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Another 36.28  作者: 高田 勲武
5.導かれたもの
16/27

クレスト-剣術道場

 雨。――一般には、そのじめじめとした湿度の高さもあるが……何より濡れるということであまり好まれていない存在。それは、おそらく古来より変わっていないだろう。


 しかし、その雨がなければ人間……いや、生命が生きていけないのも事実。昔は雨が降らないことで大飢饉(だいききん)となり、その文明すら危ぶまれたことさえ史実として存在する。


 「恵みの雨」とは良く言ったものだと素直に関心すら覚える。


 頬に一滴感じた水滴。それを達也は、そのくらいにしか感じていなかった。


「ついに降ってきたか」

 達也は頬を手で拭いながら呟き、空を見上げる。


「何がだ?」

 自然とフォルティナが反応してしまう。


 達也達四人……達也を含め、フォルティナ、シュウマ、マリアの一人も欠くことのないいつもの四人。少々出発が遅くなったためか、一路足早に目的地クレストへと向かう。


 今は地球上――達也のいた世界でいう地球上の気候で、サバンナと表現するのが一番しっくりとくるだろう。その気候帯の特徴である背の低い草木が(まば)らに地面へと突き刺さった風景……少々乾燥も感じるその場で、ひたすら歩を進めていた。


「いやあ。ほら雨」

 達也はフォルティナの問いに、簡単に答える。そして、

「降るとは思っていたけど、ここで降られるなんて……」

 と、どんよりと曇る空へちらっと眼を配り、さらに世間話へと発展させんがための軽い口調を付け加える。


 ――が、達也はそこで言葉を失う。


 みるみると表情を強張(こわば)らせるフォルティナ。辺りを見回すと、別の意味で緊張気味に辺りを見渡すマリアとシュウマ。――(ただ)ならぬ雰囲気に、達也は何事かと眉間に(しわ)を寄せる。


「何てこった!こんな所で雨を防げる場所なんて……」

 頭を抱えるシュウマ。


「この地域を抜けるまでは、持つと思っていたのに……」

 悲観するマリア。


 雨如き、何をそんなに警戒しているのか。


「と、とにかく……こっちだ!」

 フォルティナは声を荒げながら達也の手を取り、走り出す。


 この時になると水滴も大きく、落ちる間隔も狭い……それはもう、誰であっても雨と認識できる程。達也達は頭に手をかざしながら走るという、濡れたくない――雨に打たれそうな人間のする特有の仕草で一つ木の下へと駆け寄った。


 誰が見つけたという訳でもなく、この辺りで一際大きく育った木。その枝に付いた葉も多く……大きく、雨宿りにはちょうど良い。


「ふう、何とかなったな」

 未だ感覚が少しずれた達也が、服に付いた少しの水滴を手で払いながら安堵の言葉を吐く。


 単純に濡れるのが嫌だった達也だったが……


 雨は本降りと言えば良いのか、スコールのような勢いで降り始めた。――その時になって気が付く。


 まるで湯気のように立ち昇る蒸気。雲と化すための水蒸気だとも一瞬は思い違いもしたのだが、その蒸気は通常のそれとは違って濃く、何か鼻に付く匂いもする。


 達也は理解できず、再び顔をしかめる。


 上の方で物音がした。


 雨宿りをしているこの木の上に、何かがいるのだろうか。何の気なしに達也は上を見上げるが……


 木の中、薄暗くなる程の奥深く、そこの何かが動いたかと思うと、目にも止まらぬ速さで毛むじゃらな塊が飛んで来たのだ。突然の眼前の出来事に、達也は息を飲み、身動きおろか声を上げることもできない。


「マリア!」

 フォルティナはその達也の状態をどこまで理解できたのか唐突にマリアの名を呼び、その声と共に達也の肩に腕を回したかと思うと、そのまま屈み込む。


 達也は成すがままに伏せさせられ、その態勢により、次に達也の目前に広がるのは蒸気を上げるその地面。


「頼む!」

 フォルティナはその状態で言葉を追加するが、言葉を掛けられた当のマリアは溜め息でそれに返事する。


 それが思いの外、耳元と言える程に近くで聞こえたため、達也はその吐息を感じた方向へと振り向く。自分達同様、すぐ横でマリアも屈み込んでおり、その物陰ではシュウマも……


 反応できていないのは達也だけであったようだ。


 達也はようやく気が付いた。


 その場所……木の葉により雨を避けていたのだが、強くなる雨。屈んだことにより、その水滴が入り込んで来る筈だったのだが、何か透明な傘と言えば良いのか……独りでに、そしてドーム状に雨の水滴が避けている。


