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Another 36.28  作者: 高田 勲武
5.導かれたもの
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クレスト-フォルティナの夢

 夜。――空を見上げると満天の星空。


 この星の中に自分が暮らしていた地球がある太陽という恒星の輝きも届いているのかもしれないが、星を知らない達也には、それをわかることができない。


 剣術道場の老人には明日この町を出ることと、今までのお礼を告げた。


達也の背中にいつも(くく)り付けられている大剣。その重量に任せた「突き」による攻撃……その弱点を埋め、必殺技へと昇華(しょうか)させる。


 方針もわかり、後は鍛えて己で強くなる段階であると老人は達也の旅立ちを了承した。(なま)けず、日々の鍛練(たんれん)(おこた)らぬようという嫌味にも似た小言を残して。


「心配するな。私が目を光らせておくよ」

 その小言に今、自分の横に座るフォルティナが約束をする。


 達也は宿屋の屋根の上に腰を下ろしていた。――フォルティナに呼び出されたのだ。


 こんな見るからに田舎町。こんな所で……しかもマリアの目がある中で、盗みを働くなんてことはないだろう。何より肩を並べ、二人座って落ち着いているのだから、呼び出された理由は別にあると思われる。


 心当たりのない達也はただ夜の空を飾る星を見上げるばかりで、何も語ることができない。


「初めて会った時は情けない奴だと思っていたが……」

 第一声は勿論(もちろん)フォルティナ。


 フォルティナから口を開かない限り、二人の会話は進まないだろう。


「見違える程、立派になったものだ」

 フォルティナは今までのことを思い返しながら言うと、達也を横目で確認する。


 達也は少し俯く。――それは言い返れば、それだけこの世界の住人になったということ。


 確かに今は随分と心の落ち着きも取り戻し、住んでいた元の世界を思い返すことも極端に減った。


「前はいろいろと、タツヤのこと教えてもらったな」


 それを言うならば、フォルティナの身の上話を達也も聞いている。……何を今更とも感じてしまう。


 達也はちらっとフォルティナを見る。――フォルティナは両膝を抱え、輝く瞳で夜空を見上げている。


「私には夢があるんだ」

 そして、その乙女が夢見る目でそう言った。


 達也には話が読めない。こんな話を聞かせるために呼び出されたのか。


「好きな奴と二人、一緒になって……」

 フォルティナはそう言うと、恥ずかしそうに膝へ顔を埋め、横目で……達也へ熱い視線を向ける。


「二人、静かに農業でもしながら暮らす」


 それがフォルティナの唯一の夢。


 それを口にしてしまったがためにフォルティナは頬を赤く染め、埋めた顔をさらに深く埋める。その後、その照れ隠しのためか、さっと顔を上げて不自然に背伸びをする。


「生きていくがために仕方なくトレジャーハンターをし、手も汚してきたが、原点の欠片ピース・オブ・オリジンを手に入れた(あかつき)には……」


 その夢が叶うとでも言っているかのようだ。


 確かに原点の欠片ピース・オブ・オリジンは生活の保障をしてくれる。農業など細々とした仕事――スローワークで生活することは可能だろう。フォルティナが言うことが本当に夢ならば……


 実現させるためには後一つ、絶対条件がある。


 フォルティナの想い人一人。それだけは原点の欠片ピース・オブ・オリジンで、どうこうできる問題ではない。


「似合わないか?」

 フォルティナは夜という闇中でもわかる程に赤く染めた顔で、俯き加減に達也の表情を伺う。


 こんな時、どんな顔で受け答えをすれば良いのだろう。――達也は悩み、微妙に首を傾げる。その眉間には少量ではあるが、(しわ)が寄っているのも確認できる。


「別に、そんなことは……」

 達也は苦し(まぎ)れに、そう答えることしかできなかった。


 その表情、言葉――フォルティナを現実に引き戻すのには十分である。何かに気が付いたかのように顔を引き攣らせ、慌ててその場で立ち上がる。


「す、すまん。今のは忘れてくれ」

 フォルティナは、ばつが悪そうに口早に言うと、そそくさと今ここにいる宿屋の屋根から降り始める。


「悪い冗談だ」


 達也が見た本日最後のフォルティナの姿。――その姿が消えると同時に言葉が吐き捨てられる。


 いきなり呼び出され、一人で言いたいことを言って、挙句(あげく)の果てには「冗談だ」として去っていく。――何だか、振り回された感は強く……どっと疲れが押し寄せる。


 達也は深呼吸をするかのように深く溜め息を付く。


 しかし、フォルティナの身勝手さは、今に始まったことではない。達也は……今度は綺麗に輝く夜空を見上げながら安堵の息を吐く。


 自分も変わったものだ。随分と丸くなった。


 達也から笑みが零れずにはいられなかった。

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