ず……壁がないという不安感にもあおられ、どうしてもその足並みは遅くなる。


「でも、シュウマはすごいな」

 フォルティナの横を歩く達也が振り向き、感心の声を上げた。


 すぐ後に続くシュウマは、突然挙がった話題に単純な声で受け答える。


「あんな固い地面を叩き割るなんて」


 シュウマは首を傾げる。


「何を言っているんだ?」

 と、理解不明の意思表示と共に、

「人を馬鹿力みたいに言いやがって……」

 そう皮肉を添える。


 シュウマが使える魔法は風属性と地属性。普段の戦闘で表に見えるものが暴風や鎌鼬(かまいたち)といったもののため風属性の印象が強いが……恥ずかしながら、まじまじと見ることはなかったが、それでも思い返すと確かに敵がシュウマの攻撃を防御で(しの)ぐ姿など見たことがない。


 それこそが地属性も使用している証拠。管理局で兵士(ソルジャー)を束ねるヴァーモスも地属性の魔法を扱い、その効力は重力だが――同じ地属性でもそれとも異なる。


 振動――俗に言う地震である。それを一点集中させて固い岩盤……正確に言えば先人が造ったその床を破壊したのだ。


 達也は正直、この遺跡の入口で行った砂を掘り起こす作業にこの力を使えば楽にできたのではないかとも思った。


 ――が、砂は細かくて一粒は小さい。この小さな対象物を振動で砕いても意味を成さず……やはり、どんなに優れたと思える能力でも一長一短はあるようだ。


 三度広がった地底深くのこの空間。四人は階段を下り切り、そこに辿り着く。


 歩く限り、整備された人工的な床。今度こそ下るのは終わりにしたいのだが……いかんせん全体を見渡せず、それは定かではない。


 階段を降りる間、一時も絶やすことができなかった炎。


 魔力を扱えない達也にはわからないが、体力的……いや、精神的な疲労は計り知れない。手の上のそれは当初の勢いを失い、随分と弱くなっていることからも――それはもう長くは続かないだろう。


 四人はこの広い空間の壁を捜すためか、階段から離れるように移動をする。壁際に何か……仮設でも良いので明かりを灯すものはないか……


 少なくとも燃やせるものでもあれば、それだけでも助かるのだが。


 しかし、ここまでの道のり同様、それ自体がない可能性だってある。それどころか落とし穴さえ……心配を他所に、壁に到達する。


 か細い明かりを便りに見る限り、白色のコンクリート製の壁。所々、異質のものが埋め込まれているのも確認できる。


 マリアはシュウマと達也を追い抜くと、その壁の(そば)まで駆け寄る。


「あった、あった」

 と言って、極自然に埋め込まれているそれの一つに(てのひら)を当てる。


 捜しているものはマリアも同じ。――だが、その手が触れても、一向に何の変化もない。


 フォルティナから漏れる吐息が聞こえる。


「期待してしまったではないか」

 と、愚痴を呟く声と共に。


 目を凝らして見ると触る機械のすぐ横に、上下で何かを切り替えるようなスイッチがあるのがわかる。


「ここに俺達が知るような機械はないだろ?」

 それに気付いたシュウマが冷たく言って、不用意に下へ下がっているスイッチを人差し指で持ち上げる。


 金属が(こす)れるような音と共にスイッチは上へと切り替わり――マリアは恥ずかしそうに俯き、そっとその機械から手を離す。シュウマがそっとマリアの顔を覗き込むと……下を向いたままではあったが先程とは異なり、不機嫌に睨み付けられる。