「わかっているわよ」

 マリアはその息使いのまま吐き出すように呟く。


 これは司教(ビショップ)の力によるもののようだ。そして、そのドーム状の、水を遮る膜を貫くように突き刺さる剣。


 いつの間にか抜かれたそのフォルティナの剣の先に刺さった毛玉のようなもの……小型の獣のようなモンスター。その体は痙攣(けいれん)し、そこより血が滴り落ちる。


 フォルティナは無造作に剣を振り、毛玉のモンスターを投げ捨てる。その先は遮るもののない草原。――モンスターは耳に付く断末魔を上げた。


 剣で貫く時よりも大きな悲鳴。その体からは湯煙のように濃い蒸気が上がり、強張(こわば)らせている。何かが焼けるような音と鼻に付く強烈なまでの刺激臭。


「な……!一体……何が……?」

 達也はその地獄絵図とも思える光景に、声を上げることしかできない。


 雨。一般にはその水自体に着目することが多い。――だが雨は本来、少量の酸を含んでいるのは知っているだろうか。雨のもう一つの姿――それは浄化。少量の酸による洗い流しである。


 雨に打たれて物が(もろ)くなる、人工物が風化していく……それはこの効力によるもの。もし、この浄化の力が強くなると所謂(いわゆる)、酸性雨。さらに強くなるとこの光景――濃い酸性の雨による地獄となる。


 この世界における植物は、こんな雨であってもその水分を吸収する必要がある。だからその葉には、酸に耐えられるだけの耐性があるのだとフォルティナから聞く。


 この雨に耐えることができるのは今挙げた植物と、昆虫のような外骨格を持つモンスターのみとなる。その他人間を含め、通常のモンスターにも耐えることはできず、雨は必ず避けなければならないもの。――雨の時は狩や敵対はしない。


 自然界の規則(ルール)。それを破る者の末路は……達也は自分達を襲った獣系のモンスターを見る。――既にそのモンスターの動きは失われている。


 雨が止む頃には、そのモンスターは白骨化していた。


 達也はこの世界の雨、心底恐ろしいと感じた。込み上がって来る震えを抑えることができない。


 雨が降った実際の時間は一時間ぐらいだろうか。


 上がれば強い日射しが(よみがえ)り、乾燥したサバンナの気候が戻る。さらに一時間の時間ロスをした一行――このサバンナ地帯を徒歩で超え、次に差し掛かるのは砂漠。


 雨には無縁の地帯。マリア(いわ)く、雨が降る前にこの地帯に入る予定だったとのこと。


 砂漠にもモンスターは存在する。それこそ熱や乾燥に強そうな昆虫系……サソリに百足。あの懐かしいとまで思ってしまう「人地獄」も。さらにこの砂漠は広大で、人の足では一日で超えられそうもなく……


 達也は恐る恐る足元へ視線を落とす。


 達也が(またが)る物体……歩く度に前後に大きく揺れ、茶色の毛をまとう少々首の長い獣。いや、馬や駱駝(らくだ)の類だろう。


 しかしその動物は、達也は一度も見たことがない。


 その動物に(またが)り、慣れない乗馬とでも言うべきか……それで移動を進める。横には同じ態勢のフォルティナとマリア、シュウマと続く。


 結局、目的地である魔導の村クレストへの到着は昼をかなり過ぎた夕刻と言える時間となっていた。


 魔導の村「クレスト」。――村と称されるだけあって、商業都市バランカスのような構造のしっかりした家もなく……何より家一つ一つが小ぢんまりと小さく数も少ない。


 同じ「村」と称されたエルバ村に印象が近い。一つ異なるのはこのクレストの中心に、空を突き刺すかの如くそびえ立つ巨大で高い建造物――塔。


 シンボルである「知識の塔」があるということ。


「本当に、魔力が扱えないのね」

 今はこの村唯一の食堂で昼食も済ませ、この小さな町を歩く。その最中、不意に、そして今までの道中を思い返すかのようにマリアは言った。


 あまりに直球過ぎるその言葉に、達也はぐうの音も出ない。


「ま、まあ、良いではないか」

 見かねて、フォルティナは意味を持たない言葉でフォローを入れる。


「何とか、我が身は守れているだろ」

 フォルティナはさらにそう続けるが、今度はシュウマが顔をしかめる。


 確かに今までは何とか乗り切って来られたが、それがこれからも上手くいくとも限らない。


 その表情のまま、シュウマはフォルティナを見る。あのフォルティナが達也に対して、ここまで甘いというのはどうなのだろう。


 シュウマには不満しか残らない。


「確か、ここには剣術道場があったわね」

 (はた)でその腕を取るだけあり、そのシュウマの表情をいち早く感じ取ったマリア。記憶を全て稼働させながら、確認するその言葉を口にする。


 フォルティナはただそれを肯定する。


「これを機会に、一度ちゃんと習ってみてはどう?」

 その肯定を見て自信を持ったのか、まさに今、良い提案をしたとでもいうような表情を当人――達也へ見せつけながらマリアは言った。


 武器は所詮(しょせん)、持ち主の力を増幅させるもの。この世界で、そう考えられ始めて随分と経つ。


 確かに武器を持ったからと言って、その当人の持つもの以上の力を出せる訳ではなく、あくまで道具。――そう言った意味では今も昔も変わりないのだろう。


 だが、昔はもっと増幅としてではない、単純に道具としての意味合いが強く、今よりもずっと剣の扱いに長けた――剣術というものが存在した。


 剣術……そう、この町にはそういった所謂(いわゆる)、古いものが残っていた。


 達也は理解していた。


 別に剣術が古いものだということを理解していたのではない。剣術とは何なのかということである。――いや、正確に言えば、力を増幅させるということも体では理解しているのだろう。