「あ、あの……これは、その……」

 シュウマは慌てて身を引き……言い訳すらも思い付かない。マリアは執拗に追い、その瞳からは今にも涙が零れ落ちそう。


 ――だが、肝心なその機械には何も変化が見られない。


 達也は切り替わったスイッチを眺めて考えた。


 シュウマの言う通り、これは現在を住む人々の技術ではない。何より今まで隠されていた場所なのだ。ならば、ここにある機械もこの遺跡の一部……キリスト文明のもの。


 この常識が通用するならば……


 達也が普通に予想するとこの機械は照明であり、シュウマが触ったのはブレーカーだろう。そして、そのブレーカーが上がったのだから、電源は入ったと見て間違いない。


 なのに明かりが点かないという現象から推察できる事象は――先の電源関連のトラブル。


 ブレーカーだと位置付けたスイッチの先は……思いの外、近くに突起物があった。触ってみると円を描くように回り、しかも左右両方向に動く。


 ハンドルのようだ。


「タツヤ!」

 その行動に気が付き、フォルティナは悲鳴にも似た声で荒げた。


「何をしている!勝手にものへ触ると……」


 達也はその後に続く忠告も聞く耳持たず、ハンドルを右方向へ勢い良く回す。


 達也以外の、この場に集まる者達……フォルティナは言いかけていた言葉を失い、シュウマは辺りを見回すばかり。マリアに至ってはぽかんと口が開く。


 ――回したハンドルが二、三回転した辺りで、壁の機械達がじわっと光を発し始める。壁全周囲に埋め込まれたその表面が輝き、ハンドルが十回転を超える頃には眩しいばかりの光。


 まるで昼間の外にいるような明るさ。


 後で起こった現象だけを捉えると納得できる。


 独立した屋外であるならば発電所の電気を使う訳にもいかず、個別で発電機を持つだろう。発電方法は様々であるが、おそらく一番不変的なもの――人力。


 バッテリーを持つのも一手法ではあるが、それ自体は経時変化するものなので、こういった長時間メンテナンスの入らない所には向いていないと思われる。


 フォルティナは炎を消すと、一つ咳払いをする。


 その後、複雑な表情をして、

「結果として良かったものの……次から気を付けろよ」

 と、小言をぶつける。――達也は反論せず、黙って頷く。


 本当に偶然なのだろうか。それにしては手慣れていると感じるところもあるが……


 特に、マリアがその不信感を拭えていない。


「とにかく、明かりは確保できた」

 不穏な空気をかき消すかのように手を叩き、フォルティナは言った。


「あ、そうだ。原点の欠片ピース・オブ・オリジンを……」

 我に返ったシュウマが呟く。


 フォルティナはその姿を見て、にやっと笑う。


「そう、原点の欠片ピース・オブ・オリジン。捜すには十分の明るさ」

 マリアを見ると、まだ達也の方が気になるようで上の空。


「ここが踏ん張りどころだ。三人で手分けをして捜し出すぞ!」

 そのマリアの肩へ腕を回し、フォルティナは耳元で大声を上げる。


「うるさいわね。わかったわよ」

 マリアはしかめ、顔を遠ざけながらその手を払って答える。そして、しょうがないと頭を()き、シュウマに続く。


「フォルティナ、あ、あの……」

 三人で原点の欠片ピース・オブ・オリジンを捜し出すために意気揚々(いきようよう)とこの場から解散しようとしたその時、達也が水を差す一言をかける。


 フォルティナは少し機嫌を悪くした態度で振り向く。


「あ、あの……俺は……?」

 達也はその瞳を泳がせ、落ち着きのない仕草でハンドルを回し続けている。


 ――発電機。それは原理で言うと、電線を巻いたコイルの中を磁石が回るもの。水の力で回せば水力発電となり、火で水を蒸気にし、その蒸気で回せば火力発電となる。


 つまり達也自身が人力で回してしまったのだからこれは人力発電となり、回すことを止めてしまえば磁石は必然と止まる……発電が止まるということ。


 元の暗闇に戻ってしまうということ。


「ん?お前はそれを回していろ」


 その事実をどこまで理解できているのかはわからないが、現象としてきちんと掴めているようだ。


「明かりが消えてしまっては敵わん」

 フォルティナがそう言うことで、達也にもそれが伝わる。


「私だって長時間、炎を放出したから疲れているんだ」

 フォルティナは続けて言うと指を鳴らし、再度、炎を立ち上がらせて……その弱さを見せ付ける。


 マリアを見ると我関知せずとでも言うかのように完全無視で、(あらわ)になった天を(つらぬ)く女神像の台座へ近寄り、まじまじと観察している。


「なる程。天を(つらぬ)く女神像は、こんなにも巨大な台座の上に建っていたのね」

 一人呟きながら。


 シュウマを見ると、

「自分でやったのだから、最後まで自分で面倒を見ろよ」

 まさに他人事。そう言って退けると、そそくさとマリアの近くへと向かう。


「そう言うことだ。じゃあ、任せたぞ」

 それを利用してフォルティナは口早に言うと己の炎を握り潰し、足早に離れていってしまう。


 達也はその姿を恨めしいとばかりに目で追うことしかできなかった。

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