 一度だけではあるが、その背中に納めた大剣の不思議な力の発動……達也の頭では理解できない力を体現しているのだから。


 それをこの場で唯一知るフォルティナは、達也を見つめながら意味深な含み笑いを浮かべる。


「そうだな。剣術をきちんと習った方が、後々のためにもなるのかもな」

 フォルティナはそのままの表情で、達也へ語り掛けるように言った。


 少しの優越感だろうか。何だか気分が良い。


 あれから、あの不思議な力は発現していない。不確かなそれに頼るよりも、確かな基礎を向上させる方が良さそうだ。


 一行はフォルティナの後押しもあることから、噂の剣術道場へと向かう。


 司教(ビショップ)も知る小さな町の……知る人とぞ知る剣術道場。


 偏見かもしれないが、やはり町の剣術道場というだけあって、他の家に比べてさらに古び、道場内にいる一人……おそらくは道場主だと予想できるその人も、よぼよぼの老人。


 剣を教わることおろか、ちゃんと会話できるのか――そこから心配になる風貌(ふうぼう)である。


「何じゃ?こんなにも多人数、こんな狭い所に押し寄せて……」

 だが、老人は思いの外、口がたつようだ。発音、歯切りも良く……


 良くお世辞で「お元気ですね」と声を掛けられるのにイメージがぴったりとくる老人である。――声色からも、この老人は男性であることもわかる。


 床には井草で()われた板――畳で敷き詰められ、そこに上がるために靴を脱がなければならないのも、日本の和風の部屋と相違ない。


 達也は込み上がって来る懐かしさに落ち着きなく、辺りを見渡さずにはいられなかった。


 ただ、ここの老人が言ったように達也達四人……たった四人がこの道場に上がるだけで少々狭苦しく、押し寄せるという表現がぴったりと当てはまる。


 だが、それは「道場」という場であると認識してのことであり、言う程ぎゅうぎゅう詰めという訳でもなく、別に一人が体を動かすことに支障はない。


「いや、実は剣術を……」

 老人の言葉を受け、達也へ剣術を習わせると、一番最初に言い出したマリアが口を開く。


「こやつにか?」

 だが、その言葉を言い切る前に老人は達也の目の前に立ち、上目線で睨み付けながら確認の言葉を口にする。


「え?」

 マリアも思わず、聞き返してしまう。


「いや……」

 老人はマリアへ振り向く。


「ここは剣術道場。ここに来たのだから、目的は剣術を習うことしかないじゃろ?」

 そして、そう続けると再び、達也へ視線を向ける。


「と、なると……一番弱そうな奴を鍛えたいというのが、相場だからのう」


 マリアとシュウマは思わず吹き出してまった。あまりに的を射すぎている。


「確かにタツヤ……そこの男に剣術を習わすために、ここに来たのだが……」

 だが一人、フォルティナは何が気に入らないのか不機嫌に言った。


「別にタツヤが弱いからという訳ではない」

 次にその美しい口元から出た言葉。


 その言葉で声と表情の二つを失ったこの場の……フォルティナ以外の全員が見つめ返す。


「人にはそれぞれ、向き不向きがある」

 フォルティナは食って掛かるかのように老人へ言った。


 しかし、我も忘れてしまっていたが周りの人達の反応に、フォルティナははっと我に返り、慌てて……そして気まずそうに口を(つぐ)む。


 達也は決して弱いのではなく……足手まといという訳でもない。達也の強さ……それを唯一見たフォルティナしか、それは知らない。


 ただ使い方を知らないだけなのだ。


「そうか」

 老人はただそう言った。そして、(おもむろ)に達也へ背を向け、そこから距離を置くべく歩を進める。


 達也と老人の距離がある一定になると、再三達也へ振り向き、ゆっくりとその場に腰を下ろす。


「じゃあ、素振り……してみろ」

 そうしながらも呟くように、そしてごく自然に言った。


 達也は単純に首を傾げる。


「背中に(かつ)いでいる剣は飾りじゃないんじゃろ?」

 老人は呆れたように言いながら、達也の背中に掛かる……フォルティナから譲り受けたあの大剣を指差す。


 それは今の今まで……何だかんだと言いながらも我が身を守った、言わば武器。


「使い慣れた自分の武器なら、力量も計り易かろう」

 確かに老人の言う通りである。


 達也は無言のまま背中の大剣を外す。


「早くしろ」

 達也がその大剣を手に持ったのを確認すると、あのフォルティナのお気に入りであるこの男……早くその実力が見たいとばかりに老人は急かす。


 達也は渋々と大剣を振り被る。


 幾重(いくえ)にも異質な金属が重なる大剣。その重量に体を奪われながらも、達也はその大剣を縦に振った。――老人は無反応。


 これでは足りないのか。達也はふらつきながらも何度もその大剣を振り回す。


 素振りというのだから、この大剣を文字通り振らなければならないのだろうとしか、達也は認識できていなかったが――その素振りを見つめる老人は、見せ付けるかのように大きな溜め息を付く。


「その、何というか……一言で言えば……」

 センスがない。


 良くこんな剣の扱いで、この世界のモンスター達から生き残れ、旅を続けられたものだ。


「タツヤ」

 フォルティナも冷めた口調で達也の名前を呼び、その意味のない素振りを止める。


「お前、その剣を……そんな使い方、したことないだろ?」


 確かに今まで、達也は一度もこの大剣を……こんなにも振り回したことがないかもしれない。少なくとも記憶にはない。


 達也は単純に俯く。フォルティナは不意に立ち上がる。


「かかって来い」

 そして腰の剣を抜き、達也の目の前に立ち塞がるように身構えた。


 達也は目を丸くする。それは、

「え?」

 と、聞き直す程。


「良いから、かかって来い」

 フォルティナは達也へ、自分へ剣を向けろ――攻撃しろと言っている。


 達也は手に持つ大剣を下ろしてそんなことはできないと勢い良く、そして何度も首を横に振る。


「私が……信じられないか?」

 俯き、そう語るフォルティナの表情は、どこかしらか寂しそうだ。その表情を見ると、達也は何も言うことができず……


 フォルティナと達也はしばらく見つめ合う。


 達也はその異形の大剣を(かま)えた。


 いつもモンスター、兵士(ソルジャー)に向けて取る構え……剣を抱え、重心を低くするその独特な構え。――言葉通り、達也はフォルティナを信用するしかない。


 ちゃんと(かわ)してくれる。少なくとも受け止めてくれる。


 雰囲気の変わった達也。その一挙一動全てを見逃さんと老人はその存在すら忘れそうな程静かに、じっと二人を見つめる。マリアとシュウマもその場に腰を下ろして二人同時、ゆっくりとその息を飲み込む。


 達也の表情が変わった。


 先程とは別人かと思える程打って変わり、俊敏(しゅんびん)な動きによる達也の突進。そして、そこから繰り出される重量感溢れる大剣の突き。フォルティナは達也のその突きを剣で受け、その突進と共に道場の壁へとその背中を打ち付けられる。


 ここで、まるで我に返ったかのように達也ははっと顔を上げる。


「あっ……」

 達也は申し訳なさそうに声を上げる。


 受け止められた達也の突進と突き。しかし、そうなったにも関わらず、その突進を止めることなくフォルティナを壁へと押し付けたのだ。


 やり過ぎとまで思った。……何か、フォルティナに恨みでもあるのだろうか。


「構わんさ」

 壁に押し付けられたフォルティナは上機嫌に口を歪ませ、達也へそう言った。


 理解できない。そんなにもフォルティナは好戦的なのか。


 寒気すら感じた達也は慌ててフォルティナから離れる。


「なるほど」

 一人、納得した老人が立ち上がる。最初の素振りの時から気が付いていたが……


「お前さん、魔力がないな?」

 辺りは一瞬にして静まり返る。


 この世界では魔力があって当たり前。ないとか、扱えない方が異常なのだ。それを堂々と言えるものではない。


 老人は含み笑いをする。


「何も魔力が扱えないことは、悪いことではない」

 老人はそう続けると、

「それこそ、そこのお嬢さんの言う通り……」

 と、言いながら、少し意地悪そうにその瞳を歪めながらフォルティナを見る。


「人には向き不向きがある」


 最近は魔力を扱えるがため……逆に、剣を扱うという純粋な体術が退化していっているのも否めない。何よりこの者は……


 老人は達也を見る。


 この者は「剣を扱う」という才能はないかもしれないが、ちゃんと自分なりに足りないところを補い、一つの……純粋な体術として確立しているではないか。


「剣の突きは、必殺になり得る」

 老人はただそう言いながら達也の肩へ、ぽんと手を置く。


「それを強化……そして必殺技へと昇華させよう」


 必殺技。それは必ず殺す技――それ以上でも、それ以下でもない言葉。


 元々がそれに無縁であった達也にとっては、わかっていても実感として捉え難い言葉であったが……いや、生半可わかるだけあって誤った認識となるのか。少し現実より外れ、少し吹き出してしまう。


 他三人はその心境を(つか)めず、少し……そして不思議そうに首を傾げる。


「まずは筋力アップだ」

 老人に至っては、達也のその微妙な動きにも気が付いていない。


 何かに興奮しているのか。


「少なくとも、その大剣は操れないとな」

 老人は皮肉っぽく言った。


 魔力を使えていない分、(はた)から見ると……魔力を扱うフォルティナと比べると、達也はそれより非力で何とも情けない。


 フォルティナは魔力による力に任せてこの剣を振っていたが、それを受け継いだ達也は……少なくともそれ同様に扱えないと――それこそ恥ずかしいのではないだろうか。


「良かったではないか」

 ここで今まで目立たなかったシュウマがそう言い、立ち上がる。


「何とか剣術を教えてもらえそうだし……」

 それによって強くなれる。結果、足手まといにはならなくなる。そこまで先が見えてしまう語り方だ。


 達也は少し面白くないが、それを反論する術もない。


「そうね。収穫があって……本当に良かったわ」

 マリアもシュウマの意見に同意し、その横で同様に立ち上がる。そして、壁へと背中を預けているフォルティナへ歩み寄る。


「後は先生である彼に任せて……」


 フォルティナもほっと胸を撫で下ろしたように安堵の息を吐くと、静かに起き上がり、

「そうだな」

 と、そう肯定する。


「村長に挨拶へ行きましょう。ここの滞在も長くなりそうだし」

 マリアは提案をしながら、この道場の出入り口であるドアへと歩み寄る。


 フォルティナとシュウマは頷きながら、その後を追う。


 ここは魔導の村クレスト――村というのだから、ここを治める長は「村長」なのだろう。また、滞在が長くなりそうだという全員一致の予測……長くこの町にいて、バランカスの時みたいに兵士(ソルジャー)には見つからないのかという不安。


 様々な感情が達也の中に入り混じるが……この中では所詮(しょせん)蚊帳(かや)の外であるようだ。茫然(ぼうぜん)と見守るかのように見つめることしかできない。――ただ一つの声を発することもなく。


 唯一の救いは……

「じゃあ、タツヤ……頑張れよ」

 と、この道場を出る際にフォルティナ一人が振り向き、声を掛けてくれたこと。


 ようやく達也も我に返り、この三人を呼び止めようとする。――が、


「どうした?」

 ここで今度は、ここの道場主である老人に呼び止められる。


「そんなに時間もかけられんじゃろ?」

 その老人の問いかけに、達也は明確な回答を持っていない。


 振り返ると先頭を切ったマリアはおろか、親身に接してくれているフォルティナの姿も消えていた。見るからにわかる落胆で、達也は肩を落とす。


「さっそく修行じゃ!」

 老人は熱い口調で叫んだ。


「さっき言った通り、まずは筋力……その後、その力の扱い方も学ぶんじゃ。ぼやぼやする間はないぞ!」


 その後、達也の悲鳴が上がるのに、数分も必要としなかった。

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